翌日の朝、父の診察が始まりました。
総合病院でも症状について説明を受けていましたが、がんセンターの先生の話は、それよりもずっと厳しいものでした。

先生は静かに話し始めました。

「80代のお父さまの体に、抗がん剤治療はかなり負担が大きくなります
今は歩くこともできる。
食事もできる。
会話も普通にできる。
見た目には、健康な人と変わらない毎日を送っています。
でも、癌という病気は違います。
症状は、ある日突然、大きく変わることがあります。
だからこそ、今のうちにやり残したことがないように、ご家族で過ごす時間を大切にしてください。
そして、これから先の準備も考えておいてください。」
先生の言葉を、一つひとつ受け止めながら聞いていました。
その頃、母は別棟でPET検査を受けていました。
父への説明が終わり、父が席を外したあと、先生が少しだけ私と二人で話す時間を作ってくださいました。
私が先生にお願いして、少しだけ時間をいただいたのです。
どうしても、確認しなければならないことがありました。
そこで告げられたのは、余命のことでした。
「早ければ1ヶ月。長くても3ヶ月ほどでしょう。」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になりました。
「早ければ1ヶ月。」
その現実を、すぐには受け止めることができませんでした。
気が付くと、涙が溢れていました。

父に伝えるべきなのか。

余命1年と告げられたとき、母はそれでも「きっと3年は大丈夫だろう」「いや、もっと生きられるはずだ」と、どこかで希望を手放していませんでした。
その母に、この現実をどう伝えればいいのか。
答えは見つからないまま、私は一人、その言葉の重さを抱えていました。