Killing Eve シーズン4 − 最終話 【注】ネタバレ有り | イギリスで映画学

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映画学、特にQueer/LGBTQ Cinemaについて考察。
あとはイギリスでの生活。

 

今回はイギリスの主要新聞のレヴューを紹介しながら

 

ファン達のガッカリ感を共有していきたいと思います。

 

早速エンディングのネタバレをします。

 

 

 

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エピソード8。

 

 

 

 

結論から言うと

 

 

 

 

テムズ川でヴィラネルが殺されてしまい、イヴが泣き叫び、そのままTHE ENDのクレジットが出てきて終わりです。

 

 

 

 

 

トウェルブの幹部達の定例会が行われると知ったイヴは、ヴィラネルの助けを借りて定例会の場所を突き止めます。その会場はロンドンのThames川に浮かぶ船でした。どうやら結婚パーティーのために貸し切られている船。パーティー参加者は暗殺一味が乗り込んでいることに全く気づいていないようです。なんとか潜入したイヴとヴィラネル。結婚式の司会者として勘違いされたイヴは、二人の男性の結婚式で即席のスピーチを披露。その隙にヴィラネルは幹部達がいる部屋を突き止め、幹部らを不意打ち!彼らはあっけなく全滅。

 

この、ヴィラネルの見せ場とも言えるシーン。

ノリノリで踊っているイヴを交互に映し出すパラレル編集でして、暗がりで映し出されるヴィラネルのダークな表情がそれは美しく、シーズン1を感じさせる、Killing Eveならではと思わせてくれる編集でした。

 

だからこそ!!!この後に訪れるエンディングに「なんで?」と落胆が大きくなったのかもしれません。

 

 

では英ガーディアン紙のレヴューを見ていきます。

タイトルはこちら。

‘Killing Eve’ Series Finale Review: A Disappointingly Gray Ending to an Otherwise Colorful Serie

 

グレーな(冴えない)エンディング…

それ以外は…良かったのに!って。

ガッカリ感が伝わってきます笑。

 

 

以下何箇所か抜粋してコメントを添えます。

 

Rather than capitalizing on the bold elements the show is known and loved for, the finale is, for the most part, mediocre.

 

同感です!

視聴者の心を鷲掴みにした、予想の斜め上を行く「大胆さ」がこのドラマの肝というかアイデンティティーだったのですが、最終話ではその肝がすっぽりと抜け落ち、平凡でありきたりな展開になってしまったんですよね。

 

ストーリー展開に関しては、イヴとヴィラネルがお互い素直になり、仲直り(?)するタイミングが「遅すぎだし、二人のシーンをもっと入れても良かったやん!!」と厳しく書いています。

 

Unfortunately, the consummation of the Villaneve relationship is too little, too late.

 

 

私はヴィラネルの幹部抹殺シーン、良いなぁと思ったんですが、この記事ではシーズン1から謎のベールに包まれたトウェルブ達があっさり殺されて「拍子抜けした」とあまり納得してないようです。

Though this quick and painless resolution is good news for Villanelle and Eve, it could not be more anticlimactic for the viewer.

 

 

そして次のパラグラフでは、この「アンハッピーな」エンディングが、なぜこんなにも私たちファンをガッカリさせたのか、大事なポイントを指摘しています。

 

Villanelle’s death is not only upsetting for fans of the character, but it is also troublesome in the fact that it is yet another instance of unhappy endings for lesbians in media.   .... Unfortunately, “Killing Eve” — though some viewers were brave enough to hope that the show would avoid this fate — becomes only the most recent victim of the “bury your gays” trope. 

 

私たちファン、特にこのドラマを「レズビアン」のフィクションドラマとして捉える場合、レズビアンキャラクターの死で終わる、という展開はとても残念なことなのです。

 

ここで述べられている「bury your gays」trope(トロープ)とは、ヘテロセクシャルの登場人物たちと比較して、ゲイやレズビアンなどのLGBTQ+の登場人物たちが「死」という展開を迎えることが多い傾向、つまり、ストーリー展開のお約束事・パターンのことを指しています。

 

フィクションといえども、映画やテレビドラマなどで描かれる登場人物たちの言動を通して、私たち鑑賞者の心の中にはクィアな人々に対する「ステレオタイプ」が無意識に植え付けられていきます。

 

「クィアであることは苦しく、辛いことなんだ」というメッセージを送ってしまっているこのトロープは、メディア表象(リプレゼンテーション)においては批判の対象になっているため、ここ数年はクィアな登場人物たはポジティブに描かれることが、その作品が評価される一つのポイントです。政治的に正しい、ということはその作品をアートとして評価する際には必ずしも重要ではないという意見もあると言えるかもしれませんが、このテーマの場合は、政治的に正しくあるべきだと言えるでしょう。

 

 

振り返ってみれば、Killing Eveではシーズン1から明らかにレズビアンやクィアなキャラクターをポジティブに描いてきましたし、特にヴィラネルについては過剰なほどにパワフルで特別な存在として扱い、「暗殺者」「サイコパス」「クィア」にこびり付いていたネガティブなイメージを見事に吹き飛ばし、魅力的なレズビアンのキャラクターを構築してくれました。

 

対照的に、男性キャラクターに対する扱いは、笑えるほどヒドイものです。あまりにも非現実的なレベルで酷すぎるから、逆に面白いってなるんですが。特にファニーだなって思ったのはシーズン1のエピソード4に出てくる暗殺者の男性。(また観たくなってきた…!)

 

 

(でもさすがにシーズン3でのイヴの夫・ニコへの扱いは可哀想でした…ヴィラネルの仕業ではないのですが)

 

そしてその傾向があからさまになるのがシーズン4のヘレナの登場でした。彼女も当たり前のようにレズビアンで、シングルマザーという設定です。トウェルブの一味としてキャリア(?)を築く裕福なパワー・レズビアンというキャラクターを与えられた彼女。このキャラクターのおかげでシーズン4はぐっとロマンスというか、セクシー要素が加わり盛り上がるんですが、残念ながらイヴ&ヴィラネルの敵だったので悲しい結末を迎えることになりました。そしてエピソード7で登場する暗殺者のGun もレズビアン。ヴィラネルは彼女とワンナイトスタンドに至るも翌朝「これじゃない」と目が覚めて(笑)、彼女のもとからさっさと去っていくのです。そしてなんと彼女もエグい結末を迎えます。Gun と絡むイヴの演技がこれまたコミカルで、非現実的で面白いなって思ってしまったシーンです。

 

話が若干逸れましたが…。

 

それでも、主役であるイヴ&ヴィラネルの行く末に関しては、このパワフル・レズビアンのアイデンティティを保つために「bury your gays」trope は避けるべきだったと思うんです。二人一緒にハッピーになるエンディングは難しいかもしれない。でも、特にクィアな要素がとても強いヴィラネルというキャラクターの「死」という結末は、私たちクィアドラマの鑑賞者たちにはトラウマを呼び起こさせるほど、強いダメージを与えます。

 

 

心にグサリと刺さる、悲しい結末なのです。

 

これを教訓に、また素晴らしい、パワフルなレズビアンドラマが製作されること望みます…。

 

ガーディアンの記事には「うんうん」と頷くばかりでした。