前回の続き
Y先輩はMさんの髪を引っ掴んだまま睨み付けています。
僕はあっけに取られてしまい動けません。
Mさんは「ごめんなさい…」と一言だけ言って口を閉ざしました。
その態度にY先輩は激高したのか、Mさんの頭を床に叩きつけ
横たわるMさんを蹴ったり踏みつけたりして痛めつけました。
「もう止めて」と懇願するMさんを容赦なくいたぶったのです。
痴話喧嘩の範疇はとうに超えていたのですが
業界に染まりつつあった僕は、Y先輩を止めにいく正義感のような感情より
それを当然のことと思わなきゃいけないという強迫観念に囚われてしまい
言われるがままに黙って見ていました。
それはとても長い時間のように感じましたが
実際はおそらく10分にも満たなかったでしょうか。
手を止めたY先輩は泣きじゃくるMさんにこう言いました。
「お前のことを一番に考えて言ってやってるんだ。俺の言うことだけ信じてればいいんだよ」
鬼のように振舞ったY先輩が一転、急に優しい口調になり
Mさんを抱きかかえ、犬や猫でも可愛がるかのように頭を撫で始めました。
Mさんは嗚咽をあげながら「Y!愛してる、愛してる…!!」と
顔をくしゃくしゃにしながらもY先輩を強く抱きしめていました。
そしてMさんの泣き啜る声だけが聞こえる中、しばらくこう着状態が続きました。
ようやくMさんが落ち着いてきたところでY先輩は
「じゃあ今すぐメイク直して、行ってきな。手続き終わったら連絡してね」
そう言うと、Mさんの腕をゆっくり解き僕の座るソファに戻ってきました。
「変なところ見せてゴメンなぁ」
Y先輩は微笑みながら煙草に火をつけたのでした。
メイクを直し終わったMさんがY先輩宅を出てから、
僕はことの詳細を知ることになりました。
…………………
MさんはAV嬢(兼ソープ嬢)です。
Y先輩はMさんの所属するプロダクションを辞めさせて
自分が繋がっている別のプロダクションに移籍させたい思惑があったのです。
『ウツる』というのはそのことを意味していました。
自分の懇意のプロダクションに移籍させることでY先輩の懐にはスカウトバックが毎月入ってきます。
Mさんの人気・知名度を鑑みて、当時の相場からいって額面にして毎月30~50万円くらいでしょう。
Y先輩はMさんを色カノにして支配下においてから事務所を移るようにじっくりと説得していたようです。
しかしMさんが移籍についてずっと二の足を踏んでいて
ついに業を煮やしたY先輩が強硬手段に出たのです。
…………………
数ヶ月後、Mさんは出演の決まっている作品を全て録り終えたようです。
Y先輩は滞りなく移籍の手続きを進めていきます。
修羅場はここからです。
続きます。