いよいよ席を立とうとしたその時、

「タイチシミズの関係者、

バックステージに来てください。」

とのアナウンスが場内に響く。





とりあえず、私が駆けつける。




選手のみのバックステージ、

入口の警備員に事情を説明していると

ビキニの選手が、

「あなた、倒れてるビルダーの関係者?」

と私に聞いてきた。

そこで私は初めて、

清水君が倒れてることを知る。





ビキニの選手が

「あんなに、場内放送してるのに、
 なんであなた知らないのよ」

と警備員を一喝して、私に

「倒れてる場所知ってるから、

私が案内してあげるわ。」

と私を連れて、バックステージ内を突き進む。




私がそのバックステージの片隅に

寝ている清水君にたどり着くと

3人くらいから、「あなた、彼の関係者?」

と一斉に聞かれた。




イエスと答えると、関係を聞かれる。




「緊急連絡先の携帯に連絡したんだけど、

  それはあなた?」




「いいえ、わたしじゃない、私は友人です」



「じゃ、責任を負えないから、

この緊急連絡先の人と連絡とれない?」



私は、その彼に前日メッセージしたが

未読になっているんで、

きっと連絡は付かないし、

それより、そんなの待てない。




「私は、二年前、彼が大会に出たときの、

緊急の連絡先でした。

そして、私はプロビルダー山岸ヒデの姉です。

チームヒデは、日本人ボディビルダーの

全てをサポートしています。」



というと、スタッフの一人が



「そうだよ、彼女、ヒデのシスターだ」

と言ってくれた。良かった、、、



私は、清水君の代理人になる書類に

サインさせられる。



アメリカは訴訟の世界なので

いろんなことが一筋縄ではいかない。




その後、彼の名前やらの

インフォメーションを聞かれる。



それに答えると、

やっと第一発見者が私に説明を始めた。




「僕が気づいてたのは、

彼が崩れ落ちるように倒れる瞬間だった。

倒れたんじゃない、しゃがみこむように、

地面に崩れ落ちた。


僕が大丈夫かと聞くと、

「イエス」と言ったんだが、

その後の質問には全く答えなかった。



上を向かせて、目を見ると、

焦点は定まっておらず、

手は小刻みに震えていた。

しばらくすると、その震えが全身に来た。

脈拍をとるととてもとても弱かった。

慌てて、係員を呼んだんだ。」




ここで、この場を仕切っていた女性に

話を代わる。


「私達は、報告を受けて

すぐに彼の元に駆けつけました。

彼の姿を見て、命の危険を感じました。

そして救急車を呼ぶために

何度もゼッケン番号を放送しましたが、

なんの反応もなかった。

名前を聞いても彼は答えることが

出来なかったので、

私達は、彼の同意なしに救急車を呼びました。

生命の維持が一番大切だからです。

もうすぐ到着すると思います。」




ここで、清水君の視点が定まってきた

ように見えたので、声をかける。




「大丈夫です。」と言うので、



足りなかった清水君のインフォメーションを

確認する。

やば、パスポート持ってきてないのか、、、




今聞いた状況を清水君に説明すると

「いえ、倒れてないです、寝ていただけです」

と言い張る。



救急車を呼んだ事実を告げると

「ファイナルも出るんだ」

と言って興奮し始めた。




大会サイドの女性は、

「興奮は心臓に悪い、彼を早く落ち着かせて」

と私に言う。



とにかく、彼を落ち着かせるが、

救急車に乗ることに納得しない。




大会サイドの女性は、

「救急車に乗る必要はないけれど、

検査を受けないで、この場から出すことは

私達はできない。

救急隊員の検査を受けてください。」


ほどなくして、救急車が到着した。




救急隊員の質問が始まる。

血圧を測りながら、心電図がつけられる。

血圧は上が90、

低血圧もあって倒れたのだろう。



不整脈、、、彼らが来てくれてよかった。




救急隊員が既往歴やらをいろいろ質問する。

彼は、とにかく大丈夫の一辺倒、


 
いろんな検査後、

「とりあえず、今の時点では、

だいぶ復活しているとは思いますが、

この検査だけではわからない部分もある。

我々は病院に行くことをお薦めします。」




清水君はここでも

「検査をしたらファイナルに出られるって

言ったよね?」と出場にこだわる。



いや、そりゃなんでもなかったらの話で

救急隊員は、病院へ行く事を進めてるからねえ




大会側は、

「私達も病院に行くことを勧めます。

けれど彼には救急車に乗らない権利もある。」



清水君は

「病院には行かない、ファイナルに出る」

と言い張る。



ここで、さっきの警備員がやってきて、

「通訳するって彼の友達が外にいるけど、

通訳は必要か?」

と聞いてきた。




救急隊員たちは、ノーと言ったが、

私が「私は、彼の友人として付いていて、

通訳じゃない。通訳を呼んで欲しい」

というと、

ベストボディでも有名な葉さんが、

清水君のスポンサー会社の社長とともに、

中に入ってきてくれた。




彼らに事情を説明する。




私は「今、様子は落ち着いている、

たぶんなんでもないと思う。

でも、みんなと同じホテルならいいけど、

この後、彼を、ホテルで一人っきりにするのは

ヤバイと思うので、

私としては病院に行かせたい」と言った。




彼の旅行保険を説明すると、

すぐに葉さんが、保険会社に連絡してくれた。



行きたがらない清水君をなんとか説得して、

救急車に乗せた。