大切なもの | ”Benchwork study Laboratory" 英国式 靴作り教室

大切なもの

今週は靴が仕上がった人が4名。お疲れ様でした!皆さん木型を抜く時は本当に嬉しそう。中敷入れて、ポリッシュしてピカピカに仕上げて履いてみて、益々笑顔が大きくなる。でも、最近はあまりにピカピカに仕上げるものだから、履いて歩きたがらない。『ちょっと歩いてフィッティングをちゃんと確かめなよ~』といっても、足元に置いた小さい敷物の上から出て歩こうとしない。靴は履いて”なんぼ”の物ですから、どんどん履いてもらいたいのにな~。


2足目を始める人達は、木型作りから始める人がほとんどなので、1足目よりも作った靴に対する愛着が増すと思いますが、道のりが長いからへこたれずに行きましょう~。忍耐力はかなりつきますから(笑)。


世の中何でもかんでも、早急、簡単になってるけれど、その分いろ~んな事を削り落として、見落として、捨ててしまっている。この間、生徒さんが自分の古くなった靴を分解して、自分の木型に釣り込みなおして作り直そうとして、分解したらビックリして言いに来た。『ユキさん!あの靴3万円以上もしたのに、インソールが分厚い紙でしたよ!!』って。インソールに革を使っている既製靴なんて、ほとんどないよ!って教えたら、余計ビックリしてたけれど。靴の中を見て、つま先の方に革のインソールを使っている所でも、踵の部分は分厚い紙を使っているのが、既製靴屋の常識。ちょっとでも、コストを落としてちょっとでも儲け多く出さなきゃってのが、彼らの仕事。靴の中身は見えないから、色んなことしてますよ。それが良いか悪いかってのは、なんとも言えないじゃない。人は安く買えれば嬉しいし、靴は使い捨てにしている人が99.9%でしょ?(もっとかも?)既製靴が現在のように発展していったのは、必然だったのでしょう。


ただ、そうやって、どんどん工程や素材を変えていって、本来の大切な意味を見失ってしまっているんです。インソールが革であるのは、耐久性と汗の吸収性、通気性が良いのと、木型に釣り込んで、木型の底部の形を再現できるのと、返りが良い事。アッパーと縫いつけた時の耐久性もあるし、歩きの為にも、長く愛用する為にもとてもよい素材。


革の芯材もアッパーの素材もぜ~んぶそういう風に理由があって、靴の製法が成り立っているのが”ハンドソーン・ウェルテット製法”。ハンドソーン・ウェルテットの靴を誰も作らなくなったら、ピラミッドの作り方みたいに、誰も作り方がわからなくなって、ミステリーと化してしまうと思いますよ。ま、ピラミッドと比べるには大げさですけれど(笑)、今でも昔の工具を見て、どこの部分にどのように使うのかって、職人でも分からない人いますから。一度失なった技術を取り戻すのはほとんど不可能な事です。世間の軽い波に流されて、大事な物を見落とさないように、自分の大切な物は大切に守り通そうと思います。


私が大切にしているものは”幸せを感じること”。幸せって、得るものではないと思っている。日々”感じる”ことだと思っている。だから、『幸せな感じ』をくれる物、人、事がすべて私にとって大切です。靴作りのすべての工程作業をしている時に私は幸せを感じるし、私の靴を履いて下さるお客様との関係も会話も環境も幸せを感じる。生徒さん達とのお教室での空間も幸せが沢山漂っている。だから、大切に大切に守りたい。