極楽ランドの灯は消えて | 桂米紫のブログ

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米朝一門の落語家、四代目桂米紫(かつらべいし)の、独り言であります。

仏団観音びらきの記念すべき第10回公演『蓮池温泉 極楽ランド』…お陰様で無事に、千秋楽を迎える事が出来ました。

ご来場くださった全てのお客様、ご尽力くださった全てのスタッフさん…そして、金にもならねぇのに最高のスキルを発揮してくれた、素敵な素敵な客演の皆さんに、心から御礼を申し上げます。


仏団のお芝居が面白いのは、ご覧くださったお客様の感想が「これ、ほんとに同じ芝居観た感想か!?」というぐらいに、意見の分かれるところであります。

もちろん皆さん「面白かった」とは言ってくださるんですが(まぁ中には怒って帰ってる人もいるかもしれませんけど…)、その「面白さ」にも、ざっくり分けて二つの種類があるのです。


まずは「悪趣味だけど、とにかくバカバカしくて笑った」というご意見。
いやー、これ程仏団観音びらきを端的に言い表した感想もございませんね。

爽やかな「ボーイ・ミーツ・ガールもの」とか、また三谷幸喜の劣化コピーみたいな「ハートウォーミングなコメディ」には、仏団は全く興味がありません。

体裁なんかかなぐり捨てた登場人物達が、欲望の赴くままに、エゴ丸出しで、ゲスに下品に感情を爆発させます。
そしてまるで、黎明期の小劇場演劇に先祖返りしたかのような、見世物精神とアングラ感。

まずはその原色ゴテゴテのくだらなさに、大笑いしたり…また軽くドン引きしてもらえれば、我々としても嬉しい限りであります。


しかしその一方で、「心に突き刺さるお芝居で、泣けて泣けて仕方なかった」というご感想をお漏らしの方も(小数派ながら…)、確かにいらっしゃるのです。

ここが座長である本木香吏の、イジワルな…いえ、小ズルい…いやいや、巧妙なところ。


仏団のお芝居の登場人物達は、皆明るく陽気でエネルギッシュに見えて、その実一様に、心に深い闇を抱えています。

リア充の人達にはなかなか理解してもらえないだろう、そんな深い深い“闇”の部分こそが、仏団のお芝居のスパイスなのです。

知らず知らずのうちに、自らの欲望とエゴに、まるで蜘蛛の糸に捕われた羽虫のように絡まって、身動きが取れなくなってしまう…そんなマヌケで憐れで不器用で、でもどこか憎めない登場人物達が悶々ともがき苦しむ姿は、観る人によってはとても他人事ではないのです。


今回の『蓮池温泉 極楽ランド』は、9年前に初演された『蓮池極楽ランド』というお芝居の再演。
初演時にも同じ役を演らせて戴いたのですが…今回大幅にリニューアル&ブラッシュアップされ、登場人物達の“闇”が、より掘り下げて描かれております。

物語の終盤、人生に行き詰まった登場人物達に、主人公である「蓮池グランドホテル」の女将の狂気が次第次第に伝染してゆき、観音像の前で懺悔を口にするシーンでは、“叶わぬ夢”の様々なバリエーションが展開されます。

そして、全てが破壊された末に訪れる、吹っ切れたようなハッピー・エンド…と見せかけておいての、何一つ成長しない、人間の業。


自分の劇団を褒めるなんて、それこそエゴの極みかも知れませんが…『蓮池温泉 極楽ランド』は、これまでの仏団観音びらきの集大成であると共に、座長・本木香吏のマスターピースだと思います。


そんな『蓮池温泉 極楽ランド』…三ヶ月後ぐらいには早くもDVDが発売される予定ですヨ。
また詳細が分かりましたらお知らせさせて戴きます。


今回、いつにも増して転換やら着替えやらスタンバイやらが大変で、舞台上でも相変わらず大暴れした為、声はガスガスになり肋骨もまた痛めてしまい、身体中ボロボロになっちまいましたが…ひたすら楽しい公演でありました。

初共演させて戴く客演さんも多かったのですが、もの凄い芸達者さん揃いで、稽古の時から皆さんのお芝居を見て、ゲラゲラ笑いっぱなしでした。


東京公演もやろうよ。それから久しぶりに、福岡公演もやろうよ。

ねえ、聞いてる? 座長?

君が思い描く世界を形にする為なら、僕はどんなしんどい現場にも同行します。


でも実際問題、劇団員の高齢化も進んでるから…何年後かには、作風をもうちょっとマイルドにしてもらえると助かります。