1998年のノーベル経済学賞受賞者アルマンティア・センは、
自己利益を最大化することを唯一の目標にすえる「経済人」を
「合理的な愚か者」と決めつけた。
シンパシー(他人への思いやり)とコミットメント(使命感)は、
自己利益追求に勝るとも劣らぬ人間の行動規範である、
とセンは言う。
他人への思いやりを欠く利己主義者は軽蔑の対象となること受け合いだ。
使命感を欠く人生はむなしいに決まっている。
企業もまた同じだ。
経済学の教科書は企業は利潤を最大化するべく行動するとしているが、
社会的責任とりわけ環境保全に配慮する企業への消費者の評価が高まるにつれ、
企業もまたシンパシーとコミットメントに重きを置くようになる。
もっともミルトン・フリードマンのように
「ビジネスにとっての社会的責任は、その利潤を最大化することである」
と説く経済学者もいるにはいる。
ジョン・ケイ『市場の真実』は次のように言う。
「今日のビジネスは強欲な者たちを惹きつけているわけではない」。
「金持ちのまま死ぬのは恥だ」という名言を吐いた
19世紀の鉄鋼王アンドリュー・カーネギーも
マイクロソフト社のビル・ゲイツも「ビジネスこそが第一の目的だ」と語っている。
金銭欲を満たすためにではなく、ビジネスそのものを楽しむためにビジネスをやるのだ。
事実、カーネギーもゲイツも、ビジネスを十分楽しんだのち、
巨額の私費を投じて財団を作り、大いなる社会貢献を果たした。
最近、強欲資本主義という言葉が流行しているが、
強欲はビジネスで成功するための必要条件でも十分条件でもない。
むしろ強欲一点張りの「合理的な愚か者」が、生き恥をかく事例に昨今事欠かない。
経済学者 佐和 隆光
日経夕刊 2009/04/15
― 明日への話題 ―より
