2020年12月21日(月)

 今日は冬至。

 冬至と言えば、日本では昔から柚子湯に入ったり南瓜を食べたりする習慣があるが(私も子供の頃に柚子湯に入った記憶がある)、韓国ではこの日に小豆粥(밭죽=パッチュク)を食べる(日本でも同様に小豆粥を食べる地域があるようである)。

 見た目はぜんざいや汁粉に似ているが、基本的に甘くなく軽い塩味がついており、私を含めてぜんざいや汁粉は甘いものだという固定観念のある日本人には不評なようである(外で食べる場合、客が好みに応じて塩や砂糖を入れられるようになっている店もあるらしい)。

 この風習の背景等については以下のウェブサイトに詳しく書かれているので、興味のある方は参照されたい。

 https://www.konest.com/contents/korean_life_detail.html?id=564

 

 上に掲げたのは映画「男はつらいよ」シリーズの写真だが(7作目の「奮闘篇」)、しばらく前から、日本のBSテレ東では毎週土曜に「男はつらいよ」4K修復版を放送している。このブログにも感想などを書き付けたように、私もインターネットに誰かがアップしてくれたものを何作か見ることが出来たのだが、このところアップが途切れてしまっていたので、意を決して手持ちのDVDで全作を最初から見てみることにした(ただしBSテレ東で見た何作かは改めて見直すことはしなかった。下記の作品ごとの評価はしばらく前に見た時のもの)。

 

 

 松竹の公式ウェブサイト(上の写真)では全50作の作品紹介が掲載され、あらすじや出演者、ロケ地などが紹介されているので、ご興味のある方は以下のページから各作品の写真をクリックし、詳細をご覧いただきたい。

 https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/lineup/

 

 その後数週間かけてこの週末にようやく全作を無事見終えたのだが(我ながら改めて暇人だと痛感したものである)、考えてみれば1晩に1本見ただけでも1ヶ月半少しで全作見終わってしまうのだから、別に大したことをした訳ではない(実際、今回も1日に2本以上見た日は何日もない)。

 要は塵も積もれば何とかで、何事もこうしてコツコツ積み上げて行けば自ずとそれなりに結果が出るのが常なのだが、我々(特に私のようなグータラ者)はえてして日々の貴重な時間をただ無計画に、漫然と過ごしてしまいがちである。そして気が付いてみると、あっという間に人生の大半の時間が過ぎてしまっていて、空虚で膨大な時間の残骸だけが背後に残される訳である。嗚呼・・・・・・。

 

 

 映画を見ながら簡単なメモをとったりもしたのだが、それを一々書き写すとかなりの分量になってしまうので、以下には私の評価(5点満点)と各話のマドンナが誰か、予告編の動画アドレス程度の、簡単な情報を記すに留めたいと思う。作品によってはどうしても書いておきたいことがあるかも知れないので、その場合はこの限りではないが・・・・・・(実際やってみたら、結局メモ部分がかなり長くなってしまった・・・・・・)。

 

 

 「男はつらいよ」全50作(これはあくまで「公称」で、実際は49作の映画に再編集版の1作、そして現存する2話のテレビ・ドラマ版から成る)を見た感想を簡単にまとめるならば、

 

 ①渥美清というのは極めて話芸や歌唱等に秀でた優れた多才な「芸人」であったことを再確認できた(有名な主題歌での歌唱も実にうまい→https://www.youtube.com/watch?v=qjd-4rrX1K8←最初の台詞入り 各種聴き比べ→https://www.youtube.com/watch?v=7NJ-HhXQAlw 歌のみのヴァージョン→https://www.youtube.com/watch?v=da9p6n3sDS4)

 ②時々の日本の風景をフィルムに刻みつけたことでも今シリーズには歴史的価値がある

 ③どの作品も同じような内容の繰り返しでありながら、50作近く続けて見て行っても全く飽きるということがない(山田洋次らによる脚本の出来や、渥美清や倍賞千恵子を始めとする俳優たちの演技力の確かさもむろん大きく寄与している)。これは同じ松竹で活躍した監督であり、やはり同じような内容を繰り返し撮りながら、いずれもが傑作・名作となっている小津安二郎の衣鉢を継ぐものだと言えようか

 ④とは言え、満男(吉岡秀隆)と泉(後藤久美子)が事実上の主人公となった42作目「男はつらいよ ぼくの伯父さん」(1989年)以降の出来は余り芳しくない

 ⑤そして作品の出来の低下は、急速な経済成長を遂げてバブル景気へといたり、その後バブル崩壊で衰退の道を辿っていく日本社会の盛衰の流れとそのまま重なるようで、画面に映し出される日本の風景もどんどん威厳のない薄っぺらなものになっていく

 

 といったところだろうか。

 他にも車寅次郎という人物は完全な2重人格者と言うしかなく、「とらや」(後に「くるまや」)の面々や近所の人々の前では傍若無人に振る舞う厄介で自分勝手な「幼児」そのものだが、一旦「世間」に出ると、一転して人情味溢れる面倒見の良い人格者となる、といった分析なども出来なくはないのだが、一旦細部について書き出すと長くなって収拾がつかなくなりそうなので、今回はやめておく。

 


 

 もしこれから「男はつらいよ」シリーズをまとめて見てみたいという方がいるなら、私としては以下のような鑑賞方法をお勧めしたいと思う。

 

 ①まずテレビ・ドラマ版の2作(DVDあり)を見る

 ②1作目の「男はつらいよ」から、41作目の「男はつらいよ 寅次郎心の旅路」まで順番通りに見て行く(とても全部は見ていられないという方には、あくまで私の個人的な好みに基づくものだが、以下の15作品をお勧めしておく。★をつけたものは特にお勧め)

 第1作「男はつらいよ」 第2作「続・男はつらいよ」 第5作「望郷篇」 第7作「奮闘篇」 第8作★「寅次郎恋歌」 第10作★「寅次郎夢枕」 第11作★「寅次郎忘れな草」 第13作「寅次郎恋やつれ」 第15作★「寅次郎相合い傘」 第17作「寅次郎夕焼け小焼け」 第24作「寅次郎春の夢」 第25作★「寅次郎ハイビスカスの花」 第28作「寅次郎紙風船」 第29作「寅次郎あじさいの恋」 第32作★「口笛を吹く寅次郎」

 ③42作目から47作目までの6作と、昨年上映された50作目は「なかったこと」にして、実質的な最終作である48作目「男はつらいよ 寅次郎紅の花」だけ見て鑑賞を終える

 

 個人的には「なかったこと」にしたい42作目から47作目は、「源氏物語」で言えば「宇治十帖」にあたると言ってもいいのだが、言うまでもなく「源氏」の「宇治十帖」のような完成度からは程遠い「蛇尾」でしかない。

 もっとも、たとえ失望するだけだろうと何事も全作制覇せずにはいられないという方には、私が何を書いてみても無駄だろうから(私自身がまさにそういう性格なのでよく分かるのだが)、たとえがっかりするだけだとしても、自分なりの仕方で存分にお楽しみくださいと付け加えるしかない。

 

 

 

 ともあれ、若い頃にはどこか小馬鹿にして遠ざけて来たこのシリーズを、それから40年近く経って全作通しでイッキ見をし、しかもその多くでひどく揺さぶられ、時には思わず落涙し(正直、第1作から30作目くらいまでは涙なしには見られなかった)、すぐさま次の作品を見たいと思わされることになろうなどとは想像すらしていなかった。

 それは何よりも私自身が「年老いた」ためなのだろうが、しかしそれ以上に、渥美清という稀代の芸人と山田洋次という稀有な監督(★★そして職人気質あふれるスタッフや俳優たち)が、極めて巧妙かつしたたかに今シリーズを造型し、精巧で説得力ある細部を施すことによって、ドラマ版から数えて四半世紀強にわたり観客を魅了し続けうるだけのクオリティを保ち得たことが大きいだろう(上記の通り、最後の数作はこの限りではないのだが、それは今シリーズを牽引した「両輪」のひとつである渥美清が、病気によってもはや牽引役を演じきれなくなってしまったために他ならない)。

《★★ 「男はつらいよ」以外の山田洋次監督作品での渥美清などに関する過去記事→https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12502039762.html

 

 

 つい数日前に全作を見終えたばかりなので、当分の間、今シリーズを再び見返すことはないだろうが、作品を見続けていくにつれて登場人物たちが年老いて衰弱し、同時に作品の質も低下するのを見るのは居たたまれないだけで、もし改めて見る機会が訪れるとしたなら、次回は「最終作」である48作目から見始め、「宇治十帖」ならぬ「満男6帖」にも何とか我慢して付き合い(まだ見始めなので、出来が悪くてもさほど気にはならないだろうから)、41作目から1作目まで作られた順番とは逆に見ていき、最後にテレビ・ドラマ版の2作に移って、その悲しい「結末」(ネタバレになるので書かないでおくが)によってシリーズが大団円を迎える(?)様を見てみたいと思っている。

 

 

・「男はつらいよ(1969年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 7.0) 日本版DVDで視聴
 シリーズ1作目。マドンナは光本幸子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=KqSw6_wuv3E

 第1作目で今シリーズの枠組み(作品構造)はほぼ完成の域に達している。

 ちなみに今作公開時の年齢は、監督・山田洋次37歳、渥美清(寅次郎)41歳、倍賞千恵子(さくら)28歳、前田吟(さくらの夫・博)25歳、森川信(初代おいちゃん)57歳、三崎千恵子(おばちゃん)48歳、笠智衆(御前様)65歳、太宰久雄(タコ社長)45歳、佐藤蛾次郎(源公)24歳、光本幸子(初代マドンナ)25歳、志村喬(博の父)64歳、津坂匡章/秋野太作(寅の弟子?登)26歳、関敬六(後の「ぽんしゅう」)41歳、広川太一郎(さくらの見合い相手)30歳、作曲家・山本直純36歳、等々である。当然だが、皆、若い。

 

・「続・男はつらいよ(1969年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 7.2) 日本版DVDで視聴
 シリーズ2作目。マドンナは佐藤オリエ。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=oRS7am0QKAo

 内容はテレビ・ドラマ版に依拠。母お菊(ミヤコ蝶々)が登場し、迫真の演技で嫌なババア役を演じている。東野英治郎は小津の「秋刀魚の味」に通ずる教師役。

 

・「男はつらいよ フーテンの寅(1970年)」(森崎東監督) 2.0点(IMDb 6.8) 日本版DVDで視聴
 シリーズ3作目。マドンナは新珠三千代。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=4WCE7rqUEQw

 山田洋次以外の監督がメガホンを取っている2作のうちのひとつ(残念ながらいずれも山田洋次の素晴らしさを再認識させるだけの凡作である)。森崎東らしく笑いにもシモネタ系が多く、色調も暗い。

 

・「新・男はつらいよ(1970年)」(小林俊一監督) 2.0点(IMDb 7.0) 日本版DVDで視聴

 シリーズ4作目。マドンナは栗原小巻。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=24r4CyDgIIQ

 今作も監督は山田洋次ではなく、テレビ・ドラマ版を演出していた小林俊一で、やはり今ひとつの出来。

 

・「男はつらいよ 望郷篇(1970年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 7.0) 日本版DVDで視聴

 シリーズ5作目。マドンナは長山藍子(テレビ・ドラマ版のさくら役)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=T1vdNKfYEyA

 同じくテレビ版に出ていた杉山とく子(ドラマではおばちゃん役)や井川比佐志(同・さくらの夫・博士役)も出演している。

 もともと今作で「男はつらいよ」シリーズは打ち切りになる予定だったらしいのだが、ヒットしたためシリーズ継続ということになったそうである。

 

 

・「男はつらいよ 純情篇(1971年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 7.1) 日本版DVDで視聴

 シリーズ6作目。マドンナは若尾文子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=3Gn-gjjnHKs

 若き日の宮本信子も出演(森繁久彌とのからみが素晴らしい)。

 

・「男はつらいよ 奮闘篇(1971年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴

 シリーズ7作目。マドンナは榊原るみ。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=3HQU7EZFbZs

 今なら到底そのまま上映出来ないだろう「頭が薄い」、「足りない」といった障害者に対する言葉がポンポン飛び出し(下のやり取りを参照)、20歳そこそこの知的障害を抱えた娘との結婚を妄想する寅次郎もかなり危なっかしい。しかしその危なっかしさ故に、今作は極めて重い問題を我々に突きつけて来る。

 さくらが寅を心配して津軽まで旅する場面も秀逸で、「男はつらいよ」のほぼ全作を担当した撮影監督・高羽哲夫の腕が光る。

 田中邦衛や犬塚弘、柳家小さんなど、ちょっとした役柄で出てくる人たちも素晴らしい。

 さくらが兄の幸福を願って一時はこのふたりの結婚を望みながらも、最後は兄に決定的な「死刑宣告」を突きつけるのだが、それはただひとり兄・寅次郎のことを真剣に考えている妹さくらにしか為しえない神聖な行為でもある。

(以下はふたりを結婚させてやりたいと言うさくらに対する、おいちゃんとおばちゃんの会話)

 おいちゃん「足りねえ同士で結婚するってことになんだぞ」

 おばちゃん「どんな子供が出来るか考えてごらんよ」

 おいちゃん「別に顔なんてどうだっていいんだよ。寅の嫁にはな、頭だけはしっかりしたのをあてがわなくちゃ」

 

・「男はつらいよ 寅次郎恋歌(1971年)」(山田洋次監督) 4.0点(IMDb 7.4) 日本版DVDで視聴

 シリーズ8作目。マドンナは池内淳子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=WmZBL7VPUBQ

 かなり甘めの点数だが今作は秀作。寅が振られる前に己れの分を弁えて旅立つ展開も目新しく、最後の余韻も素晴らしい。

 まるでおいちゃん役の森川信の死を予感させるかのような台詞が幾つも出てくる。撮影時に体調が優れなかったことを知りつつ、あえてそれらの台詞を書いたとすれば、山田洋次はまさに「非道」の監督である。

 

・「男はつらいよ 柴又慕情(1972年)」(山田洋次監督) 2.0点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴

 シリーズ9作目。マドンナは吉永小百合。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=CJ4t9JjtWJ0

 吉永小百合が登場すると画面も周囲の俳優の演技も凍りついてしまい、つくづく女優として損なめぐり合わせの人だと痛感させられる(その結果、長いキャリアにもかかわらず、浦山桐郎監督の「キューポラのある街」以外に代表作らしい代表作にも恵まれなかった)。

 前作で旅回りの役者一座の長を演じていた吉田義夫(個人的にはかなり幼い頃に見た「悪魔くん」のメフィスト役が印象深い)が今作から夢の場面で悪役を演ずることが多くなる。前作で彼女の娘・大空小百合役を演じていた岡本茉利(「いなかっぺ大将」のキクちゃんの声など、声優としてより広く知られている)も今シリーズの常連になるが、この大空小百合がマドンナになる第37作「幸福の青い鳥」では女優が岡本茉利から志穂美悦子に変わってしまう。

 

・「男はつらいよ 寅次郎夢枕(1972年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで再見

 シリーズ10作目。マドンナは八千草薫(彼女の追悼のために1年前に今作を見た時には3.0点とやや厳しい点数をつけている)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=xOLnGIdyCH0

 ネタバレになってしまうが、今作では思わぬことから寅が逆に惚れられていることが発覚するものの、そのことに怖気づいて逃げてしまう「惚れられた寅が逃げるパターン」の最初のもので、マドンナ・八千草薫が寅の「プロポーズ」を前に、橋の欄干に「の」の字を書く細かい所作など、味のある演技を披露している。彼女に惚れる真面目一方の大学助教授役を演ずる米倉斉加年が、かなりオーヴァー・アクション気味ではあるものの愉快で楽しめる。

 名女優・田中絹代が寅の同業者の悲しい末路を物語る挿話は作品全体の流れからは浮き上がっているが、それが逆にコメディに深みと余韻を与えている。

 

 

・「男はつらいよ 寅次郎忘れな草(1973年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで再見
 シリーズ11作目。マドンナは「リリー」こと浅丘ルリ子。リリー3部作(あるいは4部作)の第1作。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=aqiOA6R1m3A

 寅やリリーのように土地土地を流れ歩いて商売をする「流れ者」のことを自嘲気味に形容する寅の台詞が印象的である。

 「(俺たちなんざ)上等なアブクじゃねえよな。風呂の中でコイた屁じゃねぇが、背中の方に回ってパチンよ」

 

・「男はつらいよ 私の寅さん(1973年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで視聴
 シリーズ12作目。マドンナは岸恵子(吉永小百合同様、今シリーズの雰囲気には不似合いか)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=k_IsbdbyghU

 前半の九州旅行は見ていて実に楽しいのだが、思わせぶりなやり取りがある割には結局何も起きないまま終わる(編集ミスか?)。

 今作では寅と仲が良く思いやりのある幼馴染みとして描かれている前田武彦が、後の28作目「男はつらいよ 寅次郎紙風船」ではすっかり豹変して寅のことをひどく憎んで批判する様が描かれている。

 

・「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ(1974年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 7.0) 日本版DVDで視聴

 シリーズ13作目。マドンナは再び吉永小百合(高田敏江も?)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=h6k_kfNKvXY

 9作目に続いて吉永小百合がマドンナだが、低調だった前作を今作で何とか挽回。不器用な父親役の宮口精二の淡々としながら真情に迫る演技が素晴らしい。

 

・「男はつらいよ 寅次郎子守唄(1974年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.5) 日本版DVDで視聴

 シリーズ14作目。マドンナは十朱幸代。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=-BPNxcWNVWs

 これまたネタバレになってしまうが、寅がどうにもパッとしない別の男に、自ら恋するマドンナへの愛の告白を促し、その結果、瓢箪から駒で愛が成就して寅が振られてしまうというパターンの最初のもの(?)。

 寅の失恋話よりも、佐賀県呼子港のストリッパー役・春川ますみ(過去には寅の幼馴染み役で出ていた)と赤ん坊のエピソードが秀逸。自分にすっかりなついて引き取るつもりでいた赤ん坊が親元に帰ってしまって、おばちゃん(三崎千恵子)が悲しむ場面も泣かせる。

 

・「男はつらいよ 寅次郎相合い傘(1975年)」(山田洋次監督) 4.0点(IMDb 7.2) 日本版DVDで視聴
 シリーズ15作目。マドンナは再び「リリー」こと浅丘ルリ子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=4vZHAiwRuD4

 シリーズ最高傑作候補の最上位にあがるだろう傑作。浅丘ルリ子がとにかく素晴らしく、有名なメロンを巡る挿話で寅相手に啖呵を切る場面は絶品。また妹さくらがリリーに寅の奥さんになってくれたらどんなによいかと切り出してから、雷雨で停電した寅の暗い部屋の場面に至るまでの倍賞千恵子の演技は神がかっている。

 いわゆる「寅のアリア」(ひとり語り)も秀逸だし、雨降る中を番傘を手に柴又駅までリリーを迎えに行く場面など、今作にはシリーズ屈指の名場面が幾つもある。ナヨナヨしつつも終始鷹揚に振る舞う船越英二の演技も非常に味わい深い。

 

 

・「男はつらいよ 葛飾立志篇(1975年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 7.1) 日本版DVDで視聴
 シリーズ16作目。マドンナは樫山文枝。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=swfx5wtKNSY

 小林桂樹演ずる大学教授の名前は、今作の前に制作された映画&ドラマの「日本沈没」と同じ「田所雄介」で、一種のオマージュ/パロディとなっている。ネタバレになるが、寅の恋は成就しないものの決定的に振られる訳でもない新たなパターン。

 

・「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け(1976年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 7.3) 日本版DVDで視聴
 シリーズ17作目。マドンナは太地喜和子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=zwxXKAvIFlg

 からみは少ないが、宇野重吉と寺尾聰の親子共演作(寺尾聰は今作以外にも、泉の父親役や警官役などで「男はつらいよ」シリーズに何度も登場している)。この作品からも分かるように、寅は作家の永井荷風のように今作の太地喜和子のような玄人の女性とだけ自然に付き合えるのである。

 

・「男はつらいよ 寅次郎純情詩集(1976年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 7.0) 日本版DVDで視聴
 シリーズ18作目。マドンナは京マチ子(檀ふみも?)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=m0RyacCDllE

 冒頭でヴェルレーヌの詩「感傷的な対話(Colloque sentimental)」が仏語で朗読されるが、画面上の字幕はそれとは全く別物である。この冒頭シーンにおける岡本茉利や倍賞千恵子の仏語は自然と理解出来る一方、渥美清が2度口にする仏語は字幕から類推してもよく分からない。ダーバンのコマーシャルから来ている「C'est l'élégance. D'urban.」という台詞だけはなんとか聞き取れるのだが。
 確信犯的に無銭飲食を働いて反省するところのない寅の姿は正視に耐えない。名脇役・浦辺粂子がいつもながらに地味だが秀逸。

 

・「男はつらいよ 寅次郎と殿様(1977年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴
 シリーズ19作目。マドンナは真野響子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=XnZB_YsaGGo

 異彩を放つ嵐寛寿郎、いつもながらに存在そのものがおかしい三木のり平、そして渥美清という布陣は非常に豪華だが、話は平凡で真野響子のマドンナも弱い。失踪した嫁の捜索をする際、寅が馬鹿なのは「お約束」だとして、周囲の誰もが現実的な提案ひとつ出来ないのはさすがに嘘っぽくて見ていて白けた。

 

・「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!(1977年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 7.0) インターネットで視聴(再見?)
 シリーズ20作目。マドンナは藤村志保(大竹しのぶ?=中村雅俊とのからみ)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=XUwHBWbIm-s

 出来は平凡だが、この頃の渥美清は脂が乗っていて何をやっても安心して見ていられる。

 

 

・「男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく(1978年)」(山田洋次監督) 2.0点(IMDb 6.2) 日本版DVDで視聴
 シリーズ21作目。マドンナは木の実ナナ。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=PCJMCu3pCBc

 翌年山田洋次が松竹歌劇団(SKD)で脚本・演出をつとめるミュージカル「カルメン」の宣伝を兼ねているか(作中ではさくらがSKDに行きたかったが行けなかったことになっているが、実際には倍賞千恵子はSKD出身である)。マドンナの木の実ナナが今ひとつ作風に合っていない。映画「未知との遭遇」をそのまま真似した冒頭部の夢シーンが笑える。

 

・「男はつらいよ 噂の寅次郎(1978年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで視聴
 シリーズ22作目。マドンナは大原麗子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=zrF_9wXz-S4

 大原麗子が余りにあざとい&わざとらしい演技で白けるし、室田日出男が彼女のいとこだという設定も余りに生々しすぎる(無論いとこ同士の結婚は法律上は何の問題もないのだが)。また、冒頭の夢の場面における妻の死因が子宮外妊娠だという設定にはドキリとさせられた(監督は大原麗子が渡瀬恒彦との間の子供を子宮外妊娠で失ったことを知っていたのだろうか。知っていたとすれば、やはり山田洋次は恐ろしい人である)。

 

・「男はつらいよ 翔んでる寅次郎(1979年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.4) 日本版DVDで視聴
 シリーズ23作目。マドンナは桃井かおり。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=aS8WB-Zys_A

 寅が振られてからすぐに旅立たずにいる新パターン。ついつい引き受けてしまった仲人役をせずに旅に出るのは無責任過ぎると妹さくらに引き止められるのだが、期待していた寅のスピーチは冒頭の夢における便秘の話と通ずる「ウンコ」ネタだけであっという間に終わってしまい、今ひとつの出来。
 湯原昌幸と桃井かおりの組み合わせは、武田鉄矢と桃井かおりがコンビを組んでいた「幸福の黄色いハンカチ」の2番煎じで新鮮味に欠ける。

 東京で生まれ育ち、子供の頃からテキヤ稼業をやっている寅が、いくら何でも田園調布のことを知らないはずがないだろう。
 御前様(笠智衆)が結婚式で披露する詩吟は、小津安二郎作品(「彼岸花」)を彷彿とさせる(木暮実千代のキャスティングも)。
 布施明の妹・京子役を、撮影当時まだ14歳だった戸川京子が演じているのだが、彼女の最期(37歳で自殺)を思うと胸が痛む。。

 

・「男はつらいよ 寅次郎春の夢(1979年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 7.1) 日本版DVDで再見
 シリーズ24作目。マドンナは香川京子(さくら=倍賞千恵子も?)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=2lIXHrNM2Z0

 平凡な出来だが、最後に寅がさくらに言う「博には黙ってろよ、な」の一言で0.5点追加。

 早朝の上野駅での寅とマイケルが分かれる場面での猥雑な街並みが懐かしい。

 

・「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花(1980年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 6.8) 日本版DVDで再見
 シリーズ25作目。マドンナは浅丘ルリ子(リリー3部作最終作)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=hpojmcb1AYc

 以下は完全なネタバレになるが、「リリー、おれと所帯持つか」と寅がポロリと漏らした後、とらやの面々が呆然として互いに顔を見合わせ、その後の展開がどうなるか固唾を呑んで見守る中、結局はシリーズ存続のためか、すべては冗談や夢という言葉で茶化されてしまうのだが、今作で寅とリリーをくっつけてシリーズを終える選択も十分ありえたはずである。

 そうなっていたら、まだ体力も気力も十分残っていた渥美清は、車寅次郎以外の役で俳優として新境地を開けていたかも知れないと思うと(監督の山田洋次や妹さくら役の倍賞千恵子などにしても同様である)残念な気がしないでもない。

 「はて――こんないい女をお世話した覚えは、ございませんが・・・・・・」という寅の言葉を受けて、浅丘ルリ子が「ございませんか!この薄情者!」と口にする台詞は実にさりげないにもかかわらず情感がこもっていて、シリーズ随一の幕切れかも知れない。

 

 

・「男はつらいよ 寅次郎かもめ歌(1980年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 6.7) 日本版DVDで視聴
 シリーズ26作目。マドンナは伊藤蘭。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=CEPqIIDj67c

 伊藤蘭は「ヒポクラテスたち」(1980年)での演技は自然でなかなか良かったのだが、今作ではわざとらしい役柄のせいか演技も今ひとつ低調である。
 冒頭で、寅が初めて家を持つさくら夫婦に祝い金2万円をあげようとすると、さくらと博が大金だから受け取れないと固執し、5千円だけ受け取ってお釣りを返そうとするのは、単に寅のメンツを潰すだけの思いやりが欠如した行動でしかなく、これに腹を立てる寅には悪いところは何もないと言っていいだろう。
 これに限らず、寅と喧嘩になる場面の多くで、とらやの面々やタコ社長は寅に気を遣っているというより、寅自身が指摘するように彼のことをどこか馬鹿にしているのである。
 今作で寅の生年月日が1940年(昭和15年)11月29日となっているが、渥美清は実際には1928年生まれで、さすがにサバの読みすぎだろう。1940年生まれだとすると、例えばジョン・レノンやブルース・リー、アル・パチーノなどと同い年で(「男はつらいよ」で共演した浅丘ルリ子や上條恒彦などとも同年齢ということになり、日本の芸能界では津川雅彦、原田芳雄らも1940年生まれである)、今年生誕80年ということになる。

 

・「男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎(1981年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴
 シリーズ27作目。マドンナは松坂慶子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=HftA3FBNznA

 珍しく失恋の痛手から寅が愚痴めいたことを言う場面があるのだが、そのくせそのしばらく後で相手の嫁ぎ先までのこのこ出掛けていって様子を見ようとする神経は、私などにはなかなか理解しがたい(また宿賃も払えないのに女に惚れて長々とホテルに居座ろうとする図太い神経も同様に理解に苦しむ)。

 20歳以上年下の松坂慶子に恋慕するのはさすがに無理があり、やはり前作あたりでシリーズを終えていた方が良かったのではないか。

 ホテルの若主人役の芦屋雁之助が実に良い味をかもし出していて、下手をしたら寅を食ってしまうのではないかと思えるほどである(芦屋雁之助はシリーズ最終作にも出演している)。
 今作から満男役で吉岡秀隆が登場。今年亡くなった斉藤洋介も出演している。
 松坂慶子と出会う直前、寅が海を見下ろしながら菓子パンと牛乳を食べる場面は、山田洋次の「故郷」(1972年)の一場面(開始から13分半以降)と似ている。

・「男はつらいよ 寅次郎紙風船(1981年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 6.7) インターネットで視聴(再見か?)
 シリーズ第28作。マドンナは音無美紀子(岸本加世子も?)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=r5QQO39aOlg

 一般にはさほど評価が高くないようだが、「おもしろうてやがてかなしき」をまさに実践したと言って良い作品で、個人的には大好きな作品である。映画の最後で、自分宛てに届いた速達便の中味を知り、「とんだ三枚目だ」と苦笑いする寅次郎がとりわけ印象的である。
 ネタバレになるが、最後にヒロインの音無美紀子が寅次郎にある「確認」をするのだが、もしその時寅次郎が「ひと押し」していたら、ふたりの恋は成就していたのではないかと思わせる内容となっている。彼女の亡夫は寅次郎と同じ稼業でそのことに理解もあり、自分も若い頃に苦労した経験があって、この組み合わせであれば結構うまく行ったのではないかと思える(ちょうど同じようなことを考えている人の記事がインターネットに掲載されていた→『男はつらいよ 寅次郎紙風船』秋月の「婚約」恋が実る最大の好機https://www.nishinippon.co.jp/item/n/651520/)


 ・「男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋(1982年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 6.8) インターネットで視聴

 シリーズ第29作。マドンナはいしだあゆみ。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=OALIB3pKVw0

 これまた寅次郎がマドンナに惚れられるパターンで、いしだあゆみがどこか翳りのある役どころで、その暗さがかえって良い。彼女の故郷と設定されている京都北部・丹後にある港町の風景も素晴らしく、水辺に面した家々の佇まいは(ちょっと前の別の日本映画の舞台にもなっていたような気がするのだが、どの映画だったか思い出せない)、ただ見ているだけで惹き込まれる。

 鎌倉や江ノ島での、お互いにただ黙り込んでいるだけで時間ばかりが過ぎていくデート(甥の満男が付き添い)を終えて別れた後、満男を前に寅次郎が思わず涙したというエピソードには胸をつかれる。

 共演陣のひとり、片岡仁左衛門がさすがの貫禄で見せる(以前見たドラマ「商社」での印象が強烈だったため、これらの作品の他、映画やテレビにほとんど出ていないことには驚いた)。

 

・「男はつらいよ 花も嵐も寅次郎(1982年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.7) インターネットで視聴

 シリーズ第30作。マドンナは田中裕子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=KFbinEqsG3E

 前作での自らの「失敗」を受け、今作において寅は、2枚目だが不器用な青年(沢田研二)と、彼が惚れた若い女(田中裕子)との間をとりなそうとするのだが、自分にひどくなついている田中裕子に寅自身もひそかに好意を寄せているのだった。

 田中裕子はなかなか良いのだが、22作目の大原麗子同様、色気の発散具合が余りにわざとらしくやり過ぎ。脇役では、旅宿のオヤジ役の内田朝雄が渋い持ち味を出していて実に良い。冒頭の主題歌のバックにアパッチけんと光石研が登場。

 

 

・「男はつらいよ 旅と女と寅次郎(1983年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.5) インターネットで視聴
 シリーズ第31作。マドンナは都はるみ。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=XKPYtAs3ZAo

 これまた普通の出来。ベルリオーズの「幻想交響曲」やヴィヴァルティの「四季」、ウィンナ・ワルツなどクラシック音楽が多用されている(もっとも今シリーズではクラシックの使用は珍しくないのだが)。

 ヒロインの都はるみは寅が惚れるような美人ではないと、一般には余り評判が良くないようなのだが、個人的にはからっとした性格の魅力的な女性だと感じた。

 作中にちんどん屋が何度か登場するのは、やはりちんどん屋をよく登場させた成瀬巳喜男を意識しているか?(中北千枝子が保険外交員役で出ていることもあって、今作を成瀬へのオマージュだと解釈する人もいる)。

 

・「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎(1983年)」(山田洋次監督) 3.5点(IMDb 7.2) インターネットで視聴

 シリーズ第32作。マドンナは竹下景子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=ptLC6r9s_88

 今作をシリーズ最高傑作とする人も少なくないようである。
 とにかく竹下景子が良い(彼女は後に全く別の役でさらに2作品でマドンナ役を演じており、マドンナ役の回数としては浅丘ルリ子に次いで2番目★。私は特に好きな女優ではなかったのだが、今作を見て、かつて「お嫁さんにしたい女優No.1」と言われた理由が何となく理解できた気がする)。

 最後の柴又駅での別れのシーンには、寅の優しさと残酷さとが同時に感じられる、おそらく「男はつらいよ」シリーズでも屈指の名場面だろう。妹さくらに「へへへッ、というオソマツさ。さーて、商売の旅に出るか」と言う寅の姿が哀れでたまらない。

 寅次郎がお坊さんのピンチヒッターとして説教する場面は爆笑モノだし、おいちゃんの「これが本当の三日坊主だ」という台詞も可笑しい。

《★と書いた後で確認してみると、なんと後藤久美子が5作品において「マドンナ」役を演じていることになっていて、回数では1番だという見方があるらしい。私にとってはあくまで「マドンナ」は寅が惚れた相手のことであって、甥の満男が惚れた相手ではないのだが・・・・・・。実際、公式サイトのマドンナ一覧においても、後藤久美子はマドンナと認定されている→https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/madonna/

 

・「男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎(1984年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 6.2) 日本版DVDで視聴
 シリーズ33作目。マドンナは中原理恵。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=uVHb9DDfCpU

 社長の娘(美保純)の結婚に、かつての舎弟・登(秋野大作)との再会(奥さん役はレオナルド熊の最後の奥さん・中川加奈。レオナルド熊つながりで最後に熊が出現するのかも知れないという卓見?を披瀝している人もいる)、「幸福の黄色いハンカチ」のパロディ(佐藤B作)など、互いに余り関係ないエピソードを盛り込み過ぎて、焦点がボケてしまっている上、ヒロインの中原理恵もインパクトに欠けるか。

 何をしだすか分からない不穏な雰囲気をたたえている渡瀬恒彦はさすがの存在感。「兄(あに)さん、見かけによらず純情ですね」という殺し文句で、寅も思わずタジタジとなる。

 結末で寅がひと目でぬいぐるみと分かる熊に追われるドタバタ劇の無残さはこれまでのシリーズにないもので、加藤武も此処だけの出演では余りにもったいない。

 

・「男はつらいよ 寅次郎真実一路(1984年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.5) 日本版DVDで視聴
 シリーズ34作目。マドンナは再び大原麗子(ただし全く別人の役)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=pN6AwSGzT4A

 とりたてて特徴がないものの、それなりに見られてしまう平均作。

 

・「男はつらいよ 寅次郎恋愛塾(1985年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 6.6) 日本版DVDで視聴
 シリーズ35作目。マドンナは樋口可南子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=pKR-E2gT78k

 57歳という年齢もあってか、寅はもはや好いた惚れたという話の主人公とはなりえず、タイトルにも顕著なように若い世代の恋愛を取り持つ役割を担うようになり、今作でも自分の娘ほどの樋口可南子にほのかに好意を寄せながら、彼女と同じアパートに住んでいて片思いで悶々としている平田満を「指南」することになる。

 全体にドタバタ調が濃厚で、平田満を追って寅や樋口可南子が秋田まで出かけていく結末はおふざけが過ぎて白ける。電子音を用いた「ビヨヨーン」というような効果音があちこちで使われているのも、作風の安っぽさに拍車をかけている。

 

 

・「男はつらいよ 柴又より愛をこめて(1985年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 6.5) 日本版DVDで視聴
 シリーズ36作目。マドンナは栗原小巻。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=cEWTQxkrrxY

 タコ社長の娘(美保純)の家出騒動を描く前半部は悪くないが(純朴そうな田中隆三=田中裕子の弟が良い)、栗原小巻の登場以降は凡庸な出来。「新・男はつらいよ」(1970年)に続く2度目のマドンナ役・栗原小巻はやや真面目すぎのため、コメディ映画にはしっくり来ない。

 

・「男はつらいよ 幸福の青い鳥(1986年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 6.0) 日本版DVDで視聴
 シリーズ37作目。マドンナは志穂美悦子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=Ennc5Y0H--U

 寅がかつて贔屓にしていた旅芝居一座の座長の死を知って家を訪ねていく冒頭部はなかなかなのだが、これまで岡本茉利が演じていた大空小百合(本名:美保)役が志穂美悦子に変わり、しかも過去の作品との整合性が取れていないため(彼女は寅と初めて会った時には既に成人していたはずで、何度も旅先で会っては「車先生」と親しみをこめた尊称で呼んでいた寅のことを忘れているはずがない)、その時点で落胆するしかなかった(いっそ大空小百合ではなく、全くの別人にしていた方がまだマシだと思った)。

 また長渕剛の演技が余りにぶっきら棒でイライラさせられ、2人が結婚してもすぐにヒモでDV夫に堕すること間違いなしの、自意識ばかり高い利己的な男にしか見えず、せっかくの寅やさくらの取りなしも無駄に終わるようにしか思えないことも、作品に対する評価を残っている(もっとも実生活においてはこの2人はうまく行っているようだが、それはむろん映画とは別物である)。

 

・「男はつらいよ 知床慕情(1987年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 7.1) 日本版DVDで視聴
 シリーズ38作目。マドンナは竹下景子(2作目。全くの別人役)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=doWttb08zU8

 黒澤映画以外では三船敏郎という俳優が大根役者でしかないことを露呈してしまう作品。

 三船の相手役である淡路恵子は当時の実年齢は54歳だが、10歳は年上に見えるため、当時66歳の三船とのロマンスもおかしくは見えない。ちなみに32作目の「口笛を吹く寅次郎」に続いてマドンナ役を演ずる竹下景子は33歳だが、やはり年齢よりもずっと落ち着いて見える。渥美清は59歳で、竹下景子に惚れた腫れたと言うにはもうすっかり年老いてしまっている。

 音楽の使い方もひどい。とりわけ寅の突然の出発を知らされ、その理由を知らされて竹下景子が怒る場面の陳腐な音楽には呆れるしかない。また、今作でも「ボヨヨ~ン」というような効果音が使われていて、その感覚が全く理解出来ない。

 夏は暑さを避けて北へ向かうはずの寅が、今回では反対に北海道から、ただでさえ猛暑で知られる岐阜(長良川)まで南下していく(「こっちは涼しい北海道でな、たっぷり休息しで来たんだ」という台詞があるにはあるのだが)。出発点が北海道なので、それ以上、北上することが出来ないとしても、あえて酷暑の地へと南下していったのは、北の地で失恋(?)したせいだろうか。

 

・「男はつらいよ 寅次郎物語(1987年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 6.7) 日本版DVDで視聴
 シリーズ39作目。マドンナは秋吉久美子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=trYv7HEkvE0

 後に50作目の「男はつらいよ お帰り 寅さん」でも採り上げられる「人間はどうして生きるのか」という満男とのやり取りは今作の一場面である。北野武の「菊次郎の夏」を彷彿とさせる内容だが、子役に全く魅力がなく、五月みどりとの再会シーンもわざとらし過ぎる。おしっこの噴出シーンなど、笑いがどんどん低俗になっていき、今作でも相変わらず「ボヨヨ~ン」というような効果音が登場している。

 バブル景気のおかげか、いつの間にか「とらや」でも従業員を雇い始めている。

 

・「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日(1988年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 6.5) 日本版DVDで視聴
 シリーズ40作目。マドンナは三田佳子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=0avNgAh0yVs         

 サザンオールスターズの挿入歌や浮わついた街並み、人々(殊に学生)の服装や髪型などにバブル時代の軽佻浮薄さが漂い、なによりも俵万智の「サラダ記念日」からの引用が煩わしく鼻白む。常連俳優たちの老いが気になり始める作品だが、冒頭で一人暮らしの老婆役を演ずる鈴木光枝の好演が最後まで心に残る。

 


 

・「男はつらいよ 寅次郎心の旅路(1989年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 6.5) 日本版DVDで視聴
 シリーズ41作目。マドンナは竹下景子(3作目。やはり別人の役)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=PODjnidf-nc

 前作「男はつらいよ 知床慕情」でも竹下景子と共演していた淡路恵子が出演。

 バブル経済を背景にしてか、舞台をウイーンに移したシリーズ唯一の海外撮影作で、事実上今作で寅が主人公の位置を占める「男はつらいよ」は、渥美清の健康問題によって打ち止めとなってしまう。

 それにしても時代はバブル全盛期で、円高もあって航空料金も劇的に下がって海外旅行はもはや全く夢ではなくなっていたはずで、今作は一体いつの時代の話かと疑ってしまう内容になってしまっている。

 そもそも以前から「男はつらいよ」シリーズには時代錯誤の傾向が少なくなかったものの、今作の設定は海外渡航が難しかった(今作公開時から)20年以上も前の話のようである。

 結末の展開も何十年も前の古臭い映画のようで、今作における男女意識にしても、淡路恵子の時代であればまだしも、竹下景子の世代にとっては旧態依然で笑止千万ものだろう。

 ウイーンが舞台ということで、映画「第三の男」などへのオマージュが色々と出て来る(淡路恵子の亡夫の写真は、「第三の男」のハリー・ライム=オーソン・ウェルズそっくりの格好&風貌になっている)。

 妹さくらが息子の満男に向かって、「おじさん(寅)は世の中を否定したんじゃなくて、世の中に否定されたのよ」と辛辣な批評をする場面が衝撃的である。御前様(笠智衆)の「寅の人生そのものが夢みたいなものだ」というのとはまた別の、これまでの「さくら」という人物からは考えられないような非常に厳しい評価だと言っていい。

 後の「Shall we ダンス?」(1996年)では確かとうとう最後まで踊らなかった柄本明が今作ではタンゴ(?)を披露しているのだが、なかなか上手なことに驚かされた。

・「男はつらいよ ぼくの伯父さん(1989年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 7.1) 日本版DVDで視聴
 シリーズ42作目。マドンナは檀ふみ(満男の相手としては後藤久美子)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=rZnv_8HfFvc

 体調が悪そうですっかり衰えた寅の代わりに、今作からは甥の満男(吉岡秀隆)とそのガールフレンド泉(後藤久美子)が事実上の主人公となっていく。後藤久美子の演技は学芸会レヴェルだが、まだ子供なので何とか許せる範囲である(後の作品では徐々に見るに耐えなくなっていく)。

 寅と満男がお酒を呑みに行って戻った後の「とらや」の面々の寅に対する相変わらずの冷たさにはイライラさせられる(時代錯誤的な思考と満男への過保護)。

 満男が家出先から家に戻って来た時の「とらや」一同による歓迎の演技に空々しさと、それとは対称的に本当に(肉体的に)寒そうで今にも震えだしそうな寅のすっかり弱った姿が痛々しい。

 

・「男はつらいよ 寅次郎の休日(1990年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 6.9) 日本版DVDで視聴
 シリーズ43作目。マドンナは夏木マリか(満男が主人公だとすれば後藤久美子)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=JN4RWQ5577A

 もはや完全に満男と泉が主人公へ。話も凡庸で、音楽の使い方も前作あたりから余りに酷すぎる(特に今作以降、満男と泉のテーマソングと化した徳永英明の安易な使い方にはウンザリさせられるしかない)。

 作品の内容そのものより、渥美清の衰えが目立って来て、最期の時に一歩一歩近づいているのを目の当たりにするようで心が痛む。そんな状況で揺らぐことなくコメディ作品を撮り続けようとしている山田洋次という人がある意味で凄い(恐ろしい)。

 

・「男はつらいよ 寅次郎の告白(1991年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.8) 日本版DVDで視聴
 シリーズ44作目。マドンナは吉田日出子(満男の相手としては後藤久美子)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=crdmg4QcWcw

 満男パートは相変わらず見るに耐えないが、寅と吉田日出子のパートはしんみりしていて久々に味わい深い。シリーズ常連の杉山とく子演ずるおばあさんとの交流も、周囲の懐かしい風景(倉吉市)と共に味わい深い。後期作品の中では今作がベストか。

 

・「男はつらいよ 寅次郎の青春(1992年)」(山田洋次監督) 2.5点(IMDb 6.7) 日本版DVDで視聴
 シリーズ45作目。マドンナは風吹ジュン(満男の相手としては後藤久美子)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=duVQ4uQUyoI

 パトリス・ルコントの「髪結いの亭主」(1990年。日本では1991年末に公開)をモチーフにした風吹ジュンと寅の2人に、風吹の弟役の永瀬正敏がからむパートは悪くない。今作でも問題は満男と泉のパートで、毎度お決まりとなった徳永英明の歌の使用や、見ていて気恥ずかしくなるようなふたりの安っぽい言動はただただ「お寒い」限りである。

 笠智衆は今作が遺作となり、この偉大な俳優の生涯最後の台詞が、笑うに笑えないギャグ(にもなっていない)だというのは、日本映画の衰退を物語る象徴のようでもある。

 以前からさくらの夫・博(前田吟)がどんどん性悪になって来ていたのだが、今作でも寅の「失恋して人間は成長するんだい」という言葉に、「失恋して成長するんなら、兄さんなんか今頃、博士か大臣になってるはずじゃないんですか」と辛辣な言葉で返す場面がある。いくら寅が能天気なお調子者だとしても、さすがにこれは失礼千万な言い草だろう。

 

 

・「男はつらいよ 寅次郎の縁談(1993年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.8) 日本版DVDで視聴
 シリーズ46作目。マドンナは松坂慶子(2作目。全くの別人役。満男の相手としては城山美佳子)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=m_JbDqhdTho

 今作では主人公が満男から寅に(あくまで少しではあるが)戻っていて作品の出来も多少持ち直していると言えるが、それでも過去の凡作にも及ばない凡庸さである。

 今作では泉との過去は全くなかったかのようになっていて、満男は四国の小島で働く看護婦・城山美佳子と親しい関係になるが、最後は叔父の寅と同じく怖気づいて突然逃げ出してしまう。城山美佳子はパッと見てすぐに惹きつけられるような美人ではないためか、一般的な評価は低いようだが、個人的には純朴な感じが出ていてなかなか良かった(もっとも映画の最後では少しも純朴などではない、現実的でしたたかな女性として描かれているのだが)。

 

・「男はつらいよ 拝啓車寅次郎様(1994年)」(山田洋次監督) 2.0点(IMDb 6.5) 日本版DVDで視聴
 シリーズ47作目。マドンナはかたせ梨乃(満男の相手役としては牧瀬里穂)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=K2hJ3t9DANc

 渥美清の表情がすっかり強張っていて、既に死の気配が漂っている。話もスカスカでよくこれだけ内容のない脚本で映画を撮ろうとしたなと思ってしまうほどのレヴェル。何作か前から徐々に始まりつつあった甥・満男による「寅の神格化」が強まっているものの、かえって老いさらばえた寅の姿が痛ましく感じられるだけである。

 

・「男はつらいよ 寅次郎紅の花(1995年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 7.1) 日本版DVDで再見
 シリーズ48作目(事実上の最終作)。マドンナは「リリー」こと浅丘ルリ子(同一役で4作目。満男の相手としては後藤久美子)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=HYzexwoljVM

 この「男はつらいよ」シリーズでは、これまでもありえないような偶然による寅との出会いがよく描かれていたが、泉の結婚式をめちゃくちゃにした後で家出した満男が、たまたま列車や船を乗り継いで辿り着いた場所でリリーと遭遇し、暫く前からその家に転がり込んで同居している叔父の寅に会うという今作の設定には、さすがに無理がある。

 今作を見ていて、「男はつらいよ」というシリーズが(あくまで結果的にだが)山田洋次版の「失われた時を求めて」であることを実感させられることになった。時の経過とともに誰もが無残なまでに年老いて消えていくが、それでも時は容赦なく流れ続けて行くのである。

 

・「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇(1997年)」(山田洋次監督) 3.0点(IMDb 6.8) 日本版DVDで再見(ただし内容的にはほぼ25作目そのままなので、ざっと流しながら見た)

 シリーズ49作目と称してはいるものの、実際には25作目の「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」に、甥の満男の回想シーンなどを加えただけの単なる焼き直し(にもなっていない、ほぼそのままの内容)。マドンナは浅丘ルリ子。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=DeIejRImMIE

 

・「男はつらいよ お帰り 寅さん(2019年)」(山田洋次監督) 2.5(IMDb 6.8) インターネットで再見(ただし暫く前に見たばかりなので、今回はざっと見直しただけである)
 「公称」シリーズ第50作目。マドンナは満男の相手役の後藤久美子か(今作では生死も定かではない寅の相手だとすれば、マドンナは浅丘ルリ子か?)。

 予告編→https://www.youtube.com/watch?v=-dL5OHWsW8w

 前回見た時には3.0点を献上したが、シリーズ全作を見終えた後で見直してみると、かえって評価が下がってしまった。もともと満男と泉のパートはどの作品も平均点以下だったが、今作ではこのふたりが無残に歳をとっているだけで更に見苦しくなった印象しか受けなかった。歳をとることは決して悪いことばかりではないが、今作の満男と泉のような姿(見た目は歳をとっていながら、内面は幼稚なまま)は正直見たくなかったし、このような作品を「男がつらいよ」シリーズの最終作としては認めたくもない。

 最初に書いたように個人的には41作までが寅を主人公とする「男はつらいよ」という作品であり、その後の満男&泉パートも一応認めるとしても、シリーズとしてはあくまでも48作目の「男はつらいよ 寅次郎紅の花」が最終作だと私は考えている。