平成20年10月26日(日)夕方5:00


9歳の娘と2歳の息子と玄麦を播いた。


11歳の息子も一緒にと思っていたが叶わなかった。
急性肝炎で入院してしまったからだ。元気そうにも見えるのだが、検査の数値が良くなく変形白血球などと言うモノも現れている。先生はこれが気になっているようで入院を勧めた。


播いた場所は店の花壇で幅50cm程、長さ2m弱程か。


店は以前は喫茶店で、それを改装して開業した。
今年で16年目になる。改装の時、玄関を何処にするか迷ったが花壇を残したい気持が何故かあったので左面の正面よりを玄関にすることにしたが、


『やっぱり玄関がわかりにくいと入りずらい』


『玄関は正面やね』


などなど聞くたびに気が重かった。


実際、商いを始めると日射しがバンバン入ってくるし、パンは乾くし、袋に入れたパンは蒸れるし、店内は暑いし、冬は結露がひどく、正面のショーウィンドウの下の木が腐ったり・・・・。


『店づくり失敗』


『勉強不足』


『他人の言うことを聞かないからだ』


などと人から言われ自分も責めたりしたが、辞める訳にはいかなかったので、今でもそれを受け入れてやっている。


お客さんには申し訳ないが、夏でもエアコン無し、扇風機のみ、冬も暖房無し。開き直っている。


パンにしてみれば寒いのはいいけど、暑いのはしんどいだろう。

でも自然の寒暖を操作するよりも、ありのままの方がパンには楽なのではないかと思うようになった。



花壇を残した意味がやっと出てくる時が来た。

開店当初から観葉植物を嫁さんが植えていたが、7年目頃だろうか、苺の苗を数本植えた。

これが毎年花を咲かせ実を付けた。茎が伸びて地を這い根を付ける。これが毎年繰り返され今ではかなりの収穫となる。

(瓶に5~6個のジャムが出来る)


実は子供達がもいで食べたり、お客さんに摘みたてを食べてもらったり、ジャムにしてパンの素材として使ったり、もちろん酵母も取れるがヘタの方だけ使っている。あまり強くないからだ。


ブルーベリーの木も数年前に植えたが、なかなか実を付けなかった。


収穫目的ではなかったので見栄えよくするのに枝を折ったりしていたが、


近所のそろばん塾のK先生が、

『放っておいた方がいいよ。植物の本能が出てこなくなる。実を付けなくてもいいと思ってしまうよ』

と教えてくれた。


それからは放っておくことにした。翌年、見事に花芽をつける。


春先からドンドン芽吹く。『今年はいっぱい実がなるよ。良かったねぇ。』

とK先生が言ってくれた。


5~6月にかけて小さな白い花が咲いた。


花が落ちると緑色の小さい丸粒になり初夏の強い日射しを浴びて深い紫色になる。


7月下旬、それを味わう。完熟まで待てず、1粒つまんで口に入れる。

まだ甘味より酸っぱさが勝っているが、それが自然の味って感じで『恵み』『収穫』そんな言葉が頭をよぎる。


またこんなこともあった。

家で忘れさられた?と思われる、ジャガイモを2個植えた。

夜な夜な茎が伸び葉も茂り、薄紫色の花びらに黄色い花弁の小さな花が咲き葉が枯れてきた頃に引っこ抜く。

やや小さめだが全部で6個収穫できた。

小さいビー玉程のものも5個程あり来年の種芋にしようと紙で包んで冷蔵庫で眠らせてある。


花壇の土は有機であると自負している。
開業の際、近くの花屋さんに土づくりをお願いした時は化学肥料も入れただろうが、それ以降は園芸用の土ぐらいで、私が世話をするようになってから8~9年経ったが化学的なものは一切入れていない。


店では水洗いだけで済むものが多く、花壇にそれを播く。後は野菜の皮や切れっ端、酵母を取ったしぼりかすや油かすなど全て店から出たもので行っている。


パンづくりのサイクルの中に、この花壇は在るのである。

ただ播いているのではなく、時々シャベルで土をかき混ぜてやる。

これをずっと続けている。


土は柔らかく中にはミミズ達がタップリ居る。


いろいろな酵母菌もたくさん居るだろう。



そんな花壇に事件が起こる。


9月の初め黒と黄色の毛虫が苺の葉をかじり始めた。

しばらく様子を見るが日に日に増えている。

やむを得ず処分し始めるがブルーベリーの葉も食べ始める。『うまいだろう』と私は言うが困ったなという気にもなっていた。

何気なく通りかかったお隣の奥さんに訊いてみる。

『たくさんいるねぇ』と言って玄関に入っていった。そして何やら袋を手に現れた。


『これ播いておくといいよ。×××で売っているよ。これで大丈夫。』 


言葉を無くす。

電光石火のごとくの出来事であった。


しばらくして虫はいなくなったが、かなり嫌な臭いが続いた。


蟻がたくさん死んだ。


風溜りや店内の片隅にたまっていた土をほじくってもミミズもいない。


白い糸のような植物の根っこかと思っていたものが動く。


それがミミズの赤ちゃんだと思う。


もちろんそれもいない。


薬の恐ろしさを実感する。


これをキッカケに花壇修復計画が始まる。


まず、大きくなった”何とかクレスト”とか言ったろうか、木の名前はよく知らないが、その木を抜く。

子供の出産記念で市から貰い、40cm程の苗木だったが日当たりも良く土もよかったのだろう。

すくすくと育って大きい方が私の背丈(170cm)以上になった。

木は2本だったが枝分れをして、はた目には3本並んでいるように見える。

この木を私は自分の子供3人が並んでいるように見えて、とても愛着があった。


また店名の『ベン』は、嫁さんの実家の犬の名前であり、私にとてもなついてくれた。よく私の顔をペロペロと舐めてくれた。

ベンが死んだ時から、ベンのにおいが私の周りに漂っていた。『来てるな』と私は実感じていた。

愛着のある存在を何かに置き換えて、この店を観るようになっている。


子供達に小麦を植えたいので木を抜いてもよいかと訊いた。


11歳の息子は 『 別にいいよ。 』


9歳の娘は 『 何で? 』と言ったが、こういう訳でと説明すると納得してくれた。


2歳の息子には 『 ゴメンね 』 と言うと 『 いいよっ! 』と笑った。


体重をかけて木をしならせて根をグラグラにして引っこ抜く。


『 ハイ、おしまい 』


と頭で描いていたが、細い幹の入り込んだ所はナメクジが存在し、太い幹は途中で折れて体重を掛けることができず。


根は深く広くとても抜ける状態でないので、根元で切ることにしようと思ったがノコギリが無いので幹を踏んずけて体重を掛ける。

何とか根元で折れたが木の組織が強くてうまく切り離せない。


左右にねじったり、ひねったり、万能ハサミで少しづつ切ったりしながら、やっと伐採完了。

とてももう一本切る元気はなく本日は終了とする


家に帰って11歳の息子に 『 今日、アンタの木切ったよ 』 と言ったら 『 ひでぇっオレだけかよっ! 』 と言われた。



後日もう一本も伐採する。


やはり、木が無くなると広さや淋しさも感じるが心機一転だ。


小麦の場所を確保するために、苺の苗を移す。土を何時もより深く掘り起こしながら苗を縁(ヘリ)の所へ植えてゆく。

これは苺が実を付け熟してくると重くなるので垂れてきて実が土に着くことになり、蟻やナメクジの絶好のごちそうになってしまう。彼らは美味しくなったものしか食べない。


すごく賢い。


縁にすれば花壇の外に実が下がり食べにくくなるのではないかと考えた。


来年の初夏、結果が出るが、まずしっかり根付いて欲しいと思いつつ手を動かす。


これで小麦の場所は出来た。


後は土の回復を待つ。


数日毎に土を掘りミミズが居るかチェックする。


店から出ると野菜や果実のくずは細かく刻んで土にすき込む。

土はとても柔らかく以前とあまり変わっていないようだ。


土をチェックする日が続く10月中旬、やっと数匹のミミズを発見。


10月26日の日曜日から1週間後、小麦の新芽が出る。


すっと1本。


若緑と言えばよいのだろうか。あっちこっちに、ニョキニョキ出ている。


入院していた息子も無事退院。

秋休みの連休後、学校に行き始める。

翌日病院での検査で肝機能の数値は正常に戻り先生からも 『 完治です。給食もチャンと食べれよ!』

と言われ息子は苦笑い。


普通の生活に戻る。


新芽が出て今日11月13日の木曜日。


そろそろ3週間になる。初冬の小春日和の日射しの中、北風をしなやかにかわしながらなびいている。


この玄麦(小麦)は金沢の有機農業家のIさんから戴いた。

すばらしい力を持った農産物をつくり出しているIさんに出会えたのも常連のアンさんのお蔭でもある。


とにかくいろんな人達、酵母達、生物達のお蔭で今があることはとても幸運である。