お弁当の前に子供たちをトイレに連れて行った。
公園のトイレの入り口のドアは、男用の方はブルーで女用の方はピンクだ。
子供たちは自分の身体に付随する性を認識する部分で、それぞれに相応しい色のドアを開けた。
ただ一人の子を除いて。
彼は、迷わずピンクのドアの前に立った。
私が認識する彼は、ブルーの扉を開けることが通例である。
私はまだ彼は、他の子達よりも精神的に幼いと勝手に思っていて、いつもは母親に排泄に付き合ってもらっているから、このドアの前に立つのだと思った。
「キミは、青い方のトイレだよ。」
私がそう言うと彼は、素直にブルーのドアの前に行った。
けれどもそのドアの上にある男のマークを確認すると、首を振ってまたピンクのドアの前に立った。
「ここじゃないよ?男の子のトイレは青だよ。」
私がもう一度そう言うと、彼は、
「ボクは、青いトイレには入れない。」
と言った。
彼はいつもピンク色やうさぎや花柄の服や靴を普段から好んで身に付けていた。
彼にはお姉ちゃんがいるから、そのお下がりを来ているだけだとか、ただ単にそういう色と柄が好きなのかとも思っていた。
けれどもそうじゃなくて、彼は、世の中に認識されている男の子のカテゴリーに違和感を感じているのだろうか。
しかしそうだとして、彼の要望通りにピンクのドアの奥へ行くことを許してしまうのはどうなのだろう。
彼の身体の性の構造や見た目の風貌は、どこからどう見ても、男の子だ。
同じ年の女の子の中には、女子と男子の区別をはっきりと持つ子がいる。
その子たちが彼が女子トイレに入って来ることで、どうしてなのか?と質問してきたら、私はどう答えたらいいのだろう。
しばし迷ったあげく、ピンクとブルーの扉の間にあるグリーンのドアを指した。
「ここなら、どう?」
すると彼は特に拒絶することもなく、すんなりと、オムツ替えの台と手すりのついた広いスペースへ入って行った。
みーちゃんにその出来事を話し、尋ねた。
私は一体、どうしたら良かったのかと。
とりあえず園では、男の子と女の子がわかれていないトイレがあるから、彼だけはそのトイレを使わせているらしい。
今回も多目的トイレがあったから良かったのだが、これからはない場所もあるだろう。
都会から来た先生は、身体測定の時に下着だけになることを拒絶する人もいるらしかった。
今の時代、どんなに小さな子供でも人権があるのだから、性の違う幼児同士が下着姿になることも、例え赤ちゃんでも裸で体重を測ることもありえないのだそうだ。
そう言っている先生に、彼はとりあえずは身体の構造は男の子なのだから、男子トイレに行くように促したいと言うと、それはひどい。時代遅れだ。女子トイレにしか入りたがらないのなら、それを許すべきだと言われるそうだ。
私とみーちゃんは、大いに悩んだ。
自分の認識する性は、身体の構造と合致しているから、そういう子の気持ちを本当には理解してあげられない。
それでも彼が嫌がることはなるべくさせたくはないし、自分がもしそうだったら、周りの人達に自分の違和感を理解して欲しいとも思うだろう。
しかし周りの子供たちはまだ幼い。
男の子はブルーのトイレ。
女の子はピンクのトイレ。
男の子は女の子のトイレに入っちゃいけないし、女の子も男の子のトイレに入ってはいけない。
だけど、それはどうしてだ?
将来、身体の違いがはっきりしてくるに従って、自分とは違う形の身体になにか良からぬ(?)欲望が湧いてきてしまうから、そこで起こりうる犯罪を未然に防ぐためだから?
けれども大昔は、トイレに女子用も男子用もなかったんじゃないか。
排泄物が不潔で、用を足す行為が汚らしいという認識が浸透することでトイレは個室になり、見えないことが見せられないことになっていったのか。
男が女の身体に欲情する本能が、同意を得ない性行為を引き起こし、女の人権を揺るがしたから、男女別のトイレが必要になったのか。
しかしそうやって隠せば隠すほど、分ければ分けるほど、そこは秘密めいたものになって、余計に興味をそそるものになったんじゃないか。
私とみーちゃんは、考えれば考えるほど、ますます問題を迷宮入りさせてしまった。
問題?
そもそも、何が?
彼はまだ自分ことをそもそもよくわかっていないのかもしれない。
彼のそのぼんやりとした社会の仕組みとの違和感に対する戸惑いに私たちはただ、一緒に付き合って、迷い、悩み続ける過程が今は必要なだけなんじゃないか。
ブルーのトイレに入れるのなら入ればいい。
それがいやでグリーンがあるのなら、そこに入ればいい。
グリーンがなくて、ピンクしかどうしても嫌ならば、大人の女が連れていけばいい。
子供でも身体は男なんだから、女の方に入ってはダメだ!と言う大人はまずいないだろう。
いたとしても、すみません。急いでるので、とかなんとか、適当にとりあえずはその場をすり抜けたっていいはずだ。
私とみーちゃんは、今はまだ、それでいいのだと、仮の答えを出した。
