遠方より、なんだか高級そうな食材が山ほど届いた。
私は桜エビの釜揚げを由比港で食べたいという夢があるのだが(ちなみにもうひとつは、富山湾でホタルイカの踊り食いをすることである)、これは冷凍とはいえ、産地で急速冷凍され、刺身でも食べられるということなので、大変楽しみである。
しかし中に"すまし"と書かれた謎のパックが紛れ込んでいた。
なるほど。送り主は私にこれを食べさせるのが目的なのだな…と瞬時に理解する。
裏を見ると"いるか"と書かれている。
いるか?いるかといえば、あのイルカ?
♪ぷりーずめーりみーどーるふぃーんりーんぐ、もしくは、イルカにのった少年?(って、誰の歌??)のイルカだろうか。
秋鮭釣りをしているときにオホーツク海の沖で、時々、群れになって美しく飛び跳ねているあのイルカが、即座に食べ物とは結び付かず、ちょっとだけ困る。この間、ポニーの肉を食べたが、罪悪感の強さで言えば、それ以上かもしれない。
昔は給食で、クジラの竜田揚げなるものが出てきたと聞いたが、生憎私はその世代ではなく、そもそもその前に私の通った学校には給食というものがなかった。
クジラベーコンは当時豚のベーコンよりも安かったし、親が好きでよく冷蔵庫に入っていたが、独特の臭みが苦手であまり食べた経験がない。
クジラとイルカはそもそもそんなに違いはなく、成長した大きさが4m以下をイルカと呼び、それ以上をクジラと単に呼んでいて、明確な区別はないそうだ。
なので、クジラだと思えば、食することになんら違和感はないのだが、だいたい"すまし"って何だ?
すましとは、イルカの背鰭としっぽを細かく切って茹でて、塩を振ったものであるという。
日本でイルカを食べるのは、静岡県、山梨県(駿河湾の魚介類が流通していた関係で)、和歌山県、そして岩手県であるらしい。
2009年に公開された映画ザ・コーヴは、和歌山県の太地町で行われているイルカ追い込み漁を批判する目的で作られたということで、話題になった。
映画を見ていないので、どれだけ残酷な方法かは分からないのだが、残酷さで言えば、妊娠したエゾシカや子持ちの母熊を撃つ師匠も負けてはいないし、だったら牛や豚や鳥を食べることだって残酷だ。特にブロイラーを育成する養鶏場ときたら、狭く暗い密閉型の鶏舎で約50日間ほどで出荷されるというのだから、まさに自然からいただくという感覚よりも、人間の餌のための工場と言った方がしっくりくる。
まあイルカに関しては、主にキリスト教圏がイルカを神の使い=救世主として扱う文化があることを思えば、食べることを批判したくなる気持ちは分からなくもない。しかし、他国には他国の文化があるのだから、それを他所の国が禁止しようとするのはおかしいし、そもそも生きる行為そのものが他者の命を奪わずには成り立たないのだから、これは食べても良くて、これはダメだと決めるつけること自体が傲慢な話だ。(というようなことを山岡さんが言ってた)
そんなこんなを考えつつ、真っ先にこの"すまし"なるものを食してみる。
まずは、そのまま食べる。
クニュクニュした食感が楽しいが、若干の臭みがある。
クジラベーコンの風味と同じだが、それよりも幾ばくか食べやすい。
しかし、この臭み、後味は何かに似ている。
そうだ!ちょっと活きが下がったイワシの刺身の味だ。
酸化した青魚の脂のような鉄臭いような風味である。
イルカやクジラはイワシを食べるのだろうから、その臭いが身についていても、何ら不思議ではないだろう。
送り主のアドバイスに従って、今度は炙ってみた(チャッカマンで)。
今度は随分と食べやすくなり、なんなら美味しい!
私は味というよりも、食の好みは食感命なので、このいつまでも口の中でクチャクチャやってられる感じがとても心地よいのである。
子供の頃の私の大好物のおやつは、台所にある出汁昆布に漬物用のスルメにこれまた漬物用のタラの干物に味噌汁用の煮干し、そして鮭とばの尻尾であった。別に貧乏だから、おやつがそれしかなかったというわけでもないのだが、口の中にいつまでも入れておくと、じんわりと珍味特有の旨味が染み出てきて、実に舌が甘美なのである。
母親には、あんた!そんなんばっかり食べて、胃を悪くするよ!と言われるのだが、だいたい海育ちの母親がこんなんばっかり酒のあてに食べていたのだから、子供が食べたくなるのは当たり前である。
この珍味好きは、もれなく我が娘にも無事、継承されることとなり、幼稚園の誕生日会の自己紹介において、好きな食べ物は?と聞かれた娘は、堂々と「ホヤです!」と答え、周りのお友達たちがザワついたという先生から聞いたエピソードと、祖父と出かけた近くの漁港の道の駅で店員に「ホヤは置いてますか?」と訪ね歩いた話(どんだけだよ)、そして回転寿司屋において、カニ味噌だけを五皿も頼んで寿司職人がドン引きしていたという話は、我が家の語り草になっておるのでありました。