「俺がもしも殺されるならサヤちゃんかな」
彼が言ったことがある。
私は元カノじゃない?って思ったけどね。
私にも酷い事をしていたけれど、元カノにも気付いていなくても相当な事を言ったりしたりしてる。
彼は「アイツは運転が下手くそ」から始まり
店長と元カノが不倫してる時は店長の影響なのか
「尻軽女」「頭が弱いからすぐ本気になる」
「状況が読めないバカ」「仕事が出来ない」とか…
彼女の母親の事さえ「自分の事しか喋らない面倒な人」、元カノと付き合ってる時も私の事は「あいつには絶対にバレない」と自信を持っていた。
元カノは甘く見られているなぁと思いながら、そんな自信満々な彼を見るのはすごく嫌だった。
私は元カノが彼を疑っていることを知っていたから。私の前では彼を信じていいのかと泣いて、彼の前ではあなたを信じる姿を演じてる元カノも嫌いだった。
まるでおままごとを見ているみたいだった。
元カノの付き合いながら私に会っていた時、何度も殺してやりたいと思っていた。
彼に「余計な事を言うな」と言われていたし、言いたくなかったから言わなかったけれど…。
元カノは彼が私と変わらず会っている事を知らなかったけど、疑ってはいた。
「知らない方がいい事もある」と言うのが彼の持論。元カノが知って苦しめばいいのにと思っていた私は相当病んでいたなと思う。
だからなのか、その頃の私は彼の身体によくキスマーク付けてた。彼は見えないところなら良いよと言ってだけど…元カノは本当に気がついていなかったのかな?
そして、歯形がつくくらい噛みついていた。
それも彼は何も言わなかった。
キスマークや噛むだけじゃ物足りなくなり…
どうしても我慢できなくて、そんな彼の首を絞めようとした事が一度ある。
抱き合った後に気持ちが昂って、彼を許せなくなって笑いながら両手を首元においた。
彼は何も言わずそのまま目を瞑ってた。
少しずつ力を入れても彼は反応しなくて
「苦しくないの?」と聞くと
「別に」と言うだけだった。
だんだんと強く首を締めても表情を変えない彼を見ていて、少し怖くなった。
「このままだと死んじゃうかもよ」というと
「俺がもし殺されるならサヤちゃんかな」と呟いた。
本気でこのまま力を強めようと思ったけれど、身体の大きな彼の力には勝てないだろうし、
彼を殺そうとして自分の人生を棒に振るのは馬鹿らしいと思いやめた。
殺したいくらい愛してるってこの時思ったけど…
愛してると殺したいは別の感情だったんじゃないかなと今は思う。
あの頃の感情がふと蘇ると、怒りで胸が苦しくなる時がある。
彼女の前ではいい顔をして、裏では裏切っている彼の姿を見ていると、少し前の自分を思い出して元カノが可哀想に思えた。
信じたいのに
信じているのに
裏切られるている現実を受け止める事は苦しくて心が張り裂けそうだった。
そんな思いをしたのに…
私は元カノに同じ事をしている。
心が壊れていた。きっと。