遺譜 1【浅見光彦シリーズ最終話】
https://ameblo.jp/beethoven32/entry-12342882465.html
遺譜 2【浅見光彦シリーズ最終話】
https://ameblo.jp/beethoven32/entry-12344210735.html
前回の続き。ネタバレも多少あるので読むときは注意してください。
本沢千恵子の友達の世界的バイオリニスト、アリシアがその祖母ニーナに「フルトベングラーの楽譜を持ち帰るように」と頼まれ、そのボディガードに浅見光彦を指名したことから、光彦は深刻な事件に巻き込まれる。
不可解な事件だと思われたが、これが国と国とを巻き込む大事件に発展するのだ。
特務機関という戦中のスパイ、これに属していた、忌部(インベ)氏、当時のリーダー格だった。
軽井沢で珈琲店を営む草西も特務機関に属する忌部の部下だった。
ここからは、少しネタバレ
忌部は、ヒットラーが退廃芸術として前衛絵画等の作品を廃棄しようとしていたことを知った。
芸術を後の世代に伝える義務を感じた忌部は、ひそかに、ヒットラーが破棄しようとしていた作品を日本に輸送し、ある場所に隠匿したのだ。
フルトベングラーの楽譜は実は、この運び込まれた「退廃芸術」のリストを音符に暗号化したものだった。日本とドイツの間でなされた盟約だ。
もちろん、浅見光彦の、官僚である父親も一役買った。ニーナの家族も産業界や政府の重鎮でドイツ側として一役買った。
高齢の忌部は、この芸術を守る後継者として浅見光彦を指名して、この世を去る。
忌部は、大勢に巻き込まれず迎合しない浅見の、「名探偵」ぶりを知っていたのだ。この男なら必ず守れると思ったに違いない。
TVでは水戸黄門よろしく、「ははああ」となるのだが、刑事局長がそれほど偉いわけでもなく不自然に思っていたのだが、小説ではTVと全く違う。刑事局長の弟という身分で捜査に口出しされては迷惑だ、というトーンである。なかには浅見の意見を尊重する刑事もいるが・・
ともあれ、浅見光彦は、かなり悩んだ挙句、自分なりの後継のありかたを見出す。
忌部の部下といえども、戦中に蓄えたとされる財宝には目が眩む。そういう一派が過激な行動に出る。粛清される。まあ、そういうヤクザ内部抗争のようなものが展開されるのは、もっともなことだ。これに巻き込まれて、「仏像オタク」の阿部美果が取材に行って危険な目にあったりするが・・
これら退廃芸術は、保護されて今どこにあるかというと、そう
草西の趣味の画廊にあるのだ。そこから選んで、草西の珈琲店に代わる代わる飾られているのだ。浅見光彦がその珈琲店を訪れて、フルトベングラーを聞かせてもらったときに飾ってあった「ブラック」の前衛的な絵がそうだ。
草西も得体が知れない。「軽井沢殺人事件」で登場するが、大企業の会長を前にしても怯むことがなく、堂々としている。この「軽井沢殺人事件」は大手電機メーカー「大芝精機」とココム問題を題材ににしたものである。
内田康夫氏は、何でも小説に取り入れる積極性が目立つ。「伊香保殺人事件」は冒頭、雲台寺が炎上して死骸が発見される。大運寺が内田が伊香保を訪れて一週間後に炎上し消滅したことを取り入れている。「天河伝説」では茶店で色々説明してくれた女性の実名「川島智春」をそのまま小説に登場させている。実に抜け目ない。
内田氏もこの世を去った。戦後日本国民が軟弱になり、誇りを失ったことを嘆いていた、そう浅見光彦シリーズから感じる。浅見光彦は日本人に誇りをもたせる契機となる人物、そう内田氏は思っていたに違いない。そしてそういう人物を理想化して描きたかったに相違ない。
浅見光彦の亡き父は次官を目の前に世を去った。しかし、みんなが「光彦のことを、できそこない」と評したのに反し、光彦の才能を見抜いていた。内田氏の理想だったのだろう。光彦の母は戦前の母のような気骨のある人物、靖国神社を崇め、光彦の反論を攻撃する。
刑事局長の浅見陽一郎は光彦のように生きたいのだが、警察にいる以上大勢に従わなければならないという葛藤が見え隠れする。大勢に迎合したくない事件に関して光彦にそれとなく頼むのはその表れだろう。
TVの「浅見光彦」しか知らなかっら私は、はじめ、大衆小説だと思って読みもしなかった。実際に読んでみて内田氏の深い意図がわかるようになった。今では浅見光彦シリーズのファンである。もう20作ぐらい読んだ。
内田康夫先生 REST IN PEACE!!
(完)