― TKC全国会の優れた見識に経緯を表して ―

                               代表取締役会長 飯塚真玄


中小企業の会計に関連して、昨年から今年にかけて展開された各団体の主張のうち、特に奇妙に思われたのは日本税理士会連合会殿(以下、「日税連」)のものであった。

日税連殿は、一昨年(平成20年)までは、確定決算基準の堅持を主張しておられた。

それは例えば、当時の政権党であった自由民主党の財政金融部会がまとめた『平成21年度税制改正要望事項』という冊子などを見ても明らかである。これは自民党税制調査会が次年度の税制改正のために議論すべきテーマをまとめたもので、ページ数も結構あり、当時は「電話帳」と呼ばれていた。

その24頁にはこうある。

(73)確定決算主義のあり方を弾力的に見直すこと。(日本公認会計士協会)

(74)確定決算基準を堅持すること。(日本税理士会連合会)

(75)確定決算主義に基づく所得計算を堅持すること。(TKC全国政経研究会)

これまで確定決算主義に関しては、修正を求めていたのが日本公認会計士協会で、その反対に堅持を求めていたのが日税連殿とTKC全国会という図式であった。

しかし日税連殿は、昨年秋からごく最近まで、公の場で、従前のご主張とは正反対の議論をされていたようである。


一、日本商工会議所によって救われた


先月号にも書いたように、昨年6月に金融庁の企業会計審議会が「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」を公表し、その中でIFRS対応については「連結先行」の方針を発表したあと、これに猛然と反発した日本商工会議所が、昨年10月「平成22年度税制改正に関する要望」を公表し、「連単分離」を主張するとともに、確定決算主義の維持を訴えて、わが国独自の会計制度の策定を強く求めたのである。

このときの日本商工会議所の断固たる態度が、そのあと「中小企業の会計に関する指針」(以下、「中小指針」)の適用範囲をめぐる問題にまで波及していったのだ。

もとより中小指針は、平成17年8月、金融庁の指導の下で、企業会計基準委員会(ASBJ)、日本公認会計士協会、日本税理士会連合会、そして日本商工会議所の4団体の合意により成立したものである。

しかし、先月号でも述べたように、「中小指針」はその後毎年改定され、その都度、最新のIFRSとの整合性が吟味され、確定決算主義の堅持をさらに困難とする制度が追加されてきたのである。これをリードした中心勢力は、IFRSに積極的に対応しようとする企業会計基準と日本公認会計士協会だったのではないだろうか。

そして驚いたことに、日税連殿は一貫してそのような「中小指針」をすべての中小企業に適用すべしとする論陣を張ったのである。

ただし、この問題はきわめて奥が深く、錯綜していることに注意しなければならない。

と言うのも、「中小指針」の普及が確定決算主義崩壊への道につながるものかどうか、その判断が分かれるだろうからである。

そして、おそらく、日税連サイドはそう考えなかったのではあるまいか。

だが、現実問題として、この「中小指針」を全国で250万を超える中小企業のすべてに適用させることは果たして可能であろうか。そのうち約半数は年商5千万円以下の零細法人なのである。

仮にそうできたとしても、税務申告に於いて大混乱は避けられない。すると前号で述べたように、国税当局は混乱を理由として確定決算主義の廃止に進まざるを得ないだろう。(このIFRS問題で、国税当局はずっと沈黙を守ってきている。実に不気味である。皆さんはそう思いませんか?)

確かに会計参与設置会社であればこの「中小指針」を適用させることは可能だろう。

だから日税連殿のご主張は、これら零細企業にまで会計参与を設置させようとする企てのように見えてくる。

それでは「会計(税理士)残って、国(中小企業)滅ぶ」ということになりかねない。

ともあれ、そこに歯止めをかけることができたことは、本当に喜ばしい。日本商工会議所の大英断と強力な影響力とによる考えるべきであろう。

日本商工会議所は、ますますIFRS化への傾斜を強める「中小指針」を担いだままでは、確定決算主義はやがて崩壊すると見抜いたのだ。おかげさまで、中小企業も税理士も、そして当社も救われたのである。


とこしえ 2010年11月号