前回の続き

遺譜 1 【浅見光彦シリーズ最終話】

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浅見光彦の34歳の誕生パーティーが華々しく(出席者50名近く)、軽井沢で開かれるわけであるが、

この最終話のプロローグは、オーストリア・ザルツブルグ郊外のトプリッツ湖で日本人男性の遺体が発見されたことから始まる。事件4日後、日本から「調査団」が到着。

この中に警視庁課長「浅見陽一郎」がいた。ドイツ語が堪能な34歳である。

 

言わずと知れた、浅見光彦の兄、浅見刑事局長の若き姿である

 

殺されたのは、松井誠一、川崎市多摩区登戸在住。溺死ではあるが、飲んでいた水は、トプリッツ湖からほど近い、ハルシュタット湖の水ということだ。浅見は早速、ハルシュタット湖に向かおうとするが、本部から調査中止の命令が出る。国家間の協議の上の結論という。どうも、キナ臭い。

ヒットラー財宝を湖に投棄して隠匿したという噂話も当時あった。、最終話の重要なヒントとなる。登戸もそうだ。日本の戦前に陸軍の秘密技術研究所があった場所だ。

隠匿された莫大な財宝を巡る事件なのか?

 

最終話で事件の核心に近づいた浅見光彦は、後にこの地を訪れるのだが、これも、すべて仕組まれたことだった。浅見光彦がはまった大きな罠とは何か?黒幕の組織とは何か?

 

すべては謎のまま現代に戻り、浅見光彦の誕生パーティーの話に繋がる。

 

日本のバイオリニスト・本沢千恵子が、ドイツの世界的若手バイオリニスト・アリシア達と軽井沢で演奏会を開催する運びになった。その地で浅見光彦の34歳の誕生パーティーを企画し、みんなに呼びかけ実現の運びとなったものだ。もちろん何も知らない浅見は驚くが・・・

 

もっと浅見が驚くことがある。

本沢が浅見家につれてきた、アリシア・ライへンバッハの話にだ。

母・雪江がドイツ語で応対するのにも驚いた。雪江の出身の大隅家は貿易や文化事業で、ドイツの要人と付き合いがあったという。

アリシアは祖母のニーナに、丹波篠山の忌部さんを訪ね、フルトヴェングラーの楽譜を持ち帰るよう言われ、光彦にボディーガードをしてくれと、言うのだ。浅見のことをアリシアは知っているのだ。

1938年、ヒットラーユーゲントが友好のために日本を訪問、その時に近衛秀麿首相主催の歓迎会が軽井沢で開かれた。、まだ小さいニーナが代表でフルトヴェングラーの楽譜を渡したという経緯があり、これを60年たったら返してもらうという約束だった。当時世界的な指揮者・フルトヴェングラーの来日が実現されかかったが、結局だめになっってしまった、お詫びの意味の楽譜贈呈と思われる。

 

ヒットラーユーゲントは、ヒットラー親衛隊のようなものらしいが、ある年齢がくると、男女ともヒットラーユーゲントに強制的になるしろものだ。タブーとされたヒットラーについて内田先生が踏み込んで書いているのも、戦後60年経過したからだろうか。

 

アリシアの祖先の系図は複雑だが、財閥の家系で皆、政治家や実業家、官僚などの重職についていたことが伺える。

 

こんなことが続いたあとの誕生パーティー。光彦は落ち着かない

 

光彦は軽井沢の「草西珈琲店」を訪ねる。「軽井沢殺人事件」以来、老マスターの草西とは肝胆照らす仲である。こうやって過去の小説の題名を出して、「まだ読んでない人はどうぞ」という雰囲気が各所にある。最終話だから仕方がないか。

草西は、ヒットラーユーゲントやフルトヴェングラーのことを何故かよく知っている。二階に案内されて、フルトヴェングラーのレコードを蓄音機で聴かせてくれた。この部屋には、ジョルジュ・ブラックの小品がさりげなく掛かっている。この時は読み飛ばしてしまうが、これが後て重要な伏線であることがわかる。

しかも、草西は忌部のことも知っている。忌部は特務機関に属し、上記ヒットラーユーゲントの歓迎会の事務方を務めた。青年団のリーダー格で、草西の面倒をよく見てくれたと言う。

 

コンサート会場の前で、阿部美果に会い、「91歳のおじいさん涌嶋剛さんに、戦中の贋金作りの話を取材に行く」と言われる。涌嶋は特務機関に属し、スパイのようなことをやっていた。偽札で儲けたお金を金銀財宝にしたがそれが行方不明らしい。

 

 

結局、光彦はボディーガードの話を断れるわけもなく、周りの説得もあっって「フルトヴェングラーの楽譜探し」に巻き込まれることになるのである。ボディーガードが必要な危険な仕事なのかも分からずに。兄の手配で護衛はつくものの心細い。そして現に殺人事件にも遭遇。何か黒い闇が渦巻いている。

 

(続く)、