骨 | ”Benchwork study Laboratory" 英国式 靴作り教室

 先週お会いしたお客様に『ブログの更新が遅いけど、書くの飽きてきてます?』と痛いところに直球投げられましたので、更新です。(笑)


 本当は飽きたのではなく、目まぐるしく色々な事があり、頭の中が整理されていないし、帰宅が24時を回ることが度々で、とりあえず今は『ガー』と仕事や新しいアイデアを手当たり次第にこなしてインプットする時期かな?と。ブログはおざなりでした。でも、書いていない期間にも沢山の出来事や発見等もあり、ネタは溜め込んでいますよ。(ははは)


 生徒さん達にチョロっと見せたれど、天然素材で作ったベビーシューズや、一切縫わずに細く切った革紐を編みこんでいって作ったスリッポン靴、革素材を一切使わないべーガンシューズ等の製作をしていて、面白くてしょうがないのだけれど、仕事の合間に行っているので、どうしても時間が足りない。しばらく、ガーと作ってみて、アイデアを出せるだけ出したら、しっかりまとめて完成度の高い○○靴を仕上げたいです。素材が変わるだけで、まったく別のものを作っている様で、靴という履物の限界のなさ、規定を破った時に現れる新しい発見に、ウキウキしてます。


 そんな中、ジョンロブの木型職人が仕事で東京に来ていたので、一緒に居酒屋へ。職場のゴシップから始まり、行き着く話はやはり靴ですが、特に木型については毎回盛り上がる。日本人とイギリス人の足の違いから、お互いのしている木型作りへの工夫が同じであったりして、『ここの部分をこれくらい削って、こっちに足すのよ~、そうすると納まりがよいよ!』『同じ事してるよ!でもユキのはここが丸いよね。僕のは角ばらせてるよ』なんて、周りから聞いたらチンプンカンプンでしょうが、日本人の足にフィットするようにヨーロッパ人の木型とは採寸の仕方も削り方も角度のつけ方なども変えている。ただ、日本人といっても、それぞれ足の体質が違うから、個人個人へさらに工夫が必要で、お互いの意見交換やチャレンジしたことの話は貴重だし、勉強になる。


 木型の話から骨の話になって、”くるぶし”の重要さについて、細かく教えてもらい、『前から言っているけれど、靴底にスチールをつける様な職人になるなよ!』と言われる。爪先や踵にスチール金具をつけると革が減りにくいので、長持ちさせる為につける事を希望するお客様がたまにおりますが、すべて断っている。説明をしても理解してもらえないず、こちらが根負けした時、1足だけ作った事があるけれど、後悔している。根負けしたってのは、私の説明不足、勉強不足に他ならないし、お客様の足を30年見届けさせて欲しい職人が、足を痛めるようなものを自分の手で付けてしまうってのは、ビスポークの職人として自分の仕事に心から恥じたから、彼が今も私に注意するのもよく分かる。



 スチール金具をヒール底につけた場合、クッション性がなくなる為に踝(くるぶし)に衝撃が加わる。裸足の時よりもスチールは硬いので、衝撃はひどく、くるぶしを痛める。くるぶしを痛めると背骨が痛む。腰痛の原因になるが、骨を痛めてしまうので、治らない。ちっぽけなヒールのスチールが原因で大切な骨を駄目にする。もちろん、履いてその日に痛む、ってのではなく、徐々に蝕む。ゆっくりダメージを受けたものは回復も難しくなる。


 また、爪先部にスチールをつける場合、スチール部より前方はソールが滑らかに反らないで、スチールまでで動きが止まってしまうので、ショイントの裏、つまりボール部分に負担がかかる為、ボール部をいためる。ボール部は足の動きの一番頻繁なところであり、ジョイントを痛め、外反母趾等を引き起こす原因になる。


 足の骨を専門にしている整形外科のお医者さんがロブのマネージャーと親しく、以前はマネージャーから骨の話を色々聞けたけれど、もっと自分でも骨について勉強したい。二度と後悔しないように。整形外科系の本を読んだりしているけれど、なかなか足だけってのはなく、歩きとの関係、靴との関係の本で納得できる物がない。靴の中に詰め物を入れて、グット ウォーキング!なんて本を読んだ事があるけれど、理論に無理と隙が沢山あって、とりあえずこの程度の補強は出来ますよ、って程度のものだった。


 長い目で人間の一生を考え、本当に良い靴とは何かって事をみていかないと、『本当に良い靴』は作れないな~としみじみ思った。そして、自分の仕事には限界がない!って思えた事が、心底嬉しかった。