黄金幽谷
芳野眉美作
煌めくような白い裸身と、波のようにうねる長い黒髪の幽霊が出るという噂を聞いたが真偽のほどはわからない。
噂の出所は、神藤家の広大な屋敷にも原因があるかもしれない。
うっそうたる森林のような常緑樹に囲まれた神藤家は、外からでは中に屋敷があるのかどうかもわからない。
大通りに面して、車の往来も激しいのだが厚く重なった常緑樹に吸い込まれてしまうのか、そこだけが取り残されたように静寂であつた。
幽霊の噂が出たのは、神藤家の末娘の美夏が、離婚して戻って来た頃からである。
石塀を乗り込えて覗きに来る男もいて、長く続く石塀の頭に、竹の忍び返しが設けられた。
逆にいうと、この忍び返しの竹柵が、白い女体の幽霊の証拠になってしまったのだから噂というものはおそろしい。
寺院の楼門のような、神藤家の総門は、閉じられたまま、苔が生えている。
当主の神藤老人は、ほとんど伊豆の別荘に居て、あまりこの屋敷には顔を見せない。
美夏の母は、美夏を生んでから、離別している。
神藤老人に、妻妾が何人いたのか、よくわからない。
政商といわれているが、マスコミの表面に現われたことはない。
風吹雅明が、神藤家に預けられたのは高校一年の夏休みも終り11の頃である。 雅明の母は、神藤家の長女で、末娘の美夏とは、異母姉妹にたる。
祖母は違っても、美夏と雅明は、叔母甥の関係ということになる。
中学時代から、雅明は劣等生であった。
勉強が好きになれたい反面、いわゆる不純異性交遊が大好きで、シンナー、暴走族の仲間の輪が広がり、若いタレントとも付き合いがあったようで、警察に補導され、やっと裏口入学した高校も無期停学処分になり、神藤家に預けられたのである。
いや、預けられたというより、風吹家から追放されたといってもいい。
風吹家の当主が、大学教授であり、文学部部長でもあり、次期総長候補ということもあって、風吹家の体面が重視されたわけであった。
が、理由はもう一つある。
これは、雅男が不純異性交遊に走った動機と一致する。
雅明は月足らずで生まれている。
結婚式をあげ、初夜を迎え、月足らずで男子出生という図式なのだが、風吹家の当主は、疑問を持つたらしい。
雅明の父が、神藤老人だという疑惑である。
雅明の母は、長女ということもあり、父の神藤老人に溺愛され、婚期を逸してしまっている。
これも晩婚の風吹教授といっしょになったのは、持参金めあてだといわれている。
神藤家の金で、風吹教授は、文学部長を買うことが出来たというのである。
そして、次は、大学総長であった。
風吹教授は、すでに妊娠していた、雅明の母をもらったことになる。
それが事実だとすると、雅明は、神藤老人の孫であり、実子でもある。
美夏とは、甥であり、弟にもなる。
血液型では、どちらも父にあてはまる。
したがって、雅明の父はどちらともいえない。
本当の月足らずであれば、風吹の子だし、そうでなければ、神藤老人の子である。
雅明の母も、よくわからないのかもしれない。
とにかく、雅明は、風吹教授の長男として届けられている。
三年たって、雅明の弟が生まれ、風吹教授の溺愛は、弟中心になる。
劣等生であっても、雅明は、本来頭は良いのである。
出生の秘密を理由にして、勉強より面白い不純異性交遊に走ってしまったようなところがある。
生まれつき、深刻になれないというのか、妙に醍めていて、反抗しているつもりはないのだが、いつのまにか劣等生の烙印をおされていたといった方がいいかもしれない。 金をばらまいて、猟官運動をしている父を内心嘲笑っていたようにも見える。
不純異性交遊に眉をひそめ、雑誌のヌードでさえ、いやらしいと捨ててしまう母が、夫に内諸で、年下の男とラブホテルに行くのを知って、雅明は内心嘲笑したかもしれない。
タレントと付き合い、有名になって捨てられ、ベッドでもつれ合っている写真を公開して、暴力団に追われ、自殺するような、派手なシーンが来る前に、雅明は、都会の孤島、お化け屋致ともいわれる、本家の神藤家に追放されてしまった。
追放された日、雅明の母は不在であった。
ホストクラブから呼び出し電話があり、いそいそとでかけたことは知っている。
今頃、ラブホテルで、中年になって、ますます肥満してきた、白い肉の塊りを、ダブルベッドでさらけ出しているのに違いない。
父の風吹教授は、私設秘書の若い女と、講演旅行中であった。
講演旅行は表のことで、秘書の若い女と、どこかの温泉にしけこんでいるのだろう。 見送ってくれた分は、弟の中学一年生で、うらやましそうに、「ぼくは東大受験で遊べないからつまらない」と手を振った。
雅明は、弟に、はじめて明かるい微笑を見せた。
風吹家を継ぐのは、弟に決まったようなものである。
停学が解かれても、雅明は、もう高校に行く気はなかった。
早くから童貞を失なってしまって、ますます白けてしまったのかもしれない。
少年院より、お化け屋敷の方が、まだ自由があると判断したのだろう。
ハイヤーで迎えに来てくれた谷津子は、神前家の執事の深水の妻である。
バックボタンのブラウスにスカートなのだが、小作りにしては、胸も重たげにふくらみ、尻もむっくりと盛り上って、ボタンが飛びそうな、はちきれそうな肉体であった。
ブラジャーをつけていないのか、陽光のかげんで、薄いブラウスに、丼のような乳房が透けていた。
頬の白いベールと、白い手袋は、もしかしたら、美夏のお下がりかもしれない。
部厚い底のハイヒールを履いているから、むっくりふくれた尻が、よけいにぶりぶりと腰を振って歩くことになる。
三十をかなり越えていると思うが、齢よりは若く見えた。
ハイヤーの中で、谷津子の無遠態な手が、雅明のGパンの内股のあたりに置かれていた。
初対面なのだが、そんな気はしない。
赤ん坊の頃、雅明は谷津子に抱かれたことがあるのかもしれない。
雅明の年頃は、年上の女に弱い。
人妻となるとよけいだろう。
谷津子のふっくらとした手が、雅明のGパソの固い盛り上がりをつかんだ。
ハイヤーの初老の運転手は、客に関心がないように装っていろ。
「坊っちゃま」
と谷津子は雅明にささやいた。
「もう女をご存知なんですってね」
ご存知という年頃ではないだろうが、不純艮住交遊ともなると、乱交まで経験していることになるから、年頃にしては進んでいるといえないこともない。
谷津子が妙に機嫌が良いのは、雅明の養育係をいいつけられたことに関係があるのだろうか。
養育係という範囲がどこまで許されているのか、谷津子の手がうれしそうに、雅明の固い盛り上がりをつかんでいるのを見ると、妙な予感がしてくる。
雅明は、谷津子の無作法な手をはらいのけるわけでもなく、谷津子のやわらかい手の中で、ますます固く膨張させていた。
この年頃は特に強い。
鼻血や夢精に悩まされなくなれば、かえって、雅明は幸福かも知れない。
Gパンの上から、やわやわと手をもみほぐすだけで、それ以上は進まなかった。
お楽しみはあとで、という谷津子のうれしそうな顔であった。
寺院の楼門のような、神藤宗の総門の前で12は止まらず、長く続く石塀をぐるりと廻り、勝手口でようやくハイヤーは止まった。
勝手口といっても、屋根つきの重厚な門であった。
門の中で、雅明は、お手伝いの多恵に挨拶されている。
谷津子と違って、痩せぎすの、少女々々した女であった。
年頃は、雅明と同じ頃かもしれない。
血の気のない、青白い顔は、お化け屋敷によく似合う。
森林のような常緑樹に囲まれた庭の小道は、夏の終りを思わせるように、蜩がかなかなと喧しい。
雨が多かったせいか、厚く重なった樹木にさえぎられて、あまり陽光が差さないせいか、庭全体がたんとなく湿地帯のように感じられた。
雅明は、黙々と、谷津子のあとから、裏庭の、苔の下路を歩いた。
古風な西洋館が、樹木の谷間に現われる。
玄関の二階のバルコニーを、紅色の花もたわわに、百日紅が囲んでいる。
洋風な角形の池に、ライオンの水口をつけた壁泉がある。
池に黄金の鯉がはねた。
池のほとりのパーゴラにつけられた、菱組りトレリス(透し垣)に、通草のつるが巻きついている。
実は、長楕円形で、熟すと縦に割れ、悩ましいほど女によく似ている。
花は紅紫色、果実はぽってりと甘い。
その奥に、薔薇のアーチが見える。
本庭の奥を区画する出入口になる。
アーチの奥一帯の庭がい白い女体の幽霊が出没するという噂が立ったところである。 洋館には入らず、その隣りに、門番のように建てられている、平屋の小洋館に雅明は案内された。
執事の深水の顔に見覚えがあった。
神藤家と風吹家の間の連絡役で、母の居間でよく見掛けた顔である。
プロレスラーのように、筋肉の盛り上った部厚い胸に、雅明の母もふらふらと倒れてしまったことがあるかもしれない。
浅黒い顔は、鬼瓦のようにも見えるが、雅明にとって、執事の深水は、所詮使用人で、それほどこわい男だとは思っていない。
神藤老人の不在の留守番役と、出戻りの美夏の守役として、重要な仕事をしているわけであった。
屈強な中年男といえた。
小洋館に入ると、すぐ、雅明は浴室に導かれた。
「汗を流して下さい、坊っちゃま」
「まだ早いな」
午後の陽光はまだ明かるい。
「お風呂に、早いも遅いもありせんわ」
と谷津子が云った。
「幽霊に会うのがさ」
雅明はにやりとした。
雅明も、幽霊の話は知っていたのである。
神藤家とつながりのある雅明にしてみれば、幽霊に該当する女は、出戻りの叔母しかいない。
女主人である叔母の美夏に会う前に、さっぱりと沫浴させられるのだろうから、雅明はふとロに出してみたのである。
「幽霊だなんて」
谷津子が雅明を軽く打つ真似をした。
「いやな坊っちゃま」
「だって、出るんだろう」
「でるって」
谷津子は楽しそうに笑っている。
「お化けがさ」
「まさか」
「噂だぜ」
「そうですか」
谷津子の手が、雅明のGパンにかかった。
「さ、お脱ぎになって」
谷津子が、幽霊の噂を知らないわけはなかった。
「あら、むけていますわね」
Gパンといっしょにブリーフも取られて、ぴんと張り詰めた雅明のものが、谷津子の眼の前にそそり立った。
無造作に張り詰めたものを握られ、むけている先端をしげしげと見つめられて、
「よせよ」
雅明は真っ赤になった。
若いせいか、綺麗にしても、恥垢が白い雪の結晶のように、張り詰めたものに浮いている。
「この匂い好き」
谷津子の顔が輝いて、雅明は腰を抱かれて引き寄せられた。
谷津子のぽってりした赤い唇が、睡液をあふれさせながら、白い雪の結品を浮かせている雅明の露出したものを、あっという間に含んだ。
「この味、大好き」
むけた先端に膜を張る、透明な粘液と共に、谷津子は、雅明の恥垢を舌で舐めてしまっていた。
「おいしい」
もぐもぐと舌と唇でもみほぐされ、雅明の露出されたものが、ぐぐっと、谷淳子のロの中で膨張する。
「はなして」
あわてて雅明が谷津子の肩をつかんだ。
「いや」
谷津子の笑顔は消えない。
雅明の養育係としては、雅明を独占してもかまわないのかもしれない。
「だって!」
雅明は困ったような顔をした。
「オシッコが出そうだよ」
「オシッコではないでしょう」
笑いながら谷津子は、舌と唇でますます膨張してくる雅明のものをもみほぐした。
「してしまう」
「してもいいのよ」
もし早い歳に男の子を生んでぃれば、谷津子と雅明は、母子の関係の歳の差といってぃぃ。
乱交まで知っているといっても、雅明は支13の子供なのである。
谷津子にいいようにあしらわれている。
白い女体の幽霊だと思われる、叔母の美夏のことを忘れそうであった。
「飲ませて」
谷津子は頬をへこませながら云った。
強く吸っている。
「坊っちゃまの、若くて力強いものを飲ませて」
鬼瓦のような、谷津子の夫の深水が、のっそりと顔を出し、雅明は全身を硬直させた。 その瞬間、雅明の下半身が噴火した。
「あっ」
「うっ」
夫にうしろから覗かれているのに気がついていないのか、谷津子は眉をひそめて呻いた。
雅明の腰が前に突き出され、下半身がひくひくと脈打った。
「ううっ」
谷津子の太い喉が、ごくりと鳴り、白い濃い粘液が、じわじわと、谷津子のぽってりした赤い唇からあふれ出た。
鬼瓦の浅黒い顔が、にやりとした。
そのままくるりと背中を向けた。
妻の不貞の行為に、何も云わない。
いや、深水夫妻の間に、不貞という言葉は無いのかもしれない。
「ああ、おいしかった」
赤い唇からあふれた雅明のねっとりした白い粘液を、舌でゆっくりと拭うと、
「これからも飲ませてもらうわね」
既得権でも得たように断言した。
雅明の妙な予感は的中しつつあった。
谷津子も、パックボタンのブラウスとスカートを脱いでいる。
ビーチのキャミソールは、乳牛のようにふくらんだ重たげな乳房で、今にも破けそうに 見える。
ビーチのビキニショーツは、濡れた花唇にめり込み、黒い濃い恥毛が派手にはみだしている。
尻朶から押し出されたビキニは、もっこりしたお尻の谷間に押し込まれ、背中から見たら穿いているようには見えない。
キャミソールとビキニショーツを丸め、全裸の谷津子が、当然のような顔で浴室に入った。
「洗ってあげましょう、坊っちゃま」
若い精の吸引者は、まるで愛玩動物を得たように、満面微笑を浮かべて、バスタブに沈んでいる雅明に、親しみをこめて湯をかけた。
「あら、まだ立っている」
湯の底から、雅明の黒い恥毛が、谷津子ほどではないが、黒い藻のようにゆらぎ、萎えることを知らない、若い雄々しいものが、湯の中を下から突き上げていく。
「上の毒見はしたから、ついでに、下の毒味もしようかしら」
小作りにしては、肉感的な、谷津子の裸体がバスタブに入り、あわてて雅明は立ち上った。
湯が勢いよくあふれた。
「逃げなくてもいいでしょう」
パスタブの縁をつかみ、肉付きの良い、むっちりしたお尻を雅明に向け、
「うしろから入れて」
とにっこりした。
谷津子のまろやかな背中から、湯がはじけて、雫が露となって転がった。
ルノアールの裸婦のような、豊満な白い肉体に、雅明が興奮しないといったらうそになる。
「ね、入れて」
谷津子のふっくらした指が、厚く重なった花弁を開き、肉襞の中から湯をあふれさせた。 そのまま、谷津子の突き出したお尻に進めば、雅明の萎えないままのものは、すっぽりと花唇に吸い込まれてしまいそうであった。 ただ、動けばいいのである。
「早く」
人妻の甘い声には弱い。
雅明は硬直したものの先端を、うしろから 谷津子の湯に濡れる花唇にあてがった。 「あっ」
食虫花のように花弁が雅明の硬直したもの にからみつき、湯をはじいて肉襞に引き摺り込んだ。
谷津子の肉襞が、まるで磯巾着のように、 紅色の触手を熱く蠢かして、雅明の埋没したものをじわじわと締めつけろ。
尻を向けた谷津子のうしろに立っているだけで、雅明の硬直したものは、肉襞を縮めて くる妖しい蠕動に、ますますのぼせあがって膨張した。
同じ年頃の仲間の、不純異性交遊とは、花唇に挿入してからの感覚が、まるで違っている。
乱交はしても、若すぎる雅明は、まだ童貞に近いのである。
「あっ、あっ!」
花肉の蠕動に驚く雅明の手をつかみ、谷津子は、乳牛のようにふくらんだ乳房を、うしろからわしずかみにさせた。
「これから毎日、美夏さまのためにも、お毒味をしようかしら」
まるで若い愛人を得たように、谷津子は目を細めて、
「いいわ」
と喘いだ。
「すごく感じる」
雅明は頭の芯がしびれておかしくなった。
「子宮の奥まで、坊ちゃまの鋭いものが、ぐさっと突き刺ったみたい」
バスタブの中で、湯をあふれさせながら、うっとりと、谷津子は云った。
「久し振りだわ、こんな感じ」
「-」
「気持が良すぎるわ」
脱衣室に、深水の影がしたが、浴室の中まで覗かずに、足音が遠いている。
浴室での妻の喘ぎを深水は聞いているのに違いない。
「ああ、いい……」
谷津子は、若すぎる雅明を相手にして、一人で喜んでいる。
「いく、いく、死んじゃう」
谷津子の嬌声に、雅明の漲った下半身が、 堰を切ったように噴火した。
「ああ、子宮に、坊っちゃまのが、どっく、どっくかかっている」
と谷津子が首を振って叫んだ。
「生温かいものがどくどくたくさんかかってくる」谷玲子の嬌声も派手であった。
「うっ、うむ」
雅明が下半身を緊張させて、深い嘆息をついた。
谷津子の雅明を差し込んだ花弁がはじけ、 谷津子のねっとりした愛液と、雅明の放出した白い粘液がまじりあって、ゆっくりと湯をはじいた。
湯上りを、谷淳子が、バスタオルでやさしく拭いてくれるのを、全裸の雅明は、仁王立ちになったまま、おとなしく、なすがままにされていた。
幼いの頃を思い出していたのかもしれない。
谷津子の口と花唇に、二度も続けて放出していても、谷津子の指が触れると、下半身が充血したように、半萎えのものが頭をもたげてくる。
「若いわね」
感心したように、谷津子は、赤いぼってりした唇で、雅明のひくつくものを軽く含んでくる。
着がえようとしたが、雅明のシャツもGパンもない。
「美夏様がおまちかねですよ」
執事の深水が、何やら胸にかかえて、また浴室に顔を出した。
全裸の谷津子は、バスタオルも巻かずに、廊下を歩いている。
「俺のブリーフは」
深水の妻と関係したばかりの雅明は、深水の態度が解せぬままに、戸惑いをみせていた。
「これを穿いて下さい」
手渡された品は、ファスナー付きの、レザーのビキ二であった。
サポーターといっていいほど、小さく、雅明の股間を諦めつけた。
「きついな」
雅明は顔をしかめた。
レザービキ二は、雅明の勃起をさせないように穿かせられたとしか思えない。
「美夏様から、坊ちゃまへ、プレゼントですよ」
深水の顔には、谷津子のような微笑はない。
「美夏様は、ファッショナブルレザーにおくわしいのです」
雅明だって、レザーファッションぐらいは知っている。
黒光りするレザーキャミソールを差し出されて、雅明は首をひねった。
女物なら、ブラジャーがついているか、それとも、乳房のところだけ、くりぬかれて穴が開いているのに違いない。
レザーのへそ出しルックのようなものであった。
「少し小さいな」
脇から胸を狭窄されたようで、息が苦しくなる。
「慣れますよ」
深水はこともなげに云った。
背中についている金の輪が気になったが、
「飾りでしょう」
とあっさりしたものである。
「ブーツです」
サイドファスナー付きのストッキングブーツで、ふくらはぎをきつく締めつけ、脚の狭窄感が下から湧き上ってくる。
足首のところにも、金の綸がついている。
馬を御すための、小さなギアではない。
「さあ、御案内しましょう」
レザーの、キャミソール、ビキニ、ストッキングブーツの、三点セットを着せられた雅明は、全身を拘束されたように感じながら、黙って、執事の深水のあとに従った。
「あら、お似合いよ、坊ちゃま」
玄関で、まだ何も着ていない谷津子が、火照ったままの肉感的な裸体を見せて、雅明に云った。
洋風の庭から、薔薇のアーチをくぐると、奥庭は、ちょろちょろと水が流れている。
水字くずしの流れと、繁茂した樹木が重なって、暗い和風の庭に一変する。
沢留石を渡り、流れの滝口に向って、築山に歩く。
つづく