新型コロナウイルスのQ&A(改定) | 弁護士の労働問題解決講座 /神戸

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弁護士の萩田です。いつもありがとうございます。
新型コロナウイルスの労働問題について、改訂版を発行します。
他の機関誌に掲載した記事です。
 
1 労働者本人に感染症状がある場合
 
(1) 労働者本人が新型コロナウイルスに罹患したときは、法律上の「指定感染症」となったので、就業制限が行われる。会社も休業命令を出すはずである。
  その場合、一番問題となるのは、休業補償である。労働基準法26条では、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の場合には休業手当を支払わなければならないが、感染は通常、使用者の責任ではないので休業手当は支払われない。ただし、健康保険に加入している場合は、健康保険組合から傷病手当金が支払われる。専門的に説明すると、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12か月の平均の標準報酬日額の3分の2の金額が支給される。
  もちろん、有給休暇を取得する方法も考えられる(その場合は全額給与は支給される)が、取得日数の制限もあるので、お勧めするわけではない。
 
(2) 以上に対して、発熱があるけれども新型コロナウイルスかもしれないので自主的に休むときは、感染症法は適用されない。
  したがって、発熱があるから休むとした場合は、会社に病気休暇制度がなければ有給休暇を取得するほかない。その場合は、給与は全額補償される。
  年次有給休暇は労働者の権利であるため、制限日数以内であれば自由に取得できる。発熱症状がある以上は、会社が有休取得を拒否することはまずできない。
  なお、発熱などもないのに、単に怖いからというだけで有給休暇を取得できるかといえば、有給休暇は理由を問わず取得できるので、有給休暇取得は可能であるが、会社から時季変更を指定される可能性もある。
  会社が出社命令をだしても、それは無効である(有給休暇が優先する)。
 
(3) 微熱があるけれども新型コロナウイルスかもしれない状況で、自分は出勤したいし出勤できるのに、会社から休業命令が出された場合は、より複雑である。
  指定感染症に該当しないのに会社が休業命令を出すとすれば、法律上は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たるので、休業手当は支払われるべきである。
 
(4) なお、これらの休業手当や有給休暇などの法律上の制度は、正規労働者に限らず、アルバイト、パートタイマー、有期雇用契約者、派遣労働者にも適用される。外国人かどうかなどは全く関係ない。
  有給休暇について説明すると、有給休暇制度は、法律上、雇い入れの日から6か月経過していて、その期間の全労働日の8割以上出勤していることが要件である。日数は、就業年数などに応じて変動する。

2 家庭の問題
 
(1) 現在一番問題となっているのは、子どもの保育園・学校が臨時休園・休校になった場合であろう。
  子どもが臨時休校になった場合でも、子どもは病気でなければ看護休暇を取得することはできない。
  そうすると、有給休暇取得で対応するほかない。有給休暇を使い果たしてしまって休職すると場合は、労働者にはなんら補償はない。現在、厚労省は「臨時休業した小学校や特別支援学校、幼稚園、保育所、認定こども園などに通う子どもを世話するために従業員(正規・非正規を問わず)に有給の休暇(法定の年次有給休暇を除く)を取得させた会社に対し、休暇中に支払った賃金全額を助成(1日8,330円が上限)する予定です」と説明しているが、これは直接労働者に対して補償するものでなく、支給水準も不十分である。
 
(2) 同居家族が新型コロナウイルス感染症になった場合は、感染症法の直接の対象とならない。したがって、労働者に対して就業制限は課せられない。
  それでも、会社が休業命令を出した場合は、法律上は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たるので、休業手当は支払われるべきである。
  その反対に、会社が休業命令を出さないけれども労働者として休みたい場合のであれば、子の看護休暇を取得するか、有給休暇を取得することになるであろう。

3 会社内での発症と社内環境
 
(1) 会社内でコロナウイルス発症者が出た場合は、かなりパニックが予想される。
  ここでまず大事なのは、会社には安全配慮義務(労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮を行う義務)が存在する。したがって、会社は、社内でコロナウイルス発症者が出た場合は、職場環境を保たなければならない。
  労働者が休みたい場合は有給休暇取得で対応できるが、有給休暇取得を会社が認めないとか時季変更を求めてくるような場合は、会社が安全配慮義務違反に問われる可能性もある。この場合は、損害賠償責任も発生する。また、妊娠中などで感染不安が大きい場合は配置転換などを求めることもあり得るであろう。
 
(2) マスク着用を命じられた場合は、当然、会社の都合による命令であり、かつ安全配慮義務条も、マスク着用の費用は会社負担である。高騰するマスクを並んで購入するのも会社の業務である。

4 話題のテレワーク
 
(1) 新型コロナウイルスの感染防止のため、にわかに脚光を浴びたのが在宅でのテレワークである。今回の騒動で、想像以上にテレワークが拡大していたこと(助成金もある)を実感するとともに、テレワークに対応できていない会社では労働者が自宅の電話前でヒマしているなどといった冗談も聞かれる。
 
(2) 在宅テレワークの場合であっても、会社の指示による業務命令には変わりがない。したがって、在宅テレワークで残業を余儀なくされた場合は残業代の請求ができるし、もし仕事中にケガをした場合は労災補償の対象にもなる。
  そのかわり、命じられた場所で・命じられた時間は働かなければならないから、勝手に買い物に出かけたりすることは業務命令違反であり、場合によっても懲戒処分の対象になる。そもそも、在宅テレワークを命じるのは、感染予防のためであるから余計な外出は、当然、業務命令違反である。
 
5 解雇や退職募集
 
  コロナウイルス騒動が長く続く場合は、会社経営状況の悪化や倒産も考えられる。解雇や有期雇用労働者の雇止めがなされた場合は、いわゆる整理解雇の4要件に照らして、解雇等の必要性・回避努力の有無・選定の適正・労働者側との話し合いなどを勘案して、その有効性が判断される。
 退職勧奨があった場合でも、それに応じるかどうかは自由なので、その旨を伝えればよい。しつこい退職勧奨は、強要であり、違法無効となることもあり得る。
 
 
なお、政府・地方公共団体・各企業がそれぞれ対策を考えているようなので、日々かわるこれらの対策についてはそれぞれ確認していただきたい。