しばらく楽しい時間を過ごしていると、
1台の車が音もなくやってくると、僕を見つけた
アフリカ系の男性が、車から降りて近づいてくる。
治安の良いといわれるリスボン。けれど、初めての
知らない場所で、真夜中だった。
薬のプッシャーか、お金を巻き上げにきたのか。
僕はより一層、ベナンのおばちゃんに寄り添った。
彼女の広い背中に、隠れるかのように。
ところが、彼女がその男性に向かって最初に発した言葉は
意外なものだった。
「100エスクードくれない?」
確かポルトガル語だったか、スペイン語だったかは忘れてしまった。
けれど、確かに彼女はそう言ったのだ。
この深夜に、彼女も初めて会う男性に対して。
その額は、地下鉄の運賃に相当するのだが、先ほど僕が、
「ポルトガルの通貨エスクードを持っていないので、
この近くの銀行が開店するのを待ってから市内へ移動する」
と言うと、「じゃあ私が、後で100エスクード物乞いしてあげるわよ」
とけらけら笑いながら言っていた。
あの会話を、こんな相手に実行していたのだった。