短篇集&エンタメ 2冊「 ガーンズバック変換 」、「 君のクイズ 」 | berobe 映画雑感

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「 映画 」と「 本 」の感想

残り2冊。

 

 

 

「 ガーンズバック変換 」  陸秋槎

 

 

全8篇の「 短篇集 」。

 

 

著者の作品は

 

『 元年春之祭 』『 雪が白いとき、かつ そのときに限り 』

 

連作短篇『 文学少女 対 数学少女 』を読んでます。

 

 

ちなみに 全て「 本格ミステリー 」で「 青春 」や「 百合 」

要素がある内容です。

 

今のところ『 文学少女~ 』が 一番 好きかな。

 

その『 文学少女~ 』が「 数学 」を扱った内容だったので

 

こちらも それっぽい「 SF短篇集 」だと思っていたんですが、

 

「 文学 」強めや「 学術 」風の作品があったりと

幅広い内容で、エンタメ的な要素も 少な目でした。

 

それでも 作品それぞれ違う 味わいがあり、楽しくは読めたので 満足感は ありましたね。

 

 

軽い「 設定バレ 」あるかも。

 

 

 

「 サンクチュアリ 」

 

「 書下ろし 」作品。

 

 

売れない作家のは、執筆が出来なくなった「 血みどろ 」が

売りの 人気ファンタジー作家の「 ゴーストライター 」をする事になり……。

 

 

という話なんですが、着地点が よくわからず進みます。

 

あまり 差し障りがないので 書きますが、その着地点は

「 血みどろ作家は なぜ 書けなくなったか 」の「 答え 」で、

 

その答えに「 最善主義 」というのが 関わってくるですよ。

 

てっきり『 ヤコペッティの大残酷 』(75年)の 元ネタ、

 

『 カンディード 』にあった「 この世界は 全て 最善 」みたいなのだと 思ったんですが、

 

フツーに “最善を尽くす” という「 最善主義 」というのが

あって、それの事でした。

 

テーマ的には「 表現 」を巡る「 文学モノ 」ですが、

 

一風変わった「 ミステリー 」としても 結構 面白かったです。

 

 

 

「 物語の歌い手 」

 

「 書下ろし 」作品。

 

 

ある吟遊詩人の「 歌 」を 侍女と共に 酒場に 聴きに行くようになった 貴族の娘

 

その吟遊詩人の「 歌 」の素晴らしさを知り、自ら「 歌 」を

作り始めた は、ひょんなことから 男装し 侍女と共に吟遊詩人を追う事に……。

 

 

というような「 物語を伝える 」と「 楽器を弾ける 」侍女の「 吟遊詩人・ロードムービー 」な話。

 

なんですが「 詩作 」を 巡る内容は まあまあ「 文学的 」で 少々 面白味に 欠けるんですよね。

 

なので「 結末 」も 特に 気にしていなかったんですが、

 

終盤の 創作者・表現者の「 業 」を感じさせる、

まさかの「オチ 」( 個人的に 好き )には 驚きましたよ。

 

「 あとがき 」によると 作品に 影響を与えたのが ボルヘス

カルヴィーノ のようで、何となく納得。

 

 

 

「 三つの演奏会用練習曲 」

 

初出『 香港文学 』。

 

 

三つの国を舞台に描いた、それぞれ 失われた「 修辞法 」、

「 戯曲 」、「 神歌の解釈 」の話…?

 

こちらも「 表現法 」や「 創作物 」と、さらに「 文学的 」要素が強めの内容で、

 

「 あとがき 」によると テーマとしては「 詩 」のようです。

 

そんな内容でしたが、

 

“二つの単語で 一つの概念を表す” ノルウェーの「 迂言詩 」※

 

が 興味深かったりで 意外と 退屈せず 読めましたね。

 

 

( ※「 迂言詩 」( ケニンガル。 WIKI:ケニング )

 

作中の例では「 枝を壊すもの 」=「 炎 」。

 

話としては この「 炎 」という “答え” が 時と共に 失われた…

みたいな感じ )

 

 

 

「 開かれた世界( オープンワールド )から有限の世界へ 」

 

初出『 SFマガジン 』

 

 

スマホ・ゲームの会社で 働く女性

別のチームだったが 知識を買われて 新ゲームの

 

「 12時間ごとに 昼夜が 一瞬で切り替わる 」理由( 原理 )

 

を 考える事になり……。

 

 

ようやく「 SF 」らしい話が 登場して ホッとしました。

 

ゲーム内において 一瞬で 切り替わる「 太陽 」と「 夜空 」の

問題は ちょっと『 三体 』の「 三体問題 」のようでしたね。

 

「 ゲームの世界観( 設定 )」を 取り入れなければ いけない、という「 お仕事 小説 」の趣もあって 面白かったです。

 

 

関係ないけど、スマホ・ゲームの「 課金誘導 の システム 」を 改めて エグいと 思いました。

 

 

 

「 インディアン・ロープ・トリック と ヴァジュラナーガ 」

 

初出『 SFマガジン 』

 

 

「 縄が 真っすぐ 空中に留まる 」 という「 術 」?

「 インディアン・ロープ・トリック 」の論文…みたいな、

ショートショート。

 

その「 宙に浮く 真っすぐな 縄 」を「 人が登って行った 」

り 、さらに「 身体がバラバラになって落下 その後 元に戻る 」

 

との「 話 」や「 文献 」を 紹介してるんですが、これが 結構

面白いんですよ。

 

インドの 仏教本『 ブッダチャリタ 』には

 

「 仏陀が 上に昇って バラバラになり、落下後に 元に戻った 」

 

との記載があるとか「 ウサン臭さ 」と「 幻術 」が 混在した

ような内容で ワクワクしながら読めましたね。

 

ちなみに タイトルにある「 ヴァジュラナーガ 」とは

 

「 危険を感じると 固くなる ヘビ 」の事なんですが、これは

「 創作 」でした。

 

 

 

「 ハインリヒ・バナールの文学的肖像 」

 

初出『 時のきざはし 現代中華SF傑作選 』

 

 

オーストリアの 小説家 & 劇作家、ハインリヒ・バナール

「 伝記モノ 」

 

…だと思って読んでいたら「 架空人物の 伝記 」でした。

 

映画で「 ニセ・ドキュメンタリー 」というジャンルがありますが、それの「 伝記版 」みたいな感じでしょうか。

 

 

バナールの人生を「 他者の模倣で 書かれた 作品 」、

「 評論家からの 酷評 」などの話を 交えながら 紹介する、

 

かなり 地味な内容ですが、

 

中盤には「 未来小説 」への挑戦( もちろん 他者の模倣 )に

ナチスの台頭 」が 絡んできて 面白くなってきますよ。

 

最後の方の バナールが考えた「 総統が 何回も死ぬ事になる 」

タイムマシン小説が 最高。

 

 

 

「 ガーンズバック変換 」

 

初出『 香港文学 』。

 

 

「 ネット・スマホ 依存症対策 条例 」により 全未成年者が

「 液晶画面を 遮断する メガネ 」を しなければ いけなくなった 香川県。

 

香川県民の学生、美優は 親友の梨々香に会うため 大阪へ。

 

それには ある目的があった……。

 

 

みたいな「 ディストピア 」チックな趣のある「 青春SF 」。

 

「 あとがき 」にも 書いていたけど、そのまんま

「 香川県 ネット・ゲーム依存症対策条例 」が ネタ元ですね。

 

「 液晶画面の遮断 」なので TVもダメってのが ツラすぎだったな。

 

読み進めて 早々、「 メガネを 外せば いいのでは? 」と思ったんですが※ これも ちゃんと 絡んできてました。

 

( ※ 主人公は 近視で そもそも メガネを外すと見えない設定 )

 

 

ちなみに タイトルの「 ガーンズバック 」は、

 

SF小説家:ヒューゴ・ガーンズバック から取った、くだんのメガネの名前です。

 

SF界の「 ヒューゴ賞 」も この名にちなんで付けられたようです。

 

 

 

「 色のない緑 」

 

初出『 アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー 』

 

 

「 機械翻訳 」の仕事をしてる 女性親友の自死を知らされ、

もうひとりの親友と共に その理由を探る……。

 

みたいな「 ミステリー系・SFドラマ 」。

 

 

「 小説を 映像化 出来る 」まで 人工知能が 発達した 近未来が 舞台なんですが、

 

「 AI 」のほか「 言語 」の要素も 強くあって、タイトルも

言語学者・チョムスキーの「 色のない緑の考えが猛烈に眠る 」から来てます。

 

という事で 理解するのが なかなか難しい内容でしたが、

 

学術っぽいのは 理解は 出来なくとも 嫌いではないので

( 限度はあるが )結構 面白く読めましたね。

 

ただ、理由は チョット弱かったかな。

 

 

という事で 一番 印象に残ったのは、

 

『 ハインリヒ・バナールの文学的肖像 』『 物語の歌い手 』( のオチ )かな。

 

「 SF 」の方の『 開かれた世界から有限世界へ 』

『 ガーンズバック変換 』も 良かったですよ。

 

 

 

 

「 君のクイズ 」  小川哲

 

ミステリー系・エンタメ・ドラマ。

 

 

クイズ番組「 Q‐1 グランプリ 」、三島玲央( みしま れお )と、クイズ・タレントの 本庄絆( ほんじょう きずな )との

決勝。

 

その最終問題で「 問題 」が 一言も 発せられていないのに

本庄が ボタンを押して答え 正解し、優勝してしまう。

 

詳しい説明もなく 納得できない 三島は 真相を求め 独自に解明に挑み、決勝の問題を 振り返る……。

 

 

クイズ番組での「 ゼロ文字 解答 」の「 謎 」という、とても

興味を覚える ミステリーな内容ですが、

 

三島が「 決勝の問題 」を 振り返る時に「 答え 」と共に 思い出す「 過去の出来事 」には 物語性があり「 人間ドラマ 」としても 面白かったです。

 

クイズ・プレイヤーの「 早押しテク 」などの “技術うんぬん”

も 興味深く、ちゃんと「 謎の解明 」にも絡んでくるし、

 

本庄の「 過去 」も「 話 」に 深みを与える形になっていて

「 ミステリー 」としても 良く出来ていました。

 

 

あと 個人的に「 ゼロ文字 解答 」の 超意外な「 答え 」自体

( 一応 伏せておく )も “知っていた” んですが、

 

まさか小説で “それ” を見れるとは思わず、ダブルの衝撃を受けましたね。

 

 

「 エンタメ系 」だし、ページ数も「 190ページ 」と

そう多くないので オススメし易い作品です。