すすきの紫茶色の花穂が重くたれ、半分埋まった雪見竹呂が、どこか淋しげに見える。 「やはり、お化け屋敷だな」
とレザーの拘束衣のようなものを着せられ少々血が頭に登ってきた雅明は、減らず口をたたいた。
「そんなことをおっしゃるものではありません」
振り返って、深水がたしなめた。
「それとも、幽霊の正体見たり枯尾花、かい」
雅明は古風な川柳をよく知っている。
すすきの穂にも怯づ、心が落ち着かずわずかの事にも恐れるさま、からとった川柳である。
「静かに」
無駄口をたたく雅明を、深水は制止した。
昼でも暗い湿地帯のような奥庭は、枯葉がくさりすえたように匂いがする。
枯れた流れも、そう思うと、何故か佗しくなる。
レザーの三点セットの若い雅明と、もとの自然にかえりつつあるような、荒れた和風庭園の接点がどこにあるのか、よくわからない。
「あっ」
雅明が何かを見つけて、指を差した。
芙蓉の灌木の間に、黒い長い髪が風にそよいでいる。
厚く重なった樹木を通して差し込む、わずかな陽光の中に、白色五弁の芙蓉が、淡紅色に移りかわろうとしていた。
その淡紅色五弁の大きな花に飾られて、まっ白な女体が、雅明の前に浮かび上がった。
「出た」
と雅明が叫んだ。
「お化けが出た」
「おだまりなさい」
深水が雅明の指差す腕をつかん叱責した。
「美夏様です」
「えっ」
五弁の芙蓉の問に立っている美夏の、黒い長い髪は、顔の半分をかくし、美しい宝珠のような乳房をあらわにし、ふっくらした腰を包んで、足を覆っていた。
「足が無い」
雅明は、深水の制止もきかずに、また叫んだ。
「やはりお化けじゃないか」
美夏と知って、雅明は悪態をついている。
「噂は本当だったんだ」
「深水」
と芙蓉の精と化した美夏が、静かに口を開いた。
「雅明をだまらせなさい」
「はい、お嬢さま」
いきなり両手を背中にひねり上げられて、
「何をする」
雅明はもがいた。
「静かにしないからですよ」
執事の深水の馬鹿力に、雅明はすすきの根もとに組み伏せられた。
レザーキャミソールの背中につけられていた金の輪が、手枷になる。
レザーのストッキングブーツの足首についていた金の輪が、連結されて足枷になった。 やはり、叔母の美夏が、甥の雅明に送った品は、革の拘束衣であった。
「畜生、ほどけ」
湿った枯薬の上に倒され、せっかくの湯上りの肌に泥がつく。
「この、女お化けめ」
「おだまり」
美夏の鋭い叱責が飛んだ。
「深水、早く、猿ぐつわを」
「はい、お嬢さま」
空気穴のあいたボールの箝口具が、雅明の口に詰め込まれた。
「うう」
猿ぐつわを噛まされて、雅明は呻いた。
「不動石に立たせて」
長い黒髪だけをまとった全裸の美夏は、深水に命じる。
水の枯れた滝口の、不動石の上に雅明を立たせ、
「美少年がだいなしね」
美夏は、久し振りに会う、すっかり大人の肉体を持ってきた、甥の雅明を見つめた。
「う、うう」
雅明の呻きは、ボールの空気穴を通して、ひゅうひゅうと、風のように吹きぬける。
三段に落とした滝口の、石組に、雅明がよろけて背をもたれさせた。
もたれても、不安定な雅明の身体は、今にもくずれ落ちそうに見える。
「その松の枝に首を吊って」
石組の上に見事な枝振りを見せている松を指差して、美夏は云った。
雅明の首に金の細い鎖が巻きついて、松の枝にくくりつけられる。
「動くと首がしまるわよ」
美夏は涼しげに、残酷なことを云った。
「死んでしまっても知らないわ」
首に鎖を巻くことは危険すぎる。
危険な行為をしたのは、責めの一段階にすぎない。
雅明をあばれさせたくない意図的なものである。
「そのまま、おとなしくしていらっしゃい」
「う、うう」
口から唾液をあふれさせながら、雅明は呻く。顔から血の気が引いている。
叔母の家に預けられただけで、はじめからこんな残酷な責めにあうとは、雅明は考えてもいなかっただろう。
松の枝に、鎖で首吊り状態にされ、雅明は理解に苦しんでいる。
芙蓉のかげから、美夏が枯れた流れに下りる。
と、芙蓉の枝に、黒髪が巻きついて、美夏の顔があらわになった。
「あっ」
あわてて、美夏が顔を覆った。
雅明は息を詰めた。
一瞬だが、美夏のかくれていた顔半分を見てしまっていた。
叔母の美しい顔の半分に、火傷のあとのような、ひきつった、ただれた皮膚がある。 まっ白な宝珠のような乳房がふるえ、童女のようにすべすべした股間に、淡紅色の五弁の芙蓉が咲いている。
何事もなかったかのように、深水が黒髪を芙蓉の枝からほどく。
長い黒髪の衣装をつけ、五弁の芙蓉で無毛の秘肌を飾った全裸の美夏が、首も自由に動かすことの出来ない雅明の前に立った。
「よくお聞き、雅明」
涼しげな声で、美夏は云った。
「雅明を、美夏は、お父さまから頂いたの」
「-」
「雅明は吹雪の子ではないのよね」
雅明は首を振った。
「うっ」
首に巻きついた鎖がしまる。
「首を振ってはだめ」
笑いながら、美夏は苦しそうにもがく甥をたしなめる。
「お父さまの子か、それとも、お姉さまの愛人の子か、お姉さまにもわからないのよ」 美夏は、平気で、雅明を傷つける。
雅明が、出生の秘密を知らないわけでないことを、美夏は雅明の母、姉から数えられているのだろう。
「お姉さまの愛人」
といって、美夏はちらっと、執事の深水を見た。
深水の顔に変化はない。
「誰も知らないの」
ますます、雅明の本当の父が誰だかわからなくなる。
が、そんなことはどうでもいい。
誰だって、両親を、本当の父母だと信じているだけのことなのだから。
「お父さまから頂く条件はね……」
全裸の美夏の花唇に挿入された、淡紅色五弁の芙蓉に、しっとりと愛蜜があふれている。
「雅明を一生この屋敷から外に出さない」
「うう」
雅明が眼を見ひらいて、全裸の葵夏を見つめた。
驚愕と不安と恐怖が、一度に雅明を襲ったようであった。
「お父さまも、風吹も、家名の方が大切なのよね」
離婚してきた美夏も、あるいは同じことなのかもしれない。
離婚の原因は、顔の火傷のようにただれた痣にあるらしい。
結婚前、美夏は顔を整形している。
その美容整形が、逆に、美夏の顔を破壊してしまったのだろうか。
奥庭の離れに引き籠もった美夏は、自然にかえりつつある奥庭の、四季の花々の中に、全裸で立つようになった。
自然のままに、生まれたままの容姿を保てばよかった、悔恨の情が、花々の中に、美夏の黒髪と白い裸身を舞わせている。
それが、白い女体の幽霊の噂になった。
「雅明はお父さまからも、風吹の家からも追放されたの」
全裸の美夏が、雅明のレザービキニのファスナーを下ろした。
レザービキニで圧し潰されていた、大人に成長したものを、しなやかな指でほじくり出した。
「うう」
叔母の手の中で、雅明の露出したものが、みるみる膨張した。
「立派ね」
美夏の白い指が、雅明の黒い恥毛にからまった。
「毛もはえたのね」
雅明の顔に、羞恥と困惑が浮かんだ。
叔母に責められて、雅明は戸惑っている。
「固いわ」
美夏のやわらかい指が、雅明の硬直しきったものを、やわやわともみほぐす。
「う、うう」
首の鎖は限界にきている。
首を締められ、よけいに、雅明の下半身は膨張する。
「谷津子さん、もう、お毒味したのでしょう」
深水を振り返って、美夏が聞いた。
「はい、いや……」
深水の答は歯切れが悪い。
「いいのよ。谷津子さんに、雅明の下の病気を調べてもらったのだから」
美夏は、不純異性交遊で捕導された雅明を信じていなかったらしい。
谷津子のロと花唇で、雅明の病気を調べるとは、深水も気がっかなかった。
「雅明」
声をあらためて、美夏が云った。
「外に逃げないように、雅明の眉を剃るわよ」
「-」
「髪も剃るわ」
雅明の呻き声が絶えた。
絶望と恐怖が雅明の呻きを殺している。
「生えかけた恥毛は、あとのお楽しみにとっておくことにしましょうね」
雅明の恥毛をつまんで、美夏は、くすっと笑った。
眉と頭の毛を剃られた雅明は、叔母の美夏の捕らわれた稚児になる。
「このレザーファッション、お気に召しましたか」
急にやさしく云って、また、くすっと笑った。
「若い男の子には、とてもナイーブだとは思わないこと」
また声をあらためて、
「深水、雅明の眉を剃り落して」
ときびしく云った。
「うう」
これ以上首を振っては、鎖がしまりすぎる。
首をのばして、雅明は呻いた。
やめてくれ、はなしてくれ、許して、雅明の見ひらいた眼に、涙が浮かんでいる。
「かしこまりました」
深水は丁寧に美夏に会釈した。
眉を剃り落とすのを確認するかのような、頭の下げ方であった。
深水の手に鋭利な剃刀が握られている。
ボールの箝口具をはめられ、だらだらと唾液をあふれ続けている雅明の頬に、深水は剃刀をあてがった。
「動くと傷がつきますから、おとなしくしていて下さいよ」
深水は低い声で云った。
「いいですね、坊ちゃま」
「うっ、うう」
深水の手が、雅明の首を締めている金の細い鎖をなぞる。
レザービキニから霧出したままのものは、不思議なことに、膨張したまま脈打っていた。 恐怖と不安が、逃に、雅明の下半身を充血している。
剃刀が眉にあてがわれた。 雅明が目を閉じる。
濃い眉だが、あっさりと剃り落された。
雅明の膨張したものの先端から、透明な粘波が光り、糸を引いて、レザーブーツの間にたれ、足枷を濡らして止まった。
残った眉が、消える。
眉の無い顔は、奇妙な雰囲気をかもしだす。
「幽霊がまた一人、ふえたわね」
美夏は、楽しそうに笑った。
「眉が生えるまで、外に出られないわ」
深水が鋏を手にして、雅明の長髪を乱暴に短く刈り始めた。
枯れた流れの、滝口の不動石の上に、雅明の髪が、はらはらと散る。
観念したのか、雅明のロから、呻きも、唾液も消えた。
虎刈りの頭を、おかしそうに、美夏は眺めている。
若い男の、愛玩用動物を飼育する楽しみにひたっている。
短かくなった頭に、剃刀があてられる。 深水の手は早い。
慣れている。
美夏は元来無毛ではない。
もしかしたら、美夏の秘肌を剃毛しているのは、深水なのかもしれたい。
髪の無い雅明の頭は、けっこう形が良い。
傷が少しついたようだ。
「鼻も吊りましょうか」
髪を剃り終えた深水に、美夏が云った。
まだ、美少年の顔を破壊したいような口振りであった。
畜化をめざすためには、顔を責めた方がいいということか。
太い針金を鉤形に折り曲げた、鼻吊具が、丸坊主にされた、眉のない顔の、雅明の鼻孔をひっかけ、ぐぐっと上に吊り上げた。
ひたいで、箝口具のバソドに接続する。
針金が少し左右に開き、雅明の鼻孔が少し広がったため、針金の形を変えてせまくするやはり、鼻吊りは、鼻孔を上にまっすぐ伸ばさないと、美的ではない。
雅明の呻き声は、くぐもって聞こえない。
「マスクで顔を包んで」
美夏の責めは、なかなか止まらない。
鼻吊り、ボールの箝口具をされたささ、レザーの全頭式マスクが、雅明の頭からすっぽりかぶせられた。
眉のない、頭髪のない顔が、顔の無い男になる。
鼻の穴だけが開けられた、黒光りするレザーの全頭式式マスクをかぶされた雅明は、ようやく松の枝から、首輪の鎖をはずされた。
そのまま、よろよろと、不動石にくずれ落ちる。
「このままにしておきますか」
深水が美夏に聞いている。
「穴の中に入れましょう」
美夏の楽しそうな声が耳元でする。
レザービキニのファスナーが閉じられ、硬直したものが無理に押し込まれ、圧し潰された。
叔母の美夏は、まだ甥の下半身を襲って来ない。
滝口から築山へ、目かくしをされたまま、後手枷、足枷の雅明は、落葉を踏んでよたよたと歩く。
全裸の美夏が、黒髪をなびかせて、茶室のような小さな平屋に消えた。
その平屋を右に見て、深水は、目の見えない雅明の肩をつかみ、築山を下りる。
湿った空気が、深まって、道が途絶えたような気がしたときだ。
不意に、
「坐れ」
雅明は、肩を上から押さえられ、腰がくだけた。
ひやっとした石の冷たさが、レザービキニと、ストッキングブーツの間の肌に、鋭く感じて、雅明は首をすくめた。
叔母のいった、穴の中に入れられたらしいことが、鼻孔から吸い込まれる、湿気の強い匂いと冷気で察しられる。
耳をすますと、小さな流れが足もとでした。
庭の小さな流れが、穴の中に通っているらしい。
「しばらくの間、ここが、住まいだと思えばいい」
深水の声が遠のいていく。
「死にやしないから、安心して、寝ているんだな」
なにかしら、穴の入口を閉じるような気配がする。
それは気のせいかもしれないし、本当に密閉されたのかもしれない。
恐怖と不安に、冷気が重なって、雅明のレザーファッションで包まれた身体が、まるで、死人のように冷たくなった。
レザーの全頭式マスクで、暗黒の世界に閉じ込められた雅明の心理状熊はどうだったのだろう。
目隠しにより暗黒世界に入り、現実から遊離したことは、雅明の心理に、転換をあたえて当然だと思う。
現実遊離は、風吹家からの追放、叔母美夏への奴属を確定する、荒療治といえないこともない。
ただ、目隠しをされたまま、未知の穴倉に放置された不安と恐怖は、そう簡単には消えなかったのに違いない。
穴の中の雅明は、全頭式マスクの小さな鼻の穴から、湿ってすえたような地下の匂いをかぎ、耳をすませて、すぐ近くを流れる小さな水の音を聞いていた。
石棺に寝ているような冷気は、緊張を持続しているせいか、それほど寒くは感じなかった。
時間の経過は、暗黒の中では無感覚になる。
谷津子が迎えに来てくれたとき、雅明は、このような、奇妙な世界に入るとは、予想もしていなかったことだろう。
一瞬のうちに、雅明は、現実遊離を強いられ、叔母の美夏に飼育されることになった。
鼻吊りの針金の鉤が、無感覚になっていた。
箝口具をはめられた口は、からからであった。
唾液も渇ききっている。
水が飲みたいが、猿ぐつわと全頭式マスクで二重にロをふさがれていては、不可能であった。
水の流れが、ささやくように聞こえるのが、かえって苦痛になる。
美夏に飼育されることに、雅明の抵抗する気持は失われていた。
不鈍異性交遊もそうだったが、雅明には、なんとなく流れには乗るが、底には沈まないという性格がある。
美夏に飼育されても、流れに逆らわずに、身を委ねているのに違いない。
尿をこらえきれずに失禁してしまい、濡れたレザービキニが、ますます下半身を圧迫して、激痛さえ走る。
まだ未成年の雅明を、不能にするのではないかと疑うほど、小さいレザービキニの狭窄は激しさを増していた。
観念してしまうと、拘束された状況に、それなりに身を委ねている自分を発見するかもしれない。
苦痛や不安を忘れるためには、逆に、拘束された状態に陶酔すればいい。
檻禁された、雅明の、早い頭の転換であった。
誰にでも、被虐に甘んじる性格はある。
それが強度に表に現われ、遊びとして定着すると、被虐を甘受することによって、現実遊離をはかり、ストレスを解消する、という段取りになるのだろう。
渇きに空腹が加わって、雅明の苦痛が別のところから、新たに湧き上がった。
餓死はさせられまいという安心感がなければ、空腹には勝てない。
雅明は、簡単な朝食をとっただけだったのに気がついた。
食事は簡単な上、谷津子のロと花唇に、ニ度も若い精を放出しているのである。
その上、レザーの拘束衣を着せられ、眉と頭髪を剃られて、穴倉に檻禁されてしまった。雅明のエネルギーは、かなり消耗していたことだろう。
眠ってしまったのか、起きていたのか、暗黒の中で、しばしば、雅明は首をひねった。 自分でもよくわからないことがある。
夢を見たから、眠ったのだろうとも思う。
夢は、明かるい外を歩いているのと、水を飲んでいるのと、誰か、黒い影に追いかけられ、金縛りにあったように、全身硬直してしまったという、なんとなく、穴倉に檻禁されていることに原因があるものをみている。
濡れたレザービキニが気持悪い。
誰かが、雅明のストッキングブーツを脱がせている。
足枷ははずされたらしい。
人の気配に気がつかなかったのは、待ちくたびれて、死んだように眠ってしまったのだろう。
レザービキニが脱がされ、圧迫された下半身が解放され、下腹の激痛がうそのように去った。
が、股間に、重い鎖の感触が新たに加わった。
全頭式マスクが取られた。
「元気かね」
執事の深水が、雅明を覗き込んだ。
「顔色は悪くない」
雅明の鼻孔から、鼻吊具をはずす。
雅明の鼻をつまみ、もみほぐして、
「鼻血もでていない」
深水は医者みたいなことを云った。
ボールの箝口具がとられ、雅明のこわばった口が、痴呆のように開けられたまま、無言で深水を見上げていた。
「おとなしくしているのなら、手枷も取ってやる」
深水が雅明に念を押した。
雅明は黙ってうなずいた。
後手枷がはずされ、レザーキャミソールが脱がされて、雅明は全裸になった。
手枷をはめられた手首をもみ、頭に手をやって髪が切られているのを確め、思い出したように、剃られた眉のあとをさがした。
レザービキニにかわり、太い重い鎖が、十字帯のように股間にあてがわれ、腰から更に鎖が延びて、土中に埋められた杭にくくりつけられていた。
腰の鎖に、大きな錠前がぶら下がっている。
「鍵は、美夏様がお持ちになっている」
と深水が低い声で云った。
深水は立っているが、穴倉の天井にはとどいていない。
かなり深い洞窟のようにも思えるが、何か人工的な感じもしないわけではない。
「ここは、滝壺のあとだ」
と深水が説明した。
茶室のような小さな平屋が建てられている丘陵の片側が、断崖となって削られ、竜口となり、美しい滝の景観が広がっていたらしい。
地震のあと、水脈が途切れ、築山の竜口が変ったらしいが、その流れも、また、細くなっている。
枯れた滝の窪みを広げ、人工的に断崇の囲いを造り、深い洞窟を出現させたらしい。が、なんのために、わざわざ、こんな湿った穴倉を造ったのか、その理由がわからない。雅明の怪訝そうな顔に、
「今にわかるさ」
とはじめて、深水がにやりとした。
穴倉の明かりは、流れの、二つの出入口ということにたる。
人工的に造られてない、滝の窪のあたりは、じっとりと湿って、苔が生えている。
糸状の苔が地を這い、五ミりほどの軸を直立させ、披針の形の葉が二列に並んでいる。 その糸状の苔が、光線を反射してきらきら光っていた。
光り苔らしい。
「身体を洗ったらどうだ」
と清涼な流れを指差して、深水が云った。
失禁した下半身は洗っていない。
雅明が石床を這うように、細い流れににじり寄った。
股間の鎖がかなり重いようであった。
足から流れにすべった。
「冷たい」
雅明は思わず声を立てた。
細い流れだが、清水なのだろうか、冷たぐ肌を刺した。
雅明の下半身を洗うには、清く澄んで水位も充分であった。
深水がバスタオルを雅明に渡して、穴倉から出て行く。
「腹がへった」
雅明は、息を吹き返したかのように、深水の背中に叫んだ。
「餓死させるつもりか」
深水が雅明を振り返った。
「美夏様がお食事をくださる」
深水は、意味深長な含み笑いをした。
穴倉の入り口の戸が閉められる。
流れの出入り口からだけの陽光で、穴倉の中は暗い。
深水の顔を見て安心したのか、やけに空腹が感じられる。
飼育するといっても、鎖につながれて、暗い穴倉に閉じ込められてるとは、奴隷、いや囚人よりひどい。
それもバスタオル一枚の裸体のままである。
いくら若い健康な雅明でも、このままでは発熱してしまう。
レザーの拘束衣を取られてから、眼が冴えてもう眠れない。
光り苔のにぶい反射に、全裸の雅明は眼を凝らす。
穴倉の天井で足音がする。
と、天井にぽっかりと、矩形の穴があいた。
明かるい腸光が、矩形の穴の周囲に広がっている。
その明かりが薄暗くなった。
矩形の穴を、白い足がまたいでいる。
鎖につながれた雅明が腰を浮かした。
叔母の美夏に違いなかった。
白い足首に、まとわりつくように、長い黒髪が風に吹かれている。
美夏は何も云わない。
穴倉の中に全裸のまま閉じ込めた甥の雅明を、黙って見下している。
美夏が腰をかがめた。
美夏の、まっ白な弾むような丸いお尻が、矩形の穴にかぶさってくる。
童女のようにすべすべした股間に、淡紅色の五弁の芙蓉が咲いていた。
美夏の細い指が、白い肌をすべって、花唇に生けられた芙蓉をぬいた。
淡紅色の五弁の芙蓉が、はらはらと雅明の顔に散る。
童女のようにすべすべした秘肌が割れ、濃い愛蜜をたたえて蠢く花肉が、雅明の顔の上に開いていた。
雅明は中腰のまま顔を仰向けた。
と、花肉に埋まっていた花弁をはじくようにして、一条の白線が、美夏の花唇から落下した。
あたたかい雫が、雅明の顔にはね、呆然として開いているロにはねた。
美夏の、芙蓉を差し込んでいた花唇から、細い白線が弧を描いて降りそそいでくる。
雅明の喉がごくりと鳴った。
「お飲み、のどが渇いていたのでしょう」
頭上で、美夏の甘い声がした。
雅明の喉に、渇きがよみがえった。
雅明の顔に、玉虫色の飛沫が散り、雅明の口に、あたたかい琥珀の液体が踊った。
喉の奥がかっと熱く火照り、飲み下すたびに、胸が灼け爛れるような衝撃が走った。
美夏は、穴倉に閉じ込めた雅明の裸体に、あたたかい小水を注いでいた。
雅明は、閉じ込められた穴倉が、なんのために造られたのかを知った。
雅明は、何も知らずに、美夏の厠の下に放置されていたのであった。
目も鼻も、落下する琥珀の液体に叩かれ、視界がぼやけ、鼻孔に侵入して激しくむせた。
美夏は、雅明の渇きを、小水で補おうとしていた。
雅明は、全身に、美夏のあたたかい小水の洗礼を受け、茫然自失したまま、ただ、ロを大きく開けて、一滴でも多く慈雨の恵みを受けようと必死だった。
雫が、ほとほとと、花弁を伝わってしたたった。
矩形の穴に、埋まるようにかぶさっている美夏のまっ白なお尻の谷間に、ロを固く閉じていたアヌスが、淡紅色の菊蕾を押し開くように盛り上りを見せ始めた。
花肉に愛蜜をためた花唇から、美夏の馥郁たる芳香が、雅明の頭上に甘露のように舞い落ちた。
美夏の花唇から、男を誘う濃い甘美な匂いがたちこめていた。
芙夏が、腰をくねらせた。
ロをすぽめて、蕾のように盛り上がったアヌスがはじけ、黄金の秘宝がゆっくりと顔を出し、そのまま止まった。
雅明は息を止めて、美夏の秘められた菊襞の蠢きを見守っていた。
美夏のアヌスから顔を出した黄金の秘宝はふっくらとふくらんで、ゆっくりと雅明の口に落ちた。
柔らかい黄金の秘宝が、ねっとりとすべって、雅明のロの中で、甘く溶けた。
噛みしめるまでもなく、ごくりと、雅明は呑み込んだ。
また一つ、美夏の淡紅色のアヌスは、やや大きめの黄金の秘宝を生み出していた。「おたべ」
と美夏の甘い声が頭上でした。
「おなかがすいたでしょう」
美夏の肉をふるわせている丸いお尻に顔を近づけ、菊襞をはじいて、今にも落下しそうな黄金の秘宝の下に、大きく口を開いた。
雅明の下半身は充血し、重い鎖の十字帯を押しのけるようにして隆々と勃起していた。 美夏さまがお食事を下さる、と云った深水の言葉を、雅明は理解した。
美夏の厚く盛り上ったアヌスがはじけ、ほかほかとあたたかい、マシュマロのようにやわらかな、黄金の秘宝が、雅明のロに吸い込まれた。
雅明の顔に霞がたち、酔い痴れたように頭が空になり、ロの中で甘く溶ける美夏の生み出した黄金の秘宝を、いつまでも甘受していた。
また一つ美夏は、厠の床下に閉じ込めた全裸の雅明の顔に、真っ白な豊かなお尻をふるわせて、もっこりしたあたたかい黄金の秘宝を落下する。
穴倉の天井の矩形の穴が閉じられ、闇と静寂が、鎖につながれた全裸の雅明を支配した。
「おいしかったかしら。これから毎日あげるから、楽しみにしているのよ」
雅明は口の中に貯まった柔らかな黄金を愛おしむように舌で弄び、飲み込んでいった。飲み込んでいる間は声が出ず、美夏に声をかけることもできなかったが、美夏の生み出したものをすべて胃に収めるとえもいわれぬ達成感に包まれた。
「おいしかったです」とでもいえば良かったのかもしれないが、ひねくれてしまった自分には天邪鬼がお似合いと故意に美夏を苛立たせてみたくなった。
「絶対ここから逃げ出してやる。覚悟しておけ」
矩形の明かり取りから腰を上げかけた美夏は思いもかけない反逆にふっと息を吐くと再び腰を下ろして、厠の床下は暗くなり、暫しの静寂が雅明と美夏の無言のやりとりをより先鋭化し、美夏の美しい曲線を描く殿部がよりぐっと降りてきて、圧迫感を与えていた。
「そうやって私を楽しませてくれるのね」
ずっと低く抑えた、モノトーンな声で短く命令をつげるだけだった美夏が嬉々とした、天真爛漫な女性の一面をのぞかせたみたいで、雅明はこの態勢で交流するのも悪くないと思い始めていた。
「早く出してくれ」
また、心の中で芽生えた感情とは裏腹の言葉が飛び出していく。
「本当にそこから出たいの」
美夏にはすべて読まれている。そう思うと少し背中が寒くなり、自分の臀下の細かい息づかいも心模様まですべて見透かしていて、完全に管理下に起きていることの余裕が感じられ、口ですべて受け止めて、胃に収めた自分が既に心まで虜にされていることに驚いていた。
しばらくの間、美夏の美臀に向かって話しかける状態が続いていたが、美夏は紙で尻を拭うとすっと腰を上げ、それを雅明の顔にそっと落とすと蓋を閉めて立ち去っていった。真っ暗闇に目が慣れてくると筒というよりは小部屋に近い岩に囲まれた空間に気づいた。
そこには水の流れがあって、寝ることはできないが、少し奥まで行くと乾いた岩肌が出ていて、仮眠くらいならとれそうで、なんともめまぐるしい、驚きの連続の一日を振り返りながら、天を仰いだ。
どれくらい休んだだろうか、寒くはないが、硬い岩肌のベッドでは肩や腰が痛くて、目が覚めた。
本当にこのままここで生活することになるのか、食事くらいは出されるのか、誰かが探しに来たら、このまま生き埋めにされて、便器を取り外して床を張ってしまえば、誰もそこを厠とは思わず、気づいてももらえないのか、など考えれば不安は募る一方であった。
不意に光が差して、矩形の明かりに本当は逃げたいはずなのに外界との唯一の交流の窓口に思え、立ち上がって、真下から見上げてみた。
美夏は横から見下ろしていて、長い髪を背に回すとさらにじっくりと観察しているような目線を落とし、雅明は助けを求めるわけでもなく、現状を受け止めているわけでもなく、ただ美夏と無言のやりとりをしていた。
「よく眠れたかしら。だんだん慣れてくるから心配いらないわよ」
何の根拠もない、慰めにもならない、監禁している張本人からそんなことを言われても、説得力も何もあったものではないが、それでも人の声が聞こえることはなんだかありがたかった。
美夏はこれまで幾人の男を床下に閉じ込めて、使用してきたか振り返ってみたが、いずれも記憶は薄く、言葉のやりとりなどした記憶は無く、矩形の穴から下を見ることもほとんど無かったことを思い出していた。
「いつも不思議なのよ。人がいるわけでもないのについお手洗の底に向かって語りかけてしまうわ」
「出してくれ」言うならそのときだったが、雅明の口は飽くことなく、ただ矩形の明かり取りを見上げていた。
美夏はすっとそこを跨ぐと普通なら一連の流れで使用するのに立ったまま、床下を覗こうか、やめておこうか逡巡し、雅明は両足の付け根の部分暗がりをあたかも自分の運命を見つめるように凝視していた。
「おばさんはどうしていつもまっぱなんだ」
これからゆっくり雅明に用を足すまでの儀式を楽しもうと思っていた美夏は頭に血が上り、便器に足を入れて、雅明の顔を踏みつけるようにしてみせた。
雅明は美夏のけりを避けると
お尻が徐々に降りて、迫ってくると厠の床下の置かれた哀れな男は股間が充血して、息を荒くして、それを感じ取った美夏はそのまま尻を据えて、雅明を弄ぶ企てに思考を巡らしていた。
さらに臀下から息づかいが激しくなるのを感じ、観察したい欲求を殺して、目を閉じたまま若い男の生理現象を想像していた。
うっというひしゃげた短い声が聞こえると激しい息づかいも収まり、美夏はふと矩形の明かり窓から見下ろしてみると雅明が上を向いたまま呆けたような満たされた薄笑いを浮かべていた。
「奥の方に石が転がっているから、それを持ってきて、積み上げてごらん」
雅明は暗がりの方に進んで、動く石を探していた。
転がしながら明かり窓の下に積んでみたが、その意図が読めずに途中で見上げては美夏の指示を待つようにしていると
「それくらいでいいわね。その上に立ってご覧なさい」
上を見ると顔面が丁度矩形の明かり窓と同じ高さになり、背伸びするとそこから床の上の様子を少しだけ垣間見ることができた。
雅明は便器の落とし穴から顔を出して周囲を眺めてみる、そんな希有な体験に自身のこれまでの悪行、悪態を重ね合わせると自ずと哀れな我が身に返って居心地の良さを感じていた。
ふと天井を見ようと首を上向けると美夏が冷たい微笑を讃えながら、じっと見下ろしていた。二人は無言のまま、見つめ合った。
それからすっと美夏はしゃがみ込むと雅明の顔面は美夏の尻まで10センチも離れず、忘れかけていた人肌の温もりを思い出していた。
美夏もまた大きく開いた臀裂の奥深くに若い男性の熱い吐息を感じた。
「おまえが入ってところは便槽ではないのよ。おまえ自体が便器なのよ。よく覚えておきなさい。」
「どういうことだ」
「あら、わからないの。すべてを受け止めなさい。絶対こぼしちゃだめ。こぼしたら,このまま埋めてしまうわよ。」
美夏は一旦腰を挙げ、再び位置を調整して真っ白な尻を据え直すとそれに合わせて、雅明も受け止めようと位置決めしているのを感じた。
次の瞬間ほぼ真下に向かって、1本の整った水流が飛び出し、雅明はすべての神経を集中して,受け止めていった。
「あら、少しこぼしたわね。」
雅明はこんな怖い形相の美夏をみたのは初めてで、本当に命の危機を感じ始めていた。
美夏はそれ以上言葉を発することなく、さっきより少し後ろに構え直した。
お手洗の下の事など十分な距離があれば、意識することもないのになぜか足場を作らせてしまう。
完璧なただの人間便秘か、息づかいも感情も表出する人間便器が欲しいのか美夏の中で揺れていたことを雅明は知らない。
美夏の息みが聞こえると雅明はそれが最後のチャンスとすべてを受け止める覚悟を決めた。
美夏のアヌスが口を少しだけ開け、黄金が顔を出し、揺れながら伸び、その重さに負けてちぎれ落ちると雅明の口にすっぽり落とし込まれ、それは次々とほぼ同じ速度で生み出され、嚥下に四苦八苦しながらもすべてを飲み込んでいった。
美夏は雅明を見下ろしながら、
「あら、なんだかどや顔みたいだけど、さっきこぼしたし、後のもゆっくり出してやったのよ。そんなの便器っていえるかしら。もういいわ」
前の茂みとアヌスを拭ったペーパーを投げ落とすと即座に蓋を閉められ、立ち去る美夏の気配を感じた。
もし、雅明がこのまま餓死したら、雅明の胃袋の中に、美貌の叔母の、美夏が生み出した黄金の秘宝が残ることになる。
光り苔が一段と美しく煌いた。 (了)