きっかけ | チェリーブロッサム

きっかけ

騒がしいお昼休みの教室。


あんたメールばっかりで携帯が友達って感じだよ~。やだ、やめてよ~。

ふざけ合う女子達を横目に私は本に目を走らせた。


あいつは完全、本しか友達いないんじゃない。

誰かが言った。私のことだ。


それに否定は出来なかったし、否定しようとも思わなかった。

別に言っても何も変わりはないのだから。

好きな様に言わせて好きな様にさせとけば良い。

それが彼女らにとっての幸せなんだから。


時計を見た。授業まであと、10分ある。

こんな教室の中にいても楽しく読書出来るわけがない。

何処か良い場所は…


図書室だ。


昼間なのに、ちょっと薄暗い廊下を通って図書室へ向かった。

図書室を利用する生徒は少ないのだろうか?中には誰もいなかった。

ちょっとホコリっぽくて、窓から入る太陽の光が暖かい。

良い場所見つけた。なんだか自分だけの特別な場所の様な気がした。


その日からそこが私の居場所になった。


放課後もそこに行って本を読む。

本当に誰も来ないんだな~と思っていたその時だった。


『誰かいますかー?っていないと思うけど…』

「あ…」

『おっ!いた』

「す、すいません」


優しそうな男の子がいた。

もしかしたら邪魔なのかもしれない。この場から黙って去った方が良いと思った。

私が図書室から出ようとした時だった。


『ちょい!!』

腕をぐっとつかまれた。

「えっ?」


『本読んでたんだろ?いいよ、邪魔はしないから』

「あ、はい…」

『図書室使う子いたなんて、意外だよ。1年生の子?』

「はい…」

『じゃ、1個下か。俺ね、たまに図書委員って言い訳作ってここに寝に来るの』

「はぁ。。」

『だーから、俺来てもお構いなく』

「わ、分かりました」

『じゃ、寝るから』


よく分からないが、そう言い残して男の子。いや、先輩はよく日が当たる机へ行き眠りについた。

異性とまともに喋ったことなんてなかった。

いつも暗くて気持ち悪いとかで相手にしてもらったことすらもなかったからだ。


1時間程だろうか、熱中してた本から目を外し先輩を見たのは。

子供みたいにすやすやと寝息を立てて眠るその寝顔。

私はその日から、先輩に惚れた。

この私が恋をした。嘘みたいな出来事がたった今起きた。これが恋なのか…

なんて考えてると…


『ん…』

「お、おはようございまっ…」

『おはー。それより、今何時…?』

「6時半ぴったりです」

『嘘っ!?うわ、バイト!!』

「あの」

『何っ!?』

「よだれ付いてますけど」

『えっ!あ、ありがと』

「いえ」

『じゃ!えっと、いつもここにいんの?』

「はい。お昼も」

『そっか。俺もまた来るわ!』


慌しく先輩は去って行った。若いのにバイトなんて、苦労してるんだなぁ…

そういえば、また来るって言ってた。また会えるってことか。

ここへ来る楽しみが一つ増えた気がした。


次の日のお昼。私はお弁当を持って図書室へやって来た。


『やっほー』

先客が居たので驚いた。昨日の先輩だった。


「どうしたんですか?」

『午後からサボろうと思いましてね。お昼もここにしようかなと』

「そうなんですか…」


『邪魔かな。あっ!これ、1個あーげる』

先輩はにこりと笑ってコロッケを一つくれた。

「あ、ありがとうございます」


『調子乗って買い過ぎたんだ。飯、いつも1人なの?』

「はい。。」

『1人のが気楽とか?』

「そ、そうですね」

『俺いちゃ悪い?』

「いえ!そんな。私、楽しいしっ!!」

『よかった~。ありがと』


私と先輩はいろんなことを話した。

人と接することってこんなにも楽しいんだと思った。

次の時間の予鈴が鳴った。


『授業遅れちゃうよ』

「私も…サボっちゃおうかな」

『だーめ。俺みたいになっちゃうよ』

「でも…」


私はただ先輩ともっと話していたかった…


『しゃーないな。まったく』

「え?」

『俺も授業出るから。ほれ、行くぞ』

「すいません…」

『良いんだよ。なっ?』


かっこ良過ぎます…先輩。初恋の相手がこんな先輩なんて。

先輩はわざわざ私の教室まで送ってくれた。

私と先輩という組み合わせにクラスは騒然としていた。

先輩はもともとあの陽気で誰からも好かれるキャラで校内でも有名人だったらしい。


もしかして付き合ってるのかな。やめてよ~あんなのが先輩と釣り合う訳ないじゃん。

てか、先輩も可哀想~。あいつもちょっと調子乗ってるんじゃん?ふざけんなだよね。

おい、あいつが先輩と?笑わせてくれるよな。俺、出来ないに百票入れるわ!ははは。


クラスのメンバーが次々と騒ぎ出す。黙ってれば関わらなくて、済む…

でも、私には。。



「私は、先輩が好きだから!何がいけないのっ!?あなた達に指図されたくないわ!!」



教室は静まり返った。

勇気はちょっとのことじゃ出せないかもしれない。

でもね、好きな人の為だったらいくらでも出せるんだよ。



『ふふっ…愛の告白かな?』



「先輩っ!教室、帰ったんじゃ…」

『本、俺持ってたから返しに来たんだけども。様子見させてもらった』

「嫌ですよね。私みたいな、弱くて嫌われ者なんて」



『あの愛の告白見て、断るなんて出来ないでしょ。ん~!やっぱ、サボるか』

「…はい」




きっかけはほんの小さな勇気だった。


そうそう、告白を終えて数日後。びっくりしたことが有った。

『実は狙ってたんだよね。図書室入ってくのも尾行して突き止めたんだよ、俺』

「え!そうなんだったんですかっ」

『それにしても、懐かしいなぁ…いつも物静かなのにあんな堂々と愛の告白しちゃって、俺幸せだわ~』

「やめて下さい、恥ずかしい…」

『まぁ、一応俺にも言わせて欲しいんだけど』

「え?」


『愛してるよ』


私も先輩が大好きです。

心の中でそうつぶやきました。