悪役 | 想像と創造の毎日

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写真は注釈がない限り、
自分で撮影しております。




ポトンとジグを落として、
ウキをじっと見る。

岸では、カラフトマスが
背鰭を出して泳ぐ。

沖では、アキアジが、
時々、派手にジャンプする。


ウキが、ふっ。と、水面に沈むと、
手に握ったロッドが、ググッと震える。

眠気は一気に覚めた。

ロッドを一気にしゃくり、
リールをひたすら巻き上げる。

ラインに引っ張られて、
左右に走る錆びた銀色。

アキアジだ。

岩場まで引っ張り上げても、
そこから暴れられて、
何度もバラした。

ついに、手元まで引き寄せた。


自分の手で、初めて釣り上げたアキアジは、
女の子だった。

感動だ。

体長70cm。
アキアジとしては、普通のサイズである。

それでも、カラフトマスとは
比べ物にならない重さと引きの強さ。

釣り上げたとしても、
しっかり丘に上げるまでは、
油断ならない。

というよりもむしろ、
針に引っかかってからの方が、
アキアジ釣りは難しかった。


美しいオレンジ色の筋子が、
ぎっしり詰まっている。

しかし、今までこんなに
アキアジに接してきて、
知らなかったのだが、
アキアジの卵巣は、海にいる時は、
薄い皮に包まれていて、
筋子と呼ばれ、
川を上っていくと、
その膜はなくなり、
通称バラコと呼ばれる卵になるそうだ。

川で捕れたアキアジのメスの
お腹をさくと、バラバラと
卵がこぼれ落ちてくるのである。
(川でアキアジを釣ってはいけません。)

この小さな卵から
一体どこくらいのこどもたちが
無事に育ち、
また川に戻ってくるのだろう。

力強く腹びれを動かして、
俊敏に岩の上を滑るようにして
泳いでいく。

何度も何度も、
尾びれで滝の水面を
蹴り上げるようにして、
上ろうとしては、落ち、
命のゴールを目指して行く。

生命のたくましさと儚さ。
海にあるドラマの登場人物の中で、
アキアジが主役だとしたら、
私は絶対に悪役なのだ。