昨日この記事の最後にお知らせした
「目に見える事実をちゃんと見る」
ことで、ある人の人生が大きく変わった瞬間に立ち会えたときの話です。
ある人とは、わたしが過去、担当した刑事事件の被告人です。
ちなみに被告人とは、起訴されて裁判が始まった人のことです。起訴される前は「被疑者」と呼ばれます。
その人は過去に何度も同じ罪を犯し、そのときも、刑務所から出て間もなくまた同じ罪を犯して逮捕されていました。
20年くらい前のことなので細かいことは覚えていませんが、面会した当初は、反省の度合いも少なく、一言で言うと軽い感じだったと思います。
罪を犯して逮捕され、弁護士と面会することにも、裁判を受けることにも「慣れてしまっている」印象でした。
ところが、ある瞬間、その人が大きく変わりました。
それは、面会のとき、警察官が被害者から聞き取って書いた文章をその人に読んで聞かせたときでした。
被害者は2、3人いましたが、皆さんがそれぞれ、どんな被害を受け、どんな気持ちになったか話していました。
犯罪は窃盗でした。
覚えているのは、被害者のお一人が、確か、盗まれたのはお母さんへのプレゼントを買うためにご兄弟から集めていたお金だったこと、盗まれたことでプレゼントが用意できなかったこと、それに対する気持ちを話されていたことです。
他の被害者からも、盗まれたお金がいかに大切なものだったかが語られていました。
それを聞いていたその人の、ものすごく衝撃を受けた様子は、今でも忘れられません。
それまでとは全く違う表情になり、様子が一変しました。
そして、その人が言ったんです。
…………
これまで何度も盗みをして、
こんな風に捕まって刑務所にまで行ったけど、自分が盗みをした被害者の声を聞いたことがなかった。
自分は捕まっているから
家族や弁護士が弁償にも行ってくれて、被害者に会ったこともないし、考えてみたらその人達に謝ったこともない。
自分はこれまで、人の大事なお金を盗っていたんですね。
……………
「ちゃんと謝りたい」と言いました。
心から言っていると思いました。
その後は、はっきり覚えてはいませんが、その人は外には出られませんでしたから、わたしが代理で、お金はご家族が立て替えて、被害者に弁償に伺いその人からの言葉も伝えたと思います。
そして、その人がそんな風に変わったことで周りにも変化が起きました。
最初は、その人の更生に懐疑的で距離を取っていたご兄妹(おそらくそれまで何度も裏切られた思いをしたのだと思います)が、その人の変化を感じ、裁判で情状証人(今後、兄妹として監督する立場で)で出てくれることになりました。
そこで、当初、情状証人として出てもらう予定だったお母さんに加えて、2人を情状証人として採用してもらいました。
通常、争いのない裁判では情状証人は1人です。
そのため、当初、裁判官からもどちらか1人にするようにと言われました。
ただ、わたしは2人に出てもらうことが、被告人の更生に必要だと思いました。
なぜなら、お母さんやご兄妹の住む被告人の故郷は裁判所から遠く、お二人にとっては裁判に出るのは、時間的にも経済的にも物凄い負担なんです。
そんな負担を押して、その人の更生を信じる家族が来てくれて、
法廷で裁判官に対して、
その人が更生する、つまり「やり直せる」ことを信じていますと実際に話す姿を、その人が見ることにものすごく意味があると思いました。
これまでは裁判にも慣れてしまっていたその人も、今なら、違う目で、自分のために証言する家族を見ることができると思ったのです。
そのことを裁判官に伝えたところ、裁判官も理解してくださり、異例の2人証人が実現しました。
願っていたとおり、証人の証言が終わった後の被告人質問でも、被告人が、心から反省していることがわたしには伝わりました。
結果的に、実刑ではありましたが、法的に可能な限り一番短い刑になり、裁判官も、その人の更生を信じてくれていることが伝わる判決になりました。
そしてそのこともその人には伝えました。
その数年後、出所したその人はわたしの事務所に挨拶に来てくれ、その後も何度か、頑張っている様子を電話で伝えてくれました。
きっと今も、お元気で活躍していると祈っています。
その人は、被害者の言葉を知ることで、大きく変わりました。
そして、自分のために裁判所まで来てくれた家族の姿を見ることで、その人の中でまた何か変化が起きていたら良いなと思います。
人生が変わる瞬間というのは、
何か特別なことが起きたときではなく、これまで見えていなかった事実が見えたときなのかもしれない。
そんなことを思い出した出来事です。
ギベコ
追伸
この記事で書いたような
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