がんばれあおば | 桂米紫のブログ

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米朝一門の落語家、四代目桂米紫(かつらべいし)の、独り言であります。

今日はざこば一門の後輩・桂あおばくんに落語のお稽古を付けさせて戴いておりました。

教えているこちらも勉強になるのが落語のお稽古。なので不肖私のような者も、可能なネタであれば出来る限りお稽古に応じさせて戴くようにしています。もちろんネタによっては「そのネタは○○師匠のところへ行った方がいいよ」と、ご辞退する事もありますけど。…ええ、あんまり自信のないやつはね。

あおばくんには以前にも数本お稽古を付けさせて戴いてるのですが…今回の演目は彼の希望で「ねずみ」。
これは先代の故・歌之助師匠から戴いた、大好きなネタです。二十年程前、弟子修業明けたてのクソ前座時代の僕の無理な注文を聞いてくださって、懇切丁寧に教えてくださいました。クソ中堅になった今もとても大事にしているネタです。

このネタ“人情噺風の滑稽噺”とでも申しましょうか、途中とても悲しい笑いのないシーンがそこそこの時間ありまして、そこを持たせるのがまず難しい。そしてそこを乗り越えた後に再びふわっと笑いのシーンをウケさせるのが難しい…という、ミルフィーユ仕立ての難しさで、前座時代は僕も大変苦労しました。いえ、今でも難しいネタだと思っています。

ところで桂あおばくんというのは、テキトーな男です。
いきなりで失礼しました。でもほんとです。
とにかく雑ですし、めちゃくちゃいい加減なところがある。まぁ可愛いげはあるんでどこか憎めないんですけど…それにしてもテキトー。
上手く世間を渡ろうとしてるんですが、どこかでそのテキトーさが仇をするもんだから、師匠にも始終怒られてる。もう一回書きますね。ほんとテキトー。

でも僕は、彼の人間性が嫌いではありません。
“芸は人なり”ですから、人間性の悪い奴の落語はどれだけ世間で評価されてようが、やっぱりどこか気持ちの良くないもんです。
でも彼は、テキトーですけど情はある男だと僕は思ってますから、きっと努力すれば人の心を打つ落語は出来るはずだと思うのです。

今日は四回目のお稽古で、ネタが上がるのはまだ来年の話ですが、落語の中に彼の優しさが滲む瞬間が、今日は何度かありました。技術の巧さだけでは出せない人間味みたいなもの。

きっと彼の「ねずみ」は、いいネタになると思います。
あおばくんが「ねずみ」を演じる時には、どうか是非観に行ってやってください。

…まぁ、テキトーな奴なんですけどね。