リアル海月姫 | 想像と創造の毎日

想像と創造の毎日

写真は注釈がない限り、
自分で撮影しております。

  花火大会に来てるよー!という娘のLINEの写真には花火ではなく、美人の女の子が写っていた。

  この人、誰?

  間違えた。同じマンションの友達。

  娘に同じマンションの友達は、一人しかいない。

  以前、写真で見たその友達は、ノーメイクで牛乳瓶の底みたいな分厚いメガネに、整えられていない眉毛をした垢抜けていない女の子だったはずだ。

  LINE通話をスピーカーにしたままで、二人で話しているのを聴いていると、彼女はう○こだの、ち○こだの、死にたいだのと言っていた。

  娘の家に遊びに来たときに持ってきたお菓子の缶の中からは、娘のためのお土産ではなく、自分の好きなキャラのフィギュアが大量に出てきたのだという。

  彼女の趣味はBL漫画を読むこと。
  夢にも出てくるぐらい夢中ならしい。

  彼女は、なかなかのオタク気質な我が娘でさえも、引くぐらいの腐女子だった。

  それがクラスの女の子たちが、学校でふざけて彼女のメガネを取って、化粧を施したところ、みんなが想像する以上の美しい女性に変身したのだという。

  画面に映ってきたのは、まるで、小林麻央さんみたいな清楚で正統派の美人だった。

  すごい!すごい!
  めちゃくちゃ、かわいい!
  美人!!美人過ぎる!
と、何回も言うと、娘はそのうち返事を返さなくなった。

  そして何分かあとに、怒った表情のLINEスタンプが来た。

  なんだ、おまえ!
  グレてんのか?!

と笑うと、ますます怒っている様子。

  たぶん、それまで娘は自分の方が彼女よりかわいいと思っていたのだ。
  自分では外見にそれほど自信があるわけではないけれど、幼い頃から通り過ぎる大人たちが振り返るような愛らしい顔立ちはしていた。

  どこかに出かければ、知らない若い男の子たちがコソコソと「あの子、けっこうかわいくね?」などと、耳打ちし合っているのもよく聞いた。もちろん、本人は自分のことだと思っていなかったが、その場にいたのは私と娘だけだったので、私であるわけがない。(振り返ると初めて女として娘に追い越されたことを知った悲しい思い出だ。)

  しかし娘はそのようなわりと恵まれた容姿であるにも関わらず(注意⚠親の欲目です)、学校ではさほど、もてなかった。
  それなりにオシャレが好きで、小綺麗にはしているが、性格が空気が読めず、会話が続かず、鈍臭く、しかも自己肯定感が低いため、中身を知る男の子たちは娘を恋愛の対象にはしづらかったのだと思う。

  時々、風変わりな男の子が娘を好きになってくれて、告白されたり、付き合ったりもしていたが、一通りのデートをこなすと、娘の方が興味を失っていった。

  そんな娘が初めて、自分と似たような性格だと感じて、気を許したのが彼女だった。
  互いの自分の自信のなさから来る卑屈さも、思ったことを言い合ってもあとを引かない鈍感さも似ている。

  傷つきたくない繊細さで、本当は寂しいのに人を遠ざけてしまう娘のジレンマになんておかまいなしに、ズケズケと思ったことを正直に言う彼女が、娘にはわかりやすかったのだと思う。

  人の言葉の奥にある真意というものを想像することが苦手な娘にとって、彼女はいいことも悪いこともそのまま伝えてくれる信頼出来る人間だったのだ。

  あの子ね?自分がかわいいことに気付いて、コンタクトにしたんだよ!
  でもね?中身は全然変わらないから、なんだかちぐはぐなんだよ!

  娘はそのうち機嫌を直して、そんなふうに笑った。

  お互いの心の中になんて無関心なような、ドライな関係の二人だ。食べ物の好みも、趣味も興味のあることも全く違うから、休みの日はお互い別々に一人で遊ぶ方が多い。

  うちら、あぶれた同士だからさ!
  失礼な娘は彼女のことも、自分と同じ種類の変わり者の人種だというふうに言うけれど、近くにいる分だけ、本当は嫉妬する部分もあるのだと言った。



  ニートで腐女子ばかりが集まる雨宮舘に、ある日、オシャレで美しい女の子の格好をした蔵之介がやってきた。

  陽のあたる場所で堂々と自分に自信を持っている人間が彼女たちは苦手だった。

  雨宮舘の住人の中の一人である月海は、蔵之介に化粧と素敵なドレスを着せられて、魔法をかけられる。

  オシャレなんてどうせ自分には似合わない。
  男の子になんて、好かれるはずがない。
  今までそう思っていたのに鏡の前にいたのは、かわいい一人のお姫様だった。

  でも自分は恋愛はできないし、するつもりもない。ここでみんなとひっそりと暮らしていたい。だからオシャレなんて必要がない。

  しかし雨宮舘は、売却させられる危機に瀕していた。
  ここが売られれば、みんなはバラバラに暮らさなければならないのだ。

  悩む月海に、蔵之介は言った。

「悲しいけど世の中には、
   人を見た目で判断するやつ
   いっぱいいるんだ。
   もちろん敵もそういう奴らだ。
   だから・・・鎧を身に纏え!!」

  

  そうだ。
  女にとって、オシャレも化粧も媚びではなく、鎧なのだ。
  文明が目に見えるものだけを信じ、価値を置いてきたのなら、それを逆手に取ってやればいい。

  美しいから自信になるのではない。
  美しくあろうと努力できることが自信になるんだ。

  いつかその強さも弱さも同等の価値で、自分を作っていることに気付く。

  あの子。すごい、かわいくなった。
  悔しいけど、嬉しいのもほんとなんだよ。

  そうだね。
  それでいいんだよ。

  友達が悲しい気持ちでいるよりも、嬉しい気持ちでいる方が、自分も幸せな気分になるもんね。
  
  美しさは、強さだった。