実は、彼女自身は手持ちの150エスクードのうち、
50エスクードは、ほかの乗客の一人に、
「電話代に使いなさい」と言ってあげていた。
彼女自身の地下鉄運賃の100エスクードは、確保していた。
2人のやりとりは続き、「二人も子供がいて私の帰りをまっているの」
とか、まったくこの、やってきた男には関係のない話をしていた。
すると、なんらかの交渉が成立したようだ。ようだというのは、
完璧にポルトガル語での会話になったので、まったく理解できなかった。
結果として、なんと、この男性の車をヒッチする形となった。
彼女の知ったところまで、乗せて行ってもらうことになった。
彼女は僕に、「早く乗れ」と言うが。
僕は、わけのわからないまま、かなりアドレナリンが体内を駆け巡る
のを感じていた。車内では、ドアの開閉ノブをつかんでいた。
いつでも飛び降りられるようにと。
彼女の家の近くまで、送ってくれた。しかも地下鉄駅の近くだった。
この男性は、最終的には、かなり良い人だった。
しかし、最初の目的はそうとは思えない。断固として。
安全だからと、幾人かバスを待っている停留所まで僕を導くと、
大きな背中を、まだ暗い路地に進めていった。
それにしても、彼女の最後の言葉は、またしても意外だった。
持っていた100エスクードを、地下鉄代にと僕に渡し、
「サンキュー!」そう言って微笑んだのだ。
それは、僕の方こそ言わなければならない言葉だったのだが。
僕は、ベナンという国にも行くことになりそうな気がした。