トルベがウンスを拾いに離れへ行って不在の間、ラミズはムハメドに透視で得た情報について伝えていた。
『アヴィダの兄からの刺客だ。ヤスミナが私の傍にいるのがわかり、ここまで追って来たらしいぞ。』
『まさかこんな所まで、ありえませぬ。ラミズ様』
『確かだ。ムハメド!三日月刀の柄の紋章は、月とサソリだった。』
透視のお陰で危うく難を逃れた。
今頃兄の刺客は、内通者と弓隊
の死体を見ておるだろう…。
の死体を見ておるだろう…。
『馬を隠し、ドクターの傍から決して離れるな。』
と言っている間にも、ラミズの眼球が激しく動き、瞳孔がこげ茶から琥珀色に急激に変化する。
『ラミズ様、目が…まさか矢に?』
『サソリの毒だな。ヤスミナに当たっていたならば致命的だった。狼の目が抑えられぬ以上、気取られる前に暫し眠るぞ。』
と、そう言ったきり、ラミズは目を閉じ仮睡した。
*
『何でこんな事に?』
施術室に入って来るなり、ウンスがそう叫んだ。
トルベからの知らせを受け取った二人の医員も、施術室に駆け込んでくる。
ヤスミナがウンスに向かって必死な目をして訴える。
『医仙様、どうか兄様をお助け下され。』
『姫、落ち着いて!医仙様に任せておけば大丈夫です。』
ムハメドはそう言ってヤスミナの背中を支えた。
横からチェ・ヨンが尋ねる。
『何があったのか話してくれ。』
『ここから帰途に就いておりました所、市井に入った辺りで、屋根に潜んでいた刺客に矢で襲われました。雇った4名の護衛は、内通者だったのです。』
そこで、ヤスミナが震える声で口をはさむ。
『私に放たれた矢を兄様が体で庇ったのです。』
チェ・ヨンと同様に不死身なタイプかと思われたラミズの容態に、ウンスは少し違和感を覚えた。
肩を貫通した傷口を診て眉をひそめる。
『矢だけで変ね。意識はいつからないの?』
『先程までは話ができましたが、毒が矢に塗ってあったかと思われます。』
毒という言葉にウンスの顔が固まり、チェ・ヨンと顔を見合わせる。
『ムハメドさん、ラミズさんと話す時、どこか変わった所はなかった?』
『よく見えないと言ってました。それから眼球が激しく動いて…』
『アナフィラキシーショックだわ。』
『イムジャ!それは何ですか』
『急性のアレルギー反応よ。』
『急性のアレルギー反応よ。』
ウンスは、ラミズのトーブ(白の長衣)の表身ごろをざっくりとカットし、全身に広がる蕁麻疹(じんましん)を確認する。
『クモクさん患部を冷すから、水屋に走って氷を直ぐに持ってきてちょうだい。洗浄、消毒それから解毒よ。皆、急いで!』
ウンスがてきぱきと指示を出している間、チェ・ヨンは蝋燭と油火に火を点し部屋全体を明るくした。
『ありがとう。チェ・ヨン。では皆さん外でお待ち下さいね。』
そう言うと、ウンスは真剣な面持ちでラミズに身をかがめた。
皆と同じ様に扉から出掛かっていたムハメドが、突如あっ、と何かを思い出したかのように声を出し留まった。
『あの医仙様、ラミズ様の毒の事でお伝えしたいのですが…、』
『では、ムハメドさんは残って。毒のことなら聞かなきゃならないわね。』
ウンスは二人の医員に手伝わせてラミズの背後の蕁麻疹を診ながら、ハチもしくはクモの毒に対する反応に似ているけれど、と独り言の様に呟く。
『医仙様、実は刺客はアヴィダ王国の兄君からと思われますので、サソリの毒かも知れません。』
『ええっ、サソリ?』
それでは~



