「もう爆死」
そう娘は言って、学校へ向かった。

合唱コンクールの
伴奏ができることになって、
各クラスの指揮者と伴奏者は
朝練が始まった。
期間は当日まで。今週は2週目。

その朝練に寝坊して、
正確に言うと二度寝して
遅刻確定となったのだ。
ダメな自分を責めているのだろう。
それで「爆死」。

ピアノ伴奏だけは、
下の娘が自信を持っていることだ。
中1のときから
これだけは意欲的に
立候補してやってきた。
朝練も欠かさず。

ただ今回は、私が
勉強しないでテレビを見て
夜更かしばかりしている娘を
朝、起こすのをやめたのだ。

朝、自分で起きるのは、
自立の第一歩、とどこかで聞いた。

もう勉強は諦めた。
周りは夏休みから力を入れ始めている。
状況が読めずに、
教師の言葉を無視している娘は
滑り止めの私立に行くだろう。
家での勉強時間  0分0秒。

勉強しないなら、
早く布団に入ればいいだけのこと。
それを夜テレビを見始めて
夫も私も何も言わないからと
時間を忘れるから、
こういう事になるんだ。
自業自得。

それでも最初の週は
気が張ってたらしく、
きちんと起きて朝練に行ってた。
この子も好きなことはやれるんだな、と
嬉しかった。
三連休で、気が緩んだのか。

爆死した次の日も
二度寝して、遅刻して行った。
前日の遅刻で慣れたらしく
2日めは何も言わず、
慌てた様子もなく、学校へ行った。

いつも遅刻する人はこんな風に
慣れていくのだ、と
よくわかった。
私とは、違う型。

私の小さな悲しみが爆死した。
こういう人なんだな、と
静かに受け入れた。

私の心は凪いでいる。
励ましも、見守りも、応援も、
悲しみが爆死したから、
一緒に水の底に沈んでしまった。

可哀想。哀れ。
そんな感情の風が、
ときおり吹くだけ。
私の心は凪いでいる。

湖を泳ぐ鳥を眺めているような
遠い、距離感。
違う、生き物。
向こうから要求されない限り、
私から手を出すことはない。
下手な餌やりは
お互いのためにならない。

合唱コンまで、あとひと月。
娘はこの先遅刻はしても
もう、爆死しないだろう。

当日の晴れ姿。
どうか悔いのないようにね、と
無表情な水の底で祈る。