重い女 | 想像と創造の毎日

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  娘は不器用なくせにチャレンジャーだなと思う。

  そのくせ、正直な一方で、強かだ。

  気になる彼に友達だと言われたショックが冷めるまで、寂しいから、クソ男と話しているんだと私に伝えてきた。

  娘が思うクソ男は、軽い下ネタを所々に冗談のように挟みながら、下心をいやらしく隠しているつもりで隠せていない。

  自分のことをやたらと褒めちぎるくせに、その実、女になりふり構わない男のことだそうだ。

  その男とのLINEの会話を見せてもらったら、コミュニケーション能力に長けていて、人の気持ちも慮れる普通の男の人のように私には見える。

  一方で、気になる彼との会話は、特に気の利いたジョークもなく、ごく普通の日常会話だ。

  どこがおもしろいのだろうと最初は思ったけれど、絵や作った動画を見ているうちに娘の彼に対するツボがわかってきたのだ。

  娘と違い、気持ちが自分の内側に向かないタイプなのだろう。
  鈍感にも見えるけれど、慎重だ。

  寡黙でマイペースだが、誠実で真面目なのは、育った環境のせいだろう。

  彼はスロースターターなタイプなんじゃないかと思う。

  決して、その時の欲望に流されない。
  だけど、だからこそ、本当は、自分を振り回すような情熱的な女に弱いような気がした。

  前の彼女は奔放的だったという。
  最初はなんとなく付き合ったけれど、そのうち浮気されて別れた。

  だから女に対して、疑いがある。
  娘はそれをわかっていながら、敢えて逆を行っているように見えた。

  いろんな男の人と話しながら、やっぱりこの彼がいいと、確認しに行ってるみたいだ。

  私は最低だよね?と尋ねる。

  どこが?と答える。

   最低かどうかは、他人が決めることじゃない。
   自分の行動に自分で嫌悪感があるのなら、それをやるのもやめるのも、自分の意思だ。

  彼に告げた応援して!のLINEが、既読スルーされた日はやっぱりしくしく泣いていたという。

  けれど次の日に、返事したつもりで、送ってなかったと返事が来て、本当は無視してるわけじゃないって、わかってたのにさ。と言う。

  おまえは、おまえに夢中にならない男が好きなのか?と、私はおかしくなる。

  まるで、狩りが好きな男みたいだ。

  巷に溢れる恋愛がうまくいく情報を集めながら、その反対ばかりやっていて草。

  と娘は自分を自虐した。

  重いのは、彼を思う気持ちというよりも、彼の態度一つにひどく振り回されて揺れ動く自分の感情なのだろう。

  他人に興味があるんだろ。
  自分だけでは綴れない物語の主人公になっているだけだ。

  昔、娘がふと言ったことがある。

  人を好きになるのは、寂しいからでしょ?

  そのときは、そうじゃない。って答えた気がする。
  一緒にいると、楽しいから好きになるんだって。

  だけど、そうだろうか。
  人の根本にあるのは、自分の気持ちも他人の気持ちも、結局は正確に体感できない孤独だ。

  一人では抱えきれない痛みをダイレクトに感じることも、感じさせることもできない寂しさ。悲しさ。虚しさ。

  だけどその何もかもを共有できないからこそ、享受できる自由があるという矛盾。

  人は自分の満たされない部分を使って、世界を感じ取っているんだな。
 
  その空白を持て余しては、好きで埋める。
  人を思うことで溢れ出した気持ちが、言葉になる。

  好き。と口に出してみる。

  すぼめた口の隙間から細く息を吐いて、今度はそれを横に引っ張り、残りの声を舌で弾いた。

  遠くには届かないかすれた音。"き"。
  それが彼の耳元を静かに震わせてから消えるのをいつか娘は体感するのだろうか。

  …想像すると、気持ち悪いな。
  母娘の近過ぎる距離感では。