彼女がどんな顔をしているのか見てやろうとしばらくその場で駐車したままでいると、
早く、帰れや!
と息子からLINEがきた。
しばらくして、そう言葉にしたのが悪いなと思ったのか、その部分のメッセージは取り消されていた。
私もマジマジと彼女の顔を見るのはさすがに失礼だなと思ったから、それからすぐに一旦家に帰宅した。
帰りに迎えに来てと言うので、また車を走らせる。
すると息子の隣には彼女の姿が。
家の近くまで送ってくれる?と息子が言うから、いいよ。と答えると、彼女は恥ずかしそうに微笑んで俯いた。
すみません。よろしくお願いします。
真っ直ぐに切りそろえられた前髪が、眉毛よりも随分と上にある。
耳が見えて、襟足は随分と短い。
黒いジャケットに黒っぽいダボダボしたパンツ、スニーカー。
一瞬、男の子かな?と間違えるほどの風貌だ。
けれども俯いてからこちらに向き直った顔をよく見てみると驚いた。
その短すぎるほどのショートカットのボーイッシュさを吹き飛ばすほどの可愛らしい顔。
可愛い?いや、そんな誰にでも当てはまるような形容詞では物足りない。
キレイ。美しい。
正直、びっくりし過ぎて、動揺してしまった。
可愛い。とは聞いていた。
だけど、小学生のときのこの子のタイプの芸能人は吉田沙保里さんだ。
吉田沙保里さんが、美人ではないと言ってるわけではないが、この子の女の子を見る美的感覚というものは、一般的なものとは少し違っているのかもな。となんとなく勝手に思っていたから、ここまで美人だとは露ほども思わなかったのだ。
今までに好きになった女の子たちもそんなに目を引くほどの美人ではなく、でも性格は優しくて賢くて、どこか大人の考え方をするような子だった。
息子はお世辞にもイケメンとは言えない。
そんなに目立つほどのブサイクでもないけれど、背も低く、オシャレでもないから、このぐらいの年の端の女の子が好きになるような男の子ではないだろうなと思っている。
前にも彼女はいて、自分から告白して、少しだけ付き合ってすぐに振られたし、息子に次に彼女ができるのは、もっと周りの女の子が大人になったときかもなと、ぼんやり思ってもいた。
彼女を車から降ろしてからすぐに、
おまえ!なんだよ!あれ!
めちゃくちゃ、キレイじゃん!
つか、自分が美人だって、気付いてない美人だな!あれは!
あれ、もしかしたら、おまえの学年で一番、美人なんじゃないか?
マジで?マジで、告白されたの??
おまえの妄想じゃなくて?!
と興奮して捲し立てると、
ホントに付き合ってるってば。
あの子に入学式で出会ったとき、俺も一番かわいいなって思ってて、周りもみんなあの子、すんげーかわいくない?って騒いでた。
でも、あの子、すんごく真面目で、大人しくて、人見知りみたいだったから、男子は近寄りがたかったみたいだよ。
付き合ったこともないみたい。
でも、学校祭で二人きりになったときがあって、そんときからよく二人で話すようになって、すごくいい子だなって思ってた。
物静かだけど、一度心を許すとたくさん話してくれたよ。
そんなモテる子が、なぜにうちの息子なのだろうか…
帰り道で延々とこの世の最大の奇跡的で不思議な出来事に思いを巡らせていた。
娘とどんな子だろうねって、昨日話していた。
娘は、ブスだったら、アイツのこと尊敬する。とか、ブスでも性格に惚れるんだったら、アイツはいい男だ。とか意地の悪いことを言ってて、私はそもそもそんな美人なら引く手あまたなんだろうから、わざわざ息子みたいなやつ、選ばねーよ!と笑って言った。
帰ってきて娘に、めちゃくちゃかわいかったぞ!と報告すると、
へー。クソ。このクソ。
バカなんだから、そんなことしてないで、勉強しろや。
と、毒を吐いていたけど、幸せ絶頂の息子の耳にはどこ吹く風。
しかし、おかしいんだ。
もっと背が高くて、もっとスポーツ万能で、もっとおもしろくて、もっと優しくて気が利いて、もっとかっこいい男の子が他にもいるはずなんだ。
息子の周りにいる友達でもそんなスペックの高いフリーな男子は何人もいる。
そんな中でよりよって、なんで息子なのだろう…
あのお…
質問があるんですけど、うちの息子の一体、どこが良かったんでしょうか?
そんな好奇心の言葉が何度も喉の奥から出かかっているのを理性が必死に止めていた。
その子。ブサイク好きなんじゃね?
今、卑屈になっている最中の娘の畳み掛けるような毒舌も息子の耳を素通りしていく。
だけど、車の後部座席で、二人は囁き合うように静かに話して、クスクスと笑い合っているのが聞こえてきたとき。
そうか。そうなのか…と少しだけ腑に落ちた。
内気で人見知りの彼女と小心者で人に気を遣う息子。
お互いのそういう弱みにも似た部分で寄り添って、一緒にいると安心できる存在なのかもしれないな。と。
ガサツで無神経で突拍子もない私は、余計なことを言わないように、言わないように、ただの空気となるべく、終始、タクシーの運転手のように装った。
ともすれば、女の子を傷つけてしまう性だ。
さて、その衝動をどんなふうに抑えられるのか。
決して親が介入できない男女の出来事にそのうち興味を示さなくなる自分のことも知ってるのだが。
じゃあ、またね!
華奢な肩から続く右腕が上がり、小さく手を振る彼女に、照れくさそうに息子は手を振り返した。
それがただただ…
キモかったw
