今月は
作品集 『 新潮現代文学33 砂の女・密会 』 安部公房、
本格ミステリー 『 ミステリー・アリーナ 』 深水黎一郎、
本格ミステリー 『 人間の顔は食べづらい 』 白井智之、
の 3冊。
最初に 安部公房 から。
安部公房 の 作品集で 全7編(?)。
「 砂の女 」、「 密会 」 は 長編。
「 デンドロカカリヤ 」、 「 詩人の生涯 」、 「 無関係な死 」 は
短編。
「 赤い繭 」 は オムニバス で、
表題作、「 洪水 」、「 魔法のチョーク 」、「 事業 」 の 4話 構成。
「 棒になった男 」 も オムニバス で、
第一景 「 鞄 」、 第二景 「 時の崖 」、 第三景 表題作 の 3話 構成。
初・安部公房 です。
なんとなく 読む “タイミング” が合いました。
昔の小説 ですが 思ったより 読みやすく、好みの作品も 結構 ありました。
「 砂の女 」
昆虫採集のため砂丘に やってきた 男 が、砂穴で暮らす 女の家に
泊まり、そのまま 出られなくなる話。
64年の 「 映画版 」 は 観てません。
普通に 主人公の男 の描写から 始まると 思っていたんですが、
「 男の行方不明 」 と 「 失踪 」 の話 から 始まるんですね。
その “冒頭” が 妙な現実味 を 醸し出していたし、
最後の “アレ” にも 唐突に 現実に戻された 気持ちに なり、
軽く 恐怖を 感じましたね。
( あと、映画 『 人間蒸発 』(67年 今村昌平 監督 ) を思い出した。 あれは “リアル” から “虚構” でしたが )
体に 砂が 付いたり、食事にも 砂が入る、「 砂穴の暮らし 」 は
イヤだな。 ( 米を ふるいにかけるのが めんどくせ~ )
設定上、場面転換は 少ないのですが、
“男” の心情や もがく様子 は 楽しく、退屈は しません。
“女” や 上の男たち に 文句を 言ったところで 反応が薄いし、
何にも ならないのが 虚しいけど、
それでも 強気な “男” の メンタルには 笑ってしまいます。
そして 砂まみれの 暮らしで、
“男” の 「 ゴム装着の 強迫観念 」(?) が治った?のも 興味深い
話で、 ( 言えば 配給 してくれそう )
この事で “男” と “あいつ” との 関係性や、すれ違い が 垣間見え、
“男” の 心境の変化も なんとなく 分かるんですよね。
後半の 皆の前で…の くだり、
“男” の 「 しかし、外に 出たいからなあ… 」 の 呑気なセリフ が、
バカっぽくて 好き だけど、
その後 “男” が “女” に マウントポジション?で ボコボコに される
のが 可笑しかったな~。
気になった 「 部落の収入 」 に 納得するも、
次の “女” のセリフ、
「 かまいやしないじゃないですか、そんな 他人のこと なんか
どうだって!」
には 痺れましたね。
終盤、「 ラジオ 」の くだり では しんみり しましたが、
“女” は 楽しそうだったし、
“ささやかな希望” で 終ってもいる ので、読後は 少し 解放感も
あったかな。
あと、脱出の 試行錯誤など サスペンス要素 もあり、
特に 後半の展開は かなり スリリング で、意外に エンタメ度は 高め でした。
砂穴から 抜け出せず、「 ひたすら 砂を掻く 生活 」 は いろいろと
喩えられますが、
( 解説から 借りれば “比喩の装置” )
私が気に なったのは “男” が読む 新聞の
「 東京五輪、予算でもめる 」 の見出で、
( 今作の刊行 は 62年、五輪は 64年。 なんか タイムリーだな… )
他の見出しも 多分、地方のことは 書いていない ようです。
“忘れ去られた部落” と “現実の地方” が なんとなく 似ていて
少し 物悲しさを 覚えるし、
「 砂掻き 」 という 非効率な方法?( 一番 安上り らしいが… )が
“無策な地方” を 思わせ、切なく なります。
あと、ヒドイ のが 序盤の 「 昆虫( 採集 )マニア 」 の くだり。
「 熱中するのは 精神の欠落を 示す 証拠 」、「 極端に 排他的 」 や、
「 盗癖の所有者、男色家で あったりするのも 偶然ではない 」 と、
時代を 感じる 内容ですが 笑っちゃいます。
( Eテレ 『 昆虫すごいぜ!』 の 香川照之 を ディスってんのか~!?)
あと、“男” が捕まえようとしている のは 「 新種のハンミョウ 」
ですが、
( 『 昆虫すごいぜ!』 でも ハンミョウ やってましたね )
ハンミョウの幼虫 は 「 穴に潜み エサが 近づくのを待つ 習性 」
なので、
ハンミョウを 捕まえに 行った “男” が、穴の中に 捕ら( 囚 )われる
という、展開は かなり 皮肉なんだよな~。
内容としては 思ったより 不条理は 感じなかったかな。
難解でも ありますが、特に 気にせず、
そのまま 「 脱出 エンタメ 」 として 楽しく 読み( 読め )ました。
「 密会 」
朝早く 救急車で運ばれた “妻” が そのまま 病院で 行方不明に
なり、“男”( 夫 )が 妻捜しに 奔走する話。
「 妻の失踪 」、「 盗聴組織 」、「 囚われの少女 」、 「 “馬”の企み 」 と、
サスペンス・ミステリー要素 が 盛りだくさん で、
『 砂の女 』 より こっちの方が好み…かな。
( 「 毎日 手淫男 」 も 出てくるし、「 オルガスム・コンクール 」 も
あるけど… )
あと、“男” が 「 自身が 盗聴された録音テープ 」 を 聞いて 出来事を
思い出し、
それを 「 ノートに 書き写す 」 理不尽な作業 も 好きだし、
「 妻捜し 」 が 全然進まない ヤキモキ感 が また イイんだな~。
あと、意味深な 「 馬の絵 」 や、冒頭、良く分からなかった “馬” の描写も、後から わかり 驚愕しましたね。
「 盗聴 」 の そもそもの目的は 良いとして(?)、
そこから 手段が 目的化し、ビジネス になり、
さらに 拡大、システム化 する 設定も 面白い。
『 砂の女 』 の 囚われた“男” は それを 受け入れ( 諦め?)、
希望が 生まれましたが、
今作の 「 巨大な病院 」 に 囚われた “男” は、
果敢に 「 脱出 と 救出 」 を 試みたのに 病院に 取り込まれ、
絶望を味わう のが 悲しく 切ないんですよね。
( でも、患者でもなく、医者でもない “男” にとっては、あの結末は
必然 だったのかも?)
今作も 難解でしたが、エロが 多めで、SF要素?もあったので
普通に エンタメ作品( 「 不条理サスペンス 」、「 素人探偵モノ」 )
として 楽しめました。
「 無関係の死 」
“男” が アパートに 帰ると 見知らぬ男 が死んでいたという話。
混乱と 驚愕、警察に 疑われるのを危惧した “男” が、
隠蔽( 他者に 死体を 押し付け )を 企む 展開なんですが、
ミステリー的な 視点 ( 死斑、犯人の意図 )も 盛り込んでいて、
個人的には かなり 楽しい作品 でした。
「 魔法のチョーク 」
貧乏画家の アルゴン君 が チョークで 部屋の壁に 絵を描くと
それらが “具現化” する、ファンタジーな話。
“具現化した物” は “日の光” を 浴びると 消える( 壁 に戻る )ので、アルゴン君は 上手い事やろうと するんですが、
かなり スケールの デカい話 に なるのが 面白い。
他の作品でも 垣間見られる?女性への不信感 が 今作では
顕著に 出てましたね。
そして 切なくも 愉快な オチが 素晴らしい。
「 洪水 」
労働者が 「 液体人間 」に なり、人類が絶滅する 話。
対策を練るも、その 従事者( 労働者 )も 次々“液体化” し、
労働者不足 に なるのが 暗示的 で、
最後、ノア も 方舟ごと 洪水に 飲み込まれる のが 可笑しい。
「 鞄 」 は 女と 客( 女友達 ) 2人 による、
女の夫 の 「 “物音を出す” 鞄 」 を巡る 対話劇 で、舞台の台本 の
ように 書かれています。
“女性2人の掛け合い” と、シンプル な構成 なんですが、
“鞄” を 「 開けるのか、開けないのか 」 の やりとりは 緊張感 が
あったし、
男が演じる “鞄” の 出す音 = “脈絡のない言葉の連なり” が
不気味で 面白かったですね。