エクスミラボー通りにある噴水
薄暗い廊下を通って部屋に入ると、
マダムは静かに眠っていました。
なんだか私の知っているマダムよりも
一回り、いえ二回りほど
小さくなってしまったように見えます。
起こすわけにもいかず、
そっと窓の外へ目を向けました。
角部屋の大きな窓からはのどかな景色。
ここはエクスからバスで20分ほどですが
まるで別世界のように自然が豊かな場所。
以前マダムが手紙に書いていた、
夜は窓から小鹿の姿が見えるのよ、
という一文を思い出しました。
やがてマダムが目を覚まし、私の顔を見ると
満面のあの温かな笑みで私の名前を呼んで
喜んでくれました。
マダムは今、歩くことができず、
ほとんど一日をベッドの上で
過ごしているそうです。
そんな辛い状況にもかかわらず、
開口一番、疲れていないか
私のことを心配してくれました。
久しぶりの再会で、たくさんの話をしました。
お互いの近況や家族のこと、
そして私の愛馬のことまで。
ベッドの上でも変わらないマダムの優しさに
胸が温かくなりました。
マダムの自宅にて
2時間ほどお喋りをしていた頃、
マダムのお友達が登場しました。
その方は大学の先生だったマダムの教え子さん。
今は音楽を教えているそうで、
声を出して喉を開くことはリハビリにもなるからと、マダムと一緒に歌い始めました。
お喋りに、歌に、笑顔の中
気づけば、あっという間に4時間も
過ぎていました。
施設の美しい中庭
マダムが入所している施設には、
とても素敵な中庭がありました。
木陰にはベンチがあり
やわらかな風も通り抜けて
プロヴァンスらしいお庭です。
でも、中庭には誰の姿もありませんでした。
明日も会える?
帰り際、マダムがそう尋ねてきました。
もちろん、 明日ね!
迷わずそう答えると、
マダムが嬉しそうな笑顔を見せてくれます。
明日も会える、そう言える距離にいられること。
その実感が、なんとも言えず幸せでした。
エクスミラボー通り