チェリーブロッサム

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ずっとずっと

「今日はありがとうございましたー」


週に2度の路上ライブ。

昔は誰も見てくれなかったのに、最近では努力の成果なのか人が集る様になった。


嬉しいけど、あの人がいてくれないんじゃやってる意味なんて無いんだよ?


ライブ後、集ってくれた方を見送る。

そこにある1人の男が立っていた。その人が私の今のマネージャーだ。


マネージャーのおかげで私は雑誌、テレビとちょくちょく世間に出る様になった。


いろんなところで聞かれる質問。

【どうして歌ってるんですか?】


歌が好きだからじゃない。彼に会いたいから…

それだけのことだ。

高校の時、合唱コンクールの練習で彼が言ったんだ。


『おまえ、歌上手いんだな』

「そう?」

『将来さ、そっち系行けば?』

「うーん」

『俺、おまえが売れてライブとかやったら行ってやるよ!』

「はあ?無理、無理」


その時はその話を流しちゃって…でも、何処かで引っかかってたの。

気付けば彼のことが好きになってた。でも、思いを伝えられないまま卒業してしまった。

いつか売れて、また彼に会って気持ちを伝えたい…ただその一心で頑張ってきた。


「え?あの歌番組に出れるんですか?」

話は突然やって来た。ゴールデンタイムの歌番組の新人コーナーの出演が決まったのだ。

これで…もしかしたら、彼が見ててくれるかもしれない。


私は精一杯歌った。ただ1人の1番に大切な彼だけの為に。


私の思いが彼に伝わったかは分からない。しかし、周りの反響はすごかった。

沢山のファンレター。感動したとの感想まであった。

嬉しかったはずなのに…やっぱり彼がいないと私、だめだよ。。


ある日。沢山のファンレターの中に茶封筒が混じっていた。

見覚えのある字だった。そう、彼からだった。


震える手で封を切る。


【お久しぶりです。お元気ですか?この前、テレビ見ました。

まさかと思ってびっくりしました。本当に歌手になったんですね。

僕はというと普通のサラリーマンをやっています。

まさか高校の時、僕が言った言葉をまだ覚えててくれたのかな?

それだったらありがとう。また君の歌声が聞けて嬉しく思っています。

約束覚えていますか?ライブ有ったら是非教えて下さい。では…】


そんな特別の事も書かれていないのに、涙が溢れた。


ライブの話はすぐにやってきた。会場は小さなライブハウス。

チケットは発売直後に完売した。

私はこの前彼からもらった手紙に記入されていた住所にチケットを送った。


ライブは本当に沢山の人に来てもらった。

嬉しくて胸がいっぱいになり、ラストの曲では泣いてしまった。


こんなにも沢山のファンに恵まれて私は幸せだと心底感じた。

私はライブ後、最後までお客さんが会場から出るのを舞台から見送った。


最後に、1人の男性が残った…


彼だ。あの手紙の最後に残って欲しいと書いておいたのだ。

昔とまったく変わってない。


『久しぶり!すごい良かったよ』

彼は拍手をしながら笑顔で私に言った。

「ずっと…ずっとずっと待ってたんだよっ!」


私は居てもたってもいられなくなり、泣きながら彼に抱きついた。

彼は驚くのかと思えば、優しく頭を撫でてくれた。


『こうやっておまえが頑張ってくれたからまた会えたんだよね?ありがとう』

「好き…ずっと伝えたかったの」

『うん。俺も。ごめんな。でも、今度からは俺が頑張っておまえを幸せにするから』

「…大好き」


努力することをバカにしちゃだめだよね?

だって、こんな風にいつかは芽を出してくれるんだもんね。

嘘ばかり

『今日も可愛いね』

「えー?ありがとお」


『最高の女性ですよ…』



「よっーし!ドンペリ入れちゃおうかな」

『待ってましたぁ!はいっ!ドンペリ入りま~す』

「イエーイ」


ホストなんて嘘ばかりの世界だ。俺はここで毎日の様に嘘の笑顔、言葉を繰り返す。

それだけで大金が手に入るんだ。楽な仕事だ。


女はまず男を顔で選ぶ奴が多い。そして、男達は奴らを言葉で落とすんだ。

言葉を巧みに並べ、最後の締めには。。


『好きだよ』


これで一発だ。


『今日はドンペリ落としてくれてありがと』

「いえいえ。まあ、あんたの為だから!早く出世するよーに!」

『分かりました』


「ばいばいっ!」


上機嫌な客の姿を笑顔で見送る。姿が見えなくなったところで…

『…はぁ。疲れた』


早く出世する様に?何偉そうにしてんだよ。ふざけんな。

だったら、おまえ店丸ごと買い取れっつーの。



そんなある日だった。


『いらっしゃいませ』

「…あ」

『はい?』


ふと顔を見ると何処かで見た顔。昔付き合っていた彼女だった。


「すいませーん。指名こっちに変更で」

『お、俺?』

「楽しませてよね」


話してみると、彼女は昔と全然変わって無かった。


『こういうとこ初めて?』

「ううん。たまに」

『へえ』

「意外だね。まさか、ホストになってるなんて。びっくりした」

『まあね』

「お金の為?らしくないなぁ」

『何だよ』

「昔は恋愛に一生懸命でさー。ま、しょうがないか」


彼女は女達が欲しがる言葉なんか一つも求めて来なかった。

素の俺を楽しんでくれたんだ。


「また来る!」

『いつでも待ってるよ』


その言葉の通り、彼女は週1で必ず来る様になった。

次第に俺は仕事だと言うことを分かっていながら、彼女に心を奪われていった。

昔の俺に戻っていく感じがした。


いつもの様に楽しんで行ってくれた帰り際…


『じゃあ。あっ!あのさ…』

「んー?」

『昔みたいな関係には戻れないかな?俺、好きになったみたいなんだよ』

「何それ?毎日通えってこと~?私、お金無くなっちゃうよ」

『…本気なんだ』

「ホストの言葉はね、信用出来ないよ」

『今のは、俺自身の言葉なんだよ』


「いくらあなたでも、今のあなたは違う。嘘だらけの今のあなたは恋愛の対象には見れない」

そのまま彼女は去って行った。お店にも訪れなくなった。


王様の耳はロバの耳なんて童謡を昔、母親に読んでもらったのを思い出した。

あの話とまったく同じだ。


こんな仕事していても…

その日をもって、俺はホストの仕事をやめた。


地道に働いた。あれから嘘は付かないで、汗水流して必死に毎日を過ごした。


工事現場の整備の仕事をしていた時だった。

1人の女性が来た。彼女だ。


「ホストやめたんだ?びっくりした」

『やってても、結局やめてもびっくりか』

「変わったね」

『また?』

「優しい顔になったよ」


昔の俺を知っている彼女には見えていたのかもしれない。

偽りの笑顔の俺。毎日、楽に金さえ手に入れば良い。そんな汚い心までも。


「今のあなたなら、私の恋愛対象だよ」


彼女に気付かされて、成長した俺はこの日からまた付き合う様になって

なんと結婚することになった。


彼女、いや…奥さんには何度お礼を言った良いのか分からない。

僕は今、とても幸せです。ありがとう。

君という存在

私には15歳上の彼がいる。彼は結婚していて子供もいる。

そんな彼に私は恋をして、彼も私のことを愛してくれる様になった。


ボランティアサークルで出会い、陽気でいつも笑顔の彼に私は一目惚れした。

いつだっただろうか。かなり遅くまで作業が延び、彼が車で私の家まで送ってくれた時の事だ。


「結婚って…してるんですか?」

『あぁ、うん。子供もいるよ』

「…そうですよね」


やっぱり、いい歳して結婚してないわけがないよね。

子供がいるとまでは想像がつかなかったけど…


『何で?』

「えっ、いや…で、でも!きっと素敵な奥さんなんでしょうね」

『うん。まあね』


別れ際、私は思い切って携帯のアドレスを書いたメモを彼に渡した。

メールだけでも…そんな気持ちが彼に通じたのか返信はすぐに着た。


友達に相談もした。

ある1人の子が思いがけない事を言った。


不倫しちゃえば良いじゃん?


そうか。不倫か!

例え本当の愛じゃなくても。彼と一緒になれるなら…最初はそんな思いだった。


 

「歳が離れてても結婚してても、私には関係ない。私はあなたのことが好きなの」

『それってさ…』

「不倫」

『そう、それ。僕も君の事は可愛いし良い子で好きだけど。本当にそれで後悔はないのかい?』

「いいの。一緒になれるなら、それでも構わない」


私の熱い気持ちに彼は納得してくれた。

周りから見たらおかしなカップルかもしれないけど、それでも良い。幸せなら。



でも、ネット上で辛い現状を見た。


所詮は体だけの関係、子供が出来たらどうする、奥さんの気持ちは分かるか、いつかは捨てられる


いつかは…


分かってる。でも、今は信じたくなかった。

しかし、やはり現実はそう甘くなかった。彼との不倫生活が半年を迎えようとしていたときだ。


彼からのメールだった。

『別れて欲しいんだ』


突然過ぎて、頭の中が真っ白になった。

いてもたってもいられなくなり、泣きながら彼に電話をした。


「ねぇ、何?別れてって何!?嫌だよ、私」

取り乱す私に対し、彼は至って冷静だった。


『落ち着いて聞いて欲しい。なっ?』

「そんなの…無理だよっ!!私、何かした?ねぇ、教えてよぉ」

『君の為なんだよ!!』


彼の大きな声に私ははっとして、力がふっと抜けてしまった。


『愛してる。でも、いけないんだよ。俺には奥さんがいる。子供もいる。分かるだろ?』

「わかんないよ…」

『君にはちゃんとした人と純粋な恋愛をしてもらいたいんだ』

「でも。。」

『不倫なんて、偽りの恋愛じゃないか。そんなの駄目だ。君はまだ若い。まだまだ素敵な相手は沢山いる』

「ん…」

『愛してる、好きだからこそ別れるんだ。君の事を思ってだよ』

「私のことを…」

『そう。君には沢山のことを教えてもらった。この半年、毎日が本当に楽しかったよ』

「うん…私もだよ」


この後、彼と思い出話を沢山した。その間も涙が止まらなかった。


『じゃあ、そろそろ』

「あの、これからもお友達としていてくれる…?」

『もちろんだよ』

「ありがとう」

『うん』

「じゃあ、切る…」

『あ、待って』


「え?」

『最後に1つだけ言いたい…愛してるよ』

「…はい」


『じゃあね』


今までのは偽りの愛か…

彼の存在が有って、私は沢山のことを学んだ。

偽りの愛は決して無駄には終わってない。


今度は本当の素敵な恋をするんだ。

手紙

小学生の頃からだっけ?ラブレターってやつ貰い始めたのは。

でも、俺はそんなのにまったく興味がなくって。


大抵は下駄箱か机に入れておくパターンが多い。

俺はそんなことする女達が嫌いだった。そいつらは度胸がないだけ。


本当に好きなら、面と向かってはっきり言って欲しいんだよ。



高校生になっても相変わらずだった。2年になった今でも貰い続ける。

周りからは羨ましがられる。でも、俺にとってはいい迷惑だ。


長かった1日を終え、下駄箱へ。


『またか…』


女の子らしいカラフルなびんせん。

本当にうんざりだった。最近じゃ見ないで捨てる事も多かった。

俺はいつもの様に、ゴミ箱へ。


「ちょっと!」

後ろで声がした。振り返ると同じ学年らしき女の姿。


『は?』

「何で読まないの?」


『そんなの俺の勝手だろ』


「でも、その相手はきっとあなたに一生懸命書いたんだよ?」

『何であんたにそんなこと言われなきゃなんねーんだよ。俺の勝手だろ』


「どうして、そんなこと出来るの!?」

『何も知らないくせに。黙れよ』


「ねぇ!お願い、読んであげて」


その女は真剣だった。頭まで下げている。俺は仕方なく、

『…あーはい、はい。読めば良いんだろ?ていうか、頭上げろよ』

「うん。ありがとう」


その女は笑顔を見せ、走り去って行った。

何だろう。あの女…最近のに比べるとなかなか度胸有るじゃん。


家に帰った俺は、手紙を読むことにした。何ヶ月ぶりだろうか。ちゃんと女から貰った手紙を読むのは…

丸字で可愛らしい字だ。手紙の主は1個下で同じ中学だった子だった。

俺に片思いして早2年らしい…


『ま、たまには良いか』

俺は手紙に書かれていたメアドにメールを送ってみることにした。

その女の子からの返信はすぐに来た。


翌日。昨日はかなり遅くまでメールをしてた為、寝不足だ。


「おはよっ」

明るい声。昨日の女だ。


『あぁ、昨日はどうも』

「手紙くれた子とどうなった??なんか進展とか」

『とりあえず、メールしたけど。なんかマジで俺のこと好きらしいな』

「ふーん。そっか!」


予鈴が鳴った。


『あぁ。じゃーな』


一体、あいつは何だろう。その日のお昼だった。

昨日メールした子が俺のクラスに来た。一緒に中庭に行って弁当を食べた。

初めて話すのに、違和感がない。不思議だ。

でも、俺は女の子に恋愛感情を持つことはなかった。



ある日、たまたま一緒にその子と帰ってた時のことだ。


『ねぇ、俺のこと好きなんだよね?』


俺のなにげない突然の質問に驚いている。

そして、黙ってこくりと頷いた。


『ちゃんと言葉にしてくれないと分からない』

恥ずかしいから…と下を向いたままだ。


『俺、はっきり物事言わない女は嫌いなんだよ…』

寂しげな様子で俺を見て、女の子は何も言わずに早歩きになった。

『おいっ!!』

早歩きから駆け足に。すぐに姿を消した。


『ったく。わかんねぇ』


翌日。また来た、あの女。


「ねぇ!!昨日、何したのよ」

『は?』

「あの子に何したの!?」

『あぁ…帰りのことか。好きだったら好きってはっきり言えって言っただけ』

「バカじゃないの?」

『何で俺がバカなんだよ』

「女の子の気持ち、1つも分かってない。最低っ」

『そんななぁ、好きって言おうと思えばこんなにも簡単に言えるんだぜ?』


「本当に好きな人に好きっていうのがどれだけ大変か分かる!?多分あなたには分からないでしょうね。あなたは今までに恋愛なんかしたことないのよ。」


『おまえなぁ!!』


返す言葉が見つからなかった。恋愛か。確かにないな。


「謝ってあげて。彼女を傷つけないで」

『ごめん、悪かった…』



その日以来。変なんだ、どうやら俺はあの女に惚れた様だ。

あれだけ物事はっきり言える女だ。俺にぴったり合うはずだ…

しかし、俺はいつになっても気持ちを伝えるとが出来なかった。嘘みたいだ。

男が手紙なんてかっこ悪い?汚い字ながらも、これでしか気持ちが伝えられそうにない。


『なぁ!これ』

「何?わ~手紙?誰に貰ったの?」

『俺からあんたに』

「ふーん。読ませてもらうね。でも、せっかくくれたのに悪いんだけど返事はNOだよ」

『…え?』

「あの子ね、私の部活の後輩なの。後輩裏切ることなんて出来ないもの」

『…後輩?』


その時、俺は初めて真実を知った。

そもそも女が近付いてきた理由は可愛い後輩を思ってのことだけの行動。

俺と女の子が両思いになってくっ付けばそれで良かったらしい。

俺の初恋は失恋に終わった。でも、今回のことでいろんなことを教わった。


それ以来思えたんだ、手紙も悪くないんじゃないか?

笑顔

「今日も面白かったよ。お腹痛くなるぐらい笑っちゃった」

『ほんまに?よかったー』


私の彼はお笑い芸人をやっている。

人に笑いを届けて、いろんな人を笑顔にさせる素敵なお仕事。

もともとファンとして、彼に出待ちやらなんやらで近づき付き合うことになった。

彼はピン芸人。コンビではなく一人で活動している。


『いつかは、もっとでっかいとこでやれたらええんやけどな~』

「私、応援してるよ」

『ありがとー。ほんま愛してる』

「えへへ」


彼が大好き。愛しくて仕方ない。

今はまだまだ若手で、小さなライブハウスでしかネタを披露出来ていないけど、

いつかは売れっ子の先輩達と同じ大きな舞台に立って欲しい。私も彼と同じことを思っていた。



ある日。毎月やってるお笑いライブのエンディングで彼から発表があった。

『えー告知ですー!同じ事務所の先輩からですね、今後期待のお笑い芸人ということで、テレビ出演いたしますー!!OA日は、、、』


すごい、すごいよ。私は客席で喜んでいた。そんな私を彼はにこりと笑って目を合わせてくれた。

その日の帰り道、彼はご機嫌だった。


「ねーすごいよ!!いつ決まってたの!?」

『3日前や。驚かせよう思ってずっと黙っとったんやで』

「楽しみにしてる」

『なんか、ちょっとずつやけど近づいてる気がするんやけど、どう?』

「うん、私もそう思うよ!」



楽しみにしてたOA日はすぐに来た。彼はネタ披露をした後、先輩芸人とのエピソードを語った。

深夜番組だった…よく考えれば分かったかもしれない。

彼の初めてのテレビ出演。嬉しいけど…正直な気持ち…見なければよかった。

どんどん暴かれていく、彼の合コン話。

『クリスマスも合コンしたんですよ~』と彼が言ってる。クリスマス…?

そうだ、彼は約束の時間にかなり遅れた。仕事だったと言ってたが、合コンに言ってたんだ。



あはは~おまえは彼女は?


『もっちろん、おりませんよ~。募集中でーす。あて先は~(笑)』


勝手に募集するなっ!彼女おらへんのか!顔は結構良いのにな~。


『そうなんですよー。何ででしょうね』



…彼女がいない?募集中?

何言ってるんだろう。もう、1年以上も付き合ってるじゃない。

見る気が失せた。番組の途中だったが、テレビを消し布団の中へ。

泣いた。涙が涸れるんじゃないかってぐらい泣いた。


翌日はデートだった。


『どうしたん?目腫れてへん?』

「あ、大丈夫…さっきまで寝てたから」

『そっか。あんま顔色もよくないで?家にいよか?』

「平気。早く行こう」


すごい複雑だった。嫌だった、でも彼が好きなんだ。

何だろうこの気持ちは…



あれ、昨日テレビに出てた。握手してもらってこよ!実際はもっとかっこいい~。

サインもらっちゃおうかなー。あと!写真も~。

テレビの効果とは偉大だ。普段は来ないのに、女の子やカップルが駆け寄ってくる。


『なんや、今日はゆっくり出来へんな~』

「そ、そうだね」


あの、握手良いですか?


可愛らしい女の子が寄って来た。


『あ、はい。ありがとうございます~』

彼は快く引き受けた。



その人、彼女ですか?昨日、いないって言ってたじゃないですかー。



『え…』

彼はどうやら思い出した様だ。動揺を隠せない様子だ。


「いえ、この人の妹です。応援ありがとう、これからも宜しくね」

精一杯の笑顔で対応した。


そうなんですかー。なんだぁ、びっくりした!じゃあ。


『あのさ…』

「彼女いないんでしょ…じゃあ、私は一体あなたの何よ。。」

『ごめんって』

「もう、いい。帰る…」


好き?嫌い?そんなのもう分からない。


2週間程、連絡をとらない日々が続いた。今日は何か有った日だ。

「あ、ライブ…」

彼の月1のライブの日だった。彼にはいつもチケットをもらってた。

今日のライブのチケットも手元に…


重い足取りで、ライブ会場に向かっていた。

今日はいつもより人が多かった。みんな彼目当てらしい。

自由席の為、いつもは1番前の真ん中に座って見るが、今日は初めて1番後ろに座った。

いつもの私の指定席には、この前声をかけてきた女の子がきゃっきゃっ言いながら座ってた。


『はいどうもー!!』


彼のネタは面白かった。心では笑ってるのに、表情は笑顔ではなく無表情だった。

そろそろネタも終わりに近付いた頃だった。


『えっとですね、前回テレビに出させてもらったんですが、見た方いますー?』

ちらほらと手を上げるお客。

『あっ!いますね。ありがとうございますー。それでですね、1つ訂正が御座います』

訂正…?


『彼女いない宣言しましたが、僕には1年以上付き合ってる大切な彼女がいます』


会場は彼のマジな発言に若干引き、静まり返っている。

『告白の言葉は、俺はピン芸人やけどおまえとはコンビで今後を送って行きたいんやと言いました。この前のテレビ出演で彼女を本当に傷つけました。いつもならこの席に座っとる彼女は今日いません』


あははっ…


会場に一つだけ笑いが起きた。私の笑い声。

お客は私の方に目を向けた。それに釣られ彼も私に目を向けた。


『なんで…おんねん』

「…ありがとう。今、あなた最高に面白いよっ!!」


『えっと…お客さんは分からへんと思うんで説明しますが、彼女です、俺の彼女…』


その時、舞台に他の出演芸人達が拍手をしながら出て来た。

中には泣いてる人まで。


おまえ、ほんまかっこいいで!彼女大切にしろよー。という声もあがった。


彼も私も感激で泣いていた。そして、私も舞台に上げられた。

一言!ということになり、彼から…


『これからも俺と人生のコンビでいてくれるんか…?』

と言われた。


「もちろん」

と私は笑顔で答えた。


この日、お客さんのアンケートには【感動した】という言葉が目立った。

こんなにも感動するお笑いライブがこの世に存在するのだろうか。


彼からのプロポーズの言葉はもちろん、

『今度は夫婦漫才でもするか?』

だったのでした。

第一印象

『おい!どけ!!そこのブス!!』

「え?」


それは良く晴れた朝のことでした。

私はお気に入りの曲を聴きながら、駅へ向かっていました。

そこへ自転車に乗った男がぎゃーぎゃー騒ぎながら私の方へ突っ込んで来たのでした…



『この、やろー。どけって言っただろ!!』

「もー。何よ、あんた」

『うっわ、制服のズボンに穴が!!』

「待ってよ、制服より私の心配してよ!」

『…それだけ騒げりゃ大丈夫だろ。うっせー女だな』

「はぁ!?」

『黙れよ…ったく。最悪だ』


こんな奴と口論になっても時間の無駄だ。

そう思い、私が立とうとした時だった。


「…痛っ!!」

『あ?』

「痛い!痛いーー!!」

『どこが?』

「手首んとこ!あっ!!電車の時間が!!」

『やっべ!!電車!』


周りを見るとさっきまでいた学生達はいなくなっていた。

しまった…そう思った時だった。電車が来て、走り去る音…

最悪だ。。。ふと、見ると男の方も私と同じ気持ちの様だ。


「も~。何なのよ~」

『はぁ…』


男は私のかばんを持った。


「ちょっ!」

『黙れ。ん~タクシーで行くか』

「私、次の電車来るまで待つからいい」

『30分もか?オゴる。おまえんとこ、俺の学校の近所の女子高だろ?』

「う、うん…」

制服を見ればすぐに何処の高校か分かった。

この男は私の学校から10分の共学の学校の生徒だ。



『ほれ、行くぞ。あっ!タクシー!!』

「…。」

私は黙ってタクシーに乗り込んだ。


『タクシーで登校なんて、なんかリッチだよな~』

「そうね…」

『あ?電話鳴ってねえ?バイブ音聞こえる』


友達からの電話だった。

「はい、もしもし~。ごめんね。ちょっと事故っつーかさ。うん、マジでありえないわ。はーい。じゃ」


『俺は悪くねーからな』

「はぁ!?ふざけないでよ。怪我までさせといて!」

『おまえ、最低な女だな』

「あんたに言われたくないわよ!」

『あー!もうっ』


運転手がビクビクしてるのがなんとなく分かった。

20分程で学校へ着いた。


『…運転手さんいくらー?』

「これ!」

『はい?』

「タクシー代よ」


私は男にお札を投げ付け、学校の中で駆け足で向かった。


手首はどんどん晴れ上がっていた。教室へ向かう前に保健室へ向かった。

捻挫と言われ、包帯をぐるぐる巻かれた。

そして、教室へ。クラスの皆に心配してもらった。あの男とは大違いだ…


お昼。食堂へ向かい、財布を開いた時に異変に気付いた。

お金がない!!何故だ!?確か、今朝…1万を財布に入れて。


「あっ!!」


あいつに投げ付けたお札…あれ、1万円札だったんだ。

1千円札だとばっかり。お昼は友達にオゴってもらった。

もう、最悪だ。


放課後。早く家に帰ろう!そう決めて、教室を出ようとした時だ。

男が迎えに来てる~と誰かが叫んだのは…

女子高となるとどんな男1人でも誰もが食いつく。私も興味ありありだ。

どっちにしろ、校門に行くわけだから、ちらっとぐらいは見えるだろう。そう思った。

情報というものは早い。何人もの女が集まっている。


『よぉ』

「うっわ…なんであんたがいんのよ~」


そこにいたのは今朝の男!!


『男に飢えた女だらけなんだな、女子高って』

「う、うるさいわね。ていうか、何でいるの」

『腹減ってない?近所にパン屋有るじゃん?あそこで何か食わない?』

「え!?」

『決定~。行くぞ』


無理やりカバンを奪い、男は歩き始めた。

仕方なく後ろから着いて行く。


『すげーな。包帯』

「捻挫だって。本当痛い。早く帰りたい」

『パン食ってからな。せっかく、金も有るし』

「…あっ!!お金っ」

『何だよ。タクシー代だろ?』

「間違えたのよっ」

『貰ったもんは返さない主義なんで』

「そ、そんな困る!一生懸命バイトして貯めたお金…」

『援交?』

「違う!!ねぇ、早く返してよ」

『へいへい』


しぶしぶ財布を取り出し、私へ1万円札を返した。


「…パンおごるわよ」

『ラッキー』


男はメロンパンとコロッケパンを選んだ。私は疲れがどっと出てて、食欲がなかった。


『メロンパンってさー、メロンの果汁は入ってるのかな。あと、うなぎパイってうなぎ入ってんのかな!』

「知らないわよ…早く食べちゃってよ」

『一口食う?』

無邪気な笑顔で食べかけのメロンパンを差し出された。

「もらっとく」

そう言い一口貰った。メロンパンの甘さが口の中に広がる。


『間接キス。なーんちゃって』

「ぶっ…あんた、何言ってるの!?」

『そんな慌てんなって~』

「…もうっ」

『さて、行きますか』


ご丁寧に男は私の家まで送ってくれた。


『じゃ、姫!』

「誰が姫よ!!」

『ふふっ。ごめんって。今日はマジでごめんね』

「もう、今更謝られたって遅いよ。じゃあね」

私は家の中へ入った…



翌日、駅で見た昨日の男の足には包帯が…


「お、おはよ!」

『おっ、やっほ~』

「足…どうしたの?もしかして、あんたも昨日ので?」

『君は手首!俺は足首!!ありえねえよな』

「いい気味。あはは」

『可愛くねぇ女だな…』

「その足、踏むわよ?」

『あ~すいません!ほら、行くぞ』


それから何か知らないけど、2人で登下校するのが当たり前になってた。

日にちを重ねる内に私は気付いた。

もともと、私がいけなかったんだと。男は私に何度も呼びかけてたみたいだし。

でも、音楽に夢中になってて。それは言い訳にしか過ぎないけど…

何で今まで変な意地張ってたんだろう。


もうお互いに怪我が治る頃にその事に気がついた。帰りに私は男に言った。


「ねぇ」

『ん?』

「ごめんね。私なんだよね、実際の原因って…でも、あんたが悪いって一方的に決め付けちゃって…」

『なんだ、いいのいいの』

「でも…」

『第一印象はさ、お互い最低だったけど今じゃあの日のことが有って良かったって思うよ』

「そっか。でもさ、怪我が治ったらもうさよなら?」

『何だよ、俺のこと嫌いだろ?迷惑になるといけねーから立ち去るよ』

「な、なんで!?そりゃ、最初は嫌いだったけど…今は!!」


今は…?


『俺も同じ気持ちだよ』


ニコりと男は笑って私を抱きしめてくれた。

手首に包帯の女、足首に包帯の男。包帯が取れるまで私達は包帯カップルと呼ばれた。

付き合ったきっかけは小さな事故。初めて言われた言葉はブス。

最悪な日々が始まると思ったその日…

それは、最高な日々が始まるという合図だったのかもしれない。

きっかけ

騒がしいお昼休みの教室。


あんたメールばっかりで携帯が友達って感じだよ~。やだ、やめてよ~。

ふざけ合う女子達を横目に私は本に目を走らせた。


あいつは完全、本しか友達いないんじゃない。

誰かが言った。私のことだ。


それに否定は出来なかったし、否定しようとも思わなかった。

別に言っても何も変わりはないのだから。

好きな様に言わせて好きな様にさせとけば良い。

それが彼女らにとっての幸せなんだから。


時計を見た。授業まであと、10分ある。

こんな教室の中にいても楽しく読書出来るわけがない。

何処か良い場所は…


図書室だ。


昼間なのに、ちょっと薄暗い廊下を通って図書室へ向かった。

図書室を利用する生徒は少ないのだろうか?中には誰もいなかった。

ちょっとホコリっぽくて、窓から入る太陽の光が暖かい。

良い場所見つけた。なんだか自分だけの特別な場所の様な気がした。


その日からそこが私の居場所になった。


放課後もそこに行って本を読む。

本当に誰も来ないんだな~と思っていたその時だった。


『誰かいますかー?っていないと思うけど…』

「あ…」

『おっ!いた』

「す、すいません」


優しそうな男の子がいた。

もしかしたら邪魔なのかもしれない。この場から黙って去った方が良いと思った。

私が図書室から出ようとした時だった。


『ちょい!!』

腕をぐっとつかまれた。

「えっ?」


『本読んでたんだろ?いいよ、邪魔はしないから』

「あ、はい…」

『図書室使う子いたなんて、意外だよ。1年生の子?』

「はい…」

『じゃ、1個下か。俺ね、たまに図書委員って言い訳作ってここに寝に来るの』

「はぁ。。」

『だーから、俺来てもお構いなく』

「わ、分かりました」

『じゃ、寝るから』


よく分からないが、そう言い残して男の子。いや、先輩はよく日が当たる机へ行き眠りについた。

異性とまともに喋ったことなんてなかった。

いつも暗くて気持ち悪いとかで相手にしてもらったことすらもなかったからだ。


1時間程だろうか、熱中してた本から目を外し先輩を見たのは。

子供みたいにすやすやと寝息を立てて眠るその寝顔。

私はその日から、先輩に惚れた。

この私が恋をした。嘘みたいな出来事がたった今起きた。これが恋なのか…

なんて考えてると…


『ん…』

「お、おはようございまっ…」

『おはー。それより、今何時…?』

「6時半ぴったりです」

『嘘っ!?うわ、バイト!!』

「あの」

『何っ!?』

「よだれ付いてますけど」

『えっ!あ、ありがと』

「いえ」

『じゃ!えっと、いつもここにいんの?』

「はい。お昼も」

『そっか。俺もまた来るわ!』


慌しく先輩は去って行った。若いのにバイトなんて、苦労してるんだなぁ…

そういえば、また来るって言ってた。また会えるってことか。

ここへ来る楽しみが一つ増えた気がした。


次の日のお昼。私はお弁当を持って図書室へやって来た。


『やっほー』

先客が居たので驚いた。昨日の先輩だった。


「どうしたんですか?」

『午後からサボろうと思いましてね。お昼もここにしようかなと』

「そうなんですか…」


『邪魔かな。あっ!これ、1個あーげる』

先輩はにこりと笑ってコロッケを一つくれた。

「あ、ありがとうございます」


『調子乗って買い過ぎたんだ。飯、いつも1人なの?』

「はい。。」

『1人のが気楽とか?』

「そ、そうですね」

『俺いちゃ悪い?』

「いえ!そんな。私、楽しいしっ!!」

『よかった~。ありがと』


私と先輩はいろんなことを話した。

人と接することってこんなにも楽しいんだと思った。

次の時間の予鈴が鳴った。


『授業遅れちゃうよ』

「私も…サボっちゃおうかな」

『だーめ。俺みたいになっちゃうよ』

「でも…」


私はただ先輩ともっと話していたかった…


『しゃーないな。まったく』

「え?」

『俺も授業出るから。ほれ、行くぞ』

「すいません…」

『良いんだよ。なっ?』


かっこ良過ぎます…先輩。初恋の相手がこんな先輩なんて。

先輩はわざわざ私の教室まで送ってくれた。

私と先輩という組み合わせにクラスは騒然としていた。

先輩はもともとあの陽気で誰からも好かれるキャラで校内でも有名人だったらしい。


もしかして付き合ってるのかな。やめてよ~あんなのが先輩と釣り合う訳ないじゃん。

てか、先輩も可哀想~。あいつもちょっと調子乗ってるんじゃん?ふざけんなだよね。

おい、あいつが先輩と?笑わせてくれるよな。俺、出来ないに百票入れるわ!ははは。


クラスのメンバーが次々と騒ぎ出す。黙ってれば関わらなくて、済む…

でも、私には。。



「私は、先輩が好きだから!何がいけないのっ!?あなた達に指図されたくないわ!!」



教室は静まり返った。

勇気はちょっとのことじゃ出せないかもしれない。

でもね、好きな人の為だったらいくらでも出せるんだよ。



『ふふっ…愛の告白かな?』



「先輩っ!教室、帰ったんじゃ…」

『本、俺持ってたから返しに来たんだけども。様子見させてもらった』

「嫌ですよね。私みたいな、弱くて嫌われ者なんて」



『あの愛の告白見て、断るなんて出来ないでしょ。ん~!やっぱ、サボるか』

「…はい」




きっかけはほんの小さな勇気だった。


そうそう、告白を終えて数日後。びっくりしたことが有った。

『実は狙ってたんだよね。図書室入ってくのも尾行して突き止めたんだよ、俺』

「え!そうなんだったんですかっ」

『それにしても、懐かしいなぁ…いつも物静かなのにあんな堂々と愛の告白しちゃって、俺幸せだわ~』

「やめて下さい、恥ずかしい…」

『まぁ、一応俺にも言わせて欲しいんだけど』

「え?」


『愛してるよ』


私も先輩が大好きです。

心の中でそうつぶやきました。

別れ話

僕には付き合って2ヵ月になる彼女がいます。

傍にいると猫の様にいつも寄り添って来て、本当に可愛くて。

優しいし、文句の付けようがないぐらいの自慢の彼女です。


今日もいつもの様に僕の家で2人でのんびり。


『ふぁ…』

僕のあくびを見て、彼女は…

「いつもお仕事大変だもんね。疲れてるでしょ…?」

とそっと頭を撫でてくれた。

『ありがと。でも、仕事疲れはお互い様だから。君の方も大変だしね』


「ん…ねぇ、新作のネックレスが出たの」

『欲しいの?』

「すごい可愛いんだよぉ」

『でも、この前買ってあげたよね』

「えー。欲しいよ~」

『我慢しなさい』

「そう。なら別れるわ」

『いや、待ってよ。冗談だよ』

「だよね。私のこと愛してくれてるんだもんね。ありがとう、大好き」


と言って、彼女はキスをして来た。

軽いキスからだんだんと長い時間のキスへ変わり、そっと胸の方へ手を持っていく…


「あっ…」

『ん。』

「ちょっと待って」

『え?どうしたの?』

「用事思い出しちゃった。帰る」

『そ、そうか』

「じゃあね。ん~次会う日は来週の水曜にしようか。その時にネックレスも買ってね。じゃ!」


この所、彼女に良い様に自分が利用されているのではないかと思わされることが度々ある。

でも、そんなことは信じられなかった。彼女の大好きという言葉が頭から離れない。


次の水曜日、約束通り僕は彼女へネックレスをプレゼントした。

嬉しそうな彼女の顔。愛しくてたまらない。


「ありがと。どう、似合う?」

『うん、とてもよく似合ってるよ』


「じゃ!」


『え…?この後、食事とか行こうよ』

「予定入ってんだよね、ごめんね」


彼女は早足で行ってしまった。せっかく会えたと思ったのに。

今月の給料も彼女へのプレゼントで半分程消えてしまった…でも、彼女の笑顔の為なら。



その何日か後、ぱったりと彼女との連絡が途絶えた。なんだろうか、この絶望感…

僕は彼女を必死で探した。しかし、見つけることが出来なかった。

1ヵ月後、仕事帰りのことだった。

楽しそうに他の男と喋っている彼女の姿が有った。


『探したよ』

「あ…」


誰だよこのださい男~と笑う男に僕ははっきりと、

『この子の彼氏です』

と答え、僕は彼女の腕を引きその場を後にした。



「ねぇ、痛いよぉ…」

『ごめん。でも、さっきの男は何だい?』

「しつこいナンパ男よ。もう、手離して」

『ずっと探したんだよ。何か有ったの?』

「風邪引いて寝込んでただけ」

『もう大丈夫…?こんな格好でまた風邪引いたら』

「平気だから。離してってば!」


無理やり僕の手を振り解いて、彼女は走って行った。

追いかけて行ったら嫌われてしまうだろうか?そんな不安がよぎり僕は動けなかった。


その何週間後、彼女から連絡が入った。

「すっごい可愛い指輪が出たの。店員さんがね、この指輪はぁ私の為にあるようなもんだっていうぐらいで」

『分かった…』

この前のことも有って、素直に言うことを聞かないと嫌われると思った。


指輪を手に入れた彼女は満足げだった。

そして、いつものように大好きと笑顔で言って何処かへ行ってしまった。

『あ、しまった…』

財布を見ると空だった。仕方なく銀行へ行くことにした。


その時、僕がプレゼントした指輪を自慢げに見せながら友達と話す彼女の姿が有った。

僕は何も言わず、その様子を見ていた。


「本当さ、バカ。あいつ、私に振られるのが怖くて仕方ないのよ。絶対、童貞だし。あんなキモいのと本当に好きで付き合うわけないじゃない」


少しだけど、勘付いてはいた。僕はただ良い様に利用されていただけだったんだ。

僕は怖かった。そんなの信じたくなかった。でも、もう遅いんだ。

呆然と立ち尽す僕に彼女は気付いた様で慌てて、僕のもとに駆け寄ってきた。


「あれ?ど、どうしたの?」

『さっきのこと…』

「え、あ、あれは。他の人のこと。あなたのことじゃないよ。ねっ!好きだから、安心して」

『もう、君のことは信用出来ない、さよなら』



この別れをした後、僕は何か心の重荷が取れた様な感じがした。

そして、僕は次は嘘の恋愛なんかしないで、ちゃんとした恋愛をするんだと決心した…

約束

『僕達いつか結婚しようね』

「うん!」





いつだったか…幼稚園だったかな。

近所に住む幼馴染に言われたんだ。


小学校低学年までは同じクラスでいつも一緒に学校に行って、遊んだり。

高学年になってクラスが離れてからはだんだんと距離が離れていった。

いつの間にか中学生になって高校受験をして…


幼馴染とは隣には住んでたものの顔も合わせることがなく。

いや、私が避けていたのかもしれないけど。


そして、春…私は第一志望の高校に無事、合格して高校生になった。

中学の時に出来た親友とも同じ高校の同じクラスになった。


初日。

深呼吸をして、教室へ入る。黒板に貼ってある紙で自分の席を確認して腰を下ろす。

親友はまだ来ていなかった。教室は変な感じで、居心地が良いとは言えなかった。

空気が重い感じ…みんな、これからの高校生活が不安なんだと思った。


『久しぶり!』

静かな教室の中で後ろから明るい声がした。

「え?」

振り返ると、隣の幼馴染がいた。


『やっぱり同じ学校だったんだ。今朝、ここの制服着てるの見えたから』

「う…ん」


やばい、久しぶり過ぎてなんて話して良いのか分からない。

幼馴染の無邪気な笑顔が更に私を混乱させる。

なんて言ったらいいんだろうか。というか、なんで同じ高校なの!?

どうしていいのか分からなくなっている私に幼馴染は追い討ちをかけるようにこう言った。


『俺ね、未だに好きなんだよ。付き合って欲しいんだ』


教室がざわつき始めた。

「ちょっ!ちょっと待って!!」

自然と顔が真っ赤になる。


『嘘じゃないよ。俺ね幼稚園の頃からずっーと思ってる』

「ねぇ…何言ってるのよ」


そこに親友が入ってきた。私は彼をきっと睨んだ。

親友は私を見つけ、手を振ってきた。私はにこりと何事も無かったかのように返した。


入学式前にこのクラスの委員長と副委員長の発表があった。

私はここ何年か生きてきていろんなことが有ったけど、ここまで運が悪かったことは初めてかもしれない。

私は副委員長になってしまった…人を仕切ることなんて今までやったことがない、この私が。


しかも、委員長にはさっき告白してきた幼馴染が。ちなみに試験の出来で決定された。

私と幼馴染は1点差で接戦だったらしい。


『宜しくね、副委員長さん』

「…宜しく」


誰もいないところだったら殴ってやりたかった。

しかし、初日にそんなことをしたら私のイメージは最悪だ。必死で押さえた。


その日からだ。朝も帰りもくっつて来るし、お昼も一緒に入ってくるし。

更には同じ部活にまで…こいつはストーカーかと思う程だった。

雨の日の放課後。私はクラスの掲示物を作っていた。クラスのみんなは帰った後だった。

幼馴染はその日珍しく姿が見えなかった。委員長と副委員長が頼まれた仕事なのに…

マーカーのキツイ臭いが鼻をつく。


ガラガラっと教室のドアが開いた。

そこには幼馴染の姿。


『お疲れ様♪』

「あ!何処行ってたのよ」

『差し入れで御座います~。これ、好きだよね?』

コンビ二の袋から取り出されたスナック菓子は確かに私の好物だった。

「こんなの買ってる時間あるなら早く手伝ってよ」

『ごめんって。後は俺やるから、そこでこれ食べててよ』

「まったく…あとは鉛筆んとこマーカーでなぞるだけだからね」


幼馴染は着くなり、すぐに作業に取り掛かった。

前はこんな人だったか…


『美味しい?』

「うん。幸せ~」

『そっか。良かった』

「ねぇ、なんで私なの?他にもいるでしょ。女なんか」

『俺には1人だけなの』

「ふーん」

『本当に覚えないの?』

「いつのこと?」

『幼稚園…』

「そんなの覚えてるわけないじゃんよ~」

『俺、待ってるからね。いつか振り向いてくれること!』

「はいはい」


私は軽く流してしまったが、幼馴染の一言はとても胸に響いた。

こんなに思ってくれる人は初めてかもしれない。

もくもくと作業をする幼馴染を私はそう考えながら眺めていた。


『よっしょ!終わった~』

「お疲れ様。さて、帰ろうか」

『あ。雨降ってたんだっけ…』

「私、折りたたみ傘あるよ」

『頼むっ!入れて』

「いつもなら断ってたけど、今日は差し入れのお礼にね」


さすがに高校生2人だと狭い。

周りから見たら絶対にカップルに見えるんだろうなと私は思った。


『かっこ悪いよな~。男が傘貸してもらうなんて』

「本当。昔もこんな感じだった気がする」

『何か忘れたらいつも貸してもらってたりな』

「変わってないね」


その時、ふと幼稚園時代の自分の姿が浮かび上がってきた。

黄色い小さな傘。ピンクの長靴…

そして、傘に入れてあげたびしょ濡れの男の子は。。今、隣にいる幼馴染…?

思い出した…その言葉は私からだった。



「ケッコンって知ってる?」


『なーに?』


「好きな人とね、ずっーと一緒になることなんだよ」


『じゃあさ、じゃあさ!』


「うん?」


『僕達いつかケッコンしようね』


「うん!」


『約束だよ』


「ゆびきりげんまんね」



私だ。もともと私の方から好きになって、こんな発言をし出したんだ。

急に恥ずかしくなり、幼馴染を愛しく感じた。


『ねぇ、どうしたの?』

急に黙っていた私に幼馴染が声をかけてきた。


「え、あぁ。思い出したの。昔のこと…」

『ん?』

「ゆびきりげんまんしたよね?」

『やっと思い出してくれたんだね』



「約束だからね」


この日から付き合うことになった私達。

数年後にしっかり約束を果たしたのでした。

距離

私と彼は遠距離恋愛。



高校生の時に付き合い始めて、4年…

私はデザイナーになる為、今は海外に住んでいる。

彼は東京でファッション雑誌の編集をしている。


お互いに服が好きで、デートの時はいろんなお店を回って服を見て勝手に評価したりした。

今ではそんなことももちろん出来ない。それに、国際通話だとお金もかかるので声も聞けない。

唯一の手段といえば、手紙とメールぐらい。

今じゃ、簡単にメールに写真を付けれるようになったから、お互いに元気な姿とか送りあう。



会いたい…


始めの頃はいつもそうだった。

泣きながら電話した夜が何日も有った。

彼はいつも、うんうんと優しく聞いてくれて、私が寝るまで電話を繋いでいてくれた。

でも、今ではすっかりこの環境にも慣れて、忙しさも増したから会いたいなんて思ってる時間さえ無かった。


そんなある日だった。

「仕事で、日本にですか!?」

日本の有名なデザイナーが10年ぶりに新作の発表会のイベントをやることになったのだ。

私にももちろん参加して欲しいとお呼びがかかった。

返事は決まっていた。YESだ。


もう、国際電話だから高くて話せないなんて言ってる場合じゃなかった。


「もしもしっ!!」

『えっ…久しぶり!うわ、どうしよ。でも、今ごめん。仕事だから後で』

ブチンッと切られた。そっか、仕事。


それから、3時間後ぐらいにメールが入った。

【どうしたの?】


彼に電話をする。久々に聞く懐かしい声にドキドキしてしまった。


「私ね、来月の始めに日本へ行くの!」

『えぇっ…』

「どうしたの?」

『いやーなんか、嘘みたいで。嬉しいよ、俺』

「本当、久々だよね」

『空港まで迎え行くわ』

「うん。じゃー約束ね」

『おう』



会えるんだー。もうすぐ。


彼の事ばかりが気になる。仕事だけど、どうしてもそっちばかりに気が散る。

その日から私は気が抜けたのか失敗ばかりを繰り返すようになった。

その失敗はすぐに上の方へバレた。

次やったら日本へは行かせないときっぱり言われた。


反省し気合を入れて前よりも更に的確に早く仕事をこなした。


私はあれから何も失敗もせず、無事に日本へ行く日が来た。

彼や実家、地元の友達へのお土産も沢山買った。


空港へ行くと、何やら騒がしかった。

どうしたんだろうねと軽い気持ちで仲間と話していたところ、

私達が乗るはずの飛行機がエンジントラブルで他の空港へ緊急着陸したという。

まさか…でも、すぐに他の便がある。と思ったがそんなに上手くは行かなかった。

日本へは今日行かないと、イベントに間に合わない…しかし、飛行機がない。

上司が申し訳なさそうに、日本へ行くのは中止だと言った。


ただ1人の日本人で、今回1番に日本へ行くのを楽しみにしていた私。

正直なところ、ショックを隠し切れなかった。

仲間達はみんなで私を励ましてくれた。上司も次の機会がある時にと言ってくれた。


私は1人空港に残った。大きな空に飛び立つ飛行機を眺めていた。

結局、行けなかった。あんなに頑張ったのに。


会いたかったのに…



その時、携帯が鳴った。彼からだった。


「もしもし…あのね、私…」

もう、泣きそうだった。


『明日のその時間。そっちの空港にいろよ?』

「え?何?」


話の内容が理解出来ないまま電話が切れた。

いったい何だろう…?

その日は大人しく家へ帰って、魂を吸い取られたかのようにぼっーとしてた。

横になっているのに眠れず、いつの間にか朝になっていた。


彼が言ってた言葉の意味。あれはいったい何だったんだろうか。

仕事に行かなくてはいけないことぐらい分かっていた。

しかし、自然と体が空港へ向かわせた。


昨日と同じ場所で飛行機を見ていた。

それにしても、空港の中っていろんな国の言葉が飛び交う。


『だから~!何て言ったらいいんだろうな…ビックファッションビル!!!』


あ、日本人もいるみたい。それにしても何?ろくに英語も話せなくて。

どんなバカな顔をしてるんだろうと振り返ると、そこには彼がいた。


「あっ!!」

『ああっ!!!』


2人で大声を上げると周りに居た人達は驚いて振り向き、笑っていた。


『よかった~。俺、1人じゃだめだわ、やっぱ』

「何で、何でいるのよ~」


泣きながら彼の胸の中に飛び込んだ。


『日本来るっていう電話貰う前に実は内緒でチケット買っててさ。それがまぁ昨日、こっち来れなくなったろ?じゃあ、チケット無駄にするわけにも行かないし俺から行こうってさ』


「なんで、知ってるの…」

『そんなのインターネットで検索すりゃすぐ出るさ。俺、ずっと会いたくて待ちきれなくてさ』


「なんで、わざわざ来たの…?」

『うわ~ひどいなぁ。今日、記念日だぞ。5年目の!』

「え。もう、そんなに?」


『5年目の記念日にもう1個記念作っていいかな?』

「ん?」


私はドキドキしながら彼のことを見つめた。


『これだけ付き合ってるだろ?』

「うん…」


彼から出た言葉は私が予想だにもしてないものだった。

『結婚しようか』



涙が止まらなくなった。嬉しくて、嬉しくて。

彼は指輪をそっとはめてくれた。

私は今、世界一の幸せ者だと思った。


そして、数ヵ月後に私達は結婚した。

大好きな私の彼は彼氏から旦那さんになった。