靴を綺麗に作るには パート3
今日も暑かった!!午前中は11時半頃からちょっとクラクラしてきて、やばいかも。。。と思った時もありましたが、持ちこたえました。(ホ!)。午後はみんなもボーとしていて、いつもとやっぱり調子が違いましたね。皆さん無事に家路に着いたのだろうか???
さて、前回のクリッキングに続いて、今回は「クロージング」について。靴作りの工程の中で、クロージングが一番個性が出しにくい工程だと思います。ミシンがステッチを縫ってくれるので、練習すれば誰でも同じ様に縫えるからです。ラスト・メーキングやメーキングやパターン・カッティングは個性がかなり出るので、ジョン・ロブで働き出して3年程立った時には、靴を見れば誰が木型やパターンを作ったか、底付けをしたかを大体言い当てることが出来ました。(ちなみに、ラスト・メーカーは9人、パターンナーは3人、底付け職人は20人くらいいました。)しかし、クロージングを誰がしたかを見分ける方法はブローグのパンチの正確さ(私の師はクローザー歴50年でしたが、パンチで穴を開ける時は驚く程ゆっくりと一つ一つ間隔を見ながら開けていました。)とハンドステッチの得て不得手くらいのもので、オックスフォードなどのシンプルなデザインだと誰が縫ったかを判断するのは難しい。ですから、誰でも上手になりやすい工程だと思います。(こんな発言はプロのクローザーに怒られちゃうな、きっと。。)
まず、「綺麗にクロージングする」には、とにかくミシンと仲良しになることが、一番重要。仲良しになるということは、ある程度のメカニズムを知り、自分が使いやすく調整でき、ミシンのご機嫌を損ねないようにうまく付き合っていけると言うこと。ミシンは機嫌を損ねると、大抵変な音を出して、文句を言いますので、「変な音」が聞こえたらいったん電源を止め、糸は絡まっていないか、針の向きは大丈夫か?糸と針の太さは合っているか、糸は通るべき道をしっかり通っているか、下糸とのバランスはどうか、テンションはどうか、オイルはまだ大丈夫か?チェックします。
縫う前には必ず、予備の革で試しぬいをして、テンションをチェックした後、縫いますが、縫う前に下準備をしっかりしておくこと。まだ慣れないうちは、自分が縫いたい所は、デバイダーを使って縫い線のガイドをつけておきます。目検討でまっすぐ均等に縫えるようになるまでは、こうして下準備をしてまっすぐ縫っていれば、次第に体が真っ直ぐな線を覚えてくれて、上達が早いようです。「急がば回れ」なのです。
それと、クローザーのセンスの出しどころは、靴のサイズとデザインに対しての、糸の太さとピッチ(縫い幅)とのバランスです。メンズのきっちりした靴に、細い糸で細かいピッチなどで縫うと、せっかくのデザインがなよなよと、ふやけた物になってしまいますし、縫い目の革が切れてしまったりします。レディースの薄い革に太い糸を使うと糸ばかりが浮いてしまって、糸が足に当たってすれて痛む、などの問題にもなります。
「バランス」が一番大切。あ、これは靴作り全般にいえますね。「バランス」これは本当にすべての工程において重要なポイントです。あ~「心のバランス」「体のバランス」「生活のバランス」「食事のバランス」「人口のバランス」「地球のバランス」。。。。この世で一番大切なのは「バランス」なのかも知れない。
ちなみに先ほど話に出てきた、私のクローザーの師(といっても私はラッキーにも3人のクローザーからクロージングを習ったので、3人のそれぞれの得意分野を目にすることが出来たのですが)、はジミーという名のクローザー歴50年のポーランド人。ジミーはクローザーのお父さんに習い、15歳のころから働いていて、イギリス・ビスポーク・クローザーのナンバーワンとして尊敬されていますが、私は彼の仕事部屋へ始めて入ったとき、彼の動作のゆっくりさに驚きました。ジミーの前に私が習っていたクローザーはロンドン一のスピードを持っていて、信じがたいことに1日に4足も縫える。ビスポークだと一日1,5足が平均。とにかく早くて、目が回るくらいだったのですが、ジミーはナイフを使ったらその都度、定位置に戻しいつも机の上がきちんとしていて、動作はゆっくりだが、無駄がない。若い時は一日2,5足は縫っていたそうですが、それでも手を抜くことがなかったそうです。50年も毎日同じ仕事をしているのに、いい加減にせず、きちんと丁寧に仕事をする彼の姿に感動さえしました。私は週に一度彼の家に習いに行っていましたが、無口でまったく話さず、私達はラジオのクイズ番組を聴きながら、クイズの答えを競いあって答える以外ほとんど会話はなく、私が「どうしてこのように出来るのか?」など、私がうまく出来ない部分を質問しても、答えはいつも「なんとなく。。。」とか、「解らないけど、出来ちゃう。。。」など頼りなく、彼は仕事に関してはすべて「頭」でなく「体」が覚えているので、人に教えるのは得意ではなかったようです。私が余りに毎週質問攻めにしたせいでか(?)、「社長にはお互い秘密ってことで、午後はお互い仕事をさぼろう!」などと言って、彼はお昼になるとパブへ行ってしまい、仕方なく私は仕事場へ行くことも出来ず、遊ぶには時間が時間だし、罪悪感があるし。。。。。ジミーは「師」としては困った人でしたが、いつも黙々と仕事をし、会うと照れくさそうにニコニコしているジミーはやはり私の尊敬するクローザーです。大きなビール腹を抱え、今日も靴を縫っていることでしょう。