「 他人の顔 」(日/1966)
安部公房の同名小説を 勅使河原宏 が監督。
安部公房は「脚本」も 担当。
これで WOWOWの「 安部公房 特集 」は すべて観たことに。
あと 残っている 安部公房&勅使河原宏の コンビ作品は
『 おとし穴 』(62年)だけ?
仕事で 顔に「 重度のヤケド 」を負ったことで 顔を「 包帯 」で覆っている男。
妻や 会社の人は どこか よそよそしくなり、社会的にも 疎外感や 孤独感を感じていた 男は、
訪ねた 精神科の医師から 特殊素材で作る「本物そっくりの顔」( 仮面 )を使った「 仮面実験 」を持ち掛けられる。
男は 完成した「 仮面 」をつけて 別人になり、彼を拒絶した
妻を誘惑しよう考える……。
男 役、仲代達矢。
妻 役、京マチ子。
精神科医 役、平幹二郎。
看護師 役、岸田今日子。
ケロイドの女 役、入江美樹。
何作か読んだ 安部公房 作品の中で 唯一、哲学的な要素が強くて読むのが キツかったのが この『 他人の顔 』。
調べると、初出版後に さらに 加筆、改稿して 約2倍の分量に
なった経緯があると知り 妙に納得。
その「 原作 」の方は 読んでから 時間が経っているので あまり覚えてはいないんだけど、
「 映画版 」の方は 男の「 顔と社会についての 」思考・考察・思索が 抑えられていて 比較的 とっつき易い印象。
あと、原作では( たしか )出番が少なかった “ケロイドの女” の場面が増えたことで テーマもより広く、深く感じましたね。
男を演じる 仲代達矢は「 包帯顔 」( 少しだけ ヤケド顔も )と
「 仮面の顔( 変装顔 )」だけで 素顔は出てこないけど、
あの特徴的な「 声 」で 顔を失った男の劣等、喪失感からくる
イヤミな言動を うまく表現していて なかなかの ハマりっぷり。
妻を演じた 京マチ子は 後半の ナンパや その後の「告白」での
落胆の演技が 素晴らしく、
最終的に( いろんな意味で )イイ所を ほとんど 持っていってましたね。
そうそう「 男の仮面 」を見破る “ヨーヨーの娘” を演じた
市原悦子も 出番の割りに インパクトがありました。
「 おねだり 」場面なんか ちょっとした コワかったな…。
ここから「 画像 」。
ネタバレあり。
『 他人の顔 』 タイトル後の「 のっぺら 」。
見たのは こんな顔だったかい? 〕
今回の「タイトル」も “一文字ずつ出るタイプ” で、おまけに
「 ローマ字タイトル 」も なかったので タイトルは ナシ。
代わりに ある意味 タイトルとも言えそうな「 のっぺら 」を。
〔『 他人の顔 』 冒頭の「 顔・人体パーツ 」〕
「 タイトルバック 」は 今までのより アート色 薄め。
〔『 他人の顔 』
主人公の「 包帯で 顔を覆われた 」男と 彼の妻 〕
主人公は 事故で「 顔をヤケドした 」男( 仲代達矢 )。
「 顔 」を失った 男が 妻に…
「 顔は 心の扉で 顔が閉ざされれば 心も閉ざされてしまい… 」
云々と考えを述べると、それに対して 妻が
「 扉を閉めているのは ご自分じゃないの 」
と、うんざりしながら ピシャリと 答える。
男は 気を使う妻( 京マチ子 )に 顔を失った 苦しみや 喪失感を ネチネチ言うなど イヤミったらしくてね。
まあ、顔を失ったことを思えば 同情心も 湧きますけど。
〔『 他人の顔 』
「 声だけで わかるのか 」と 専務秘書に 因縁をつける男 〕
言いがかりで 責められる 専務秘書( 村松英子 )も かわいそうでしたね。
それと、男の「 包帯顔 」の姿から「 透明人間 」が思い浮かんだんだけど、
「顔を失う」=「 個として識別されなくなる 」事でもあるから
( あと、包帯顔を見ないように 目をそらされたりも… )
そんな想起も あながち 間違いじゃないような。
「 終盤 」も それを思わせるような展開になるしね。
〔『 他人の顔 』 街を歩く男 〕
遠くから撮ったと思われる「 男が街を歩く 」場面で、男の前を通り過ぎる人の表情が 気になって 注意深く見ていたんですが、
ほとんどの人が まったく 気にしてなかった( というか 見ていなかった?)ですね。
〔『 他人の顔 』 精神科の病室の「 耳のレリーフ 」〕
〔『 他人の顔 』 精神科の病室 〕
「 人体パーツ 」が置かれた 精神科の病室が異質。
〔『 他人の顔 』
医師(平幹二郎)と 看護師(岸田今日子)による 顔の型取り 〕
「 妻の顔を焼きたい 」との衝動を持ち始めるまでに 思いつめている 男を見かねた 精神科の医師は、
「 心身に どう影響を及ぼすか 」の実験を兼ねて「 別人の顔 」の仮面を作ることを 男に提案する…という流れ。
たしか「 原作 」では 精神科の医師の出番は 少なかった気が
しますが、映画の方では 結構 重要な役回りになってましたね。
〔『 他人の顔 』 管理人の娘の “ヨーヨーの娘” 〕
アパートの管理人の娘、ヨーヨーの娘 を演じるのは 市原悦子。
〔『 他人の顔 』 包帯顔を 気にしつつ対応する管理人 〕
仮面との「 二重生活 」のための アパート探し。
アパートの管理人は 不審を滲ませつつ 男に部屋を紹介。
〔『 他人の顔 』 ケロイドの女1 〕
場面 変わって 女性の横顔。
男たちが 彼女に声をかけ 振り向かせると…
〔『 他人の顔 』 ケロイドの女2 〕
女性の顔の片側には 大きい「 ケロイドの痕 」が…。
〔『 他人の顔 』 「 精神病院 」場面、患者役の 田中邦衛 〕
ケロイドの女は 兄の工場を手伝いながら「 精神病院 」で働いている。
病院には 戦争で 精神を病んだと思しき患者がいるが、
ケロイドの女の ヤケドも どうやら戦争によるもの…らしい?
ここから ケロイドの女の「 美 」と「 醜 」( 好意と嫌悪 )や「 戦争 」の話も 加わってくるんですよね。
この ケロイドの女を 演じるのが 入江美樹。
美しい顔と「ヤケド痕」の落差がより 残酷さを際立たせます。
ちなみに 入江美樹は 小澤征爾の 奥さんだったり。
〔『 他人の顔 』
「 男に ベースとなる顔?を 張り付ける 」場面 〕
「 ベース 」を張り付けた 顔は『 悪いけ 』の レザーフェイス
みたいだったな…。
〔『 他人の顔 』 「 仮面 」完成( この後 ヒゲを付ける )〕
ホクロの男( 井川比佐志 )から 顔型?をもらい、
それを「 仮面のベース 」とし、その上に 特殊素材を塗り付けたりなどの工程を経て ようやく「 仮面 」が完成。
〔『 他人の顔 』
「 仮面 」をつけた男(サングラス)と 精神科の医師 〕
そして 医師と共に「 仮面 」の試運転。
〔『 他人の顔 』 気付かない 管理人 〕
後日、男は「 仮面 」をつけて 改めて アパートへ部屋を借りに行くが 管理人は「 包帯顔 」の男だと まったく気づかず。
ここは 先の「 アパートの場面 」と ほぼ同じ構図で 撮られていて、
管理人の「 包帯顔 」の時とは ビミョーに異なる接し方が よくわかる演出になってます。
〔『 他人の顔 』 ヨーヨー買ってあげると約束する男 〕
近所のおばさんに ヨーヨーを木に吊るされた ヨーヨーの娘。
その おばさんによると ヨーヨーの娘には 軽い知的障害がある
らしい。
ヨーヨーが取れずに 困っている娘を見た「 仮面 」の男は 娘に「 新しいのを買ってあげる 」と約束。
〔『 他人の顔 』
ヨーヨーをもらいに来た娘。 ちょっと コワイ… 〕
買い物を終えて アパートに戻り「 仮面 」を脱いだ男の部屋に
ヨーヨーの娘が「 ヨーヨーは? 」と訪ねてくる。
この時 男は 即席の「 包帯顔 」だったが、娘は「 仮面 」の男と同人物だと看破していた。
外見で 判断しない? 障害を持つ娘が 男の「 個としての本質 」を見抜いているのが 面白い。
ここで映る 男の「 ヤケド顔 」を載せたかったけど、画像が
多くなったんで 割愛。
〔『 他人の顔 』 医師 曰く、「 男は 仮面に酔っている 」〕
精神科の医師は「 仮面が選んだ服を着ている 」等と「 仮面 」を付けた男の変化を見抜く。
その後「 どこに イカリを降ろすのか 」( 仮面の「 目的 」)を医師から問われた 男は
「 女房のヤツを 誘惑してやろうってわけですよ 」
と、倒錯的な答を返す。
イカリ( 錨 )は 社会との繋がり、居場所、拠り所 などの
意味合いで『 燃えつきた地図 』にも 出て来てましたね。
『 燃え地図 』は「 イカリを上げる( 事になってしまった )」話(?)だったけど、
こっちは「 イカリを 下ろそうとする 」( 別の “繋がり” を作ろうとする )話、
もっと言うと「 夫婦の関係を 取り戻そうとする 」話でしたね。
〔『 他人の顔 』 「 仮面 」を付けて 妻をナンパ 〕
その翌日、「 仮面 」の男は 街で 妻に声をかける。
そのまま お茶を飲みに行く事になるが あまりに 簡単で つい
男の口から「 チクショウ 」と声が出てしまうのだった。
〔『 他人の顔 』 「 精神科の部屋 」。
ドアから覗くのは 海辺に揺蕩う( たぶん )「 黒髪 」〕
その後、ちらっと入る「 精神科の部屋 」の場面。
部屋のドアが「 どこでもドア 」っぽ感じに置かれていて 何とも奇妙な「 画 」でしたね。
その「ドアの中」に映るのは たぶん「 海辺?に揺蕩う黒髪 」。
精神科の医師と 看護師は 不倫関係らしく、ドアが開く前に
医師の妻( 赤子を抱いている )が ドアの後ろに 隠れるため、
これは 医師の妻の 何かしらの心情を表しているっぽい。
ちなみに 男の「 妻のナンパ 」のくだりで 挿入される「 海岸 」のイメージカット、 ケロイドの女の「 顛末 」と、
意図は よくわからないものの、一応「 仮面を被る 三者 」※を
「 海 」で繋げています。
( ※ 男の「 仮面 」と ケロイドの女の「 ケロイド 」、
医師の「 看護師や 妻への仮面 」)
〔『 他人の顔 』
ケロイドの女「 兄ちゃん、接吻してくれない 」〕
時を同じくして 兄と共に 念願の海へと来ていた ケロイドの女。
その夜、ケロイドの女は 兄に キスをせがむ。
「 明日になれば きっと戦争かもしれないね 」
度々「 戦争を期待する 」言葉を発していた妹から 常々 何かを察していた兄は それに応じる。
〔『 他人の顔 』
「 簡単すぎて愕然 」&「 自分の正体をバラす 」場面 〕
一方、「 妻の誘惑 」を 成功させた男は あまりに 簡単に事が
進んだために ショックを受け、妻の前で 自分の正体を バラそうとするが…
〔『 他人の顔 』 男の「 仮面 」を知っていた妻 〕
妻から逆に、最初から「仮面を付けた夫」だと気付いていた事、
自分が夫を想い それに合わせた( 妻も 別の仮面を被った )事を知らされてしまう。
男が「 最初の動機を作ったのは やはり君だったんだ 」と言うと
妻は「 自分で 自分を 拒んでいただけじゃないの 」と 反論。
そして 愛想を尽かした妻は 部屋を出ていく…。
ここの妻の「 自分で自分を拒んで… 」は 先に挙げた「前半」の
妻のセリフ「 扉を閉めているのは ご自分じゃないの 」と同じ。
「 答え 」は すでに出ていたんですね。
〔『 他人の顔 』 海へと 入水する ケロイドの女 〕
一方、ケロイドの女は 翌朝に 兄へ手紙を残して 海へと 入水。
〔『 他人の顔 』
「 慟哭する兄と 差し込む光 」&「 吊るされた牛 」〕
その様子を窓から見た兄は 慟哭。
それとともに 部屋に「 光 」が差し込み そのまま光に包まれ、
兄の姿が 吊るされた牛(?)に…。
白黒なので 牛?の状態が よくわからないんだけど、
兄妹が「 長崎 」に居たらしい事と、妹のケロイドの痕、そして差し込む「 光 」から何となく 演出の意図は わかります。
あと、偶々だと思うけど、窓枠の「 十字 」と 吊るされた牛に
より 兄が「 磔刑 」にされている様にも 見えるんですよね。
そして「 憐み 」と「 蔑み 」の視線と 対応に 耐えられず
( 普通の人生が 叶えられず )死を選んだ ケロイドの女。
この顛末から 度々していた「 戦争を望む 」かのような発言が
「 自己破滅の願望 」から来ていたと 思ったんですが、
前半の男が持った「 妻の顔を焼きたい 」衝動から鑑みると、
「 戦争で みんなの顔がヤケドすれば( または 心が壊れれば )
私のケロイドも 普通になる( 誰も気にしない )のに… 」
というような「 巻き添え( 道連れ )願望 」の解釈も出来そうですね。
〔『 他人の顔 』 女性を襲って逮捕された「 仮面 」の男 〕
一方、家からも 閉め出されてしまった男。
「 仮面 」を被り “誰でもない”( 未登録の )人間になった男は
道端で女性を襲い 逮捕される。
〔『 他人の顔 』 たくさんの「 仮面の顔 」〕
所持していた 診察券により 精神科の医師に 患者として引き取られた男は 医師からの「 仮面を返してもらう 」との要求を拒否。
医師は「 君だけが 孤独なんじゃない 」「 自由はいつも孤独 」「 剥げる仮面と 剥げない仮面がある 」と 説得するが 男は 聞き入れず。
諦めた 医師が「 君は自由だ 自由にしたまえ 」と言うと 男は
「 試してみるよ 」と言い…
〔『 他人の顔 』 男に刺された 医師 〕
医師に近づいて その背中を刺すのだった。
〔『 他人の顔 』 「 男が顔を揉む 」ラストカット 〕
男は「 自分の顔 」を まるで馴染んだかのように触って…(終)
男の方は「 妻との関係を修復する 」つもりだったのに 逆に
「 完全に 崩壊させてしまう 」という皮肉な顛末。
( ちなみに 原作では「 妻の手紙 」が出て来る )
その後の「 医師を刺し殺す 」顛末は「 映画 」独自の展開。
唐突な感はあるけど「 立証できない “未登録の顔” での犯罪 」は
『 箱男 』での「 社会に属さない箱男による 犯罪計画 」と似た様相なので 実は それほど ヘンな流れじゃないんですよね。
( ちなみに『 他人の顔 』は『 箱男 』同様に
「 見る、見られる 」の話でもある )
個人的に「 映像化 」らしくて すごく好きなのが 終盤の
「 仮面の人が 大勢が出て来る 」演出。
フツーに 不穏・不気味で「 画 」的に 愉しい場面なんですが、
「 皆が仮面を付ければ 信頼が無用になるが、
疑惑や 裏切りもなくなる 」
などと、仮面に対して 少し肯定的な面も見せていた? 医師が
「 大勢の仮面の人 」の幻想を見て「 仮面に 恐怖を覚え 」て
「 考えを改める(?)」流れ自体も イイんですよね。
…と、長くなったので( これでも かなり端折ってる )これくらいで 終えときます。
個人的には 読み進めづらかった「 原作 」より 要所を押さえていて 観やすい「 映画版 」の方を オススメしときますよ。



































