細野先生レポートをご紹介 | Be Smile Project Blog ―子ども達の未来を笑顔にするボランティア活動―

細野先生レポートをご紹介

「石巻を訪れて」


細野 不二彦


奇妙な旅だった。同行の漫画家さんは既知の方もあり、初対面の方もあり。
車での移動の道中、会話が進むにつれ、あの作品を描いている先生は、実は
こんなキャラだったんだ、とか、やっぱりこの先生はこんなキャラだよな、
とか確認しつつ、被災の現場が見えてくると、やはりその凄まじさに、一同
ボー然とするしかなくなってくる。
写真やテレビで見るのとちがって、原寸大の街の破壊ぶりというものは、ズッシリ
と腹にひびく。
自分の故郷がこんな有様になってしまって、毎日それと顔をつきあわせていか
なければならない生活とは、どういうモノなのだろう。
しかし、そういうヘビィな気持ちのままではいかにも苦しいので、じょじょに通常
の会話にもどそうというバネが一行に働く。
またぞろバカ話も復活して、にぎやかになったところで、次の破壊が目にはいる。
その繰り返しだった。

渡波(わたのは)小学校でのサイン会。
避難所で暮らしている子や近所の家の子も一緒にやってくる。
こちらから話しかけての子供たちの反応は普通に見えた。私にはそう見えた。
当然ストレスはあるはずだが、子供は強い。でも、ヘコムときもあるのだろう。
少年マンガから離れて久しいので、私のマンガを知っている子はまずいない。
ヨれた線で描いたキャラクターがどれだけ彼らを楽しませることができたかは、
自信がない。
自分と同世代のお父さんお母さん方が、好きでした、読んでました、と言って
くださるのでホッとする。
(ホッとさせられていては、話が逆だ!)

最後に並んだ小さな女の子が「自分はマンガ家になりたい」と言ってきた。
どんな絵を描くの、と聞いて、彼女に描いてもらった。たどたどしいが、一生
懸命 女の子のキャラを描く。
目が生きている。かわいい絵だ。センスがあるのできっとマンガ家になれるよ、
と伝えてあげた。
ひょっとしたらこれが彼女の思い出の一日になるかもしれない。と、考えたら、
それだけでオジサン漫画家の出張の価値はあったかもしれない。
そう思うことにした。

その後、大川小学校におもむき献花。
7割の児童が波にのまれたという、つらい場所だ。どうしようもない場所だ。
100日も経ってここに来ても、自分にすることは何もない。
なぜ自分は今、ここにいるのだろう、と強く思う。
校舎のガレキは片づけられ、そこは何千年前の遺跡のように見えた。
建物の裏手に回ると、卒業記念の壁画が残っていた。横一面に銀河鉄道の
絵が描かれていた。
絵は波にタコ殴りされたように、ところどころが欠けていた。
もしこの世に神様がいるならあんまりだな、と思った。
漫画も表現というなら、表現は現実の前に圧倒的に無力だ。
現実を変えうるものは、やはり人間の直接の行為しかないのではないか。

そんなことごとが頭の中を堂々巡りする。濃厚で非日常な二日間だった。
自分の中でいまだに消化されていない体験が多くある。
ひとりではできない旅だった。
同行のスタッフ、漫画家先生、声優さんに支えられての旅だったとつくづく思う。
私にとって、あれは大人の修学旅行だったのかもしれない。
正しい意味で、学ぶ旅であったのかもしれない。
しかし、そんなことは、私個人の感慨でしかない。
第一義は被災地の人々の生活が支えられること。未来が開けることなのだ。
現地を見た人間として、それを考え続けていかなければ。動いていかなければ。

追記。修学旅行で連想したのだが、中学・高校の修学旅行のくだらなさ。
教職員と旅行業者の利権のために延々と続いている大名旅行など、
とっととやめて、いっそ訪問地を被災地に変えるというアイデアは出ていない
のだろうか。
真の意味で修学旅行になるし、少しでも被災地は潤うし、いいことずくめでは
ないか。
でもきっと、くだらない抵抗がM8ほども出るのだろう。
それに組する人々は、子供たちに何かを与えようとしない人々なのだろう。
間違いなく。








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■細野先生からいただいたイラストです。