幼い頃、

毎年夏休みには父の郷里に行っていた


一週間くらいの滞在だったけど

山や川や畑に囲まれ

都会育ちの私には全てが珍しく

今となれば宝物のような

時間を父と共に過ごした


そこは父の実家で

伯父夫婦が住んでいた

2人とも私にはとても優しくて

毎年、私は夏が楽しみで仕方なかった


ただ、一つ不思議に思う事があった

私や従姉妹にはいつもニコニコ優しい伯父が

伯母と笑顔で話しているところを

見た事がなかった


いつも不機嫌そうに

「ああ」とか「いや」とか

一言くらい

夫婦が和かに談笑しているところなど

見たことも無かった

伯母はいつもお給仕に徹しており

私達と食卓を囲む事も一度もなかった


ある年の夏、伯母は居なくなっていた

なんとなく聞いてはいけないように思い

伯父に尋ねるのは控えたが、

どうしても知りたい気持ちが抑えられず

父に密かに聞いてみた


「伯母ちゃんはどうしたの?」と


父は「うーん」と困ったような顔をしたが、

答えてくれた。

「伯母ちゃんは出て行ってしまったんだよ」と

そして、伯父ちゃんには言ってはいけないと

前置きをして


「元々、伯父ちゃんの奥さんは伯母ちゃんの

お姉さんだった。

そのお姉さんが亡くなってしまい

ご実家が申し訳無いと妹をよこしたんだ。

でも、伯父ちゃんは

亡くなった伯母ちゃんが忘れられずに、

新しい伯母ちゃんを好きになれなかったのかな。

悲しいね」と。


何だか納得できなくて

帰宅した私は母に同じ事を尋ねた。


すると、父の話は合ってはいるのだけれど

決定打が抜けていた

たぶん、父は私を子供扱いしており、

聞かせたくなかったのかもしれない


母は事もなげに

「あの伯母ちゃんはね、浮気していたのよ。

隣り町の人と。

それが伯父ちゃんにバレちゃった

それも嫁いでから

何十年もずっと続いてたみたい

バレてからは何年も

伯父ちゃん口をきいてなかったらしいけど

伯母ちゃんも辛かったんじゃない?

親に決められた結婚で

しかも姉の身代わりとして嫁ぐなんて。

最初から隣り町の人と

結婚したかったのじゃないかな。」と。




今、それをふと思い出して複雑な思い。


仮面夫婦などと云う言葉がない時代にも

浮気やら不倫は存在していて…

あれやこれやの葛藤があったのだろう


今はもう皆亡くなってしまっていて…


男と女が存在する以上

続いていく話なのだろうと思う。



あの伯母は不幸な結婚をしたと思う

気の毒な人生だったと思う


母は不倫などする男と結婚したけれど

決して不幸ばかりでは無かったと思う




じゃ、私は?


私の人生はどうなんだろう


答えはまだわからないけど

決して不幸ではないと思う




幸せはまだ先にもあると思いたい