ウラジーミル・ソローキン 著、望月哲男・松下隆志 訳、『青い脂』を読みました。
河出書房新社の単行本です。












***










今回も、本のお供は指輪を誇らしげに持ったエリーちゃんです。
つまり、この本も大好きなダーリンからのプレゼントなのであります。

『ソラリス』と『忘れられた巨人』と、この『青い脂』の三冊をプレゼントしてもらったのです。

ダーリンにもらった本はこの『青い脂』を最後に読みきってしまいました。

…新しい本、おねだりしようかな?
本は自分で選ぶのが基本ですけど、でも、大好きな人に選んでもらうというのも、これがまたなかなか良いもので。
うふふ♡











***










ええと、今回の本の感想など述べる前に、先に警告です。







本書は、かなり特殊な本でありまして。
あまり、品の良い方には向かない内容であります。

エログロでオゲレツで、もうどうしようもありません…

暴力的な内容、性的に逸脱した内容、肉体破壊的な内容、そう言ったものに嫌悪感を感じられる方は、閲覧をお控えください。

『青い脂』に比べたら、そこらのポルノやらスプラッタなんて上品すぎて欠伸が出るくらいですよ。
すさまじい内容です。












ウラジーミル・ソローキンは現代ロシアを代表するポストモダンの作家です。
しかも、これはどうでも良いことですが、なかなかのイケメンなんですよ。

彼の作品で私が読んだことがあるのは、『ロマン』と、この『青い脂』だけです。
両方とも2000年より前に書かれたもので、ソローキンの初期の頃の作品ってことになります。

二冊しか読んでませんし、しかも日本語訳で読んだわけですが。
それでも、この作家が非常に文章の扱いが達者だということは伝わってきます。

しかし、その卓越した文章センスで描かれた小説の内容は…最近のものはまだ読んでないので知りませんけれど…なんと言ったら良いものか。
とてもアヴァンギャルドな内容なんですが、ただの「前衛的」な作品ではなくて、ですね。

破壊と暴力にあふれ、下品と下劣のオンパレード。
人間がこれまでせっせと作り上げて信じ、拠り所にしてきた、崇高さの徹底的な破壊です。
ここまで書いて良いのかなぁと、こちらが心配になってくるほどに、酷い内容でありまして。



めちゃくちゃ、面白いです。













本書のあらすじは。
帯から引用して、説明します。

『2068年、雪に埋もれた東シベリアの遺伝子研究所。
トルストイ4号、ドストエフスキー2号、ナボコフ7号など、7体の文学クローンが作品を執筆したのち体内に蓄積される不思議な物質「青脂」。
母なるロシアの大地と交合する謎の教団がタイムマシンでこの物質を送りこんだのは、スターリンとヒトラーがヨーロッパを二分する1954年のモスクワだった。
スターリン、フルシチョフ、ベリヤ、アフマートワ、マンデリシュターム、ブロツキー、ヒトラー、ヘス、ゲーリング、リーフェンシュタール……。
20世紀の巨頭たちが「青脂」をめぐって繰りひろげる大争奪戦。
マルチセックス、拷問、ドラッグ、正体不明な造語が詰めこまれた奇想天外な物語は、やがてオーバーザルツベルクのヒトラーの牙城で究極の大団円を迎えることとなる。

現代文学の怪物ソローキンの代表作、ついに翻訳刊行!!!』
(帯より)


かなり煽りまくりの宣伝文のようですが。
じつは、これ、過大広告ではありません。
むしろ、内容に対して控えめな宣伝、だと思います。

本の内容も、これを読んでもなんだかよくわからないと思われるでしょうが、しかし合っています。
確かに、この本の内容は、短くまとめると、この通りなのです。







本書は、一応ジャンル分けするなら、SFってことになるのかな?
未来の世界からスタートするお話ですし。
なんだか不思議な物質「青脂」をめぐる物語ですし。

ただ、でも、SF小説のファンがこれを読んで、面白いと思えるかは疑問です。



「青脂」と呼ばれる物質は、文字通りの青い色の脂です。
不思議な水色の光を放ちます。
この物質の最大の特徴は、ゼロエントロピーであること。
超絶縁体である「青脂」の温度は常に不変です。
この「青脂」の存在が、熱力学第四法則を生み出し、ついに永久エネルギーを作り出すことを可能にした…そうです。

この不思議で特異な物質「青脂」は、作家が文学作品を書く時に、その作家の体の中で作られ、蓄積されます。





本書は大きく分けて、三つの部分から成り立っていますので。
私が勝手に第1部、第2部、第3部と分けて、お話のあらすじと感想を書いてみようと思います。





第1部は、2068年、未来の東シベリアの遺伝子研究所が舞台です。
この研究所では「青脂」の生産計画が行われております。
ここで働く生命文学者という職業の男、ボリス・グローゲルが第1部の主人公で、お話は彼が研究所から恋人に送った書簡という体裁で描かれます。

この書簡が、なんだか、すごいことになっています。
ボリスの恋人というのは、どうも浮気性の若い男のようです。
書簡の中身は、SF造語や、卑猥な中国語、それにドイツ語に英語、色んな言語が破茶滅茶に飛び交っていて。
SF造語には説明が付いていますが、その説明が説明になっていないし。
最初は読んでも何を言ってるのかよくわからないのですが、それでも頑張って読んでいると、なんとなく意味がつかめてきます。

かなり品のない言葉やらやりとりが日常語として機能している世界のようです。

『優しいごろつきのお前なら、誰のであれよく洗った手が、お前の鰭に触れれば十分なんだから、トップ=ディレクト、壊蛋(フワイタン/卑劣漢)、プラス=ポジット、小偸(シアオトウ/こそ泥)!差し伸べられる王(ワン)の手が減ることはないだろうし、変節漢(プロテウス)たるお前の螺鈿の精液が濃くなる暇はあるまい。』

この引用部は、ボリスが不実な恋人をなじっているらしい部分なんですが。
とりあえず、第1部は、全体がこんな感じの文章です。

しばらくは文章を追っていくだけでも、読むのが辛かったりしますが。
そのうち、慣れます。

(で、慣れちゃうと、つい調子に乗って、ボリスの汚い言葉を真似したくなってきたりします。
『リプス・你媽的(ニーマーダ)!』とか、『おまえの星にキスする』とか、ボリスの名セリフを自分も言いたくなってきちゃうのです。
…恥ずかしいから、やめましょう。

しかし、ソローキンはやはり、見事なものです。
つい真似したくなってしまうほど、リアルで生き生きとした、架空の未来世界の架空のコミュニティの、架空の話し言葉…コミュニティ言語とでも呼べばいいのかな?、そんなものを作り上げてしまうのですから。
私まで、うっかりこの言語共同体に取り込まれてしまうところでしたよ。
いやはや。)

それはさておき。
ボリスの書簡の中では、恋人にあてて、研究所の様子が語られます。

「青脂」を生産するため、未来の世界では無くなってしまった職業である小説家が、クローンとして再生されます。
ドストエフスキー2号、ナボコフ7号、トルストイ4号、チェーホフ3号、アフマートワ2号、パルテルナーク1号、プラトーノフ3号…ロシアの文豪7人がクローン再生されるのですが、クローンと言ってもそれは人間には見えないモンスターみたいな外観の生物になっています。
彼らは彼らのために整えられた環境で、文学作品を書き、自分の体に「青脂」を蓄積させます。

そして、作中作として、このクローン達が書き上げた作品が、ボリスの書簡に収められています。


『ロマン』を読んだ時に、既に知っていましたが。
ソローキンは文体模写のとてもうまい作家です。
クローン達の書いた作品は、もとの文豪達の作品の、見事な、けれども下品で下劣ですっとこどっこいな、パロディになっています。

このあたり、もっと私がロシア文学に精通していたら、楽しめたんじゃないかなぁと、ちょっともったいない気持ちにもなりましたが。
そんな私でも、ドストエフスキー2号の作品は爆笑ものでしたし。
トルストイ4号のお話はサディスティックな欲望を掻き立てる、エロティックなシーンがあって、面白かったです。

さて、この第1部のボリスの書簡で綴られるお話は、無事に「青脂」が出来上がり。
ある日研究員達がカクテルパーティを開いているところで、唐突にテロリストの乱入によって終わりを告げます。

一人称の書簡記述は終わり、三人称での第2部のお話がスタートします。





第2部で語られるのは、「青脂」を運ぶバケツリレーです。

第1部の研究所に乗り込み、ボリスを含む研究員達を皆殺しにして「青脂」を奪い去ったテロリストは、『大地交合者教団』という宗教団体のメンバーです。
…その名の通り、母なるロシアの大地とセックスする教団です。
ちなみに女性信者は一人もおりません。

大地母神なんてものがあるくらいですから、やはり大地は女ってことになるんでしょう。
女である大地と交合できるのは、男だけなんでしょうね。


テロリストグループのリーダーは、更に上の位の教団員に『インバイ』(教団員以外の人間のこと)から奪ってきた「青脂」を渡すため、地の底に潜り込んで行きます。

「青脂」を手渡された者は、さらに、自分よりも上の位の者に「青脂」を渡すため、ますます深い地の底に潜っていきます。

これが繰り返され、バケツリレーで、「青脂」は大地交合教団の中枢部にまで、運ばれていきます。



ところで、バケツリレーの途中で、またもや、作中作が2作、入り込んできます。
『水上人文字』と、『青い錠剤』という二作品です。
これ、二つとも、傑作です。
短編として、それだけでも読む価値が十分にある作品です。

『水上人文字』の方は。
泳ぎに長けた者達が、それぞれ松明を持って川を泳ぎながら、松明の火による人文字で、政策を宣伝して人々を扇動する…そんな政治活動が行われている世界のお話で。
主人公は、松明を片手で掲げてシンクロナイズドスイミングをするため、片手だけが異様に太くなった男です。

『青い錠剤』の方は。
糞尿渦巻く下水道の中にある国家随一の劇場、ボリショイ劇場では、潜水服を着たスターリン時代のロシアのセレブリティが集い、観劇を楽しんでおりまして。
その劇場の様子を、あるカップルのデートの様子とともに描いている作品であります。

この二つの短編、なんだか、特に本編のストーリーとは関係なく割り込んでくる感じなんですが。
とても面白いです。



それから、バケツリレーの途中で、「大地交合教団」の内部分裂の歴史なども書かれてあったりして。
この辺りはキリスト教の分裂の歴史のパロディになっているのかな?
第1部とは全く違った感じの第2部ですが、なかなか読み応えがあります。



さて、『大地交合教団』の中枢部には、かつてゾロアスター教の信者達が作り出したタイムマシンがあります。

このタイムマシンは、元は3台あったのですが。
どうも、使い捨ての機械であるらしく、すでに2台は使い終わって、残り1台のみが稼動可能な状況です。

このタイムマシンが「青脂」バケツリレーの終着点です。
『大地交合教団』は、「青脂」を、このタイムマシンを使って1954年のモスクワに送ります。

ここで第2部が終わりです。






そして、第3部、1954年のモスクワですが。

この世界ではスターリンが存命で、権力のトップに君臨していたり。
ヨーロッパはヒトラーとスターリンによって二分されていたり。
イギリスには原子爆弾が落とされていたり。

我々の世界とはパラレルワールドな、1954年のモスクワです。

そして、スターリン、ヒトラー、ベリヤ、フルシチョフ、ヘス…などなど、当時の巨頭達は、ソローキンの筆によって、とんでもないことになっています。



スターリンは、自分の舌に麻薬を見事に注射することが有名で、その姿がポスターになっているくらいの、麻薬中毒者だったりします。

フルシチョフはすごいサディストになっていて、拷問が大好きで、カニバリズムな夕食を楽しんでいます。

さらに、スターリンはフルシチョフとカップルになっていて、濃厚な性交を繰り広げてくれます…

ヒトラーは、背が高く立派な体格になっていまして。
なんだか右手が光って、超能力をつかえて、その力で人心を掌握することができたりします。



…もうめちゃくちゃですね。
歴史も、権力者たちのキャラクターも、ひっちゃかめっちゃかに組み直されています。




この状況の中で、未来から送られた「青脂」を巡って、スターリン&フルシチョフのラブラブカップルは、ベリヤを出し抜き、自分達の家族やら家来やらを連れて、飛行機でドイツのヒトラーの元に「青脂」を持って逃げていきます。


そして、その「青脂」の遍歴の合間合間には、また作中作の戯曲があったり。
ロシア文学の歴史を象徴化したような、奇妙な、実在した文学者たちを踏まえた人物たちのお話も、並行して書かれていたりします…またしても、本編のストーリーとは関係ないのですが。


ヒトラーの城で、スターリン&フルシチョフ一行は大変に歓迎されます。
しかしこのカップルは、ヒトラーを裏切って、ヒムラーに「青脂」を渡して…どうやら、麻薬のように青脂を使うみたいですね…ヒムラーと一緒に、自分達の体に「青脂」を注射しようとします。

しかしその行動は、ヒトラーに見透かされておりまして。

最後は、みんなで殺し合いながら、「青脂」の入った注射器を奪い合った挙句に、スターリンが注射器を握りしめ、自らの目に深く突き刺し…

この長編小説は、宇宙レベルの大団円を迎えることとなるのです。



そして、お話はまた、未来に戻っていきます。










なんだか、とんでもない内容のお話なんですが。
この内容が、大変巧みな文章で綴られているというのが、この作品のすごいところであります。

訳者のお2人も、大したものだと思います。
よくこの作品を日本語に訳せたものだと、感心しきりです。

人間が人間であるために、我々が必死こいて作り上げ、信じてきた「人間性」なんてものは、この作品の中では破壊し尽くされています。
文学も歴史も人間も、その崇高さは地に落とされます。

下品で下劣な表現で、破壊と暴力とやりすぎた悪ふざけが延々と書き綴られています。
表現されているのは、清潔さの一切無い、血と反吐と汚物にまみれた、不潔なのが当たり前の世界です。
人間も文学も歴史も、糞尿と同レベルです。
尊厳など、ありません。



本書は、完全に、読む人を選ぶタイプの本です。
少なくとも、私は気軽にこの本を他人に勧めようとは思いません。
こんなもん「面白いよー!」なんて勧めたりしたら、私の良識を疑われそうですからね。
友達を無くしてしまいそうです。



しかし、これ、ハマる人にはめちゃくちゃ、面白いです。
不謹慎な大爆笑を抑えられません。

今までにも、エロティック、グロテスク、バイオレント、ナンセンス、そんな文学表現はありましたが。
ソローキンは、誰よりもぶっ飛ばしてますね。


そして、ロシア文学に造詣のある方なら、私よりももっと楽しめるんじゃないかと思います。
ロシアの文豪や、文学の歴史の、パロディがたくさんありますから。
詳しい人なら、きっと、吹き出してしまうくらい面白い場面がたくさんあるんじゃないかな?と思います。










ところで。
この『青い脂』という本は、先にも言いましたが、私の恋人からのプレゼントです。
本を彼にプレゼントしてもらったのは、これが初めてです。
3冊まとめて渡されたうちの、一冊です。

そして、よく考えてみたら、私が初めて恋人に渡した本は、ソローキンの『ロマン』の下巻でした。
彼が『ロマン』の上巻しか持っていないと言うので、すでに読み終えた私が何も考えずに、下巻を彼に渡したのです。

よく考えてみたら、恋人同士で初めて贈りあった本が、お互いにソローキンだった…というのは、どうなんでしょう…

最初の一冊くらいは、もっとロマンティックな本でもよかったような気がしなくもないような…

いえ、先にソローキンの本を渡したのは、彼ではなくて私の方なのですから、文句なんてもちろん無いんですけど。

まあ、でも、ソローキンの本を贈るなんて、相手に対して尊敬と信頼が無いと出来ないことですから。

私達、このまま、ずっと、うまくいく気が、します♡
すいません、結局、惚気です。













***











私のブログの読書感想文をまとめたインデックスページです↓
















過去記事も、どうぞ。























***











スマホゲームの『どうぶつの森 ポケットキャンプ』やってます。

今日から、みしらぬ猫のガーデニングイベントの後半が始まりましたが。

ウィンターバタフライ、ぜんぜん捕まえらんないです。
こんな捕獲率で、イベント期間中にアイテムをコンプリートできるのかなー?

白いウィンターフラワーの種も、どうぶつのお願いをきいて集めなきゃいけないし。

イベントの後半戦は、厳しそうですね。

みしらぬ猫の家具、可愛いからコンプリートしたいんだけどなー。
できるかな???













***











おむすびの具、好きなのは?

▼本日限定!ブログスタンプ

あなたもスタンプをGETしよう



おにぎりの具は、おかかと、梅と、ツナマヨが好きです。

肉巻きおにぎりとかも好きですよー!
天むすも好き♪