残りの1冊。
「 嘘と正典 」 小川哲
「 時間 」と「 歴史 」を巡る短編集、全6篇。
『 君のクイズ 』、 短篇『 七十人の翻訳者たち 』※1、
ショートショート『 存在の耐えられない軽さ 』※2
が 面白かった( 好みだった )ので 他の作品も 気になってました。
( ※1「 ヘブライ語 」聖書を「 ギリシャ語 」に翻訳……
いわゆる「 七十人訳 聖書 」を題材にした「 聖書SF 」。
SF・アンソロジー『 NOVA 2019年春号 』で読んだが
『 スメラミシング 』にも収録 )
( ※2 ショート集『 これが最後の仕事になる 』で読んだ )
ですが「 長篇 」は 他の本や 時間の兼ね合いで イマイチ手に
取りづらかったので、短篇集『 スメラミシング 』を読む予定だったんですが、
本書の「 帯 」を読むと 面白そうだったので まずは コチラから読むことに。
最初に 全体の感想から書くと「 どれも 面白く読めた 」になるかな。
「 魔術師 」
一世を風靡したものの 落ちぶれ、家族を捨てて 行方不明になっていた、マジシャンの 竹村理道( たけむら りどう )。
復活した 理道の「 タイムマシン 」を使った ショーの最終公演に招待された 僕と 姉。
そのマジック後、理道は 最終公演ということで 特別に もう一度今度は「 過去最大のタイムトラベル 」を実施するという……。
「 マジシャン 」を扱った( そして「 SF 」かもしれない? )
人間ドラマ。
個人的には マジシャンということで 映画『 プレステージ 』(06年)を想起しましたね。
“狂気” 感じる「 タイムマシン・マジック 」には 戦慄したし、
マジシャンになった 姉が 理道の「 魔術 」に魅入られてしまったかのようになる流れなど、心乱される内容で かなり好み。
「 エンタメ性 」もあるほか、理道の「 後悔の物語 」でもあったりと「 ドラマ性 」も 十分で 面白かったですね。
「 ひとすじの光 」
全て 処理して 亡くなった 父が残していたのが「 所有馬 」、
駄馬のテンペストと、
父が 競馬で こっぴどく損をしたことがある 競走馬、スペシャルウィークの系譜についての「 書きかけの原稿用紙 」。
スランプ中の作家の 僕は スペシャルウィーク に自分を重ねて 父の書きかけの原稿を読む……。
スペシャルウィークって 実在する 競走馬なんですね。
「あらすじ」で わかる通り「 競走馬 」や「 馬の血統 」と
「 趣味寄り 」の話なんですが、
「 なぜ 駄馬のテンペストを 引き継がせたかったのか 」
「 損をした スペシャルウィークを取り上げた 理由 」
と「 ミステリー的 」な面もあって 面白かったですよ。
「 時の扉 」
「 代償 」を受け入れて「 時の扉 」の力を使えば「 過去 」や
「 記憶 」を変えたり 抹消できるという。
王に呼び出され 遠い場所からやってきた 私は「〈 時の扉 〉を使った者 」の話を始める……。
私が 王に語る 意味深な内容の「 2人の〈 時の扉 〉話 」に、
「 過去・現在・未来 」、「 記憶や その改変 」が絡む、みたいな内容…でいいのかな。
「 パラドクス 」が 出てきたりと 小難しいところも 少しあるけど、「 私は、王は 誰か 」という ミステリー的要素もあるし、
そもそも こういうのも キライじゃないので 面白く読めましたね。
まあ、今読むと 近年の アレや コレと同じモノを感じて、どうしようもない気持ちも 湧いたけど。
「 ムジカ・ムンダーナ 」
「 音楽を通貨とする 」小島に「 島で 最も価値のある音楽 」を聴きに来た 高橋大河( たかはし だいが )。
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大河が 子供のころ、彼に スパルタで ピアノを教えていた
元・作曲家の父は カセットテープに「 ダイガのために 」という題名の曲を残していた……。
こちらも「 父の遺品 」が発端となる話。
「 イイ話 」で うまく締めているいる(?)んだけど、父の
「 スパルタ・ピアノ教育 」は ヒドかったし、
曲のタイトルも…だったりで 読後感は イマイチ気味。
それでも 導入から 終わりまで 面白くは 読めましたけどね。
「 最後の不良 」
「 MLS( ミニマム・ライフ・スタイル )社 」による
「 流行をやめよう 」というテーマのセミナーの広がりによって
流行が「 消滅 」。
総合カルチャー誌の編集者の桃山は「 最終号 」の入稿後に 辞表を出し、特攻服に着替えて 改造車にまたがる……。
題名から 筒井康隆『 最後の喫煙者 』みたいな話だと 思っていたんですが「 流行 」の話でしたね。
「 流行 」に「 文化 」( メイン & サブカルチャー )も含んでいて ちょっと収まりが悪い気もしたけど、
流行や 文化に 触れることによる「 自己形成 」や「 特別感 」
( 自己肯定感? )、
ただ消費されるだけの「 虚しさ 」、「 マウンティング 」や
「 結局 みんな同じ( 無個性 )に 」などなど、
人間味あふれる内容は 悪くなかったです。
「 後半 」の意外な真相?を受けての シンプルな「 締め方 」も 良かった。
「 嘘と正典 」
「 書下ろし 」作品。
1844年、「 工場襲撃 」に関する裁判。
被告人は フリードリヒ・エンゲルス。
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冷戦時代のソ連。
「 モスクワ 電子電波 研究所 」に 勤務してるらしき人物からの手紙を受けた、CIAモスクワ支局。
CIA工作担当員の ジェイコブは「 罠 」と疑いつつも 興味を示すが、現在 モスクワ支局は 活動停止中。
2ヵ月後、モスクワ支局は 2通目の手紙を受け取るが 上からの指示は「 現状維持 」だった…。
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この国の「 不合理 」に憤っていた「 電子電波 研究所 」職員、アントン。
新型の「 静電加速器 」・JK427 の研究を任されている
アントンは ある事に気が付く……。
フリードリヒ・エンゲルスを 簡単に説明すると、マルクスと
共に「 共産主義 」を確立した人( らしい )です。
表向きは「 対 共産主義 」や「 米ソの対立 」を巡る「 スパイ・サスペンス 」で、
そこに冒頭の「 エンゲルスの裁判 」や「 静電加速器 」が
どう絡んで来るのかが 読みどころになってます。
内容に触れるので 詳しくは 書けませんが、話の構成が上手くて 楽しく 読めましたね。
先の『 時の扉 』と併せ、主義主張( イデオロギーなど )が違っても、人間の「 やること なすこと 考えること 」は 変わらないもんだと しみじみ感じる内容でもありました。
という事で、どれも 良かったけど 個人的には 特に「 魔術師 」と「 嘘と正典 」が 好みの作品でしたね。