平野敬一 著、『マザー・グースの唄ーーーイギリスの伝承童謡』を読みました。
中公新書です。












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今日の本のお供には、私の作ったソックモンキーを選びました。
マザーグースの本ですから、ちょっとメルヘンな感じがいいかなーと思いまして。

良い雰囲気ですね。
ぬいぐるみと本の組み合わせは、やはりいいなぁ。











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この本は、つい先日、ブックオフさんで買ってきた本です。
百円でした、お買い得です。



本書の初版が発行されたのは、1972年です。
私の生まれる前です。
今からだと46年前、ほぼ半世紀前に書かれた本ということになります。

しかし、Amazonで検索してみましてもまだ絶版にはなっておりません。
半世紀の間、売れ続けた本ということになります。

実際、中身を読んでみましても内容が古臭くは感じません…というか、扱っているものの性質上なかなか古びることもないのかもしれませんけれど。
そもそもマザーグース自体がとても古いものですものね。
とにかく、長く売れているだけあって、たしかに名著だと思います。




『マザー・グースの唄とは英国伝承童謡の総称。それは格言あり、なぞなぞあり、ナンセンスあり、英語国民の生活感覚や言語感覚の機微に満ち、そのことばは現代英語のイディオムとなっている。こうした英語文化の基盤をなすものへの理解を欠いては、いかなる文化論も文学論もむなしい。本書はマザー・グースの唄を多角的に紹介し、伝承童謡が英語文化の中で果した役割を考える。英語に関心をもつすべての人にすすめる好著である。』
(帯裏より。)





この新書は、タイトル通りにマザーグースについての本です。









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マザーグースというのは、英国の伝承童謡のことです。
なかなかぶっ飛んだ内容のものや、人を食ったような内容のものがたくさんあって、ナンセンスの宝庫です。



『まざあ・ぐうすは英米の子供達に昔から愛されている世界的の童謡集であります。この童謡の中にはお月様を飛び越える牝牛のダンスや、『パンにお煎餅』とうなるロンドンのお寺の鐘や、籠に乗って青天井の煤掃きしにお月様より高くのぼるお婆さん、拇指よりも小さな豆つぶの旦那さま、気ちがい馬に乗って滅茶苦茶に駈けて行く気ちがいの親子、そうしたそれはもうどんなに不思議で美しくて、おかしくて、馬鹿馬鹿しくて、面白くて、怒りたくて、笑いたくて、歌いたくなる童謡ばかり集めたものであります。』
(北原白秋の『まざあ・ぐうす』の広告より)










代表的なマザーグースの一編を本書中より、ここに引用してみます。


『Hey, diddle, diddle,
The cat and fiddle,
The cow jumped over the moon;
The little dog laughed
To see such sport,
And the dish ran away with the spoon.


えっさか ほいさ
ねこに ヴァイオリン
めうしがつきを とびこえた
こいぬはそれみて おおわらい
それでおさらは スプーンといっしょに すたこらさ』


マザーグースって、こんな意味のわからない唄ばかりなんです。
でも、なんだか、面白くないですか?
この唄の様子を想像してみたら、とっても可愛い映像が心に浮かびます。







このような、不思議で面白くファンタジックでメルヘンな、英国の伝承童謡マザー・グースを解説したのが、本書なわけです。










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著者はまず、今から約50年前の日本において、英語を学ぶ者達にあまりにマザー・グースの知識が乏しいこと、そのせいで英文学などに引用されたマザー・グース自体に、あるいはその唄が醸し出すニュアンスに、日本の英語学習者が気づけないことを指摘しています。

英語国民がいわば民族の記憶として親しんでいるマザー・グースはあまりに当たり前すぎて、英和辞典や引用句辞典には載っていないし、そのほか日本での英国童謡に関する研究も当時はほとんどない状態でした。
マザー・グースが英語国民間に親炙され、英語文章中に引用も多いのだから、これを知らないことには文章の内容の完全な理解には程遠くなってしまうにもかかわらず、です。


『イギリスの伝承童謡についてのあるていどの知識がないことには、英語や英文学の理解は、いつまでたってもどこか上すべりにならざるをえないように思われる。伝承童謡そのままの引用や、それを踏まえた表現は、その伝承のなかで育った英語国民にとっては、あまりにわかりきったことなので解説の要もない(そのため英米の辞書ではほとんど扱われない)が、その伝承の世界の外にいる私たちは、意識して勉強しなけれは、いつまでたっても見落とすことになるのである。』


本書の中でも引用されておりましたが、例えば私の大好きなルイス・キャロルの童話『鏡の国のアリス(Through the looking glass)』中にもマザー・グースの引用があります。
ハンプティダンプティや、ティードルディーとティードルダムです。
これは、元ネタのマザーグースを知っておかないと、たしかにこの特徴的なキャラクター達の登場や行動には唐突な感じを受けるかもしれませんね。




本書が出版されて数年後に、私は生まれました。
そしてラッキーなことに、私に与えられた絵本の中にはマザー・グースの本も混ざっていて、日本語訳ではありますがかなり幼い頃からマザー・グースの世界に触れることができました。

ちなみにそのマザーグースの絵本というのが、先日このブログに取り上げました、


このリチャード・スカーリーが描いた、『スキャリーおじさんの動物絵本』シリーズの中の一冊でした。

なんせ絵がすごく可愛くて魅力的でしたから。
幼い私はマザーグースの本もお気に入りで、よく読んでいました。
考えてみると、私のナンセンス好きは、この絵本がきっかけなのかもしれません。

牛がお月様を飛び越えて飛んでったり、小犬が笑ったり、王様が金勘定していたり…こんなぶっ飛んだマザーグースの世界を合理的解釈無しにまるごと飲み込んで楽しんでいたアホな子供時代の楽しい記憶が、今なお大人の私をしてナンセンスなものに駆り立てていくのかもしれません。



ちなみに私の一番好きな唄は、

There was a crooked man
And he walked a crooked mile
He found a crooked sixpence
Upon a crooked stile
He bought a crooked cat
Which caught a crooked mouse
And they all lived together
In a crooked little house.

この唄です。
なんで好きかと聞かれてもわかりません、とにかく好きです。
なんか、可愛くて、ワクワクしちゃうんです、このcrookedな者達が集まって暮らす小さな世界に魅了されます。
私はナンセンスが大好きなのです。






というわけで、私自身は子供の頃からマザーグースには慣れていたし、大人になってからもマザーグースが好きで、北原白秋の訳、谷川俊太郎の訳、英語原文で読んできました。
おかげでマザーグースの引用は、絶対にとはとても言えませんが、それでもけっこう見抜くことができます。

本書の著者が主張する通り、これは大切なことだと思います。
やっぱり引用がわかると、単純に面白いですし、暗に含ませた意味もわかりますし、絶対に知ってた方がいいと思います。

まあ、英語だけに限らず、日本語の本でも同じです。
パロディだろうがオマージュだろうがパスティーシュだろうがなんだろうが、何かに影響を受けている作品を読むなら、元ネタは知ってるに越したことはありません。
知ってる方が、断然面白くなります。
この知的遊戯が生む快感は、せっかく読書が趣味であるならば、必ず味わった方がいいです。










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本書では、上述したようにマザーグースの知識の重要性を折に触れて説明しつつ、



○日本国内におけるマザーグース訳の紹介。
訳者として、北原白秋、竹友藻風、谷川俊太郎の3人を特に挙げて、彼らの訳を引用します。

○英国伝承童謡群の名称として、どうして『マザー・グース』が使われることになったかなど、マザーグースの歴史。

○イギリスにおける、マザーグースの集成と出版の歴史。

○代表的なマザーグースの唄の解説。
各唄の持つ謎や、隠された歴史、成立過程の推測なども書かれています。

○現代(初版当時)の英米でのマザーグースの扱われ方。
英語国民にとって、マザーグースを持つことの意味の考察。



こんな風にいろんな方向から、マザーグースをたっぷりと紹介してくれています。

これ一冊読めば、マザーグースとはなんぞや?というのがだいたいはわかると思いますし。
元からのマザーグースファンにとっても、知識を整理するのに役立つ、面白い読み物です。






新書ですからそんなに分厚くもなく、コンパクトに要所をわかりやすくまとめてくれています。
文章も難しくなく、読みやすいです。
短時間で一通りの知識が得られます。

引用されたマザーグースの唄には、日本語訳の他に英文の原謡も全て載せてくれていて、親切な作りです。

いい本だと思います。










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この『マザー・グースの唄』をオススメするのは。

英文学が好きな人。
マザーグースが好きな人。

それから、ミステリなんかもマザーグースをネタに使ったものはとても多いですから、ミステリ好きな人!

ナンセンス文学が好きな人。
不思議の国のアリスみたいな世界が好きな人。
イギリスかぶれな人。
メルヘンな世界…ただしちょっと不気味な味付けあり…が好きな人。

そんなところかな?



とにかく、少しでも気になった人はぜひ。
帯裏に書いてあった通り、この本は好著です。


























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