27年前の没プロット | ベニー松山Blog

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ほぼ跡地! ご無沙汰! ベニー松山です。

気がつけば時代は令和。昭和から書き始めた私も、仕事道具であるPCをもう何代も入れ替えてきたワケですが、時折とんでもなく古いファイルがHDDの深淵から発掘されることがあります。

 

 

平成四年のファイル。そう、これはこの年の12月に発売されるゲームボーイソフトWizardry外伝Ⅱ『古代皇帝の呪い』の、サウンドトラックCDに合わせた企画の草案でした。各BGMの合間にドラマパートを入れて、とある冒険者たちのアルマールでの出来事を描こうというもの。

 

しかし初回の打ち合わせに用意したこのプロットは、残念ながら企画の予算がまったく折り合わず没に。それ以来四半世紀ほど忘れられて、ただただ新しいPCに継承され続けていたのでした。

 

……見つけちゃったことだし、売り物になる段階でも時期でもないし、公開しちゃうか。このブログ、あまりにも更新してないですしね。今週末はコミケだというし、コピー誌を配布するような気持ちで。

 

では、お目を汚すばかりの、27年前に書いた没プロットを――。

 

 

Wizardry外伝Ⅱ "Curse of the Ancient Emperor" CDドラマ案


●キャラクター設定

・ティーゴ=パイアス

 本編の主人公。年の頃は三十、レベルにして11程度の人間族戦士。体力・精神力は人並み以上だが剣の腕前など実戦技能はさほどでもない。これは神への信仰に絶望し、高レベルの僧侶から戦士に転職したため。現在ではパイアス(Pious)と呼ばれるのを嫌っている。リルガミンから放浪の果て、アルマールに辿り着いた。


・アネィア

 ティーゴが酒場で出会うことになる十五才の人間族魔術師。父親に連れられて旅を続けている親子の冒険者で、数日前ハルギスの墓所迷宮で消息を絶った父を救出する仲間を探している。口調も外見も少年っぽいが、実は心優しい美少女である。


・デリン=ストーク

 アルマールで冒険者稼業に精を出すホビットの忍者。が、決まったパーティには参加せず、割りの良さそうな探索に助っ人として参加する半ば宝物荒らしのような真似をして日々を過ごしている。ティーゴとはリルガミン時代の知己で、過去の事情を知る数少ない人物。先祖伝来の“盗賊の短刀”で変身したため転職の経験はなし。危険には近づかない主義ながら、かつての縁でティーゴに同行することになる。


・シュレア

 ティーゴのかつての恋人。リルガミンでの冒険者時代に迷宮で命を落とし、ティーゴの蘇生失敗によって消滅する。現在でも彼女の記憶がトラウマとなってティーゴを苦しめ続けている。


・バロウス

 アネィアの父で名うての戦士。迷宮第三層でシャッターの罠にはまりアネィアと分断される。その後第四層に入り込み、死亡。かつて僧侶時代のティーゴを助けたことがある。



●プロット

・砂漠
 さらさらと崩れていく砂丘を、ティーゴが歩いてゆく。空は巨大な雲が渦を巻き、嵐の訪れを告げようとしている。吹きすさぶ風が弱まった瞬間、ティーゴの眼前に蜃気楼が如き都市アルマールの姿が出現する。

*オープニング~城塞都市

・ギルガメッシュの酒場
 かつて訪れたアルマールの荒廃ぶりに失望を隠せないティーゴ。酒場でデリンと再会しハルギスの呪いについての話を聞かされるが、世を呪い漫然と生き続ける彼にとっては他人を救う冒険などさして興味のあることではない。そこにアネィアが現れ、一緒に迷宮に入ってもらえないかと持ち掛けてくる。つれなく断るティーゴに、椅子を蹴立てて憤然と酒場をあとにするアネィア。酔いが回り、風に当たるつもりで帰路につくティーゴ。

*王宮1

・路地
 通りから横に逸れた路地から響く物騒な物音を耳にするティーゴ。興味なく通り過ぎようとするも、叫び声が先刻のアネィアのものと知り、しばし考えた末に路地に入り込んでいく。
 屈強の強盗たちに囲まれながらも必死に抵抗するアネィア。そこにゆらりとティーゴ現れ、止めろと口を挟む。しかし強盗・殺人が日常茶飯事に横行するアルマールではその程度で諦める犯罪者などいない。立ち回りとなり、リーダー格の男に浅手を負わされるティーゴ。が、笑みを浮かべてはったりを効かせ、呪文の詠唱らしきものを始める。強盗たちは畏れをなし、慌てて退散する。後ろから罵声を浴びせるアネィア。それが次第に涙声に変わり、ティーゴはようやくアネィアが少年ではないと気づく。

・回想

 十年余りも昔、まだ若かったティーゴは恋人シュレアとの旅路で魔物に襲われる。呪文が効かず、絶望的な肉弾戦を挑むティーゴ。死を覚悟したその時、バロウスが現れてふたりは九死に一生を得る。その時そばで泣き叫んでいたバロウズの幼い娘の名前は、確かにアネィアと言った。

*町外れ~ダンジョン1

・迷宮1層

 バロウスの捜索に駆り出され、ぐちるデリン。しかしティーゴに恩義を感じている手前、断れずについてきてしまっている。伝言板付近に書き付けられた情報をもとに、ある程度知識のあるデリンが対策を練る。と、モンスターが現れ、戦闘へ(アネィアの呪文はマハリトまで)。

*戦闘1~ダンジョン2

・迷宮2層~3層

 苦戦を強いられつつも、呪文を使おうとしないティーゴ(アネィアはまだ彼が呪文を使えるということを知らない。聞手もそう)。何か言いたげだが、ティーゴの事情を知るだけに口を噤むデリン。落し戸を抜け、エレベーターへ。3層に降り、シャッターを抜けつつデリンの案内で階段ルートで4層へ向かう一行。と、複数グループとの戦闘に突入。アネィアの呪文だけでは抗し切れず、ついにラニフォの呪文を使うティーゴ。

*戦闘2~ダンジョン3

・回想

 ダバルプスの呪い穴を探索中命を落としたシュレア。完全に迷ってしまい、仲間もほとんどが深手を負ったパーティでは、唯一マロールを使いうる魔術師である彼女を蘇生する方法が最も脱出しやすい。仲間の要請もあり、神を深く信仰するティーゴは自信をもってカドルトを唱える。が、失敗。直後再度の敵襲によってパーティはほぼ壊滅し、ティーゴだけが生きて地上に戻る。恋人のロスト――それは彼を打ちのめし、そして神への信仰を捨てさせた。もう僧侶呪文など頼るものか。全てを捨てたティーゴは、この事件以後戦士として流されるままに生き続けることとなる。

*ダンジョン4

・迷宮4層

 伝言板の情報から流砂を止め、ティーゴのカンディでバロウズのいるらしきエリアへと歩を進めるパーティ。当初呪文を使わなかったティーゴに対して不満を抱くアネィアであったが、その過去を知るにつれて彼の人生の苦痛を理解していく。もう一度神を信じることができないのか――そう訊ねるアネィアに悲しげに首を横に振るティーゴ。この探索も、破滅の末にシュレアのもとへ逝こうと放浪を続ける彼にとっては人生の清算のための寄り道にしか過ぎない。
 そして彼らはついにバロウズを発見する。毒に冒された末に絶命した屍――だが、その肉体のぬくもりはまだ蘇生が可能であることを意味している。半狂乱になってティーゴに蘇生を懇願するアネィア。しかしシュレアのロストの情景がちらつき、人生の転機となった忌まわしい蘇生呪文を使う決心がつけられない。
 その時デリンが注意を促す。砂の敷き詰められたその広間で、何かが動く物音が響く。恐らくは、屈強の戦士バロウズを屠ったであろうこの広間の守護者が。戦力は絶対的に足りない。バロウズが蘇り戦わぬ限り。

*戦闘3

 ティーゴは意識を集中し始める。条件はあのシュレアの時より遥かに悪い。信仰心は最低のレベルだろう。しかしやるしかないのだ。そのためにはこの一時だけでいい、理想に燃えたあの頃の火の如き信仰を取り戻せれば――。
 記憶が逆流する。シュレアの思い出。自分たちは神に愛されてきた。そしてそれは今も――それを自覚した瞬間、ティーゴの唇から自然にカドルトの詠唱が紡ぎだされた。
 砂の中を泳ぎ回る影が急速に接近する。噴き上がる砂の中から飛び出したのは二匹のサンドクラッド。そして空中に生まれた渦巻から実体化するジンニヤーの一群。蘇生の成否を確認する間もなく戦闘に突入するティーゴたち。デリンがサンドクラッドの首を奇跡的にはね、シュレアのコルツは辛うじてジンニヤーの唱えたマハリトを無効化する。炸裂するティーゴのマバリコ。しかしジンニヤーは全滅するも、残るサンドクラッドが凄まじい唸り声を上げてティーゴに襲いかかる。躱せない――死を覚悟したその瞬間、蘇ったバロウズの剛剣が迫り来るサンドクラッドの尻尾を切り落とす。蘇生は成功していたのだ。呪咀の叫びを漏らすサンドクラッドに、ティーゴ、デリンそしてバロウズの斬撃が叩き込まれる。勝利。

*王宮2

・アルマール

 街は未だに邪悪の影が漂う。が、今の一行はそれを打ち払うほどの満足感と清々しさに満ちていた。礼を交わすバロウズとティーゴ。蘇生の瞬間バロウズは美しい姿のままティーゴを守るように佇むシュレアの魂を見たと告げる。頷くティーゴ。彼もまたそれを感じ、そして彼女が消えたのを知っていた。再び神を信じられるようになったティーゴに、もはや彼女の守りは必要なかった。シュレアはようやく天に昇ったのだった。
 別れを告げるティーゴ。これからの旅は希望を見出す旅になるだろう。

*エンディング

 街道を進むティーゴを追う人影。アネィアがついてくる。これからは父ではなく、ティーゴとともに旅を続けたいと彼女は言う。戸惑うティーゴだったが、嬉しくもある。こうした気持ちが芽生えることすら、今までは避けてきたのだから……。
 戯れながら遠ざかるふたりの影。魂を救われた者の物語の終わり。

 

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お終いです。曲の入る位置が指定されているのが泣けますね!

 

お話の肝は、それまでのウィザードリィ関連の物語でやってこなかった、“ゲームシステム的に考えたら絶対にやらないクラスチェンジをする主人公”でした。なんで高レベル僧侶が戦士に転職するよ? というシチュエーションを、納得できる理由付けで描いたら面白いんじゃないかと。本当は高位の呪文が使えるのに、あえて使わないキャラクターってのもストーリーのフックになるし。と、まあ結構真剣に練って提出したんですがね、そういう企画じゃなかった……若僧張り切っちゃった……。

 

いつかCDドラマとは別の形で仕上げようと思っていたんですが、古川日出男が『砂の王』を――そして『アラビアの夜の種族』を書いてくれたのでもう、外伝2のお話を加える必要は無いなって満足しちゃったのです。なのでこの“物語の種”は、これにて真夏の空に昇っていくのであります。

 

ではまた次回! 超不定期ですがよろしく!