二、「中小会計指針」へのIFRSの浸透
わが国で中小企業の会計に最初のスポットライトを当てたのは中小企業庁である。
平成13年に研究会が組織され、翌年の平成14年に「中小企業の会計に関する研究会報告書」が公表されている。いまだから言えるのだが、この研究会立ち上げのための最初の働きかけはTKC全国会の有志によるもので、その目的は「確定決算主義の堅持」であった。早くも当時からTKC全国会では国際会計基準(当時はIAS)の浸透がその崩壊を招くことを深く懸念していたのである。
ここで、なぜ中小企業庁は「会計基準」でなく、「研究会報告書」として発表したのだろうか。それは国家行政がタテ割りでなされているからである。医療保険が厚生労働省の管轄であるように、会計は本来金融庁の管轄であるからである。
しかし、ここで中小企業庁が研究会報告書をまとめたことは、後になって実に大きな意味を持ってくるのである。極論すれば、この報告書無かりせば、今日の状況を見ることはできなかったことだろう。
この報告書が出たあと、同年、日本税理士連合会が「中小会社会計基準」を発表し、その翌年に日本公認会計士協会が「中小会社の会計のあり方に関する研究報告」を発表している。こうして、中小企業の会計に関して三つの基準が鼎立する時代が始まった。そのような状況が、会社法が成立した平成17年まで3年間続いたのである。
会社法が会計参与制度を導入したことに伴い、中小企業の会計はさらに注目されることになった。
三社鼎立はいかにも不都合である。そこで本来の監督省庁である金融庁の指導の下で、企業会計基準委員会(ASBJ)、日本公認会計士協会、日本税理士連合会、そして日本商工会議所との間で合意形成がなされ、「中小企業の会計に関する指針」(以下、「中小指針」)が誕生したのである。そこでは中小指針は会計参与設置会社が準拠すべきものとされた。
しかし、そのあと中小指針は大きな変貌をとげていった。成立の翌年から毎年改定版が出され(本年4月26日公表の中小指針は第6版である。)、その改定の都度、最新のIFRSとの整合性が吟味され、確定決算主義の維持をさらに困難とする制度が次々と追加されていったのである。
さらに不可解なことに、中小指針の策定に参画している4団体のうち、日本商工会議所を除く3団体が、こぞって中小指針をすべての中小企業に適用させようと動いていたことである。会計参与はすべての中小企業が設置することを予定していないにもかかわらずである。
三、日本商工会議所が悲鳴を上げた
そのような状況が続く中で、昨年の6月30日、金融庁の諮問機関である企業会計審議会(BAC)から「わが国における国際会計基準の取り扱いに関する意見書(中間報告)」が公表された。
そこでは重要なポイントが二つあった。
・連結先行
・中小・中堅規模企業はIFRS適用のニーズは低いと考えられ、IFRSに基づく財務諸表作成のための体制整備の負担を考えると、非上場会社へのIFRSの適用は慎重に検討すべきである。
日本商工会議所にはさすがに知恵者がおられるようだ。この意見を読んで、「連結先行」なら「単独後行」となるのではないか。「慎重を検討すべき」であれば、少なくともIFRSの影響下に入ることは避けられなくなるのではないか、と見抜いたのである。
日本商工会議所の主張は、昨年の10月に出された「平成22年度税制改正に関する要望書」を見ても明らかである。その中の第13項は「会計の国際化」からの影響回避」と題するもので、その要旨は次の通りである。「確定決算主義を維持したうえで、欧州諸国と同様に、会計基準を「連結財務諸表」と「個別財務諸表」とに分離し、課税の基礎となる「個別財務諸表」は、わが国のこれまでの商慣行等の実態を踏まえ、わが国独自の制度を策定されたい。」
これは実に立派な見識だと思う。
私が国税庁の各種統計から推察したところ、日本の法人企業約260万社のうち、その半数が年商5千万円以下なのだ(年商3千万以下は40.2%)。
そのような零細法人にまでIFRSに影響された会計指針を適用することは、「角を矯めて牛を殺す」ということになるだろう。
そのあと、この日本商工会議所の主張が実態を大きく変えたのである。また同時に、先に述べたTKC全国会の特別チームの活動が本格化していったのである。
ここで紙面が尽きた。以下は次号に書く。
とこしえ2010年10月号