「 ブラザーズ・クエイ短篇集 Ⅲ 」
「 映像作家 」 クエイ兄弟 の 短編集で、全4作品。
「 GYAO! 」 の無料配信で 鑑賞。
前の 短編集とは 若干 毛色が 違うかな?
「 学術系の 2作品 」は 若干 “カタめ” な内容 でしたが、
クエイ兄弟 の志向 が垣間見える 興味深い 作品。
初め 『 短編集 Ⅰ、Ⅱ』 は よく わかりませんでしたが、
この 『 Ⅲ 』 を観て 何となく 考える方向性が わかったんですよね。
まずは その 学術系 2作品 から。 ( 2番目と 4番目 )
「 人為的な透視図法、またはアナモルフォーシス( 歪像 )」
(91年)
「 錯覚 」を 利用した 「 歪像描写 」を、アニメで 解説した 学術系の
作品。
真面目な作品ですが、「 絵画 好き 」は 普通に 楽しめそう。
個人的には 面白かったです。
あと、クエイ兄弟 の「 作中に メッセージを潜める、隠す 」という 傾向も
わかりますね。
〔 『 人為的な透視図法~ 』より、エアハルト・シェーン 『 4人の肖像 』。
ハンス・ホルバイン 『 大使たち 』( “ドクロ” のヤツ)なども。
もちろん 「 ストップモーション・アニメ 」も ありましたが、
今回 「 画像 」が 多いんで 割愛 〕
「 ファントム・ミュージアム ヘンリー・ウェルカム卿の
医学コレクション保管庫への気儘な侵入 」
(03年)
ロンドン に実在する 「 ヘンリー・ウェルカム・コレクション 科学博物館 」に “男”? が 侵入して 見て回る…という内容。
ヘンリーの 「 医学関係のコレクション 」※ が 紹介されていますが、
数が少なく、物足りない。
( ※ 膨大、多岐に渡っている ようだ。
博物館を 紹介した サイトが あったので 興味がある方は そちらへ )
でも、これも クエイ兄弟の 志向( 体、生殖 )が わかり 興味深かったですね。
あと 一応、“オチ” があります。
〔 『 ファントム・ミュージアム 』より、「 木製の 女性人体模型 」。
この 「 お腹 」には 胎児 もいる。
他の「 人体模型 」のほか、「 分娩椅子 」、「 義手 」、「 義足 」なども
紹介 されていました 〕
残りの 2作品。 ( 1作品目 と 3作品目 )
「 櫛 ( 眠りの博物館から)」(90年)
“眠る女性” が見る 「 夢 」。
その「 夢 」では 陶器人形( 女性?)が “建物” の上階に 登ろうとするが…
みたいな 内容 で、 一応 「 おとぎ話 」らしい。
比較的 分かり易い…かも?
冒頭、“男”( 夫?) の 「 全部オレの物 」的な言葉 があるので、
「 抑圧された 女性 」 や 「 抑圧からの 解放 」の話かと
思いましたが、
「 女性の性 」、「 胎児、出産 」の話にも 思えましたね。
〔 『 櫛 』より、“眠る女性”。
「 夢の中 」では 陶器人形の ようだが…? 〕
〔 『 櫛 』より、「 夢の中 」の 森の近くにある “建物”。
“建物”内は 至るところの 上下に 沢山 「 穴 」がある。
陶器人形は 上に イキたい様だが、梯子が短かったり、「 根 」?が
邪魔していたりと、なかなか 上に イケない 〕
〔 『 櫛 』より、外の風景。
「 両目モチーフ 」は 他の作品でも ありました。
あと、「 E P I S 」の文字が見えますが、
略語 だと キリスト教の 「 監督派教会 」の 意味があるみたいです。
それだと 「 神の目 」( 教会の目 )って 事かな?
判別が 難しいですが 右端に 「 小屋 」があります 〕
〔 『 櫛 』より、両手が 取れた 陶器人形。
両手と 梯子だけ だと、自由に 移動できるが、
「 体全体 」だと、とたんに 移動が 出来なくなる 〕
〔 『 櫛 』より、“「 小屋 」で眠る 女性” 1 〕
〔 『 櫛 』より、“「 小屋 」で眠る女性” 2。
なんと 「 小屋 」は 2つあった 〕
〔 『 櫛 』より、
“「 小屋 」で眠る女性” の お腹?から出て来る “両手と梯子”。
“両手と梯子” を 「 赤ん坊 」と みれば、2つの「 小屋 」は 「 卵巣 」か? 〕
〔 『 櫛 』より、“「 小屋 」で眠る女性” 3。
だが、出てきた “両手と梯子” は 上に つっかえて 動けなくなる。
女は 依然、眠ったまま 〕
〔 『 櫛 』より、“建物” を彷徨う 陶器人形。
至る所に 梯子はあるが、上には 届いていない 〕
〔 『 櫛 』より、“謎の女性” の “高速で動く” 中指 〕
〔 『 櫛 』より、その “謎の女性”。
この人物 は 上の階にいて、
上に イケるように サポート して ( 促して )くれているが、
邪魔しちゃう事も?
“動く中指” に 合わせ、“眠る女性” の 中指も 動く。
自慰を 連想させるが、
「 全部オレの物 」的な 発言をする “男” を “神” だとするなら、
( あと、「 E P I S 」 )
“禁欲を旨” とする 「 キリスト教 」要素も 浮かんでくる? 〕
〔 『 櫛 』より、“梯子を こする” 陶器人形の 両手。
「 梯子の長さ 」が足りないため、“両手” が “梯子” を こする と、
その先端から 木 が生えてくる。
“梯子” は 「 男 」、 “両手” を 「 女 」と みえれば、
“両手と梯子” は 「 子供 」か。
先の「 小屋 」での 「 お腹から出て来る “両手と梯子” 」 と
繋がりそう 〕
〔 『 櫛 』より、新しく 生えた木により 上まで届いた 梯子。
そのおかげで “梯子”( 男 )は 多少 苦労しつつも 上に 届いたが… 〕
というように “性的メタファー溢れる” 「 幻想・迷宮譚 」 でしたね。
今までの作品より あからさまな 表現が多く、結構 分かり易い感じ
かな。
まあ、それでも 「 櫛 」や 「 軽石の砂 」など、
全然 わからない所も 多いんですが…。
個人的には エンタメ性が 高く感じたし、
“建物” の「 迷宮 」感や 雰囲気も 好み で 面白かったですね。
「 不在 」(00年)
クエイ兄弟は 「 幻想的 」な雰囲気の 作品が 多いので、
この ストレートな 「 ○○… 」( ジャンル名 )作品に 意表を突かれましたね。
しかも、“オチ” も ちゃんと 説明しているので モヤモヤも 少なく、
エンタメ性も 結構 “高め”?なんですよ。
「 大きな建物 」に住む “女性” の話なんですが、
序盤から 全然 わからず、面白みのある 「 ストップモーション・アニメ 」も “少なめ” だったので、 前半は 結構 ダレ気味 な鑑賞。
中盤から チョットわかってきますが、意味自体は よくわからないまま。
しかし、終盤で 伏線が回収され、恐怖と 切なさが 押し寄せてくるんですよね。
もちろん、わからない所も 多くありますが…。
ここから 「 画像 」。 ( ネタバレあり )
〔 『 不在 』より、OP & タイトルバック。
これ、何回も 出て来るが まったく わからず…。
主人公・“女性” の 「 心象風景 」 なのかな…? 〕
〔 『 不在 』より、“女性” が暮らす 大きな建物。
向こう側の 朝日が 「 女性の部屋 」?から漏れ?光っている 〕
〔 『 不在 』より、
(多分)「 女性の部屋の窓 」と、「 ブラブラ している 少女の 脚 」(左)。
スカートを 履いている この脚は 「 義足 」。
この「 脚 」も 結構 出て来る 〕
〔 『 不在 』より、“何か” を書いている “女性”。
“女性” の部屋に 鉛筆が 2本も 投げ込まれる。
“女性” は さっそく 鉛筆を削り、“何か” を書き始めるが、
力がこもり すぐ「 鉛筆の芯 」 が 折れてしまう。
鉛筆が 2本 なのは そのためで、
“女性”の指が 黒ずんでいるのは しょっちゅう 鉛筆を 削るため だと
わかる 〕
〔 『 不在 』より、沢山の 鉛筆の “折れた芯” 〕
“女性” は 折れた “鉛筆の芯” を溜めている? 〕
〔 『 不在 』より、両手が “蹄”( ひづめ )の 悪魔っぽいヤツ。
急に出てきた 悪魔が 「 “芯” の削りカス 」 を集め 「 折れた “芯” 」
として 再生する。
この悪魔、どこにいるのか よくわからないが、「 窓 」はある 〕
〔 『 不在 』より、悪魔の “蹄” と、再生され 並んだ “鉛筆の芯”。
ここの “芯の再生” 描写が 楽しい 〕
〔 『 不在 』より、並べられた “鉛筆の芯”。
その後、“女性” も 窓際に “折れた芯” を 並べている。
悪魔は “女性”って事か。
興味深いのが その後の “女性” が 窓を拭き始める描写 で、
窓を拭くと 「 光 」が入り? 悪魔が 奥に引っ込む?んですよ。
序盤の 「 建物の “光” 」は、「 彼女の部屋の窓 」が 綺麗だったから
なんですね…多分 〕
〔 『 不在 』より、書いていた 「 手紙 」。
“女性” が 書いていたのは 「 手紙 」だったが、同じ文で びっしり 〕
〔 『 不在 』より、「 時計の中 」に投函される 「 手紙 」。
“女性” は その「 手紙 」を 部屋にある 「 柱時計 」っぽいヤツの
“口”?に 投函 〕
〔 『 不在 』より、時計内の下に 溜まっている 「 手紙 」。
「 手紙 」は そのまま 下に落ちるが、下には 沢山の「 手紙 」が…。
“女性” は 時計の針 を ちょっと 戻すが、その時計の文字盤は
逆だった。
朝、職員が 鉛筆を2本、“女性” の部屋に投げ入れる… 〕
〔 『 不在 』より、「 手紙 」の内容。
その「 手紙 」は 精神病院( ASYLUM の 文字が見える )にいる
妻 が 夫に向けた ものだった 〕
というわけで 今作は
「 精神を 病んでいる “女性”( 妻 )が 毎日 1通、夫へ「 手紙 」を
書いていた… 」
という 内容の 「 サイコ・サスペンス 」でしたね。
端折りましたが、後半 “女性” が 他の人( 夫?)に触られる 描写も
ありました。
実際に あのような 手紙が あったみたいで、「 E.H.」なる人物も
いるみたい。
すっかり 油断してたので、
終盤の 「 手紙の文字 」、「 手紙の山 」に ゾワッと したし、
その後の 「 夫への想い 」の 切なさも 結構 胸に来たな~。
“女性” が 「 窓を拭いた 」のは
「 会いに来た 夫 」を 窓から見たかったから かな?
「 光 」で 悪魔が 退いたのは、「 夫と 会えるかも… 」という 希望か。
あと、「 “外の光” で 症状が和らいだ 」と 考えれば、
「 隠すよりも 表に 」との 意味もありそう。
「 “芯” 並べ 」の奇行 は、症状のせい( 悪魔のせい )って事かな?
「 サイコ・サスペンス 」として 話に 目新しさは ありませんが、
その描写や 表現は クエイ兄弟 らしさが 出ていて 独創性があったし、
静かに 盛り上がる 終盤も 肝が冷えるような 雰囲気を 味わったので、個人的には 高評価 ですね。