詐害行為取消請求事件(昭和3年(オ)第901号 同年11月8日第一民事部判決 棄却)
◎判示事項
消滅時効の援用
◎判決要旨
詐害行為の受益者は詐害せられたる債権の消滅時効を援用することを得ざるものとす
【参照】民法第145条 時効は当事者が之を援用するに非ざれば裁判所之に依て裁判を為すことを得ず
同法第124条 債権者は債務者が其債権者を害することを知りて為したる法律行為の取消を裁判所に請求することを得(える。)但し其行為に因りて利益を受けたる者又は転得者が其の行為又は転得の当時債権者を害すべき事実を知らざりし時は此(この)限(かぎり)に在らず
前項の規定は財産権を目的とせざる法律行為には之を適用せず
◎事実
被上告人(被控訴人、原告)の請求原因として主張する事実は訴外山本友吉は大正9年12月29日被上告会社ー宛て額面5,000円満期日大正10年2月10日なる約束手形を振出したるを以て被上告人は満期日に至り手形金を請求したるも友吉は内金433円15銭を支払いたるのみにして残額4,536円85銭を支払わず然るに(しかるに)同人は債権者たる被上告人を害することを知りながら第一、大正13年1月23日愛媛県越智郡九和村大字興和木字ヒガイタニ甲第165番地田1畝22歩外14筆の不動産を上告人(控訴人、被告)閑野ミツに売却し第二、大正11年1月26日同県同郡同村大字興和木字フロノモト甲第636番地宅地200坪外2筆の不動産を上告人八木信に売却し第三、大正13年2月18日同県同郡同村大字御厩字谷口甲第30番地畑21歩の不動産を上告人閑野要に売却し上告人等も又被上告人を害することを知りて之を買受け所有権取得の登記手続を為したり右売買当時においては友吉は右不動産の外財産を有せず破産の状態にありしものなれば被上告人は其の債権の弁済を受くること能わざるに至り仍て(よって)右売買の取消及売買に因る所有権移転登記の抹消を求むと言うに在りて之に対する上告人の答弁は上告人等が訴外山本友吉と被上告人主張の如き売買を為し其の登記手続を為したる事実は之を認むるも右売買当時友吉が他に資産を有せずして破産の状態にありしとの事実は知らず被上告人が友吉に対し被上告人主張の如き債権を有する事実は之を否認す。尤も(もっとも)友吉は大正9年末訴外閑野虎太郎の依頼に依り手形に署名したることあるも一ヶ月丈名前を貸し呉れとの依頼に依り署名したるに過ぎずして其の一ヶ月後は既に経過せるを以て手形上の責任なし。この事実は被上告人に於て之を知るものなり仮に友吉に手形上の義務ありとするも大正13年2月10日時効に因りて消滅せり。友吉が時効完成前債務の承認を為したる事実及び時効完成後時効の利益を放棄したりとの事実は否認す。上告人等は本訴不動産を買受くるに際し詐害の結果を生ずべきことを知らざりしものなり。仮に然らずとするも其の買入価格は当時の時価よりも相当高価にして且(かつ)友吉の債務整理の為買受たるものなるを以て詐欺行為とならずと言うに在り。
原院は上告人の抗弁を排斥し被上告人の主張事実を認容して之に勝訴の判決を言渡したり。
◎理由
(上告論旨第1点~第2点について省略。第1点は売買当時の時価より高額で買い取ったことで詐害行為とならないかどうかを判断、第2点は悪意の有無。)
上告諭旨第4点は上告人は原審において「債権は時効の完成により消滅するものにして当事者(債務者山本友吉)の時効援用を俟って(まって)始めて消滅するものに非ず」と主張し山本友吉の債務が大正13年2月10日三年の時効により消滅せる以上(中略)其の後の時効利益の放棄の有無に拘らず(中略)債権者たる被上告人は時効期間満了前の法律行為を取消す適格を有せず「仮に大正13年9月25日時効利益の放棄ありたるとするも再度の時効期間の満了(昭和2年9月25日)により本件債務は消滅し」孰れにしても(いずれにしても)被上告人は取消権者としての適格を有さざる旨を主張したるに対し原判決は「債務者たる山本友吉が時効を援用したる証拠なきのみならず」(中略)債務者友吉において時効期間経過後時効の利益を放棄したるものと解すべく第三者との関係において右債務が消滅すべきものと認め得べからざるを以て時効の点に関する控訴代理人の爾余(じよ)の抗弁は一々判断するを要せず該手形債権は現存するものとす」と判示せり。然るに「債権は時効期間の完成と共に当然消滅し当事者が時効を援用するを俟って始めて消滅するものに非ず」とは御院大正8年(オ)第172号判決の確定するところにして唯当事者が之を援用するに非ざれば裁判所は之により裁判を為し得ざるに過ぎざるものとす。従って被上告人と山本友吉との訴訟関係においては山本友吉が時効の抗弁を提出せざる以上裁判所は之により裁判するを得ざるも対世的関係においては援用を俟たずして(またずして)債務の消滅するは勿論なるものとす。果して然りとすれば被上告人の有する本件取消権は第一回の時効完成期において債権の消滅すると同時に消滅し被上告人は本件取消権者としての適格を有さず仮に大正13年3月10日の時効期間完成により本件取消権者としての適格を有さざるに至りたるものとす。仮に以上の理由により上告人の主張理由なしとするも「消滅時効を援用するに付(つき)法律上正当の理由を有するものは時効を援用し得るものなるを以て(法曹会決議大正6年)上告人が原審に於いて時効に依り被上告人の請求が失当なる旨を抗争する以上原審は時効の援用ありたるものとして裁判を為すべく且上告人に対する関係に於いては其の債権は消滅せるものと為すを相当とするものとす原判決は上告人の「取消権者として適格を有せず」との主張に対し単に「友吉の債務は尚現存するものとす」と判示し上告人等に対する関係に於いて取消権を有するや否やに付判断を為さざるを以て判決の主文に影響する重要なる争点に関する判断を脱漏したる違法あるか理由不備の違法あるものとす。仮に然らざるとするも時効に関する法則を誤解し適用したる違法あるものとすと言うに在り。
然れども民法第145条に所謂時効を援用し得べき当事者とは時効に因りて直接に利益を受くべき者を言うものにして間接に利益を受くべき者を包含せざるものとす(明治42年(オ)第379号 明治43年1月25日 大正8年(オ)第134号 同年6月19日当院判決参照)。債務者が債権者を詐害する違法行為を為したる場合においては其の相手方たる受益者は若し債権者の債権が消滅時効に因り消滅するときは其の債権者が詐害行為の取消権を失うの結果として受益者の取得したる権利の安固となるべき利益を得べきも其の利益たるや時効の直接の結果に非ざるを以て其の債務の消滅時効を援用し得べき当事者と言うことを得ざるものとす。原判決の認定したる事実に依れば上告人は債務者山本友吉の相手方として友吉の債権者を詐害する為本訴不動産の売買契約を締結したるものなれば被上告人の債権に付き消滅時効を援用し得べき当事者と言うことを得ざるものとす。故に原院が被上告人の債権は時効に罹りたる(かかりたる)も上告人の時効は其の効なきが故に債務者山本友吉に於いて時効を援用せざる以上は裁判所は時効に付き裁判することを得ざるを以て被上告人は依然債権者にして詐害行為の取消権を有する旨のを判示したるは不法に非ず。仍って上告論旨は理由なし。
(上告論旨第3点について省略。第3点は時効期間満了後の時効の利益放棄については効果意思を要するが本件にはこれを欠き債務の承認としては無効であるか否かを判断)
以上説明の如くなるを以て民事訴訟法第439条第1項に依り主文の如く判決す。
◎参照
(以下省略 第一審判決 第二審判決について記載)
(コメント)
判例を載せるだけでなくコメント付けたほうが後で見た時に良いかなと思いメモ。
詐害行為の受益者が時効を援用できるかどうか争った裁判。
旧字を改めただけではなくて句読点も入れたほうが良いかもしれません。ところどころ入れていますが、完全ではないです。「並」とか「且」とかは「並びに」や「且つ」としたほうが読みやすいですよね。
後で修正いれましょうかね。。。。気が向いたら(笑)