解決させない | 想像と創造の毎日

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  彼女があるがままの感情を吐き出す時、私は自分と他人を意識的に隔てている心の壁を壊される感覚になる。

  自分への自信のなさから起こる悲しみや、自分の正しさを認めてもらいたい欲望が渦巻いていて、私はそれに巻き込まれないようにと敢えて、目線を逸らすのだが、彼女の大きな目の端にじんわりと滲んで光るものを認めてしまうと、自分も鼻の奥がツンとした。
 
  私の言い方がキツくて、まったく自信を持てなくなったんだって。

  後輩たちと交わした長い長い文章を読んでいると、彼女が一方的に責められている気持ちになって、私もショックを受ける。

  確かに後輩たちの言い分も私はよくわかるのだった。
  わかるだけに同じことを思わず口にしそうになって、ハッとする。

  彼女は充分に傷付いているのに、私がその通りだよ。なんて言おうものなら、彼女はもっと傷付いてしまうだろう。

  一所懸命やればやるほど、彼女は自分の家族を犠牲にし、後輩たちを遠ざけた。

  けれども一旦染み付いてしまった自分に課したルールを破ることが、どれだけ困難なことかも私にはわかる。

  公平に接するとは、平等に接することとは違う。

  彼女は職場で孤立しつつあった。
  しかし、今年から任された役職のために、仕事の責任を一身に背負おうとしてしまう彼女を見て、それは違うんだ。だなんて言葉が心に届くわけがないことはわかる。

  私は彼女の中にある自分の一部を見せられているから、否定したくなるのだ。

  でも同じ状況になったら、私も彼女と同じ行動を取るだろうとも思った。
  本人の見えないところで、誰かが犠牲になっていることを私は今までいやというほど見てきた。

  彼女が言葉に出して、後輩たちをしっかりと注意していなければ、去年のように臨時の職員たちが家に仕事を持ち帰るような事態になっていたと思うからだった。

  私も彼女も、上司に口答えをするだなんて考えられない環境で仕事をしてきた。
  だからこそ、後輩たちが臆面もなく、言いたいことが言える環境にいることに嫉妬をしている側面もある。

  けれども、だからこそ、そういう思いをさせたくないと、和気あいあいとした雰囲気を大事にすることで、ちょっとした注意で、自分が否定されていると受け止められてしまうのだろうか。

  答えは出さない。
  こうしたらいい。だなんて、私が考える方法が、全ての問題を解決することができるのなら、人間関係の問題なんて、とっくになくなっているだろう。

  一所懸命やってるの、わかるよ。
  だからこそ、悔しいし、悲しいなあ。

  そう言うと、彼女は不意に言葉を詰まらせて、それでも泣くまいと、必死に目頭に力を入れた。

  後輩たちが思っていることを正直に言える上司であることって、いいなあと私は単純に思った。

  多分、根本の問題は、彼女の言い方だけではなく、要求される仕事の多さと、それに見合う人材が確保できないことへのギャップだ。

  支配的な上司たちが、中間層の年代の職員たちを次々に退職に追い込んだことで、教える立場にある人間が圧倒的に少ない。

  だから必然的に彼女の仕事は増えるし、滞る仕事への焦りから彼女もついつい言葉がキツくなるのだろう。

  目指しているのだろう全ての人に優しい社会の影では、それを支えるために人知れず犠牲になっている人が多い。

  真夏の暑い陽射しの中、真っ黒に日焼けして汗だくになって道路工事にしている人がいて、その一方では、エアコンの効いた涼しい屋根のある部屋で、パソコンに向かう人がいた。

  どちらが、犠牲的なのだろう?
  ふと考えるのだが、自分に当てはめた時点で、それは主観的な物の味方でしかなかった。

  私は、彼女が自分の正しさのために後輩をコントロールしている側面があると認知しながらも、ある程度の正しさの基準がなければ、途端に職場は無法地帯になり、その尻拭いを声を上げられない人が背負ってしまっていた過去があることも知っていた。
 
  自分に自信をなくす。
  そういう気持ちは本当なんだろうから、それはそれで認めてあげたらいいんじゃないか?とだけ、口にした。

  私は後輩たちにそんなふうに言われたことで、こうやって悩む彼女が大好きだ。

  本当に独善的な人は、こう言われても自分が正しいと信じて、与えられた権力そのままに突っ走るだろうから。

  落ち込んでいる彼女たちを私が元気づけることも、正しい方向に導くこともできない。

  その回り道のように思える方法ですら、何かに気付くための大事なプロセスなのだろうから。

  みーちゃんは言った。
  何もしなくていいんじゃない?
  あなたがただ、うんうん。って、話を聞いてあげるだけでさ。
  私は一緒にいないから聞けないけど、代わりに聞いてあげてよ。
  どうせ、暇な時間あるんだからさ!

  おいおい。
  一言、余計なんだよ!
  さすが、あなたが育てた彼女だ。
  彼女もあなたとおんなじ道を辿ってるじゃねーか(笑)

  そしたら、そのうち、丸くなる。
  あと、10年だな。

  みーちゃんは、たいした解決法も言うことなく、さもおかしそうに笑うだけだった。