カナダのブリティッシュ・コロンビアからやって来た
という、デニー。彼は40歳前後の痩せた体躯で、目のぎらついて
いる男だった。ラゴスから40キロ離れた、小さな村の一軒家に
住んでいるという。出会いは、ラゴスの小さなバル(酒場)だった。

いつしかポルトガルに住もうと決めた彼は、(人間の動機と
いうものは、理屈だけではない)リスボンで、オランダ人のポール
と出会う。そして、ポールがかつて住んでいたという小さな村に
行くことになる。思いつきのように。
そこで、最初に出会ったポルトガル人の女性に尋ねた。
「この村に住みたいのだけど」
1時間後、やって来た彼女の夫が、ある一軒の家へとデニーを案内
した。そして、長い棒状の鍵を2つ渡して、こう言ったという。
「この家は、50年以上も誰も住んでいないが、ここに住んでみるか?」

いうまでもなく、デニーは今そこに住んでいる。
「時には寂しくもなるが、庭でなった蜜柑を並べる朝食や、
地元の人々との、かたことのポルトガル語での交流は、
それを凌ぐ恵みを与えてくれる」と彼は言う。
「まるで、おとぎ話のようだね」僕がそうささやくと、
一瞬照れながらも、デニーは、彼の手に収まりきらない、
大きな棒状の鍵を見つめていた。