靴を綺麗に作るには パート2
今回は予告どおり「クリッキング」(裁断)について。まず裁断をなぜクリッキングと呼ぶかというと、日本では革の裁断は「包丁」で行いますが、イギリスでは先端が丸くカーブしたナイフに人差し指を沿わせて使います。このナイフは1.5ミリくらいの薄さで、しなります。このしなった時のナイフの音が「クリック、クリック」と言うので、クリッキング・ナイフと呼ばれるようになりました。ナイフのカーブ具合と、先端の鋭さが革の細かいカーブなども綺麗に切れるデザインになっています。ナイフを沿わせることにより、革の切り口を90度に切れるようになっていますし、よく考えられているなーとつくづく感心します。日本のナイフもしっかり角度を固定すれば、かなり厚めの革も綺麗に裁断できますし、包丁は裁断だけでなく靴全般に使えますので、こちらもすごい!と思えます。工具はついつい新しいものや持っていないものを見つけると購入して使ってみるのですが、「シンプル」な物がやはり使いやすいく、良さそうだけれど手の込んだものは、手入れが大変で、使いこなすまでにお蔵入りになってしまう場合が多いです。
「クリッカー」は靴職人の中でも、最も頭脳の要る職種と言われていて、とにかく革についての知識が必要です。この革のどの部分が最も強いか、キメが細かいか、伸びやすいか。。。などなど。革によって性質が違うのでそれを覚えるだけでも大変ですが、それに加え靴のスタイルによっても使う部分が違ってくるので、よく考えながら裁断していきます。一度裁断した革は元には戻らないので、失敗は許されないし。。。。
日本で革を探し歩いていて一番驚いたのは、革が伸びすぎること。キメが荒いのは値段と見合わせるとしょうがないと思いますが、伸びすぎる革は靴には合わない。靴を試着してボールの部分がきついと店員が「すぐに伸びますよ!」などといいますが、本当は伸びちゃいかんのです。まー既製靴にそこまで要求は出来ませんが、「注文靴」で伸びてしまうなんて、注文した意味がない。例えば最初はタイトであったが、履きこんでいくうちに和らいでくる。というのは正しい。なぜならば、革底は歩くごとに底が柔らかくなって、底全体がしなってやわらかくなるし、その人の歩き方や癖に応じてよく動く部分のステッチ(糸)は緩み、動きのない部分はステッチがしまる。こうやって、ますます足に合う靴になってゆく。これはアッパーの革が伸びたのでなく、ソールがやわらかくなった結果生じることである。
しかし、アッパーの革が伸びてしまうのでは、あまりにも木型がかわいそうではありませんか!まー、お客さんも買って1年もしないで革がデレ~としてきたんじゃたまらない。あまり伸びすぎる革の場合、頭を使って伸びないほうに裁断するのも案だと思う。こういう革は本来は伸びないとされている方向にもある程度伸びるので、木型につぎ込めないということはないので。または、伸びる革に薄い革を貼り付け芯にすることも出来ます。これは質感もあがるし、耐久性も良くなりますが、でも、こんなことするくらいなら、初めから良い革を購入するほうが賢いでしょう。
さて、「クリッキング」で大事なのは、先にも述べましたが「切り口が90度である」ことがまずあります。ナイフの角度を保つことと、切っている途中で決してナイフの動きを止めないことが大切。私はナイフのブレを防止するために、ナイフを動かしている時は息を止めています。それから、ナイフは手首から動かすのでなく、肩から動かすこと。肩から動かすことにより、ナイフの先端がもっと自由に動くことが出来ます。それから、革の上に置いたパターンはウェイト(重し)をしっかり置いてずれないようにすること。知らず知らずのうちにパターンが動いて、切った革とパターンにずれができてしまうとせかっく作ったパターンが台無しです。直接革に銀ペンでパターンを写し書く人もいますが、裁断した後は必ずパターンとあわせてチェックすること。それから、初歩的なことですが、裁断前は手を綺麗に洗っておくこと。革によっては汚れのつきやすいものがありますので、要注意。
裁断後にスカイビング(漉き)などの処理をした後は、革の断面をライターやろうそくの火であぶって、断面のぼさぼさした繊維を取り除きます。(ただし、あぶりすぎて焦がさないように!)こうしておくと、見た目も断面のぺらぺらした感じも収まるし、断然綺麗にまとまります。
最後は、断面を早染めインクやペンで色づけして整える。私は「Copic 」か 「 STABILO の PROFESSIONAL LINE」というマジックペンを使用しています。両方とも色が豊富で革の色に合わせてぬれ、ペンなので手を汚さずに使えます。インクの詰め替えも出来るので地球に優しくお得です。私はデザイン画を書くのにも使っています。(本当はデザイン画を書く為のペンです。)少々、ペンの色が染みて断面以外にも染み込みますが、ミシンで縫い終わると不思議に目立たなくなりますので、ご心配なく。
クリッキングは甘く見るなかれ。クリッキングが汚いものは出来上がっても何処となく汚く見えます。クリッキングが正しくないと、木型に吸い付くようにはつぎ込みはできません。クリッキングは奥が深~いのであります。