冷笑的応援歌 | 桂米紫のブログ

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米朝一門の落語家、四代目桂米紫(かつらべいし)の、独り言であります。

「落語に悪人は出てこない」とか、「落語の笑いは温かい」とか、「落語の笑いは人を傷つけない」とかいう感想をよく耳にしますが、個人的には「何ぬかしてけつかんねん」と思っています。

落語の登場人物たちは、総じて卑小で小狡くって小賢しくって……その上どうしようもないマヌケで(だからこそ可愛いのですが)、とても人から尊敬されるような存在ではありません。
そして落語の笑いは、人畜無害で温かな“羊の皮”を被ってはおりますが、その実毒に満ちてシニカルな“狼”だと、僕自身はそう思っています。

でも、落語の何がすごいって、落語は綺麗事を並べ立てたりはしないのです。

世の中の理不尽や不条理を、落語はさりげなくサラリと描きます。
埋まらない貧富の差とか、報われない努力とか、分かり合えない気持ちとか、通じない思いとか……そういう日常に溢れた悲しみを、決して湿っぽくなく「世の中ってそういうもんでしょ?」と、カラッと描いてみせるのです。

世の中の理不尽や不条理に立ち向かうには、それらを笑い飛ばしてしまうことが最も有力な手段だと、落語の作者たちはきっと解っていたのでしょう。

なので落語の笑いは、「生き辛さを抱えて生きる人たちへのエール」みたいなものだと思っています。


※あくまで個人の感想です。効果には個人差があります。