2023年12月29日(金)
約3年前に「男はつらいよ」全50作鑑賞という記事を書いたことがあるのだが(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12645311227.html)、心身ともにやや不安定だったこの秋、楽しい映画でも見て気分を晴らそうと、暇にあかせて「男はつらいよ」全作を見返すことになった。
以下では前回とほぼ同じフォーマットで今回新たに気付いたことや雑感などを付け加えてみることにする。
まずは再鑑賞後のお勧め作品(括弧内はマドンナ。★をつけた5作は特にお勧め)
★第5作「望郷篇」(長山藍子)
★第7作「奮闘篇」(榊原るみ)
第8作「寅次郎恋歌」(池内淳子)
★第10作「寅次郎夢枕」(八千草薫)
★第11作「寅次郎忘れな草」(浅丘ルリ子)
第13作「寅次郎恋やつれ」(吉永小百合)
★第15作「寅次郎相合い傘」(浅丘ルリ子)
第17作「寅次郎夕焼け小焼け」(太地喜和子)
第25作「寅次郎ハイビスカスの花」(浅丘ルリ子)
第28作「寅次郎紙風船」(音無美紀子)
第29作「寅次郎あじさいの恋」(いしだあゆみ)
第32作「口笛を吹く寅次郎」(竹下景子)
第38作「男はつらいよ 知床慕情」(竹下景子)
本題に入る前にこのシリーズの日本版DVD(HDリマスター版)について一言書いておくと、せっかくの日本語字幕が台詞の忠実な文字起こしではなく、中途半端に省略されたり言葉が言い換えられているのが気になって仕方がなかった(これは「男はつらいよ」に限った話ではなく、他の山田洋次作品のDVDも同様で、もしかしたら松竹から出ているDVD全般について言えることかも知れない)。
また、作中の音を表記する際、例えば自動車のクラクションは「プップー」、電話の呼び出し音は「リーン」や「ルルルル」、船の汽笛は「ポー」などと、見ているだけで恥ずかしくなるようなセンスのなさで、なまじオノマトペなど用いずに「自動車のクラクションの音」や「汽笛の音」などと表記した方が遙かに良かったに違いない。
映画本編に入る前に、まずは今シリーズの発端となったテレビ・ドラマ版から。
・「男はつらいよ」(1968~1969年)ただし全26話のうち現存するのは第1話と最終話のみ。
たった2話しか残っていないため出来の良し悪しを論ずることは出来ないが(DVDでは、欠落している途中部分のあらすじがスチルの写真と共に紹介されている)、さくら役を長山藍子、その夫・博士役を井川比佐志、おばちゃん役を杉山とく子などが演じ、作品の雰囲気は映画版と微妙に異なっている。映画版がテレビ版と同じキャストだったら、果たして日本映画史に残るような人気シリーズになっていたかどうか。
よく知られている通り、最終話で寅がハブに噛まれて死んでしまうというショッキングな終わり方で、さくらとおばちゃんに寅の最期の様子を伝えに来る舎弟を佐藤蛾次郎が演じている。
マドンナ役の佐藤オリエやその父親の散歩先生(東野英治郎)をはじめ、ドラマで主要登場人物を演じた俳優たちは映画版の初期作品に登場し、内容的にも似通っている部分が多く、映画版を見ればドラマの雰囲気を断片的ながら味わうことも出来るものの、やはり全26話を通して見てみたかったものである。
細かいことでは、さくらが恋人(横内正)と喫茶店で話している場面でバックの歌の音量が大きすぎて台詞がほとんど聞こえず、そもそもその歌自体も作品には全くそぐわないもので、台詞に現代の放送にはふさわしくない内容があるため、わざと聞こえないようにしているのかと訝ってしまう(実際そうなのかも知れない)。
また寅の実家の団子屋だが、店の窓ガラスには「とら屋」、外にぶら下がっている提灯には「とら家」と別々の表記になっていて、どちらが正しい屋号なのか分からない。
では、以下にシリーズ全50作を見直して気付いたことなどを適用に書き連ねていくことにする。評点は5点満点で(映画サイトIMDbの評点は10点満点)、前回鑑賞時のものと今回の点数を併記してある。
・「男はつらいよ(1969年)」(山田洋次監督) 3.5点→3.0点(IMDb 6.9) 日本版DVDで再見
シリーズ1作目。マドンナは光本幸子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=KqSw6_wuv3E
上記の通り映画版の初期作品はテレビ・ドラマ版の内容やキャストを数多く踏襲し、寅次郎も後の造型と比べてかなり性悪な人間に描かれている。
シリーズ1作目の今作は映画としては平凡な出来だが、最後の最後で博(前田吟)の父親役である志村喬が一発逆転サヨナラホームランを放つ。
・「続・男はつらいよ(1969年)」(山田洋次監督) 3.5点→3.0点(IMDb 7.0) 日本版DVDで再見
シリーズ2作目。マドンナはテレビ・ドラマと同じ佐藤オリエ(父親の散歩先生も同じく東野英治郎)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=oRS7am0QKAo
今作でも寅次郎はかなりの性悪である。悪意はないと自ら弁解してはいるものの、無銭飲食をして店員に詰問されると逆ギレして暴力を振るって留置場に入れられ、妹さくらを泣かせるという全く懲りないダメ男なのである。
母親(ミヤコ蝶々)もそんな寅次郎に負けない短気できつい性格の持ち主で、事あるごとに似た者同士の寅次郎と衝突する。それでも映画の最後にさりげなく京都の一角でこの二人が仲良さそうに話している姿が描かれていることにホッコリさせられる。
・「男はつらいよ フーテンの寅(1970年)」(森崎東監督) 2.0点→3.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで再見
シリーズ3作目。マドンナは新珠三千代。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=4WCE7rqUEQw
予告編ではタイトルが「続 続 男はつらいよ フーテンの寅」と表記されている。
山田洋次監督作でないこともあって初見時は余り良い印象を持たなかったのだが、再見してみると意外と悪くなく平均点はつけられる。他の仕事で多忙だったのか、今作では妹さくらの出番が少ない。
・「新・男はつらいよ(1970年)」(小林俊一監督) 2.0点→2.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで再見
シリーズ4作目。マドンナは栗原小巻。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=24r4CyDgIIQ
「どうせおいらは底抜けバケツ」バージョンの主題歌(どうせおいらは底抜けバケツ/分かっちゃいるんだ妹よ/入れたつもりがスポンのポンで/何もせぬよりまだ悪い/それでも男の夢だけは/何で忘れて/何で忘れているものか/いるものか)。
前半と後半で話が完全に分裂しており、前半はコメディとして悪くない。恋する寅の浮かれぶりが痛々しい後半は総じて暗めの内容で、栗原小巻の父のエピソードも消化不良気味。今作も妹さくらの出番が少ない。
・「男はつらいよ 望郷篇(1970年)」(山田洋次監督) 3.5点→4.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで再見
シリーズ5作目。マドンナは長山藍子(テレビ・ドラマ版ではさくら役)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=T1vdNKfYEyA
今作も3つのパートに話が分裂していて、①寅が、おじちゃんが死にそうだという嘘に騙される→②かつて世話になった親分の惨めな死に際に立ち会い、その息子の機関士に出会って地道な生き方に目覚める→③地道な生き方を目指して豆腐屋で油揚げをあげる日々、となるのだが、いつものように最後は呆気なく失恋して元のヤクザな暮らしに戻るという流れ。
最後まで寅の気持ちを斟酌すらできない残酷なマドンナ役に、ドラマ版では妹さくら役を演じていた長山藍子。
兄弟分の盃を割って絶縁したはずの登と最後で偶然再会し、仁義を切る場面では思わずホロリとさせられる。今作から映画版「男はつらいよ」シリーズは本格的に始動する。
・「男はつらいよ 純情篇(1971年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで再見
シリーズ6作目。マドンナは若尾文子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=3Gn-gjjnHKs
若尾文子が終始作風に馴染んでいない(半ばは監督の意図だろうが、半ばは若尾文子がこの種のコメディに乗り気でないからか)。売れない作家である夫とうまく行かず「とらや」に仮住まいさせてもらうものの、当の夫が迎えに来るとあっさり元の鞘に収まるのもいささか説得力に欠ける(夫の造型も独善的で非常識すぎて共感や同情の余地がない)。
むしろ冒頭の森繁久彌と宮本信子のエピソードの方が「男はつらいよ」向きで、こちらをメインに据えた方が良かったのではないか。最後に登場する宮本の夫は全く駄目男には見えず、善人そのもののようでミスキャスト。
・「男はつらいよ 奮闘篇(1971年)」(山田洋次監督) 3.5点→4.0点(IMDb 6.9) 日本版DVDで再見
シリーズ7作目。マドンナは榊原るみ。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=3HQU7EZFbZs
さくらが寅に向かって、知的障害を抱える花子(榊原るみ)は寅といるより故郷で先生たちといた方が幸福だときっぱり言い渡す場面の緊張感。一見残酷だが、兄の幸福を思って一時は二人の結婚を真剣に考えたさくらでなくては口に出来ない重みのある至言である。
恋に破れて自殺すらほのめかす悲観的な葉書を送ってきた寅を心配して、はるばる青森まで駆けつけていくことまで含め、今作ではさくらの聖性が強調されている(同時に知的障害者の聖性も)。
犬塚弘(沼津の交番の警官)や柳家小さん(ラーメン屋のおやじ)、花子の教師(田中邦衛)など助演陣も素晴らしい。
母親(ミヤコ蝶々)との改めての対立。しかし寅から世帯を持つかも知れないという電話を受けると、相手がどんな人間であろうと寅を受け入れてくれたことに感謝の念を抱き、ふたりの幸福を心から祝おうとする母親らしい一面も。
・「男はつらいよ 寅次郎恋歌(1971年)」(山田洋次監督) 4.0点→3.5点(IMDb 7.2) 日本版DVDで再見
シリーズ8作目。マドンナは池内淳子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=WmZBL7VPUBQ
博の母親の葬儀におけるドタバタ騒動など、空気を読めず愚かな行為をして叱られてはすぐに逆ギレする手のつけられない性悪な寅。憎らしいまでに幼稚な醜態ぶりだが、しかしその幼稚さが同程度の精神年齢である池内淳子の子供と相通ずるきっかけとなり、結果的に池内の信頼を得ることにもなる。
仕事仲間らしい酔客を連れてとらやに帰ってきた寅がさくらにビールを出させ、歌を強要するシーンでは、さくらの歌声が一瞬にして寅の酔いを覚まさせ、後悔に駆り立てる。倍賞千恵子の圧倒的存在感によって輝くさくらの聖性。
ひどく幼稚で短気な寅が、ある瞬間ふいに一転して物分り良く大人しくなる二重人格性が顕著である。最後は池内淳子が喫茶店の運営に苦渋している現実に直面しておのれの(特に金銭面での)無力を悟り、自ら身を引く。
最初と最後の旅役者たちとの交流。旅続きで不安定な生活を共にする者同士の連帯。このエピソードだけでも今作を見る価値がある。
・「男はつらいよ 柴又慕情(1972年)」(山田洋次監督) 2.0点→2.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで再見
シリーズ9作目。マドンナは吉永小百合。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=CJ4t9JjtWJ0
大して面白くもないギャグ(写真撮影時の「バター~)」に若い女性たちが何度も笑い転げ、寅の愚かな言動にとらやの面々と吉永小百合が腹を抱えて笑うシーンなどは内輪ウケでしかなく、空々しく白けるだけである。
端から寅と恋愛関係になる可能性などないことは自明なものの、吉永小百合が思わせぶりな言動で寅を翻弄しながら、自らの残酷さに全く気づくことなくさっさと自分の「愛情問題」を成就させてしまう。
寅は年齢的にも若い娘に惚れた腫れたと騒ぐのが厳しくなりつつある。
・「男はつらいよ 寅次郎夢枕(1972年)」(山田洋次監督) 3.5点→4.0点(IMDb 6.8) 日本版DVDで再見
シリーズ10作目。マドンナは八千草薫。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=xOLnGIdyCH0
此処までのベスト。八千草薫と寅をめぐる本筋部分も良いが、田中絹代との短い挿話が最後まで寅の言動に影を落とし、単なるコメディに終わっていない。寅は流れ者の「成れの果て」を強く意識させられ、いつになく内省的になる。
冒頭でとらやの面々やタコ社長が寅の結婚相手を探そうと奔走するのだが、結局は寅が近隣の人々に軽蔑され嫌われている現実を目の当たりにするばかり。そのことを知って逆上する寅に向かって妹のさくらが、「本当につらいのはおじちゃんやおばちゃんの方かも知れない」と言って泣く場面を見ていると、このシリーズの真のタイトルは「妹はつらいよ」なのではないかと思えてくる。
・「男はつらいよ 寅次郎忘れな草(1973年)」(山田洋次監督) 3.5点→4.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで再見
シリーズ11作目。マドンナは「リリー」こと浅丘ルリ子。リリー3部作(あるいは4部作)の第1作。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=aqiOA6R1m3A
序盤は幼稚かつ根性のひねくれた性悪な寅が全開(法事での悪ふざけとピアノに関する悪態)。その後向かった北海道の農家での「お金は要らないのでご飯だけ食べさせてもらえればいい」という寅の台詞は、1980年公開の「遙かなる山の呼び声」の高倉健へとつながっていく。
以下に印象的な場面を箇条書きすると、
北海道の大自然とバッハの「G線上のアリア」(そして高羽哲夫の素朴なキャメラ)。
牧場での重労働に途端に音を上げて寝付いた兄を引き取りに、「奮闘篇」同様さくらがはるばる北海道まで遠征。
満男のファースト・キスの相手はリリー。
浅丘ルリ子の歌声が味わい深い。
上野駅の食堂に寅の荷物を持って来るさくらとのしみじみとした短いやりとり。
シリーズ中でも印象的な、リリーに出会ったばかりの寅がしみじみ口にする台詞「(俺たちなんざ)上等なアブクじゃねえよな。風呂の中でコイた屁じゃねぇが、背中の方に回ってパチンよ」
・「男はつらいよ 私の寅さん(1973年)」(山田洋次監督) 3.0点→2.5点(IMDb 6.5) 日本版DVDで再見
シリーズ12作目。マドンナは岸恵子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=k_IsbdbyghU
冒頭の九州旅行のエピソードでとらや一行が途中で旅行を切り上げそうな描写があるのに、その後なんの説明もないまま予定通り日程を終えて戻ってくるのは不自然。編集ミスか。
「純情篇」での若尾文子同様、岸恵子の演技が終始固くてぎこちなく、それにつられて寅もどこか暗めで冴えない(半面、岸恵子が登場しない前半部は悪くない)。山田洋次はスター女優の扱いが苦手なのか。
最後の寅の(テキ屋の)口上はもっと聞いていたい見事さ。
・「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ(1974年)」(山田洋次監督) 3.5点→3.5点(IMDb 6.8) 日本版DVDで再見
シリーズ13作目。マドンナは再び吉永小百合(高田敏江も?)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=h6k_kfNKvXY
寅の最後の台詞「そんな風に思われてるうちが花よ。なあ、さくら」が泣かせる。
無口な頑固親爺然とした宮口精二が泣いたり、吉永小百合がわざとらしく吹き出したりする演出の過剰さはあるものの、同じ吉永小百合がマドンナだった9作目「柴又慕情」の不出来を挽回する佳作。
最後に寅が吉永小百合のいる大島ではなく(冒頭に登場した)高田敏江夫婦のところに戻っていくのも、ぐるっと円環が閉じるようで良い。
・「男はつらいよ 寅次郎子守唄(1974年)」(山田洋次監督) 3.0点→2.5点(IMDb 6.3) 日本版DVDで再見
シリーズ14作目。マドンナは十朱幸代。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=-BPNxcWNVWs
佐賀県呼子港でのストリッパー役・春川ますみが実に良い。
後半は失速。誰かも書いていたが、寅は春川ますみのような女性に惚れてこそ寅らしく生きられるのではないか(相手が十朱幸代では年齢的にも不釣り合いで端から色恋沙汰が成就することなどありえない)。
十朱幸代らが参加している合唱団の不気味さ。山田洋次的理想による時代錯誤な若者像か。
・「男はつらいよ 寅次郎相合い傘(1975年)」(山田洋次監督) 4.0点→4.0点(IMDb 7.0) 日本版DVDで再見
シリーズ15作目。マドンナは再び「リリー」こと浅丘ルリ子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=4vZHAiwRuD4
(おそらく)シリーズ最高傑作。
船越英二と寅にリリーまで加わっての珍道中、大舞台で歌うリリーを思い描く寅の絶品のアリア、有名な「メロン騒動」の後の寅にグウの音も言わせないリリーの見事な啖呵、雨中での柴又駅への寅の出迎え、最後のとらやでの結婚をめぐるひと騒動、いきなり及び腰になって冷徹な詩人と化す寅などなど、印象深い挿話の数々。
最後の「あいつも俺とおんなじ渡り鳥よ。腹すかしてさ、羽根怪我してさ、しばらくこの家に休んだまでのことよ。いずれまたパッと羽ばたいてあの青い空へ……。な、さくら。そういうことだろう?」という寅の台詞は、ウォン・カーウァイの香港映画「欲望の翼」の結末部分を想起させる。
・「男はつらいよ 葛飾立志篇(1975年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.8) 日本版DVDで再見
シリーズ16作目。マドンナは樫山文枝。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=swfx5wtKNSY
可もなく不可もなしの平均作。真の主人公は小林桂樹で、寅がいつものお株を奪われた格好。樫山文枝のマドンナは地味すぎか。
・「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け(1976年)」(山田洋次監督) 3.5点→3.5点(IMDb 7.2) 日本版DVDで再見
シリーズ17作目。マドンナは太地喜和子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=zwxXKAvIFlg
主題歌の2番の歌詞がいつもと違う(「当てもないのにあるよな素振り/それじゃあ行くぜと風の中/止めに来るかと後振り返りゃ/誰も来ないで汽車が来る/男の人生一人旅/泣くな嘆くな/泣くな嘆くな影法師/影法師」)。
今作を始め、大喧嘩になる場面で本当に悪いのは大抵タコ社長である。
後の「家族はつらいよ2」の元ネタ(酔いつぶれた年寄りを家に連れて来たら夜中にぽっくり)。
今作をシリーズ最高傑作とする人も多いようだが、個人的にはそこまでの作品とは思えない。結末は一見ハッピー・エンディングだが、寅といえどもさすがに有名画家に絵を描いてもらってお金を作ろうとするのはやり過ぎだろう(一方で、寅の心意気に動かされた画家から贈られた絵を、たとえいくら金を積まれても絶対に売らないという太地喜和子の台詞は素晴らしい)。
太地喜和子のあっけらかんとした(同時に玄人らしい)存在感と、一見飄々としながら見事な造型の宇野重吉が見もの(実に憎たらしい悪役の佐野浅夫もさすがだし、古本屋のオヤジ役の大滝秀治も味わい深い)。最高傑作とまでは思わないが、屈指の名作であることは間違いない。
岡田嘉子、榊原るみ、岡本茉利、桜井センリ、西川ひかる、佐山俊二など多彩な(かつさりげない)脇役陣の登場も嬉しい。
・「男はつらいよ 寅次郎純情詩集(1976年)」(山田洋次監督) 3.0点→2.5点(IMDb 6.8) 日本版DVDで再見
シリーズ18作目。マドンナは京マチ子(檀ふみも?)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=m0RyacCDllE
前作「寅次郎夕焼け小焼け」と同じく主題歌の2番の歌詞がいつもと違う。
徳冨蘆花の「不如帰」が元ネタ。吉田義男や岡本茉利の旅役者一行も再登場(彼らをもてなすために確信的に無銭飲食をし、事情を知ったさくらが長野の別所温泉までお金を持ってやって来るものの、ちっとも悪びれないでいる寅の異常さが改めて浮き彫りに。やはり完全な二重人格者である)。
最後にマドンナが死んでしまう異色作で、そのせいか涙や内輪の笑いが過剰かつわざとらしいのが難。若尾文子や岸惠子同様、かつてのスター女優・京マチ子がやはり作品に今ひとつ馴染めておらず、檀ふみの演技も拙劣で痛々しい。
雪の降る冬にもかかわらず、最後に寅が温暖な南国ではなく北国に移り住んだヒロイン(檀ふみ)を訪ねていくのも、いつものパターンとは異なる。
・「男はつらいよ 寅次郎と殿様(1977年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.9) 日本版DVDで再見
シリーズ19作目。マドンナは真野響子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=XnZB_YsaGGo
冒頭で鯉のぼりや犬(トラ)のことでもめる際の元兇は、今作でもとらやの面々やタコ社長である。
また前作と同じく涙が過剰。真野響子と寅が一緒になることなどないことは端から自明で、とらやの面々もそのことを理解できないはずはなく、余りにわざとらしく作り物めいてしまっている。
重要な局面のたびに寅がさくらを代理に立てるのも度重なるといささかくどい(最後も寅の様子を直接映像で描くのではなくさくらの口から語らせているが、これも映画としては如何なものか)。
嵐寛寿郎の演技は往年の時代劇同様オーヴァーで不自然なものの、独特の雰囲気を醸し出してもいる。
・「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!(1977年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.6) インターネットで再見
シリーズ20作目。マドンナは藤村志保(大竹しのぶも?)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=XUwHBWbIm-s
寅がパチンコ屋で隣合わせになる客を杉山とく子が演じていて実に良い。今回の再見に際して個人的に最も注目したのはこの杉山とく子と、長らく松竹映画でチョイ役を演じてきた谷よしのである。
大竹しのぶが泣く場面で、相手をさりげなく座らせて話を聞くさくらのさりげない所作の見事さ。大竹しのぶも実にうまく、近年の化け物のような姿からは想像できない初々しさ(当時20歳)。
さすがに下宿先でのガス自殺騒動は非現実的すぎ。
食堂のおやじ(大竹しのぶのおじさん役、演じているのは声楽家の築地文夫)が良い味を醸し出している。失恋した寅の心情を代弁するかのようにシューベルトの「菩提樹」を熱唱。
いつもはエンディングで「とらや」や葛飾駅のホームから立ち去る寅が、今作では珍しくさくらの家から線路沿いに立ち去る。
冒頭の夢の場面にも出ていた吉田義夫と岡本茉利の旅芸人一行がエンディングで寅と再会。
・「男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく(1978年)」(山田洋次監督) 2.0点→2.5点(IMDb 6.2) 日本版DVDで再見
シリーズ21作目。マドンナは木の実ナナ。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=PCJMCu3pCBc
冒頭の夢のシーンで佐藤蛾次郎の宇宙人とゴリラ(「スペクトルマン」の宇宙猿人ゴリ?)。
いつもの「とらや」での大喧嘩だが、言葉遣いに多少問題はあるものの、「とらや」の将来像を語る寅の言い分に悪いところはなく、腹を立てる方がおかしい。やはりここでも問題なのはタコ社長やおいちゃんなど「とらや」の面々である。ただし寅の反応も大人げなく、いつものようにさくらが引き止めてくれないため泣き言を口にして啖呵を切る姿は何とも見苦しい。
作品としては普通の出来だが、SKDの場面が多く間延び気味。マドンナ木の実ナナの演技もやたらうるさく魅力に欠ける。「びよよ~ん」というような効果音の使用も煩わしい。
・「男はつらいよ 噂の寅次郎(1978年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.6) 日本版DVDで再見
シリーズ22作目。マドンナは大原麗子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=zrF_9wXz-S4
博の家に置かれている雑誌は山田洋次らしく岩波書店の「世界」。
加齢のせいか年甲斐のなさもいや増して、寅の言動がさらに痛々しいものに。タコ社長もますます言いたい放題に。
なにか「明るい話題」はないかと問いかけられた大原麗子が、「寅さんと出会ったこと」だと答え、更に「寅さんが好き」だとまで言うのは、全く底意がないだけに極めて残酷な物言いである(こんなことを言われて寅が誤解しても全くおかしくなく、寅が誰かに一方的に恋慕してあっさり振られるのが定石のコメディとしては不自然か)。
シリーズ14作目「寅次郎子守唄」にも書いたが、大原麗子でなく泉ピン子のような女性に惚れてこそ寅は自然に振る舞えるはずなのだが・・・・・・。
志村喬が今作でも好演。初見時にも書いたが、室田日出男がいとこという設定は生々しすぎ、幼馴染み程度にすべきだったのではないか。最後の蒸気機関車の場面が実に美しい。
・「男はつらいよ 翔んでる寅次郎(1979年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.4) 日本版DVDで再見
シリーズ23作目。マドンナは桃井かおり。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=aS8WB-Zys_A
今作でも悪いのはやはりタコ社長。
最後の結婚式のシーン(戸川京子や木暮実千代が登場)ではちょっとホロリとさせられるが、布施明の歌唱と涙の描写が過剰で(BGMもチャチ)白けてしまう。
・「男はつらいよ 寅次郎春の夢(1979年)」(山田洋次監督) 3.5点→3.0点(IMDb 6.8) 日本版DVDで再見
シリーズ24作目。マドンナは香川京子(さくら=倍賞千恵子も?)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=2lIXHrNM2Z0
やはり悪いのはタコ社長。タコ社長の顔に葡萄をなすりつけて汚れた寅の手をさりげなくエプロンで拭うさくらの所作の美しさ。
香川京子はどこか遠慮がちかつ不自然で、作品に馴染んでいない。今作でもかつてのスター女優相手に監督山田洋次が気後れか。
・「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花(1980年)」(山田洋次監督) 3.5点→3.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで再見
シリーズ25作目。マドンナは浅丘ルリ子(リリー3部作最終作)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=hpojmcb1AYc
またもや悪いのはタコ社長。
寅とリリーの付かず離れずのじれったい展開が続き、完成度は決して高くないものの、最後は気持ち良く見終えることの出来る佳作。
最初の病床シーンでは化粧っ気のない疲れ顔のリリーが、作品が展開するにつれてどんどん綺麗になっていくのが見もの。
・「男はつらいよ 寅次郎かもめ歌(1980年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.5点(IMDb 6.7) 日本版DVDで再見
シリーズ26作目。マドンナは伊藤蘭。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=CEPqIIDj67c
やはり悪いのはとらやの面々とタコ社長。
伊藤蘭が定時高校の試験を受ける際や男友達と会って帰らなかった時の寅の騒ぎぶりなどを見ると(連絡一つせずに朝帰りする伊藤蘭もひどいとは思うが)、つくづく近くにいて欲しくない人物だと思ってしまう。
伊藤蘭は恵まれぬ環境でスポイルされた女の子を演ずるには優等生的すぎてミスキャスト。単に表ヅラが良いだけのひねくれ娘にしか思えない。
・「男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎(1981年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.8) 日本版DVDで再見
シリーズ27作目。マドンナは松坂慶子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=HftA3FBNznA
少し前の作品同様、印刷工場の経営に悩むタコ社長が出かけたまま帰って来ず騒ぎになるエピソード。今回は(タイミングが)悪いのは寅だが、しばらく前の騒動に懲りず連絡一つせず飲みに行ってしまうタコ社長もタコ社長である。
佐藤蛾次郎が風呂敷で顔を覆ってエレファント・マンの真似。
博の心ない毒舌(義兄さんみたいな人は、それ(人生を力強く生きること)がないんですよ)。ますます説教臭く性格も悪くなっている。
大阪を旅立つ際には宿賃の残りをすぐに送ると言いながら、結局芦屋雁之助が取り立てに上京してくるまで払わなかった寅のお金に対する無頓着さ。
・「男はつらいよ 寅次郎紙風船(1981年)」(山田洋次監督) 3.5点→3.5点(IMDb 6.5) インターネットで再見
シリーズ第28作。マドンナは音無美紀子(岸本加世子も?)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=r5QQO39aOlg
性悪寅が復活。今回は小学校時代の同級生相手にひどい暴言を繰り返す。
それでも最後の「こりゃあ、とんだ三枚目だ」という寅の台詞には実感がこもっていてグッと来る。前回ほど感心しなかったのだが、この台詞に0.5点献上。
・「男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋(1982年)」(山田洋次監督) 3.5点→3.5点(IMDb 6.7) 日本版DVDで再見
シリーズ第29作。マドンナはいしだあゆみ。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=OALIB3pKVw0
冒頭の主題歌の途中で短いエピソード(絵描きに手紙を代筆させる)が入る珍しいパターン。
女にこっそり手紙を渡されて約束した逢い引きの場に甥っ子を連れて行く寅の不甲斐なさ。結局緊張しすぎてろくな話も出来ず愛想をつかされるのだが、それは甥っ子を連れて最初から予防線を張っていた寅が自ら望んだことだったのか。
・「男はつらいよ 花も嵐も寅次郎(1982年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.7) インターネットで再見
シリーズ第30作。マドンナは田中裕子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=KFbinEqsG3E
ドラマ版「幸福の黄色いハンカチ(1982年、TBS)」と同じ年の公開で、アパッチけんと光石研が登場するのはそのせいか。
「とらや」での最初のひと騒ぎの後のさくらの嗚咽には思わずホロリとさせられる(おじちゃん「さくら、なんで止めねえんだ、お前。お前が止めてくれると思ったから俺は、あんな・・・・・・」 さくら「だって、おいちゃん、出てゆけだなんて言うんだもん・・・・・・」と嗚咽)。
沢田研二が作中で何度も二枚目だの良い男だの言われるのだが、髪型などもあって今作ではむしろ非常に地味なイメージである。顔の造作はともかく、前作で描かれていたように好きな女性の前で何も言えなくなってしまう寅とダブらせるためか。
・「男はつらいよ 旅と女と寅次郎(1983年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.5) インターネットで再見
シリーズ第31作。マドンナは都はるみ。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=XKPYtAs3ZAo
運動会のパン食い競走ネタ。寅も寅だがとらやの面々も意地が悪い。
過去にもSKDのスター(木の実ナナ)がマドンナという設定はあったものの、今作は誰もが知る大物歌手がマドンナという異色作。それだけに話が現実離れして浮ついているものの、出来としては平均点。
今作も最後に寅を送り出すのは「とらや」でも葛飾駅でもなく、さくらの家から。
なぜせっかく招待されたコンサートに寅の代わりに誰かが行かなかったのか? おばちゃんなどに行かせたら孝行にもなっただろうに。
マキノ佐代子がタコ社長の秘書に。
・「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎(1983年)」(山田洋次監督) 3.5点→3.5点(IMDb 7.0) 日本版DVDで再見
シリーズ第32作。マドンナは竹下景子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=ptLC6r9s_88
冒頭の音楽や主題歌の歌詞がいつもと異なる。
親の三回忌で相続の話が出るのは時間的に余りに遅すぎではないか(とうに相続税の申告期限は過ぎているはず)。
おいちゃんとおばちゃんのなれそめが語られる。
屈指の名台詞「へへへッ、というオソマツさ。さーて、商売の旅に出るか」
・「男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎(1984年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.5点(IMDb 6.3) 日本版DVDで再見
シリーズ33作目。マドンナは中原理恵。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=uVHb9DDfCpU
熊に追われる最後のドタバタ劇さえなければもう少し評価は上がったのだが。山田洋次もトチ狂ったか。
渡瀬恒彦の危なっかしい雰囲気はさすがで、渥美清も気圧され気味。
・「男はつらいよ 寅次郎真実一路(1984年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.4) 日本版DVDで再見
シリーズ34作目。マドンナは再び大原麗子(ただし全く別人の役)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=pN6AwSGzT4A
冒頭は松竹唯一の怪獣映画「宇宙大怪獣ギララ」のパロディ。
飲み屋で知り合った金融マンの妻に岡惚れし、旦那が失踪したと知るや、捜索のためだと言って「とらや」にある金を力づくで奪おうとする寅。相変わらずの無軌道ぶり。
しかしそんな寅も、実際の捜索ではそれなりの活躍をする。
大原麗子と同じ宿(部屋ではない)に泊まることを固辞し、「奥さん、おれはきったねえ男です。」と言う寅の台詞は「無法松の一生」の真似。
米倉斉加年が今作でも良い味を。マキノ佐代子はタコ社長の秘書から一転して証券会社職員へ。
・「男はつらいよ 寅次郎恋愛塾(1985年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.5点(IMDb 6.4) 日本版DVDで再見
シリーズ35作目。マドンナは樋口可南子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=pKR-E2gT78k
「わかな」という名がどんな字かと聞かれ、さくらは「百人一首」の「君がため春の野に出でて若菜つむ」をさりげなく口ずさむ。
内容的には第20作「寅次郎頑張れ!」の二番煎じで、「ビヨヨーン」というような電子効果音を始め、おふざけが過ぎてちっとも笑えない。山本直純も年老いたか。
平田満の父親役(やはり第20作に出ていた本職が音楽の教授&声楽家の築地文夫)は今回もユニークで本職の俳優より良い。
マキノ佐代子は再び隣の印刷工場勤務。
・「男はつらいよ 柴又より愛をこめて(1985年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.5点(IMDb 6.5) 日本版DVDで再見
シリーズ36作目。マドンナは栗原小巻。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=cEWTQxkrrxY
博は相変わらず雑誌「世界」を購読しているらしい。
川谷拓三がロシア語研究者には全く見えず。寅と栗原小巻の交流は僅かで、惚れっぽい寅はともかく、栗原小巻が寅に結婚の相談をしたりするような近しい関係とは思えない。当然ながら寅はあっさり失恋。
笹野高史が伊豆のやくざ者で初登場。光石研とアパッチけんも再登場。
・「男はつらいよ 幸福の青い鳥(1986年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.0点(IMDb 6.0) 日本版DVDで再見
シリーズ37作目。マドンナは志穂美悦子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=Ennc5Y0H--U
冒頭に「松竹映像株式会社」の表示。
不破万作(キューシュー)や出川哲朗が登場。
これまで岡本茉利が演じてきた大空小百合と、志穂美悦子のイメージが余りに違い過ぎて違和感しか覚えない。再会時も「寅さん」ではなく「車センセ!」と言って欲しかった。
寅が志穂美悦子の代わりに中華の出前を配達する珍しい姿(店主は桜井センリ)。
志穂美悦子だけでなく、相手役の長渕剛のひとりよがりで投げやりな役柄や演技も魅力に欠ける。
・「男はつらいよ 知床慕情(1987年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.5点(IMDb 7.0) 日本版DVDで再見
シリーズ38作目。マドンナは竹下景子(2作目。全くの別人役)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=doWttb08zU8
冒頭の「松竹」の音楽がなく(夢のシーンもない)、琴の音とともに寅の独白が始まる。
おいちゃんが入院中のさなか、「とらや」を再開した家族たちを手伝いたがる寅だが、あれこれ理屈をつけてはあれも出来ないこれも出来ないと嫌がり、お茶を出したり掃除をしたりするのは「茶坊主」の仕事だと言って拒絶し、自分は仮にも店の跡取りだという権威を振りかざして仕事に卑賤の差をつける。おのれの分をわきまえず、プライドだけ高く、全くどうしようもない寅の一面。そのくせ電話で団子の注文ひとつまともに取れない無能ぶり。
今作でも「ボヨヨ~ン」というような効果音を多用。
三船敏郎の「寅さんがいてくれてよかった」といった無駄な台詞&演技のひどさ。しかし年を取って寛容になったせいか、三船の大根芝居も何とか許せる。
最後に長良川沿いの鰻屋から出てくる寅。鰻を堪能とは商売順調か。
・「男はつらいよ 寅次郎物語(1987年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.5点(IMDb 6.6) 日本版DVDで再見
シリーズ39作目。マドンナは秋吉久美子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=trYv7HEkvE0
ロードムービー。全体におとなしく出来は平均だが、やや情緒過多か(特に船着き場での別れのシーン)。笑いやギャグもますます低俗に。秋吉久美子は意外と悪くない。
テキ屋稼業の胡散臭さを寅自らが独白。渡世人としての宿命。
・「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日(1988年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.5点(IMDb 6.4) 日本版DVDで再見
シリーズ40作目。マドンナは三田佳子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=0avNgAh0yVs
「寅次郎頑張れ」におけるワット(中村雅俊)の話を早稲田大の大教室で披露。
俵万智の「サラダ記念日」からの引用が邪魔くさい。当時の風俗も如何にも軽佻浮薄で見ていていたたまれない。サザンオールスターズの挿入歌も驚くほど作風に合っていない。
笠智衆が病気がちになり、今作以降、出演シーンは自宅で撮影。
・「男はつらいよ 寅次郎心の旅路(1989年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.5点(IMDb 6.3) 日本版DVDで再見
シリーズ41作目。マドンナは竹下景子(3作目。やはり別人の役)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=PODjnidf-nc
バブル景気や円高を反映してかウイーンが舞台の異色作だが、内容はこれまでと変わらないベタな寅さんもので目新しさはない(せっかくの海外ロケなのに現地人との交わりもほとんどなく、寅も日本流や日本食に固執したままで、完全な内向きである)。
竹下景子演ずる日本人女性が、結局西欧人の男とくっつくことでしか異国で活路を見出だせないのはどこか痛々しい。
柄本明だけがいつもながらにおかしな役をそつなく演じている。淡路恵子は無駄使いで勿体ない。
自分で売っていたはずの地球儀の大きさすら理解せず、モーツァルトもドナウ川も知らない寅は一体どこの世界に生きているのか。やはり夢(映画)の中の人物でしかないのか。その非常識ぶりは余りに現実離れしている。
空港の出国ゲートでの竹下景子や寅の写真は誰が撮っていたのか。少なくとも柄本明でないことだけは確かなのだが、彼のカメラを使って別の誰かが撮ってくれていたのか(という不整合も含めて、全体に投げやりな作品)。
・「男はつらいよ ぼくの伯父さん(1989年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで再見
シリーズ42作目。マドンナは檀ふみ(満男の相手としては後藤久美子)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=rZnv_8HfFvc
徳永英明の曲が全く作風に合わず痛々しい。
たまたま寅と満男が佐賀で相部屋になるというご都合主義にも呆れるしかない。
押せばなんとかなるといった時代遅れでひとりよがりな寅の恋愛指南。
吉岡秀隆と後藤久美子の稚拙な演技や恥ずかしい台詞に、見ているこちらが穴にでも入りたくなる。
人妻檀ふみと寅の間にはロマンスはなく、マドンナとは呼べないような助演役でしかない。
葛飾に電話をかける寅が実に寒そうで、老いを実感させて見ていて痛々しい。
・「男はつらいよ 寅次郎の休日(1990年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.0点(IMDb 6.8) 日本版DVDで再見
シリーズ43作目。マドンナは夏木マリか(満男が主人公だとすれば後藤久美子)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=JN4RWQ5577A
凡庸かつもはや渥美清の「男はつらいよ」ですらない。だから「寅次郎の休日」なのか。
満男と泉の造型も時代錯誤そのもの。ああした家庭環境で育ちながら泉のように屈託も何もない少女など現実にはいないだろう。山田洋次の妄想世界。
寅譲りだとは言え、自らの色恋(泉の突然の来訪)のために友人との約束を何度もあっさり破る満男の破廉恥なまでの自己中心さ。
片田舎の店で御馳走になった際、それでは悪いからと言って値段を尋ね、片手で良いと言われて50円を渡して非常識呼ばわりされる寅。片手=50円=非常識というネタは最後の縁日のシーンでも繰り返される。
・「男はつらいよ 寅次郎の告白(1991年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.4) 日本版DVDで再見
シリーズ44作目。マドンナは吉田日出子(満男の相手としては後藤久美子)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=crdmg4QcWcw
泉からの電話に慌てて階段から滑り落ちる満男。如何にも作り物然としたタンコブから血が出るが、さくらが差し出したティッシュを当てるのは別の場所。なぜ撮り直さなかったのか。
泉が泣き崩れる場面などの演出の凡庸さ。
家出した泉を衝動的に探しに行く満男はかつての寅そのもの。
あんパンを買いに来ただけの泉を(家出してきた事情を何となく察してか)夕飯に誘う駄菓子屋のおばちゃん役・杉山とく子が良い。老婆の孤独とさりげない人情。
杉山とく子から頼まれて豆腐を買いに出た途中、寅に遭遇するという奇跡的偶然の相変わらずの都合良さ。豆腐の入った鍋を放り出して寅に抱きつく泉の粗雑さ。
母の恋愛を不潔だと非難しながら、しかしそれは自分が不潔だからだとも言う泉。小津の「晩春」からの影響か。
いくら鳥取だからと言って、泉と満男の待ち合わせ場所が鳥取砂丘というありえなさ。普通なら駅やホテルなどだろう。
再会時にスローモーションを使う凡庸さ。きっとこれが撮りたくて舞台を鳥取砂丘にしたのだろうが、感覚が余りに古すぎる。
・「男はつらいよ 寅次郎の青春(1992年)」(山田洋次監督) 2.5点→2.5点(IMDb 6.5) 日本版DVDで再見
シリーズ45作目。マドンナは風吹ジュン(満男の相手としては後藤久美子)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=duVQ4uQUyoI
久々に夢のシーンから始まる。題名が出る直前の不自然なカメラワーク。
バブルが弾けて寅も金欠なのか、財布の中が淋しい。
またもや泉がたまたま寅に遭遇する奇跡的偶然。しかし寅は泉が誰なのかすぐに認識出来ず。
タコ社長の言う通り、寅だけでなく満男や泉にも過保護なさくら。さくらこそが兄や息子を駄目にしている張本人でもある。
今回こそ泉と一緒に新幹線に乗って名古屋に行くべきだったのではないか。いざとなると腰が引けてしまうのも寅そっくり。
・「男はつらいよ 寅次郎の縁談(1993年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.6) 日本版DVDで再見
シリーズ46作目。マドンナは松坂慶子(2作目だが全くの別人役。満男の相手としては城山美佳子)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=m_JbDqhdTho
満男が就職試験に落ちた後でテーブルからカメラが上がっていく変な動き。
また、寅が旅先から柴又に電話した後の、静かに移動するカメラが異様。いずれも高羽哲夫ではなく池谷秀行の撮影か。
なぜ松坂慶子がわざとらしく泣く場面を描くのか。無粋の極み。
就職する年齡にもなって最後の最後まで過保護な満男の両親。
現実には笠智衆は既に亡くなっているのに、御前様は今も元気だという設定。
「釣りバカ日誌」の西田敏行がカメオ出演
「S・スピルバーグ ジェラシックパーク」(ジュラシックではなく)という幟(のぼり)が登場。
・「男はつらいよ 拝啓車寅次郎様(1994年)」(山田洋次監督) 2.0点→2.0点(IMDb 6.3) 日本版DVDで再見
シリーズ47作目。マドンナはかたせ梨乃(満男の相手役としては牧瀬里穂)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=K2hJ3t9DANc
感情的ですぐに周囲の人間に当たり散らす満男の駄目さ加減。
体調が悪いせいか渥美清の出番が極端に少ない。
川べりで牧瀬里穂に駆け寄る満男のスロー・モーションがとても見ていられない凡庸さ。どんどんひどくなっていく山田洋次の演出。
その川べりで見知らぬ人間に満男の家を尋ねる牧瀬里穂の非常識さ(それとも「家族ゲーム」のパロディか。たまたま相手が源公だったため教えてもらえる)。
・「男はつらいよ 寅次郎紅の花(1995年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 7.0) 日本版DVDで再見
シリーズ48作目(事実上の最終作)。マドンナは「リリー」こと浅丘ルリ子(同一役で4作目。満男の相手としては後藤久美子)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=HYzexwoljVM
いつも事前に連絡もせずいきなりやって来る泉(今回は満男の会社にまで)。再会場面を盛り上げたいからだろうが、不自然かつ非常識。そして打ち合わせの途中でも泉と話すためにそのまま外に出て行く、これまた非常識な満男。
食事シーンでも母親のさくらに偉そうに命令したりする内弁慶で口/性格の悪い満男。挙げ句に泉の結婚にショックを受けて仕事を投げ出し失踪し、泉の結婚式を妨害する。ますます非常識なダメ男に。
わざとらしいシャンパン騒動や痛々しい笑いの場面。
泉が結婚することを満男らに告げに来る突然の来訪から結婚式までどれくらい時間が経過?(数日としか思えない)。泉も満男に劣らぬ非常識なわがまま娘で、その意味ではお似合いか。
何の当てもなく列車や船に乗った満男が、加計呂麻島で寅と同居しているリリーと偶然遭遇するという天文学的な確率の偶然に失笑。
2.5点に減点しようと思ったが、最後のさくらの涙に0.5点加点。
シリーズ最後のシーンで、神戸震災跡地での在日コリアンたちの踊りを長々と映し出したのは、博に雑誌「世界」を購読させ続けた「左派」山田洋次の確信的な意図か、それとも単なる偶然か(別にどちらでも構わないし、そのことをどうこう言うつもりもないのだが)。
・「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇(1997年)」(山田洋次監督) 3.0点→3.0点(IMDb 6.4) 日本版DVDで再見
シリーズ49作目と称してはいるものの、実際には25作目の「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」に、甥の満男の回想シーンなどを加えただけの単なる焼き直し(にもなっていない、ほぼそのままの内容)。マドンナは浅丘ルリ子。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=DeIejRImMIE
米軍駐留下の沖縄の市場や寂れた歓楽街を記録した貴重な映像。
・「男はつらいよ お帰り 寅さん(2019年)」(山田洋次監督) 2.5点→1.5点→1.5点(IMDb 6.7) インターネットで再見
「公称」シリーズ第50作目。マドンナは満男の相手役の後藤久美子か(生死も定かではない寅の相手だとすれば、浅丘ルリ子か)。
予告編→https://www.youtube.com/watch?v=-dL5OHWsW8w
冒頭の桑田佳祐が歌う主題歌からして違和感ありあり。
美保純の不快なまでに大げさな大根芝居。対して余りに優等生的な満男の娘役の造型は、山田洋次による若者の(余りに嘘くさい)理想像か。
国連職員(のはず)の泉は「バングラデシュ」を「バングラディシュ」と発音。
満男は自著のサイン会でも終始仏頂面でお客の顔も見ず、ため息を連発。とことんダメ人間である。
いつもながら現実にはありえない泉と満男の奇跡的再会。
編集者の池脇千鶴と満男の関係は? 満男にとっては仕事や娘の教育上あくまで都合良いだけの便利な存在か(自分勝手な泉などよりも遙かに満男のことを真摯に考えていそうなのだが、善男善女ではなく性悪男や性悪女に惚れ込んでしまうのは愚かな人間の常か)。
かつて泉の結婚式を妨害して破談させた満男のご乱行のことは、そんなことはまるでなかったかのように、泉の母親(夏木マリ)と満男との間で全く言及されない。
「くるまや」の隣の不良少年は一体なんであんな造型にしたのか。見苦しく不快なだけ。
後半いきなり「大人」になる満男(泉の父親を見舞った後、泉と母親の諍いを冷静に宥めるなど)。寅と同じく完全な二重人格者。
登場人物同士の不自然な接触シーン。一番変なのは満男の娘が祖母のさくらにキスをする場面(欧米人か?)。空港における満男と泉のラブシーンもやはり見ていて恥ずかしくなる拙劣さ。
最後はイタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」の完全なパクリ。前回より少し見直して2.0点にしようとも思っていたのだが、この結末で結局前回と同じ評点に。
*
最後に今回の鑑賞に際して参考にしようと思った以下の本についても言及しておく。
・吉村英夫「完全版『男はつらいよ』の世界」(集英社文庫)
ネタバレもなんのそののあらすじ紹介に、「完全版」と称しつつ個々の作品についての言及は簡単に済ませ、もっぱら理屈っぽい自説の披瀝に得々とするだけの自己満足的な作品。
「男がつらいよ」に関する本で、これほど退屈かつ作品を見る上で何の役にも立たないものは初めてで、シリーズを見ていない人にも見たことがある人にも全くお勧め出来ない大愚作。時間もお金も損しただけで、こんなひとりよがりでつまらない分析などは無視して、映画本編を見るに限る。